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皇族姫  作者: 春香秋灯
男装の皇族姫-外伝 凶星の申し子と妖精殺しの蜜月-
269/353

背徳

 アーサーから、色々と言い出した。

「父上、お手伝いします」

「義母上、義兄上、エリザ、これから、仲良くしましょう」

 アーサーは普通に言っている。家族になるのだ。アーサーは、当然のことを言っているだけだ。

「そうやって、俺を騙して、また、借金を作らせるつもりだろう!!」

 なのに、アーサーの父ネロは、アーサーを信じない。それどころか、殴った。

「あんたの母親が独り占めにしたドレスも、宝石も、全て、アタシのものだよ!! まだ、隠しているだろう。さっさと白状しな!!」

 まだ愛人の立場のリサは、アーサーに鞭を打って、ありもしないドレスや宝石の隠し場所を聞き出そうとした。

「お前は、両親ともに貴族だからと、贅沢三昧してたんだってな」

「一人だけ、貴族の子だと威張って」

 言いがかりをいうリサの息子リブロと娘エリザは、アーサーを殴る蹴るをした。時には、手下を連れて来て、アーサーを傷つけた。

 そういう日々だ。アーサーも精神が疲弊していった。それでも、まだ、希望を持っていたのだ。婚約者ヘラが、長期休暇に遊びに来ると約束した。


 なのに、婚約者ヘラは、学校の友達を優先して、手紙一つで約束を破ったのだ。


 ヘラの手紙を読み上げられた後、まるで、示し合わせたかのように、俺の子や孫がやってきた。

 もう、俺も、アーサーも、知らないふりが出来なくなった。アーサーは、俺に子や孫がいるということを知ったのだ。そのことが、アーサーを壊した。






 アーサーは、俺の膝に座って、執拗に口づけをしてきた。

「アーサー、あまりすると、口とか舌が、痛くなるぞ」

「いつか、最後までするんだから、今から、練習しないと」

 アーサーは俺に深く口づけして、舌を絡めた。最初は、俺にされるがままだったというのに、今では、アーサーのほうから舌を差し出して、絡め、としてきた。

 しばらく、舌を絡める音をたてながら、俺に体をこすりつける。そうされると、俺も反応した。それを服を通して、下半身に感じて、アーサーは嬉しそうに笑った。

「嬉しい、キロン、こんな私でも、情欲してくれる!!」

 アーサーは、自らの胸を撫でていう。それなりの年齢になっても、胸は平なことをアーサーは気にしていた。

「こうやって、揉んでやれば、大きくなるって聞いたなー」

「誰から?」

「………」

 俺は黙り込んだ。誰って、過去に、俺に家族になってくれる、とか、友達になってくれる、と言って裏切ってくれた奴らだよ。

 だけど、それを言ったら、アーサーは嫉妬で怒り狂う。過去、俺に関係を持った女たちは、アーサーにとっては、俺を奪う敵なんだ。

 俺の子や孫だという奴らは、定期的にやってきては、アーサーを責めた。その度に、アーサーは狂ったように泣いて叫んだ。それを見て、ネロたちは笑っていた。

 さらに背徳な行為に及ぶこととなるから、防音と簡単な人除けを施して、とても世間話では出来ないようなことを俺とアーサーはした。口づけなんて、可愛いものだ。さらに先をアーサーが望むから、俺はアーサーの体を弄んだ。

