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皇族姫  作者: 春香秋灯
男装の皇族姫-外伝 妖精憑きに振り回された者たち-
265/353

過去の柵

 アーサー様の天下となった。これまでの悪行はアーサー様の慈悲によって許された。アーサー様はまた、亡き子爵夫人マイアが生きていた頃のように過ごしていた。

 リサ親子は、離縁を要求されたが、アーサー様の温情で、許された。

「これから、本当に、仲良くしましょう。片親が違うといえども、義兄と義妹です」

 これが貴族なんだろう。それを聞いて、アタシは、アーサー様の器の大きさを知ることとなった。

 だが、キロンをアーサー様から奪おうとした女たち、子、孫は許されなかった。

 今回は悪質ということで、神殿が男爵の味方をした。神殿で行われた親子鑑定を元にして、キロンが手をつけた女、子、孫には、沈黙の罰を与えられた。今後、誰の前でも、キロンの女、子、孫だと言えないように、薬で喉を潰されたのだ。

 アタシは、親子鑑定をしなかったから、見逃されたのだ。

 だけど、領地民たちは、アタシがキロンの手がついた女だと知っている。ただ一人、逃れたことを責めてきた。

「お前だけ、無事だなんて、卑怯だ!!」

「お前だって、アーサー様に酷いことをしただろう!!」

「卑怯な女だ!!!」

「そういうけど、もっといるはずだよ!! アタシは知ってるんだからね!!!」

 黙っている女たちはそれなりにいた。アタシは、夫の告げ口のせいでバレたのだ。

 そして、貴族はさらに容赦しなかった。アーサー様の証言から、罰を免れたアタシみたいな女、子、孫がいると発覚したのだ。男爵は、領地民全てに、妖精憑きキロンとの親子鑑定を強制した。


 そして、とうとう、アタシの娘は、妖精憑きキロンの子だと神殿が認めた。


 後から発覚しても、罰は与えられなかった。過去に親子鑑定をした者たちだけが罰を受けただけで終わった。

「いいか、お前たちは煩く口ずさむようなら、同じように薬を使って喉を潰してやる。この薬は、魔法でも治せない、絶対のものだ。口が封じられても、手がまだ残っているが、見逃してやってるだけだ。今後、あまりにも目に余るようなら、その手も斬り落としてやるからな」

 男爵は、アタシたちの前で、恐ろしいことを言って、連れてきた騎士たちが錆びた剣を振り回した。これには、潰れていない声も出なかった。

 それからは、アーサー様中心の、穏やかな日常に戻った。リサ親子はまだ、諦めず、何かとアーサー様を悪く言っては、領地民たちを味方につけた。

 どうしても、妖精憑きを側におくアーサー様を領地民たちは嫌った。とてもいい貴族なのだが、妖精憑きキロンがいる、というだけで、昔からの教育が、アーサー様の優しさを台無しにしたのだ。

 そんなある日、アタシと夫が、アーサー様に呼び出された。

 これまで、あの小屋でやらかした領地民は、順番に、アーサー様に呼び出され、色々と話したという。アーサー様が小屋に閉じ込められた一年のことを今ではどう思っているか、みたいな話をすると聞いた。

 関係ない、夫が一緒なのには、戸惑った。一応、妖精憑きキロンの血をひく娘も一緒だった。

「閑散期で、暇になると、色々と考えてしまいます」

 アーサー様は穏やかに笑って、アタシたちに席を勧めた。とても、一平民が座ることが一生ない、豪華なソファだ。座ってみれば、沈むようで、不安になった。その向かいに、アーサー様が一人掛けの椅子に座り、その後ろに妖精憑きキロンが立った。

「聞きましたよ。妻の不貞も許す、出来た夫だと。それどころか、妻のために、色々と裏で動いていましたね。キロンと逢瀬を重ねられないように、領主代行に口添えしたりしたとか。父上が、キロンのお手付きとなったのは、あなたのせいですね」

