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皇族姫  作者: 春香秋灯
男装の皇族姫-アーサー、アーシャ、アーサー-
253/353

一生一緒

 アーサーの祖父ウラーノは、本当にどうしようもない男だ。アーサーを散々、泣かせ、怯えさせて、としただけでなく、余計ことをアーサーにいうのだ。ちょっと、俺がアーサーから離れると、その隙に、とウラーノはアーサーに近づくのだ。

 そして、大泣きするアーサーに、俺はすぐに戻る。

「やっと寝たとこに、何やってんだよ!!」

「起きたじゃないか」

「ちょっとした物音でも目を覚ますんだ」

「お前が離れるからだろう」

「こんな玩具、持ってくるな!! 食い物もだ。花だって、ダメだ」

「ど、どうして。子どもはこういうものが好きだと」

 どうしようもじいさんだが、心を入れ替えて、アーサーに優しくしようとしていた。

「玩具は、アーサー自身を傷つける。今のアーサーは赤ん坊と同じだ」

 ちょっと目を離した隙に、アーサーは持っている道具で目を突こうとしていた。死にたい、とか、そういうわけではない。わからないんだ。

「菓子はまだダメだ。体が戻ってない」

「お前はそういって、口移しで食べさせてるだろう!!」

「そうしないと、腐ってるって、吐き出すんだ」

 アーサーが監禁されて、気が触れてからずっと、俺が口移しで食べさせていた。道具を使っても、うまく食べられなかったのだ。最初は甘えてだった。それも、弱って、そうしないと食べられないほど、弱ってしまったんだ。

「きつい匂いの花は、あの女を思い出す」

 女ってのは、きつい匂いをつける。子爵ネロの妻となったリサは、とんでもない香水をふりつけてやってきた。あの匂いを思い出すのか、吐いたこともあった。

「そ、それじゃあ、どうすれば」

「特別なことなんてない。ただ、アーサーよりも低い目線で、笑いかけてやればいいんだ。簡単だ」

「ワシは年寄なんじゃぞ!! こう、足腰が痛いんじゃ」

「アーサーは病気なんだ。あんたのは、ただ、歳食って、体にガタがきてるだけだ。手遅れなんだから、我慢しろ!!」

 どんなことしたって、年寄の体はどんどんと悪くなっていく。アーサーは、心の病気だが、上手につきあえば、良くなるのだ。

 年寄に向かって、とじじいはいうが、実際は、俺のほうが年上なんだ。俺のほうがジジイなんだよ。妖精憑きだから、見た目が若いだけだ。

 そういう事実を知っているから、ウラーノは結局、俺に従うしかなかった。何度も、バカなことを繰り返して、とうとう、ウラーノはアーサーよりも低い目線で笑ったのだ。

 ぎこちないウラーノの笑顔。それを見て、アーサーは花のように笑った。

「おい、笑った、笑ったぞ!! アーシャ、アーシャ!!」

 この頃には、もう、アーサーと呼ぶのは、俺だけだ。皆、アーサーのことをアーシャと呼び、女扱いした。用意される服は全て、女物で、新品だ。

 もう、アーサーも大丈夫だろう、となった頃に、俺はアーサーの母マイアの兄と話した。

「実は、隠し財産を俺が持っているんだ」

 俺は、マイアから、多額の金貨を預かっていた。そのまま見えるところに置いておくと、子爵ネロが使ってしまうから、俺に預けたのだ。俺は、妖精憑きの力で、別の空間を作り、そこに金貨を保管していたの。

 そういう話をすると、マイアの兄は驚いて、声もなく、何か飲んで、落ち着いた。

「君は、魔法使いになるべきだ!!」

「アーサーから離れたくないし、離れられない」

 ここは、アーサーにとって安全だ。だが、アーサーはやっぱり、俺に縋っていた。俺が離れたら、アーサーはまた壊れる。俺に捨てられたと思ったら、もう、アーサーは立ち直れないだろう。