 どんどんとおかしくなっていくアーサー。俺だけに縋りついて、離れない。そんな歪な関係に俺は喜んだ。

 だけど、最後の一線だけは、絶対に越えない。

 さらにとアーサーから圧し掛かってくるから、俺は行為を止めた。

「アーサー、わかっているか。月の物が来るまでは、アーサーの初めてはしない」

「ん、そんなぁ」

 昂った体をアーサーはこすりつけて、どうにか、どさくさでやろうとするが、俺はアーサーの体を離して、止めた。男としては、かなり、耐えたと思う。俺、偉いと誉めたい。

「やぁ!! キロン、離れないでぇ!!!」

 半狂乱となって泣き出すアーサー。俺が少し離れるだけで、アーサーの気狂いは酷くなる。俺がぴったりとくっついている間だけ、アーサーはまだ、まともに見えているだけだ。

 離れたら、アーサーはあっという間に壊れる。

 この距離を俺は気をつけた。迂闊に距離をとると、アーサーは叫び続ける狂人だ。そこから、まともに見えるアーサーに戻すためには、やっぱり、背徳なことをして、喜ばせて、とするのだ。それでは、アーサーの目論み通りとなってしまう。

 だから、俺はギリギリの距離を保って、アーサーから離れる。

「もし、アーサーが約束を破るようなら、俺はもう、こんなことしない」

「やだぁ!! キロン、しないから、絶対にしないから!!!」

 俺の口先だけの脅しに泣いて頷くアーサー。それに、俺は安堵して、アーサーをぎゅっと抱きしめた。力いっぱい抱きしめると、アーサーは安心するんだ。

「キロン、もっと強くていいよ」

「苦しくないか?」

「気持ちいい」

 笑顔を見せるアーサー。さっきまで、半狂乱で泣いていたのが嘘のようだ。俺は優しく口づけをアーサーの顔に何度も落とした。

「俺がずっと守るから。アーサーが望むなら………」

「じゃあ、キロンの赤ちゃんを産みたい!!」

「………月の物がきてからだ」

「はやく来るといいねー」

 無邪気に笑うアーサー。

 優しいアーサーは、家族にも、領地民にも裏切られたというのに、復讐を望まない。ただ、耐えているだけだ。

 俺は、アーサーに言わせたい。家族を、領地民どもを、殺してほしい、と。

 殺すのは簡単だ。一瞬で終わる。領地を呪うよりも、はるかに簡単なことなんだ。それをすれば、もう、アーサーをいじめる奴は、この世からいなくなるだろう。

 だけど、それを言って、現実になったことを知ったアーサーは、物凄く傷つく。神殿が決してやらせてはいけない、ときつく教える悪行を俺の力で行使したことに、強い自責を持つだろう。

 罰があたったんだ。そういう者のほうが多い。外から見れば、アーサーを裏切った家族、領地民は、悪人だ。死んだとしても、誰も、悲しまない。だって、無力な貴族の子を虐待し、身の程知らずの平民がやったのだ。死んだって、自業自得というだろう。

 だけど、アーサーは骨の髄まで、神と妖精、聖域の教えを刻み込んでいる。アーサーを裏切った者たちは、妖精憑きを忌避しているから、アーサーへの非道な行為も、反省しない。だけど、教えを守るように育てられているので、アーサーは反省し、後悔し、傷つく。

 だから、俺はあえて、悪い言葉をアーサーの前では使わないように気をつけた。アーサーが言ってしまったのなら、仕方がない。俺は従う。だけど、俺の言葉に誘発されて言ってしまったのは、違う。

「キロン、もっとしてぇ」

 安心したアーサーは、俺に甘えてきた。

「そうだ、食事の時間だ。ほら、舌を出して」

「んー」

 可愛らしく舌を差し出すアーサー。食事なんて言っているが、ようは、俺の寿命をアーサーに差し出す行為だ。

 体を密接させなくったって、寿命のやり取りは出来る。ただ、アーサーを安心させるために、俺は、あえて、口づけという行為を通して、寿命をアーサーに注ぎ込んだ。

 この行為だって、毎日でなくていい。週に一度程度でいいんだ。だけど、アーサーは体感ではわからないから、不安になって、せがんだ。

 死を恐れているわけではない。俺に見捨てられることを恐れているのだ。

 この寿命のやり取りもまた、アーサーにとっては、俺が味方だという、大事な確認作業だ。

 それも、今では、俺と深く口づけするための理由になっているが。

 俺はアーサーの舌に、俺の舌を絡め、深く口づけし、アーサーを押し倒した。








 背徳の日々は、一年で終わった。どんどんとおかしくなっていくアーサーは、最後のほうには、赤ん坊のように俺にしがみ付いて、笑うだけになっていた。それでも、口づけすれば喜ぶ。もう、アーサーは自ら食べようとしないから、俺が口移しで食事を与えていた。だから、どんどんとやせ細っていった。