「酷い事をしたとわかっている。しかし、俺は妻を愛している。だから、許した。俺の子でないとわかっていても、分け隔てなく接した。妻は、そうではなかったがな」

「こんなに愛されているというのに、どうして、キロンを選んだのですか?」

 アーサーは不思議そうに首を傾げて、アタシのほうを見た。

「アタシは、無理矢理、夫婦にされたんだよ。本当は、妖精憑きと結婚したかった。両親にも話したよ。だけど、それからすぐ、この男の妻にされたんだ。無理矢理だよ!!」

「でも、子がいますよね。キロンとの不貞の後も、それなりに子がいます」

「そうするしかない、と思ったからだよ!! 今ならわかる。アタシは、妖精憑きとここから逃げれば良かったんだ、と。あんたにも言っただろう。アタシの娘と結婚して、家族になろうって。今だって、そう思ってる!!」

「お前っ!!」

「そうすれば、妖精憑きは、あんたの義理の父親だよ!!!」

 夫が止めようとするが、妖精憑きがそれを邪魔した。やっぱり、アタシのことが忘れられないんだね。娘も、期待するように、妖精憑きキロンを見た。

「娘は、きっと、アーサー様をしっかり支えてくれるよ。アーサー様のこと、好きだと言ってた」

「アーサー様、どうか、妻にしてください」

 見た目は妖精憑き側に寄っていた。可愛らしい女の子だ。夫の子とは違って、娘には、見た目の愛らしさがあった。

 突然、バンとドアがあけ放たれた。そこには、とても綺麗な女の子が立っていた。着ている服は垢ぬけていて、リサ親子が田舎者に見えてしまうほどだ。

 見るからに、貴族の娘だ。その子は、つかつかとアタシの娘に歩み寄るなら、平手を放った。

「痛いぃ!!」

「よくも、わたくしの婚約者に色目を使ってくれたわね!!!」

 貴族の娘は、アーサー様の婚約者だった。それを聞いて、アタシも娘も震えあがった。夫は、諦めたように項垂れた。

「黙って隣りの部屋で聞いていれば、言いたい放題ね。アーサーは、将来、わたくしと結婚するのよ!! もう二度と、こんな女が言い寄れないように、わたくしは、このど田舎の視察に来るわ。お前たちのことは覚えた。次からは、念入りに、監視してやる」

「ヘラ、泣いてるよ。可哀想だよ」

「ううう、アーサー様ぁ」

「婚約者のいる男に手を出そうとするなんて、とんだ泥棒ね!!! しかも、貴族相手に平民が手を出そうとするなんて。ここが王都なら、お前たちの手は斬り落とされてるわよ。泥棒はね、二度と出来ないように、片手を斬り落とすの。それでもやるなら、片足よ。それでもやるなら、残った片手片足を斬り落とすのよ!!! すぐ処刑なんかしない。じわじわと、生かして、苦しめるの」

「ひっ!?」

 想像しただけで、アタシと娘は気が遠くなりそうになった。貴族の娘は、とても綺麗な顔をしているが、その口から出てくる内容は、恐ろしかった。

「そ、そんなつもりは!! ただ、アーサー様のように、一人しか子がいないと、寂しいでしょうから」

「それはつまり、貴族の女だから、子は一人しか産めない、とでも言いたいわけ? そんなわけないでしょう!! アーサーの母方のご実家なんか、子だくさんよ!!! たまたま、アーサーのお母様は、アーサー一人しか出産出来なかっただけ。わたくしは、アーサーの従姉なの。わたくしの母も子だくさんの血筋だから、増えないように気をつけているのよ」

