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皇族姫  作者: 春香秋灯
男装の皇族姫-アーサー、アーシャ、アーサー-
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栄光であった日々

 母は平民だが、父が領地を支配する貴族だと教えられて育った。跡継ぎは俺だ、と母は話していた。

 だから、平民がやるような野良仕事なんてするんじゃない、と言われた。

 平民の祖父が俺にも家の手伝いをさせようとした。だが、そぐに母が来て、怒って、その場を離してくれた。俺は特別なんだから、あんな下働きの仕事をさせられなくてすんだ。

 従兄弟たちが、ずるい、というが、すぐに母が怒鳴り込んだ。

「リブロは父親が貴族なんだよ!! お前たちみたいな平民から生まれたのとは違うんだよ!!!」

 もう、従兄弟たちも、俺に不平不満を言わなくなった。

 俺は貴族である父の跡継ぎだからと、わざわざ、教師まで呼ばれて、勉強だけでなく、剣術体術も習った。他の奴らは野良仕事、下働きをしているが、俺は、貴族の跡継ぎだから、貴族と同じことをしていた。

 だけど、勉強は好きじゃない。苦手だ。それを父に話せば。

「いいか、領地のことは、領主代行がぜーんぶやってくれる。俺たちは貴族なんだ、ただ、社交で繋がりを広げていけばいいだけだ。その社交だって、貴族の学校で十分、間に合う。だって、俺は、辺境の三大貴族の一つ子爵だからな!!!」

「すげぇ!!!」

 なんか、響きがかっこよかったから、俺は感動した。意味わからないけど。

 剣術体術も苦手だった。それも父に話せば。

「人を雇えばいいだろう、そんなの。俺がやることじゃない。ぜーんぶ、人にやらせればいい!!」

 俺は貴族だから、何もやらなくていいのか!! だから、適当にこなした。

 そんなある日、母がたまたま側にいない時に、祖父が無理矢理、俺を野良仕事に連れて行った。

「こんなの、俺のやることじゃない!! 母上に言いつけてやるからな!!!」

「お前よりも小さい子どもだってやっているということが出来ないのか」

「っ!? やってやるよ!!」

 ちょっと言われて、俺はついつい、言い返してしまった。

 そして、領地民さえ毛嫌いする禁則地周辺に連れて行かれた。

 そこにいるのは、だいたい、我が家の身内だ。そこは、皆、嫌っていると聞いた。だけど、領主代行の一族は、そこをやらなければならないという。

 だけど、俺は貴族だから、こんなこと、やらなくていいんだ!! だって、父だって、やっていないんだ。

 後で母に言いつけてやる、と思いながら、適当にこなしていると、離れた場所で歓声があがった。

「アーサー様、怖くないのですか!?」

「えー、美味しいのにー」

 見れば、綺麗な男の子が、何かを片手に持っていた。俺は気になって、ついつい、近づいてしまった。

「お前、何を持ってるんだ」

「お、おい、リブロ」

「アーサー様に向かって」

 何故か注意される俺。こんな、ひょろひょろした子どもに向かって、様付けだなんて!!