 最低限の状態で、やっと、アーサーは保護された。見つけ出したのが、アーサーの婚約者ヘラだというのが、腹立たしい。だから、嫌味を言ってやった。

 俺から引き離されたアーサーは酷いものだった。大暴れして、爪をたてて、と手がつけられなかった。力づくでやるには、アーサーはやせ細り過ぎていた。運が悪いと、アーサーの腕や足の骨を折る危険性が高く、大の大人数人が、遠巻きでアーサーを見ているしかなかった。

 結局、俺が抱きしめてやって、アーサーはやっと落ち着いた。俺の胸に顔をうずめ、胸の音を聞いて、やっと、一息ついたように、意識を手放した。暴れすぎて、疲れたんだ。

 俺がアーサーを抱いて小屋を出ると、目の前に、捕縛されたアーサーの父ネロ、義母となったリサ、義兄リブロ、義妹エリザが転がされた。

「こやつらは、しばらく、この小屋で過ごしてもらおう」

「俺たちは、躾してやっただけだ!!」

「そうだよ!!! こいつは、とんでもない性悪なガキなんだ!!!」

「我儘で、金使いが荒くて」

「一人だけ、貴族だと贅沢していて」

 ネロたちが、必死になって、アーサーの祖父ウラーノに言い訳している。俺は、それを見て、聞いて、笑った。嘘ばっかりだ。

 ウラーノは、冷たくネロたちを見下ろした。膝立ちになって近づいてくるネロたちを見下ろし、触れられるようなところまで近づくと、連れてきた騎士たちが、ネロたちを足蹴にした。

「お前ら、俺は貴族だぞ!!」

「爵位を借金のために売り払ったがな」

「ま、まだ、俺のものだ!!」

「そこは、これから、話のわかる奴らと話し合う。お前たちは、ここで、そのままで、小屋で過ごすんだ。食い物と飲み水は、アーサーが受け取った通りに出そう」

 ちょっと視線を遠くへと飛ばせば、屋敷の使用人たちは全て、捕縛され、鞭打ちされて、何か聞き出されていた。

 そんな歪な光景を万が一にもアーサーが見たりしないように、アーサーの顔を俺の胸に押し付ける。アーサー、かすかに笑顔を見せて、眠り続けた。

「き、キロン」

 ぎゃーぎゃーと叫ぶネロたちの声でかき消されそうなほどの声で、アーサーの婚約者ヘラが話しかけてきた。

「なにか用か」

「ご、ごめん、約束、破って」

「そうだな」

 俺は怒りしかない。ヘラだけが悪いわけではない。悪い奴はいっぱいいる。屋敷の外に出され、拘束され、拷問を受けて、と酷いこととなっている奴らばかりだ。

 この中で、ヘラは何もされていない。

「お前は、アーサーが酷い事されていたのに、学校の友達とやらと遊んでたんだな。アーサーは、お前が来ると信じてた。マイアの葬儀で、お前が約束したんだ。アーサーから言い出したことじゃない。お前が言い出したことだ」

 アーサーの母マイアの葬儀で、ヘラは気軽に約束したんだ。その時は、いつもの、他愛無い約束だった。どうせ、行かなきゃいけない事なんだ、という。

 アーサーとヘラが婚約関係となってから、ヘラは定期的に辺境にやってきた。婚約したのだから、それなりに交流させて、良い関係を築くためだ。よくある話だ。

 ヘラは貴族の学校に通うことが決まっていた。だから、これまでのように、気軽に辺境にヘラが足を運ぶことは出来ない。だから、長期休暇に行く、とヘラから言ったのだ。

 アーサーは男と偽っているが、女なんだ。ヘラは女と偽っているが、男なんだ。

「アーサーは、お前の断りの手紙が来るまで、お前のことを毎日のように話していた。もうすぐ来てくれる。きっと、ここから出してくれる。一緒に出よう。ずっとだ!!」

 俺が側にいるというのに、アーサーは婚約者ヘラに希望を抱いていた。

「アーサーが言ってくれれば、俺が、あいつら全部、殺してやったというのに、アーサーは優しいから、妖精憑きの力を悪用しなかった!! 俺を頼らず、お前を頼ったんだよ!!!」

