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皇族姫  作者: 春香秋灯
男装の皇族姫-アーサー、アーシャ、アーサー-
247/353

フローラへ

 アーサーがいなくなって、一年が経とうとしていた。わたくしは、最終学年となって、成績は上位のまま、生徒会長になっていた。少し、後悔している。アーサーがいう通り、手を抜いておけばよかった。生徒会って、面倒臭い。

 辺境の三大貴族の一つだから、とその肩書のために努力はしました。貴族の学校の勉強なんて、家庭教師で十分間に合う内容なので、成績維持は簡単です。ですが、生徒会のお仕事は、こう、繰り返しで楽しくない。何か真新しいことをするわけでもないので、わたくしは、惰性で続く生徒会のお仕事に飽きてきました。

 そういう平凡で平和な日常を過ごしている合間に、わたくしは、辺境の三大貴族の一つ伯爵の娘として、勉強として、ある罪人たちの対処を任されていました。さっさと処刑すれば楽なのですが、反省というものが見られない彼らに、死というもので楽にするのはどうだろうか、と思いました。

 すでに、犯罪奴隷となり、契約により、絶対服従と悪行禁止を施されています。従わない場合は、とんでもない苦痛の天罰を受けると聞きます。実際、彼らは逆らいすぎて、苦痛の天罰をたくさん受けていました。

 処刑で楽にしてやろう、という人もいます。ですが、彼らは、生きて、罪を償い、反省して、正しい立場でやり直すべきなのです。

 だから、もっとも、彼らの相応しい場所へと送ったのです。






 定期的に、彼らの様子を見に行くこととなっています。気の毒に、こういうことは全く無縁だった三大貴族の一つ侯爵令嬢シリアも道連れです。

「もう、あんなの、見たくないのにぃ!!」

 シリアったら、恨みがましくわたくしを睨んできます。シリアは、最後まで、処刑を訴えていました。もう、関わりたくなかったのですよね。

「アーサーが、情けをかけたのよ。だったら、わたくしたちも、情けをかけないと」

「確かに、そうだけど、アーサー、甘すぎよ。あの人たちは、もっと前に、しかるべき処理をするべきだったわ」

「子爵家の領地は、もともと、閉鎖された場所です。なかなか、難しかったのでしょうね。フーリード様から聞きましたが、話だけでも、酷いものでした。アーサーは、やりたくても、出来なかったのでしょう」

 辺境の食糧庫と呼ばれる子爵家の領地は、大昔の因習が残る場所だ。

 はるか大昔、妖精憑きがただの人を奴隷のごとく扱ったという話が残っている。その妖精憑きがいたのが、子爵家の領地なのだ。あそこでは、特に酷く、ただの人たちが、妖精憑きたちに迫害されたのだ。その恨みが残っていて、妖精憑きを嫌悪しているのだ。

 その古い因習のせいで、領地に発現した妖精憑きを長年、迫害し、領地を妖精に呪わせたのだ。そのせいで、とんでもない借金を抱えることとなったのだ。

 妖精憑きを迫害するのなんて、帝国に逆らっているようなものである。妖精憑きは帝国の持ち物だ。そんな存在を傷つけることでさえ、帝国は許さない。それが表沙汰とならなかったのは、辺境だからだ。辺境は王都から遠すぎるため、何もかも後回しとされる。そのせいで、監視から漏れてしまったのだ。

 表沙汰となったら、本来は、子爵家の領地は、帝国によって滅ぼされるはずだった。それを当時の子爵夫人マイアが、上手に話をつけたのだ。

 子爵家の領地民たちは、子爵夫人マイアにも、子爵の子アーサーにも、大きな恩がある。しかし、よそ者であるマイアと、妖精憑きのお気に入りであるアーサーを領地民たちは嫌った。

 だから、アーサーは実権を握っても、アーサーの父とリサ親子を排除出来なかった。アーサーの父とリサ親子は領地民を味方につけていた。無理にアーサーの父たちを排除しようとしたら、内乱が起こっていたかもしれない。

 それも、やっと一年前、アーサーの機転により、領地民たちはアーサー側に味方したのだ。そして、アーサーは貴族に発現した皇族だと表沙汰にした。皇族となったアーサーを女帝レオナが味方したのだ。女帝が味方となったのだ、もう、誰も、アーサーには逆らえない。アーサーの敵は、女帝の敵だ。女帝レオナは、敵となった者たちはに容赦ない。家族まで処刑する、残酷な女帝なのだ。

 こうして、帝国の敵となったアーサーの父とリサ親子は、今、犯罪奴隷となって、平民に使われている。

 わたくしたちが向かっているのは、アーサーの父とリサ親子が使われている領地である。わたくしは、彼らをもっとも恨む、子爵家の領地民に任せたのだ。

 子爵家の屋敷に到着すると、わたくしたちは馬車を下りた。

 真新しい屋敷が建っていた。一年前、お家騒動を鎮めるために、屋敷は燃やされたのだ。燃やしたのは筆頭魔法使いティーレットということから、帝国が新しい屋敷を建てたのだ。