 生意気なガキだから、ちょっと、立場をわからせてやろうと、側に行った。

 アーサーと呼ばれた綺麗な男の子は、俺を見て、しばらく、目を瞬かせた。そして、にっこりと笑って、片手で持っているものを高く持ち上げた。

「蛇だよ!!」

「ぎゃああああああーーーーーーーーー!!!」

 アーサーは、持っていた蛇を俺に投げつけたのだ。俺は悲鳴をあげて、転んで、逃げた。

「あはははは、死んでるから、大丈夫だよ。毒もないし。焼くと美味しいんだよねー」

「アーサー様、強いですね」

「辺境では、虫だって大事な栄養源ですよ」

「む、虫だと!!! お前、なんて野蛮な平民なんだ!!!」

「リブロ!!!」

 騒ぎを聞きつけた祖父である領主代行がやってきて、俺に頭をつかむなり、無理矢理、地面におしつけた。

「孫が大変、失礼な態度をとりました」

「そんな、気にしなくていいですよ。子どもなんですから。それに、私も死んだとはいえ、蛇を投げつけてしまいました。悪戯がすぎましたね」

「あの程度のものを怖がるなんて、情けない孫だ」

「いやいや、普通だよ。私がおかしいんだよ。母上にも嘆かれた。貴族らしくないって。辺境のど田舎の子爵なんて、そんな、立派なものじゃないのにね」

「いえ、アーサー様はご立派です」

「ありがとうございます。その蛇は、差し上げます。美味しいですよ」

「ありがたく、いただきます」

 他の領地民にも、身内に対しても、祖父であえる領主代行は偉大な人という態度である。皆、領主代行に従うのだ。そんな偉い領主代行すら、アーサーの前では低姿勢だった。

 私は将来は、この領地の支配者であるはずなのに、アーサーの前では、無様な姿を晒し続けた。

 この後、帰り道に、祖父から、アーサーが母親違いの弟であることを語った。

「お前は、母親が平民だ。だが、アーサー様は母親も貴族だ。アーサー様は、お前より上のお方だ。身の程をわきまえろ」

「だけど、父上の跡継ぎは俺だ」

「違う、アーサー様だ」

「母上も父上も、俺が跡継ぎだと言ってる!!」

「勝手に言っているだけだ。片親が平民のお前が、貴族の跡継ぎになれるわけがない。貴族とは、そんな生易しい身分じゃないぞ。貴族にも、上がいるんだ。もっと勉強しろ。今のままでは、踏みつぶされてしまうぞ」

「俺が跡継ぎなんだ!! 嘘つきめ!!!」

 そう反抗すれば、祖父は俺の頭を容赦なく殴った。







 祖父である領主代行が言った通りだった。あの後、勉強の教師、体術剣術の教師と、身分確かな人たちにアーサーのことを聞いてみた。

「アーサー様は、優秀ですよ。すでに、貴族の学校の範囲まで進んでいます」

 アーサーは、勉強が出来る、とべた褒めされた。こんなふうに、俺は誉められたことはない。

「アーサー様は、細いですが、技術がしっかりしていますね。きちんと自己鍛錬も行っているというのに、柔軟な筋肉をしているから、無茶をしても、怪我をしません。どんな内容も、楽しんで望むから、どんどんと吸収していきます。このままでは、負けてしまいますよ」