「勿体ない!! きっと、すごい魔法使いになれる」

「そんなの、いらん。俺は、アーサーだけがいればいいんだ。他はどうだっていい」

「妖精憑きなんだな。だが、もし、なりたい時は、声をかけてくれ。力になる」

「わかった。それで、金はどうする? あと少しで、昔の借金分は返済出来るところまできた」

「借金が増えたんだ」

「………」

 俺が怒り任せにやったことで、また、借金を増やすこととなった。だけど、その怒り任せで、アーサーは救われた。仕方のないことだった。

 俺が落ち込んでいると、マイアの兄は笑った。

「いや、だから、返さなくていいんだ。もう、いらない。子爵家とは縁を切ろう。アーシャは我が家が引き取る。あんな家、潰れてしまえばいいんだ」

「けど、じいさんが」

「もう言わないし、言わせない。その金は、元気になったアーシャが使えばいい。これから、自由なんだ。やりたいことをやればいい。一生、遊んで暮らせるだけの金だ」

「金がかかってるって、言ってた。俺はよくわからなけど、大金なんだろう。捨てるもんじゃない」

「アーシャの価値は、金で表せられない。帝国中の金貨を集めたって、足りない。アーシャのほうが大事なんだ。世の中では、大金だ。だけど、アーシャの価値から見れば、はした金だ。もう、何も考えなくていいんだ。好きにしなさい。それよりも、君には随分と世話になりっぱなしだ。我が家から、何かお礼をしたいんだが」

「アーサーをくれればいい」

「………あの領地の奴らは、どうしようもないな。こんないい子を閉じ込め、散々なことをして、挙句、アーシャから奪おうとするなんてな」

 マイアの兄が、始めて、怖い顔をした。ぽんと机の上に、ここ数年、よく見た、親子鑑定の書類を広げた。

 俺のだけじゃない。なんと、子爵リブロと、愛人リサの子の親子鑑定の書類もあった。俺のは、全て、親子だと証明されていた。

 子爵リブロと愛人リサの子は親子でない、とされていた親子鑑定だ。

「どうして、これがここに」

「君も知っていたのか」

「マイアから聞いていた。マイア、アーサーを連れて行けないと言ったんだ。それで、アーサーは傷ついて、大変だった」

「離婚するつもりだったんだな」

 話の流れで、マイアの兄は、マイアが生前、やろうとしていたことを読み取った。

「あのクソジジイのせいで、マイアには可哀想なことをした。その挙句、可愛いアーシャまで、酷いことになって。あのクソジジイ、もう一発、殴ってやる」

「もう、やめてやれ。殴ったって、アーサーはそのままだ。年寄だから、ぽっくりいっちゃうぞ」

「そんな軟な鍛え方してない」

 この親子は、極端だな。俺はちょっと身震いした。話し合いでは決着つかないと、手が出るんだな。アーサーのトコではなかった話だ。

「話は逸れてしまったね。君の家族はどうする? こんなことをするんだ。諦めていないだろう」

「俺を裏切ったんだ。今更だろう。俺はアーサーさえいればいい。邪魔なら、殺せばいい」

 もう、俺の中では、俺の子、孫だという奴ら全て、殺すつもりだった。俺にはそれが出来る。

 ただ、それをやらなかったのは、アーサーの側にいたいからだ。不自然に人死にが続いたら、アーサーに気づかれる。アーサーは、神と妖精、聖域の教えを強く信じている。俺が血のつながりのある子や孫を殺したら、側に置いてくれないだろう。