「ご、ごめんなさい!! いつも、リサ様がそう言っているから」

「あの女、まだ、そんなこと言いふらしてるのね。アーサー、もう、あの女を追い出して!!!」

 全てをリサのせいにすれば、呆気なく、貴族の娘の怒りは、リサへと向いた。

「片親が違うとはいえ、義兄と義妹の母です。せっかく、親子で仲良くしているのですから、引き離すのは可哀想でしょう」

「だったら、アタシの父さんを返して!!」

 勢いで、娘がとんでもないことを叫んだ。

 途端、しーんとその場は静かになった。アーサーは、後ろで沈黙し続ける妖精憑きキロンを振り返った。

「キロンの子や孫はいっぱいいます。返して、といいますが、あなただけの父親ではありませんよ」

「だから、アタシがアーサー様の愛人になれば」

「私と歳は変わらないというのに、もう、愛人なんて言葉を使うなんて、女の子はませていますね」

「それは、皆、アーサー様のことを憧れて」

「私があの小屋に閉じ込められたたった一年、一年も、義兄と義妹に連れてこられた子どもたちは、口々に、私を罵りましたよ。その中には、あなたもいましたね。暴力も受けました」

「………」

「言ってましたね。リブロの愛人になりたい、アーサーなんて嫌いだ、と。良かったですね。義兄は成人したら、平民です。結婚出来ますよ」

 アーサー様が小屋に閉じ込められた一年は、取返しのつかないことを領地民たちは仕出かした。

 誰も、アーサー様が返り咲くなんて、思ってもいなかったのだ。

「もう、話は済んだでしょう。さっさと帰らせて」

「いえ、まだ、聞いておきたいことがあります。ここまで、不貞を続ける妻を、あなたはそれでも愛して、許しますか?」

「ああ、許す。俺は、こいつのことを愛してる。だから、無理矢理、妻にした。後悔していない」

「良かったですね。キロンを見てみなさい。すぐに、他所の男、女へと尻尾を振ります」

「俺はアーサー一筋だ!!」

「黙れ」

 妖精憑きキロンが割り込むと、途端、アーサー様は表情を消した。それには、誰も口を開けなくなった。

 すぐに、アーサー様はいつもの穏やかな笑顔を見せた。

「キロンのことは気の迷いだと思って、諦めてください。あと、私は愛人を持ちません。私は誠実に生きたいです。そのためには、父のようなことはしません。どんな家族でも、大事にします」

 そして、アーサー様は最後、歪んだ笑顔を浮かべた。









 リサの息子リブロと娘エリザは領地ではやりたい放題だ。とうとう、娘にも、リブロの手がついた。もう、リブロの手がついていないのは、小さい子どもくらいだ。その子どもだって危ない、と気をつけて見守られた。

 そうして、リサ親子はやりたい放題をしていたが、とうとう、天罰が下った。

 アーサー様は男だと性別を偽っていた。本当は女なのだ。皇帝の気まぐれで、法律が変わって、女でも爵位を受け継げるようになった途端、アーサー様は女だと暴露したのだ。

 これには、リサは激怒した。

「女だと黙っていたのかい!! 女は、爵位を受け継げないってなってた。ちくしょー、爵位はリブロのものだよ!!」

「法律が変わったんです。女でも爵位は受け継げます。これで、私も枕を高くして眠れます。いつ、バレるかと、心配………はあまりしてませんでしたけどね」

 何故か、アーサー様は胸を撫でて、憂鬱な顔を見せたという。

「義母上、義兄上、エリザ、私が成人したらすぐ、追放です。エリザは、まあ、成人するまでは、家にいていいですよ。ですが、義母上と義兄上は、行先を探しておいてくださいね。私は、何もしませんから」

「なんだって!! アタシが愛人に収まってたから、アンタは両親ともに貴族だったんだよ!!!」

「母上は、ここに嫁ぎたくて来たわけではありません。子爵家の借金をどうにかするために、仕方なく、持参金を持って、ここに嫁がされたんです。貴族には貴族なりの理由があります。子爵家の借金がある限り、義母上は愛人止まりでしたよ。母が優しい人で良かったじゃないですか。とんでもない妻だと、愛人の両手両足を斬り落として、それを犬のエサにすることがあります。愛人の子は召使のような奴隷ですよ。母と私が優しくて良かったですね」