 まだ、俺が強いようだ。あんな小柄なアーサー相手に、負けるはずがない。だけど、体術剣術の教師まで、アーサーをべた褒めするのが気に食わない。

 その話をすると、母は鼻で笑い飛ばした。

「あの教師どもは、アーサーの母親が雇ってる奴らだよ。そりゃ、アーサーを誉めるさ」

「やっぱり、そうなんだ。俺を悪くいうように仕向けてるんだな!!」

 だから、俺は誉められないんだ。なんて、意地悪な奴らなんだ。俺はもう、教師たちのいうことなど無視することにした。父と母がいうことこそ正しい。

 そして、領地内のガキどもを俺は従えた。そして、アーサーなんか相手にするな、と命じた。

 アーサーは、相変わらず、平民みたいに、農地をいじったりしていた。母親が貴族といったって、俺が跡継ぎだから、アーサーは下働きみたいなことをするんだな。ざまあみろ。

 アーサーの周囲には、子どもはいなくなった。従兄弟たちにも、側に行くなと命じた。

 だけど、アーサーは気にしない。そして、いつの間にか、大人の男を側につけて行動していた。

 アーサーが大人と一緒に行動していることを母にいうと、母は笑った。

「あいつ、よりによって、妖精憑きを側においてるんだよ」

「なんだと!! 妖精憑きは、俺たち人を奴隷のように扱う、悪い奴だぞ!!!」

「そうだよ。アーサーは、妖精憑きの奴隷になったんだよ。恥ずかしい奴だね」

「母上、俺はそんなことにはならない。ここは、俺の領地だ。妖精憑きをやっつけてやる!!」

「そうだよ!! だけど、お前がやることないんだよ。そういうのは、下々にやらせればいいんだから」

 俺がやりたかったが、貴族である俺がやるのはダメだ、と母にきつく言われた。仕方なく、俺は従兄弟に命じた。

「ばっかか、そんなこと、出来るわけがないだろう」

「お前、知らないのか? その妖精憑きに悪さしたから、領地が呪われたんだぞ」

「アーサー様のお陰で、領地の呪いが解けたって話だ」

「何をわけのわからないこと言ってるんだ!! 呪いってことは、やっぱり、あの妖精憑きが悪いってことだろう。おい、お前ら、妖精憑きをやっつけてこい」

「お前がやれよ!!」

「剣術と体術の教師をつけてもらってるんだろう。俺たちとは違うんだよな。俺たちは、野良仕事しか出来ないんだ。お前がやれ」

「そうだそうだ!! いっつもお前、自慢してるだろう。領地内では最強だって」

「そうだそうだ!!」

「やってやるよ!!!」

 腰抜けどもに任せられなかった。だから、俺一人で、アーサーの側にいる妖精憑きに殴りかかったのだ。

「なんだ、ガキか」

 ところが、妖精憑きは、片手で俺を持ち上げやがった。

「こら、お前、俺を誰だと思ってるんだ。俺は!!」

「キロン、離してあげなさい。子ども相手に、大人げない」

「わかった」

 アーサーに命じられ、妖精憑きは俺を胸倉を離した。俺は、尻から地面に落ちた。

「いってぇー!!! 怪我したじゃないか!!! 俺を誰だと思ってるんだ!!!!」

「そんなの、知るわけないだろう。俺はつい最近まで、閉じ込められてたからな」

「キロン、治してあげなさい。キロンがやったんだから」

「えー、こいつが殴りかかってきたのにー」

「痛いと言っています」

「あんなくらいで痛がるなんて、見た目はデカいのになー。痛みを我慢出来ないなんて、情けないなー」

「っ!?」

 こんな痛い目にあっているというのに、この妖精憑きは俺をバカにした。俺は、この領地の支配者になるってのに、なんて、無礼なんだ!!

 妖精憑きのせいで受けた痛みは、すぐにすっとなくなった。そして、俺は何もしていないのに、見えない何かによって、立たされた。

「キロンがやり過ぎました。キロンは、まだ、手加減が出来なくて、すみません。ほら、謝って」

「えっと、すまん?」

「疑問形!!」

「どこが悪いのか、わからん」

「痛いと言っています」

「血も出ない、ただ、ちょっと尻を打ちつけた程度だろう。痛がっているだけで、俺が謝るのは、変な話だ」

「キロン、時には、それで、面倒事が回避できるんです。高い自尊心なんて、実は意味がないのですよ。そんなものでは、腹は満たせません」

「確かに、そうだな。じゃあ、悪かった」

 アーサーの説明で、妖精憑きは軽く頭を下げて謝る。だけど、なんて軽い謝罪なんだ!! 俺は、俺は、この領地の支配者になる男だぞ!!!

 アーサーは顔をおさえて、溜息をついた。

「すみません。キロンはまだ、物事を勉強中なんです。広い心で許してください」

「わ、わかった」

「ありがとうございます」

 アーサーは、丁寧に頭を下げ、妖精憑きの手を引いて、俺から離れていった。

 俺は、結局、何も出来なかった。








 俺が貴族の学校に通う年頃に近くなると、母はアーサーと、アーサーの母親のことを教えてくれた。

「あの女は、アタシがなるはずだった子爵夫人の座を盗んだんだよ!! 金を使って、無理矢理だ。そのせいで、アタシと旦那様は、結婚が出来ない。本当に、酷い女だよ」

「父上と母上の仲を引き裂くなんて、なんて悪女なんだ!!」

「だから、ここではあの女は味方がいないから、屋敷に他所から連れて来た人を入れてるんだ。領地民にとって、あの屋敷の使用人になるのは栄誉あることだよ。それを奪うなんて、領地民をバカにすることだよ。いいかい、リブロが跡を継いだら、そんなことするんじゃないよ」

「当然だ!! 領地民どもを雇ってやるんだ!!!」

「さすがリブロ。わかっているじゃないか」

 だから、アーサーの母親は、領地民に嫌われているのだ。

 そして、罰が当たったんだ。それからすぐ、アーサーの母親は死んだ。ざまあみろ!!

 アーサーの母親が死んだから、女主人がいなくなって、父の身の回りが大変だと嘆いていた。だから、母が女主人になったんだ。結婚は、アーサーの母親が死んで一年経たないと出来ないというから、それまでは、女主人代理だという。

 これまで、アーサーの母親が、俺と妹が屋敷に暮らすのを邪魔していたという。アーサーの母親が死んだので、父は俺たちを堂々と屋敷に入れられるようになった。

 そして、領地民じゃない使用人を全て、屋敷から追い出した。

 これまで、死んだ母親に甘やかされていたアーサーは、贅沢三昧していたのだ。だから、身の程をわからせるために、屋敷の外にある小屋に閉じ込めた。

「あ、義兄上、どうして!?」

「お前の根性を直すためだよ!! 今まで、お前は贅沢してたんだ。これからは、俺たちが贅沢してやる。お前は、そこで、反省してろ!!」

「そんな!! リサ、やめてください!!!」

「煩い!! アタシは旦那様の妻だよ。お前の母親のせいで、子爵夫人にまだなれない。だけど、あの女は死んだ。もう、誰にも邪魔されない。お前は貴族になんかしない。貴族にはるのは、アタシが産んだ子どもだよ!!!」