 だけど、今なら、アーサーは気づかない、気づいても、きっと、喜んでくれる。もう、アーサーは神と妖精、聖域の教えを捨て去った。

「そこのところは、こちらで話をつけよう。もう二度と、アーサーと君の前に名乗り出ないようにさせよう。借金まみれだ。簡単だ」

 今、子爵家だけでなく、領地民たちすら、マイアの兄には逆らえないのだ。それほどの借金を男爵家は立て替えたのだろう。

「アーシャが望むなら、君を側に置けるようにしよう。全ては、アーシャ次第だ」

「わかった」

「アーシャは、これからうんと幸せにならないといけない。マイアだって、ここにいる間は、人並の生活を送っていたんだ。俺たちは、不幸じゃなかった。クソジジイだが、あの人のお陰で、俺たちは、今がある。借金も作らず、むしろ、手玉に取って、としている。アーシャには、人並の幸福をこれから送れるよう、我々が支えよう」

「俺が、アーサーを、アーシャを元気にする」

 俺はやっと、アーサーをアーシャと呼んだ。







 アーシャが保護されて半月が経った。外は綺麗な満月だ。暗いと怖がるアーシャだが、月明りが好きだから、窓をあけて、部屋を暗くして、外を眺めていた。

 アーシャが椅子に座って、外を眺めているから、俺はよく眠れるお茶を作っていた。

 空気が変わった。俺はアーシャを見た。

 窓の向こうは、真昼ように明るい。木々が生い茂る景色となっていた。そこから、いくつもの手が伸びて、アーシャの体を引っ張った。

「アーシャ!!」

 俺は茶器を壊れる音を聞きながらもアーシャの元に駆け寄った。アーシャを引き寄せようとするが、窓の向こうの力が強い。俺ごと、それはアーシャを引っ張っていったのだ。

 幻じゃなかった。地面を感じた。俺は手酷く落とされたが、アーシャはいくつもの手に支えられ、綺麗な光る女も元に連れて行かれた。アーシャ、意識を失っていて、されるがままだった。

 アーシャは見えない机に乗せられた。そのアーシャの上に、光る天秤を掲げる女。それは、片方に傾いていた。

「や、やめろっ」

 それをさせてはいけない。俺は予感した。これは、アーシャにとって、悪いことなんだ!!

 俺は妖精憑きの力で飛んだ。高く飛んで、アーシャの元に行ったが、見えない壁がそれを邪魔した。

 天秤が少しずつ傾き、どんどんと、真横になろうとしていた。

「やめろ!! アーシャに、もう、何もするな!!!」

 見えない壁を叩いて、アーシャを呼ぶ。目を覚まさないアーシャ。そうして、とうとう、天秤が真横になった。

『救ってくれて、ありがとう』

 笑って、女は消えた。そして、アーシャはゆっくりと地面に下ろされた。

 俺の目の前の壁はなくなった。すぐにアーシャに駆け寄った。

「アーシャ、アーシャ!!」

「う、うーん、何?」

 目をこすって、目を覚ますアーシャ。だけど、そこには、気狂いが見られない。

「アーシャ?」

「違う、アーサーだ。アーシャなんて呼んじゃダメだろう」

「………そ、そんな」

「私は小屋から救い出されたんだね。どういうことか、教えて、キロン」

 アーシャはアーサーに戻っていた。気が触れてからの事は、夢を見ていたみたいに、曖昧にしか覚えていなかった。

 呆然と座り込む俺をアーサーは抱きしめる。

「これだけは覚えている。キロン、私を捨てるなよ。私は、全てを差し出したんだ。お前だけなんだからな」

「あ、ああ、離れない、アーサーは、俺のものだ!!」

 ただ一つ、大事なことだけをアーサーは覚えていた。

「で、ここ、どこ?」

 見知らぬ場所である。俺も知らないから、わからない。

 そこが、禁則地の奥底であることを知るのは、そこを抜け出してからだった。







 アーサーは結局、領地の禁則地から離れることは出来なかった。精神はまともに戻ったように見える。しかし、狂ったままだ。

 俺が離れると思うと、アーサーは壊れた。

 アーサーの祖父ウラーノが、どんなに言葉を重ねても、アーサーには聞こえていなかった。

 たった一年、一年もされたことを恨み、アーサーは復讐を計画していた。

 領地民全て、めちゃくちゃにしたい、その憎悪は消えることがなかった。

 それがアーサーだ。もう、誰も止められない。アーサーの母マイアの兄でさえ、無理だと言ってしまうほどだった。

「こんなに、言葉が届かないなんて」

 アーシャとして迎えに来たマイアの兄のこと、アーサーは見えていなかった。何を言っても、聞こえていない。

 まともに見えるのに、実は、気狂いを起こしている。アーサーのことをよく見ている人は気づくのだが。おかしなことに、それに気づいているのは、アーサーの記憶にいない、母マイアの兄弟姉妹だけだった。