 悔しい。俺は実は、アーサーの力になっていない。ただ、側に置いてただけだ。

「仕方がないだろう!! こんなことになるなんて、誰も思っていなかったんだ!!!」

 俺とヘラの間に、ヘラの兄ハリスが割り込んだ。

「そ、そうだ、俺は、悪くない」

「は、ははは、ははははははは、こんなのをアーサーは信じたのか」

「っ!?」

 ヘラは兄の言葉で、自己防衛したが、それを俺は許さない。

「お前は、約束を破ったんだ」

「だから、手紙で行けないと」

「そうだ、お前にとって、アーサーとの約束は、これからも、ずっと軽いものだ。今回のことも、お前にとっては大したことじゃないんだ。だって、アーサーとの約束は、破っていいものなんだよな。婚約者の約束は破って、学校の友達は必ず守る。お前は、このまま円満にアーサーと結婚しても、アーサーの約束をずっと破り続ける、最低な奴だ!! だけど、アーサーは優しいから、きっと許す。だって、いつも、仕方ないと、許してるもんな。ずっと、それに甘えてろ!!!」

「そ、そんな、つもり、じゃ」

「俺はアーサーが欲しい。全部、全部、欲しい。お前はアーサーを手放した。だから、もう、アーサーはお前のものじゃない。婚約者だ、なんだ、言ったって、もう遅い。ちょっとでも離したら、取り返せないことがあるんだ。アーサーがそうだ」

「あ、アーサー、俺、いや、わたくし、今度こそ」

 俺はしぶとくついてくるヘラを力いっぱい押して転ばせた。

「お前、子どもに向かって」

「こんな時ばかり、子どもを出すな!! アーサーはたくさんの大人たちにたった一人で一年、耐えたんだ。俺が一緒で良かったと言いたいんだろう。バカだな、俺は、アーサーにとって、よそ者だ!!! アーサーの身内は、お前らだ!!!!」

 さらに悪あがきするヘラの兄ハリスに、俺は叫んだ。

 俺が勝手にくっついていただけだ。アーサーの中では、俺は数に入っていない。俺はいつか、手放される存在なんだ。

「ん、うーん」

 俺が騒いだから、アーサーが目を覚まそうとしていた。俺はアーサーの様子を無言で見た。アーサーはうっすらと目を開いて、眩しそうに、久しぶりに見る外の光景に目を細める。その中で、俺を見て、嬉しそうに笑った。

「きろん、きろん」

 舌っ足らずな声で、俺の名を呼ぶ。

「ああ、ずっと、ずっと、ここにいるからなー」

「きろん、だいすきー」

 やせ細った手を伸ばすアーサー。俺はアーサーの手を優しく握って、軽く口づけする。そして、そのまま、アーサーの顔に口づけを落とす。くすぐったそうに笑うアーサー。アーサーには、もう、綺麗なものだけを見せよう。汚い音なんて聞かせてはいけない。

 俺はアーサーを腕に抱いたまま、準備された馬車に乗り込んだ。






 アーサーの母マイアの実家は、まるで、別世界だった。

 アーサーのために用意された部屋には、アーサーが好きそうなものに溢れていた。寝心地がいいベッドは、沈みそうで、アーサーは喜んだ。

 可愛らしい、女の子の部屋だ。女の子が憧れ、喜ぶ模様と物に溢れていた。それをベッドで、俺にしがみつきながら、アーサーは目をきらきらと輝かせて見回していた。もっと近くで見せてやろう、と俺がアーサーを抱いて近づくと、アーサーは怖がって泣いた。俺以外の全てをアーサーは恐れた。