 アーサーは泣いて情けない姿だった。それをあの妖精憑きだけが味方した。

「お前はまた、あの小屋に行くんだよ!!」

「やめてください!! キロンに酷い事しないで!!!!」

 母と父があの妖精憑きをアーサーから引き離した。妖精憑きは抵抗したが、アーサーを父が殴りつけると、抵抗をやめた。

「アーサーを痛めつけられたくなかったら、大人しく、あの小屋に戻れ」

「お前ら、もう許さん」

「汚らわしい妖精憑きが!!」

 俺が妖精憑きに棒で殴りかかった。それを妖精憑きは片手で受け止めて、俺の腕をつかんだ。

「アーサーに酷いことしてみろ。お前は、もっと酷いこととなるからな」

「離せ!!」

 俺が暴れれば、妖精憑きは俺の腕を離した。俺の腕には、妖精憑きの手形がつくほど青くなった。

「このっ!!」

「キロン!!!」

 俺が妖精憑きを殴ろうと棒を振り上げたところに、アーサーが割り込んできた。

 アーサーは頭から血を流して、そのまま、動かなくなった。

「俺のアーサーになにするんだ!!」

「これ以上、アーサーを痛めつけられたくなかったら、大人しくしろ。お前が俺たちを魔法で傷つけた、と神殿に言ったっていんだぞ」

「っ!?」

「そうしたら、お前らは一生、離れ離れだからな!!」

「………いいだろう、離れてやる。だが、すぐに、ここに戻すことになる」

 負け惜しみを言って、妖精憑きはアーサーから離れた。

 これで、妖精憑きは倒せた、と皆で喜んだ。だけど、すぐ、俺たちに異変がおこった。

 俺は腕がおかしくなったのだ。化け物みたいになった。それは、父、母、妹までだ。

「アタシの顔が!!」

 母の綺麗な顔が化け物みたいになった。

 たまたま、屋敷にやってきた祖父である領主代行が、俺たちの姿を見て、呆れた。

「お前たち、妖精憑きに何をしたんだ」

「何って、成敗してやったんだ!!」

「それで、妖精の復讐を受けたのか。そのまま、妖精憑きを怒らせたままだと、その変異は全身に広がるぞ。そうなったら、神殿行きだ。妖精の復讐を受けるということは、神の天罰を受けていることとなる。そんな恥ずかしいこと、表沙汰になったら、もう、貴族どころではないぞ!!」

「それもこれも、あの妖精憑きのせいだよ!!」

「さっさと、妖精憑きの望む通りにしてやりなさい。アーサー様の側にいれば、すぐに、機嫌が直る。お前たち、アーサー様のことは大事にするんだぞ。アーサー様は、妖精憑きのお気に入りだ」

「煩いよ! アタシたちはもう、父ちゃんとは違うんだよ!!!」

「わかった。この事は、神殿に報告する」

「やめろ!!!」

 俺たち止めるが、領主代行は止まらない。とうとう、外に出てしまう。

 領主代行は、何故か、アーサーの様子を気にしていた。俺たちの顔を見るといつも、仲良くしているか、アーサーは元気か、親を亡くしたばかりのアーサーには優しくするんだ、とアーサーのことばかりだ。俺は領主代行の孫だってのに、何も聞かれない。

 だから、アーサーが屋敷の外にある小屋に閉じ込めているなんて、知られたら大変だ。

「母上、あの妖精憑きを戻そう」

「やっと、妖精憑きを追い出したってのにぃ!!」

「アーサーを使えば、あの妖精憑きも大人しくなるだろう。あれは、アーサーに随分と惚れこんでいるからな。さすが親子だ。母親も妖精憑きを誑かすのがうまかった」

 父はアーサーの亡き母を罵った。

 こうして、妖精憑きをアーサーの元に戻してやった。

 妖精憑きがアーサーの元に戻れば、俺たちは元に戻った。その姿を祖父である領主代行に見せてやれば、神殿への報告を思いとどまってくれた。

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