 俺は、アーサーが望むままにいるだけだ。復讐だって手伝う。俺はバカだから、ちょっと遠回りとかさせたけど、アーサーのためのことしかしない。

 復讐が終わると、やっと、アーサーは、母マイアの兄が見えるようになった。マイアの兄は、本当に有能な人だ。アーサーがおかしいままなのを知っていながら、マイアの兄は、物腰も柔らかく、優しい姿勢を崩さなかった。

 こんなにアーサーのことを大事に思って、側で手助けしようとしていたのに、アーサーの中には、最後まで、マイアの兄弟姉妹の存在は残らなかった。

 復讐が終わって、アーサーの中に残ったのは、結局、俺への執着だ。

 アーサーがアーシャとして、帝国中を旅して回る予定だった。俺は、色々と調べて、アーシャが行きたい場所には、どうやって行けばいいか、頭に叩き込んでいた。

 アーシャは、しばらく、体調を崩していたから、宿屋から出られなかった。それも、禁則地に行きたい、と言い出すから、俺はイヤな予感を覚えながらも、それに従った。

 それから、アーシャは禁則地から動けなくなった。

 アーシャの体調が悪かったのは、妊娠していたからだ。俺の子だ。そのことを教えてやると、アーシャは旅を諦めた。

「赤ん坊が生まれれば、また、どっか行けるよ」

 内心では、無理だとわかっていたが、俺は嘘をついた。アーシャか、腹の子か、どちらかを選ばないといけないほど、俺の寿命は限られていた。

 俺は、アーシャを選んでいた。腹の子はいらない。アーシャには、もっと外の世界を見せてやりたかった。そのためには、両方を選べない。腹の子は切り捨てるしかなかった。

 気分の悪いアーシャは、神の恵みを少しずつ食べて、飲んで、としていた。それ以外は、受け付けなったのだ。妊娠初期には、よく聞く話だ。

「この子、私みたいになるのかな」

 アーシャは腹を撫でた。俺は切り捨てたけど、アーシャはそうじゃない。

「そこは、生まれてみたいと、わからないな」

「私みたいな体質だと、また、妖精憑きの寿命を盗らないといけないね。妖精憑きに好かれる体質だから、きっと、悩むだろうな」

 俺をじっと見るアーシャ。アーシャは、俺の好意を信じていない。アーシャの体質が、俺に好意を抱かせていると思っていた。

 最初は、確かにそうだった。きっかけは、アーシャの体質だ。当時は、アーシャのことはよく知らなかった。

 だけど、今はよく知っている。俺には、変な妖精たちがいた。ともかく、俺に悪い事をさせようとするのだ。それが、禁則地を呪うことだ。何事かあると、あの妖精たちは、俺に禁則地を呪わせた。俺は、野良の妖精たちが大嫌いだから、喜んでした。

 そんな悪い言葉を囁く妖精は、アーシャと出会ってから、見えなくなった。いなくなったと思った頃に、突然、俺の前に姿をあらわしたんだ。

『やっと、体を元に戻した』

『あの子どもの側にいてはいけない』

『あの子どもは妖精殺しだ。妖精の魔法を壊し、妖精の魔法が届かない、妖精憑きを殺す女だ』

 俺が、どうして、あの小屋から出られたのか? それは、アーシャが小屋にかけられた魔法を壊したからだ。生まれ持った体質で、アーシャはあらゆる魔法を打ち消した。それは、いい魔法も、悪い魔法も、関係ない。