 悍ましいことを笑顔でいうアーサー様。それを聞いても、リサ親子は大人しくならない。貴族の学校に通っているリブロとエリザは、アーサー様の悪口を散々、言いふらし、リサは、領地民を扇動して、反乱を起こしたのだ。


 そして、領地民たちの財産全てをアーサー様に奪われた。


 アタシの家もそうだ。帰ったら、全てなかった。備蓄の食糧も全てだ。

 アーサー様の母マイア様は、領地民に借金を課したのだ。子爵家の借金は、領地民にも責任があるということで、残った借金を領地民に頭割りして、返させたのだ。その借金がまだまだ残っていた。

 それなのに、アーサー様を一年、小屋に閉じ込め、妖精憑きキロンまで虐めたことで、大凶作に見舞われ、残った借金の倍の借金を領地民たちは持ったのだ。それらの証文をアーサー様が持っていた。

 酷いことをされた、と責めたが、結局、借金があるので、領地外では、誰も味方にならない。それどころか、借金があるのに、アーサー様を悪くいうなんて、と責められた。

 それを憐れに思ったのか、神殿が施しを与えてくれた。

 なんと、アーサー様が差し押さえたもの全て、戻されたのだ。アーサー様は、確かに借金を理由に、アタシたちの財産を持って行ってしまったが、それらを神殿に寄付寄贈した。そして、神殿を通して、それらをアタシたちに返したのだ。

「これで、あなたがたの借金はなくなりました。良かったですね」

 本当の貴族というものを見たような気がした。

 それから、領地民たちは全て、アーサー様の味方となった。









 皆、アーサー様に取り入ろうとした。アーサー様は女だ。もう、婚約者もいないだろう、と。

 ところが、婚約者は男の姿になって、領地にやってきたのだ。

「ヘリオス、かっこよくなったね」

「楽になった」

 アーサー様が男装しているからと、婚約者も男でありながら女装させられていたのだ。婚約者はそのまま、婚約者のままだった。

 領地民たちは、他の方法で取り入ろうとした。やはり、妖精憑きキロンだ。アタシもそうだった。

「お願いだよ!! アタシたち親子を助けると思って、口添えしてくれよ!!!」

「お前なぁ、アーサーに散々なこと言っておいて」

「生きていくためには、仕方がないんだよ!!」

「俺は、家族が欲しい、友達が欲しい、とずっと言っていた。そこは変わらなかった。だけど、お前たちは変わった。次から次へところころと、いうことを変えた。そんな奴、信用出来るわけがないだろう」

「あんただって、言われたら、すぐ絆されたくせに!!!」

「信じたんだ。裏切ったのは、お前らだ」

「裏切ったんじゃない!! 仕方なかったんだよ!!!」

「今のお前は、俺を都合よく使いたいだけだ」

「そんなことない!!」

「もうやめろ。せっかく、声が出せるんだ。大事にするんだな」

 たぶん、これが、妖精憑きキロンの最後の情けだったんだろう。

 普段から、妖精憑きキロンの側にはアーサー様がいた。この二人が離れることなんて、滅多にないのだ。キロンは、アタシのために、アーサー様から離れて、待っていてくれたのだ。

 それからは、もう、妖精憑きキロンに話しかける隙すらなかった。それどころか、この後すぐ、子爵様とリサ親子は、アーサー様に反撃したのだ。

 そして、その反撃は失敗に終わった。アーサー様は貴族に発現した皇族だと正体を明かし、帝国の騎士団と筆頭魔法使いを引き連れて、子爵様とリサ親子を犯罪奴隷に落とした。

 さらに、アーサー様はこれまで隠されていた真実を明らかにしたのだ。

 子爵様とリサの子だと言い張っていたリブロとエリザは、子爵様と血のつながりがなかった。リブロとエリザの父親は、領地民の誰かだという。

 この暴露に、領地民たちは、リサとの不貞を告白したのだ。アーサー様が筆頭魔法使いを使って、リブロとエリザの父親を探し出してやる、と脅したので、身に覚えのある男どもは、立ち上がった。