 アーサーのために、アーサーが過ごしやすいように、女の子アーシャを許される場所だ。そこでは、女の子アーシャだ。皆、アーシャと呼んだ。アーシャとしての人生を話し合っていた。

 このまま、ここにいたほうが、アーシャは幸福だった。アーシャは、少しずつ、アーシャに優しい人たちを受け入れていた。

 だけど、アーシャは傲慢な神の祝福によって、アーサーに戻され、再び、辺境に戻ることとなった。

 父ネロから実権全てを奪ったアーサーは、男爵家からの味方を引き入れて、子爵代理となった。俺は、アーサーの側で、アーサーを手伝った。アーサーは、復讐を望んでいると思ったから、それを手伝うつもりだった。







 いつものように、俺はアーサーを抱きしめてベッドに横になっていた。アーサーは保護されてからずっと、俺と一緒でないと眠れなかった。離れると、すぐ、アーサーは気狂いを起こした。俺が側にいる時だけ、アーサーはまともなだけだ。

 ネロたちは、俺とアーサーがべったりだから、色々と言ってきた。男同士でどうのこうのと。アーサーが女と知らないから、きっと、男同士で何かやっている、とネロは妄想を抱いたのだろう。こんなの相手に、俺は下でやられたなー。今では、鳥肌がたつ過去だ。

 今の俺には、過去の行為全て、気持ち悪いものだった。アーサーとの行為は、思い出すと、つい、興奮してしまう。だけど、それよりも過去、あの小屋で受けた行為は、気持ち悪かった。

 アーサーは保護されてからは、男女の行為に、これっぽっちも興味を示さなかった。俺に求めることはないから、俺は安心していた。

 下半身の刺激に、俺は目を覚ました。腕の中にアーサーがいない。

 俺はベッドから下りた。ベッドには、素っ裸のアーサーが残っていた。手についた何かを舐めていた。

「あ、アーサー?」

「下手だった? 父上の春画を見て、勉強したんだけど、嘘だったのかなー」

「なっ!?」

 俺が寝ているからと、アーサーは、俺の下半身を舐めたのだ。触ってみれば、濡れていた。

「あ、アーサー、もう、こんなこと」

「私には、キロンだけだよ。ヘラとは婚約解消する。私、キロンの子どもを産むんだ」

「ど、どうして」

 辺境に戻ったアーサーは、一見、まともだ。だから、アーサーとヘラの婚約はそのまま残った。アーサーが婚約解消を望まなかったし、ヘラも罪悪感かなにかで、婚約をそのまま続けたいと言った。

 アーサーがヘラとの婚約を望むなら、俺は我慢した。戻ったんだから、仕方がない、と。

 なのに、アーサーはヘラと婚約解消するという。

 アーサーは、俺の元にやってきて、抱きついた。

「ヘラは、私よりも、友達がいいんだって。なら、友達とずっと、仲良くしてればいいよ。一度、裏切ったんだ。また、裏切る。父上と一緒だ」

 表面では、アーサーはヘラを許した。だけど、たった一度の裏切りのような約束を破ったこと、アーサーは許せなかった。憎悪に表情を歪める。

 もう、アーサーはたった一度とはいえ、裏切りを許せなくなっていた。

 それを聞いた俺は、アーサーを抱きしめられなかった。だって、俺は、アーサーに出会う前に、ある意味、アーサーを裏切っていた。

 散々、俺は、家族になってくれる、友達になってくれる、と言っていた奴らを信じて、言われた通りにしていた。急に、俺自身、汚い、汚物な存在のように感じて、アーサーを離した。