 そして、妖精の力も奪ったのだ。そのせいで、俺の妖精たちは、力を失い、しばらく、姿を見せなかった。

 それも、俺が領地を呪い、大凶作を起こすという悪行をしたことで、妖精たちの力を取り戻したのだ。

 ここまで話を聞いていれば、さすがに、俺も、俺自身が何者か、わかった。

 俺は、帝国を破滅させる、神が試練として与えた凶星の申し子だ。

 万年に一人、生まれるかどうかの存在だという。それを俺は神殿で習った。だから、妖精たちは、俺が保護された時、俺の名前を言わせないようにしたのだ。俺は、妖精たちに、凶星、と呼ばれていた。これを言えば、俺はただちに殺されていただろう。

 凶星の申し子だとわかった途端、俺は、アーシャの不幸の元凶が俺であることに気づかされた。俺は、存在するだけで、関わる者すべての運命を捻じ曲げるのだ。

 俺のせいで、アーサーの運命は不幸へと捻じ曲げられたのだろう。

 その事を知っていながら、俺はずっと黙っていた。話したら、きっと、アーシャは俺を責めて、捨てる。捨てられたくなかったし、俺は、アーシャが大事なんだ。

 卑怯な俺は、妊娠して悩むアーシャに、俺の秘密をまだ話せないでいた。これ以上、アーシャに悩みを増やしても、なんて言い訳までしていた。

 アーシャは子どもを産むつもりだ。俺の気持ちは信じていない。

「ここで、私が子を産めば、キロンは私のものだと、堂々と言える」

 過去に、俺の子や孫が言ったことをアーシャは気にしていた。

「そうだ、頑張って、元気な子を産もう。そうして、私にも権利がある、とあの人たちに言ってやるんだ」

「アーシャがいうなら、全部、俺が叶えよう」

 もう、名前も顔すら覚えていない、家族を名乗る奴らのことなんて、どうだっていい。だけど、アーシャの気が済むのなら、寿命をかけてでも、叶えてやりたかった。

「それだと、孫までいないといけないな」

 中途半端なことは出来ないな。俺は、アーシャの腹の子を視た。

 見事に、アーシャの体質を引き継いでいた。このままでは、アーシャの二の舞だ。

 俺は、残った寿命から、色々と計算した。なんだ、俺の寿命を全てかければ、この赤ん坊は元気な普通の子になるじゃないか。

 だけど、これでは、アーシャは赤ん坊を産んでしばらくして、死ぬこととなる。アーシャは、妖精憑きの寿命を盗って、生きてるんだ。今は、俺の寿命で、健康に、生きながらえているだけだ。

「アーシャ、実は、話さなきゃいけないことがあるんだ」

「もうそろそろ、キロンの寿命が尽きるの?」

「赤ん坊が生まれてから、しばらくはどうにかなるけどな。けど、その後、アーシャが」

「じゃあ、一緒に死のう」

「………は?」

「赤ん坊は、そうだ、レオナ様にお願いしよう。レオナ様、私の親になってくれるって言ってた。だったら、この子の親になってもらおう」

「し、神殿に、行けば」

「私は、浮気した父親を嫉妬で去勢した女、なんて言われてるんだよ。浮気はしない。私の妖精憑きは、キロンだけ」

「アーシャは、俺の、俺だけのものだ」

「そうだよ。私は、私が持っているもの、全て、キロンに捧げたんだ。私の物はもう、残っていない。全て、キロンのものだ」

 俺は、泣いていた。嬉しい、やっと、やっとだ。

 散々、裏切られた。裏切られ過ぎて、馴れてしまっていた。だから、いつか、アーシャも、と思っていた。

 俺は、アーシャの腹を撫でた。

「元気に生まれるように、神と妖精、聖域に祈ろう」

「うん、そうだね」

 アーシャは再び、神と妖精、聖域の信仰を拾った。

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