 その中に、アタシの夫もいた。

 こうして、家族関係も最悪にしていき、アーサー様は、領地を捨てて、妖精憑きキロンと一緒に、どこかへと消えていったという。






 アーサー様が領地から消えて一年が経ったころ、ぽんと妖精憑きキロンがやってきた。

 もう、大変な状態の一年で、夫婦喧嘩どころではなかった。お互いに不貞をしていたが、アタシと夫は状況が違った。アタシが責めれば、夫は仕方がなかったんだ、という。

 リサは、子爵様一人では満足できなかったから、手あたり次第に領地にいる男たちに手をつけたのだ。拒否すれば、どうなるかわからなかったから、夫は仕方なく、リサに従っただけである。アタシとは違ったのだ。

 だけど、不貞は不貞だ、と思った。どれほど言いつくろっても、そうなんだ。だけど、子どもたちにとっては、夫よりもアタシのほうが憎しとなった。アタシは、娘一人を連れて、家族を捨てようとしたいたのだ。

 そうして、なかなか濃い一年を過ごしているところに、一年前から変わっていない妖精憑きキロンが目の前にやってきたのだ。

「きちんと、家族を大事にしてるか」

「迎えに来てくれたんじゃないのか!?」

「俺は、アーサー………アーシャ一筋だ。浮気しない」

「はっ!! 散々、領地にいる女に手をつけていたくせに」

「そうだ。だけど、俺が抱き上げた赤ん坊は、アーシャが産んだ子だけだ」

「っ!?」

 アタシには決して出来なかった、妖精憑きキロンの家族にアーサー様はなったのだ。キロンは、嬉しそうに笑っていた。

 その笑顔は、本当は、アタシが得られるはずだった。その怒りが溢れた。娘は妖精憑きキロンに我が子と抱き上げられていたはずだった。

 途端、夫への憎悪が溢れた。あの夫のせいで、邪魔されたのだ、と。

 アタシの内心など、妖精憑きキロンはどうだっていいのだろう。アタシに手紙の束を押し付けた。

「アーシャからの手紙だ」

「………字が、読めないんだけど」

「読める奴に読んでもらえ。あの、俺の子だという娘の分もある」

「ね、ねえ、赤ん坊の面倒は大変だろう。アタシが手伝ってやるよ」

 まだ、アタシは悪あがきしていた。どうしても、妖精憑きキロンについて行きたかった。

「腹違いとはいえ、アタシの子は姉だよ。きっと、いい姉になるよ!!」

「アーシャは死んだ」

「だったら、アタシが親になってやるよ!!」

 好機だと思った。父親だけでは、子育ては大変だ。アタシは義母の座に割り込もうとした。

「俺とアーシャの子は、今、女帝が預かっている」

「っ!?」

「帝国の最高の人材たちが、赤ん坊の面倒を見ている。帝国最強の魔法使いである筆頭魔法使いは、赤ん坊を手放さないほど可愛がっている。片親が皇族でない俺だが、筆頭魔法使いが手放さないから、皇族として育てられる。母親役はいらない」

 アタシはその場に座り込んで、アーサー様からの手紙を抱えた。

「アーシャがアーサーであった時、お前の言葉を信じたんだ。だけど、裏切ってくれたな」

「………いつ?」

「アーサーが一年、あのせまっ苦しい小屋に閉じ込められていた時だ。お前は、家族になるとアーサーに言ったな。なのに、すぐに裏切った」

「そ、そんなっ!?」

 アタシは裏切りたくて裏切ったわけではない。あの時、夫がリサに告げ口したから、従うしかなかったのだ。

 あの時が、運命の分かれ目だった、と気づかされた。

 気づいたら、妖精憑きキロンはいなくなっていた。

「どうした?」

 心配そうに覗き込む夫。それはずっと変わらない。

 何故か、アタシの手には、包丁が握られていた。

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