「キロン?」

「俺、汚い」

 やっと、自らの過去の行為がいかに汚らわしいか、俺は気づいた。

「俺の側にいたら、アーサーが汚れる」

「いいよ。キロンは、私に何やったっていいんだ」

 アーサーは俺の手を握って、見上げてきた。その目は、狂っていた。

「私がキロンにあげられるのって、この体だけ。好きにしていい。だから、キロン、ずっと、一緒だよ」

 俺は、同じようなことを過去、いっぱい、言った。その身を差し出した。

 誰に言われたって、俺は何も感じない。俺は突き放す。だけど、アーサーに言われると、俺は嬉しくなる。抱き寄せて、口づけを落とす。そうされて、アーサーは喜んだ。

「キロン、ほら、胸、もんで。全然、膨らまなかった。きっと、食べ物がダメだったんだ。あんなにしたのに」

「アーサーは、どうして、胸をふくらましたいんだ?」

 俺は、このままで十分だ。アーサーの胸がひらべったいままでもかまわない。アーサーのものなんだから、それでいい。

 機嫌のいいアーサーは、俺の胸に顔をべったりとくっつけた。

「昔、こう、ふくよかな胸に顔を埋めたことがあったんだ。あれは、気持ち良かった。それをキロンにしてあげたい」

「マイアにされたのか」

「母上は、そんなことしない。誰の胸だったかなー」

 アーサーは過去の経験を思い出そうとした。記憶を掘り返していくと、何故か、頭を抱えて、脂汗を流し出した。

「あ、あの人は、た、確か」

「アーサー、俺は別に、胸なんかどうだっていい」

 俺はすぐ、アーサーの思考を別の方向へと持っていった。これは、思い出してはいけない事だと勘が告げた。

 アーサーを抱き上げて、ベッドに運んだ。

「アーサー、ネロの春画なんか、見るんじゃない。どうせ、妄想ばっかりだ」

「でも、それしか、閨事の本がなくって。もしかして、痛かった?」

 アーサーは、心配そうに、俺の下半身を見た。

「い、いや、気持ち良かった」

「だったら」

「俺は、したいんだ!!」

 俺は、アーサーにいろいろとしたい。俺がされたいと思ったことは一度もない。

「で、でも、私だって、キロンを気持ちよくしたい」

「俺は、そういうのは、興味ない」

 むしろ、飽きたんだ。快楽や悦楽は、散々受けてきたし、してきた。俺の望みは、そんなことよりも、家族や友達だ。それを得るための手段でしかなかった。

 アーサーが求めるから、俺は散々、アーサーの体を弄んだ。だけど、俺は、そこまでやりたいわけではない。ただ、アーサーが不安になるから、しているだけだ。

 そういう本音は黙っていたが、アーサーは不満そうに唇を尖らせた。

「子がたくさんいるくせに、何言ってるんだ」

「そ、それは」

「田舎は多産なのは、どうしてか、知っていますか?」

「え、さ、さあ」

「それしか楽しみがないからですよ!! 散々、楽しんだんでしょうね」

「アーサー、今日はもう、寝よう。明日も早いんだし」

「キロンは飽きるほどしただろうけど、私はそこまでしていませんから」

 アーサーは俺の体に爪をたててきた。痛いけど、我慢した。ここで声をあげたら、大変なことになる。

「もう、私相手には飽きたんですね」

「そうじゃないから!!」

「これまで、お前を返せといってきた女どもは皆、立派な胸を持っていましたね!!!」

「アーサーはまだ子どもだから!!!」

「エリザだって、それなりのもの持ってますよ!!」

 同い年の義妹エリザ、まあまあな胸の膨らみであった。同い年だけに、アーサーは悔しいのだ。

 アーサーは俺の膝に座り、背中を俺の胸に預けた。

「きっと、刺激が足りないんです。途中でやめちゃったし。キロン、継続しましょう」

「胸だけ?」

「飽きたんでしょう。なら、私だけ、気持ちよくなります」

「そんな生殺しなこと!!」

「さっさとやれ!!」

 とうとう、命令だ。俺は、アーサーに捨てられなくないから、ご機嫌とりに従うしかなかった。


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