 少し離れた場所を見てみた。そこには、歴史ある別邸が建っているはずだった。その名残のように、土台だけは残っているが、それだけである。

「遠路はるばる、よく来た」

 真新しい屋敷から出てきたのは、アーサーの祖父ウラーノだ。

 本来、領主を新しくするはずだった。元子爵ネロの遠縁は探せばそれなりにいたのだ。だが、平民の生活が身に染みてしまって、今更、貴族になんてなれなかった。彼らも、もう、平民で十分だ、というのだ。仕方なく、その中で、それなりに優秀な子を育てることにしたのだ。

 子爵家のお家騒動は、アーサーの祖父ウラーノにも責任があった。ウラーノがもっと、監視をしていれば、まず、リサ親子が貴族を騙り、子爵家を乗っ取ろうなんてことは出来なかっただろう。その責任をとる形で、ウラーノが跡継ぎ教育の責任をとり、領主代理として、子爵家の仕事をこなしているのだ。

 相手は元男爵だが、低く見てはいけない。元男爵ではあるが、帝国の商売を支配する一族だ。辺境の三大貴族の伯爵家は、辺境の商業を支配している。この元男爵を敵に回すと、外部への販路を断たれてしまうのだ。

 わたくしと侯爵令嬢シリアはきちんと礼儀正しく頭を下げる。

「お前たちガキに、そんなことしてもらうほど、ワシは偉くない。ワシも忙しい。さっさと済ませよう」

 商人のほとんどは平民である。ウラーノは貴族の堅苦しさを嫌って、さっさと歩き出してしまう。

 ウラーノが動けば、男爵家の私設騎士たちも護衛として動き出した。それは、伯爵家と侯爵家の騎士たちもだ。

 ぞろぞろと歩いた先には、先ぶれの通り、準備がされていた。

 犯罪奴隷となった、アーサーの父、リサ親子が鎖で繋がれ、無理矢理、土下座させられていた。その周囲には、領地民たちが膝をついて、頭を下げている。

「まだ生きていたのか」

 ウラーノ、監視は人任せだったのか、驚いていた。

「まさか、鞭で打ったりしていませんよね」

「それは、我々の知ったことではないな」

 やられてるんだ。顔を無理矢理、地面に押し付けられているのは、そういうことなのだ。

 ウラーノは、領地民たちが彼らを痛めつけるのを見逃していた。相当、恨まれることを彼らはしたのだろう。でなければ、復讐されることはない。

「労役はどうですか?」

「普通だ。あの程度でへばって、どこまでさぼっておったんじゃろうなー。アーシャの半分も出来ないとは、情けない」

「アーサー………アーシャは、楽しんでやっていましたからね」

 わたくしは、一か月だけだが、この領地で農業体験をした。わたくしは辛かったが、子爵の子アーサーは、何事も楽しんでいた。

「なんだか、太ってきていますが、きちんと労役させていますか?」

 リサとリサの娘エリザが、前よりもふくよかになっていた。食べるだけで、動いていないんじゃないか。それでは、犯罪奴隷にした意味がない。

「子が出来ない手術をした影響じゃよ。こうなるのが普通だ。そして、すぐ老いる」

「そうなんですか」

 四人の顔は見えない。ほら、地面におしつけられているから。リサの子リブロはわたくしと同じ年齢だ。たった一年で、見た目がそんなに変わるとは思えないけど。

 とうとう、何かが途切れたのか、アーサーの父ネロが倒れた。

「とうとう、力尽きたかー。なーんにもやっておらんかったから、ちょっと動かせば、すーぐに息切れて、食費がかかるだけだったな」

 アーサーの祖父ウラーノが、まだ生きていた、と言ったのは、アーサーの父ネロのことだった。ウラーノ、きちんと監視をしていたのだ。

 ウラーノが命じれば、ネロは鎖で引っ張られて、わたくしたちの前に転がされた。

「ネロ、言いたいことを言ってみろ」

 もう、誰もネロの頭をおさえたりしない。だけど、動くに動けないネロは、のろのろと顔をあげた。

「あ、アーサー、俺の子は、お前だけだった。俺は、本当にバカだった。アーサー、許してくれぇ」

 真っ青な、醜い顔でボロボロと泣いて、目の前にいないアーサーに謝るネロ。

「もう、鞭で打ったりしない。殴ったりしない。今度こそ、高く抱っこしてやろう。遊んでやろう。アーサー………」

 何か見えているのだろう。ネロは笑って、また、地面に顔を下ろした。そのまま、動かなくなった。

「役立たずめ!!」

 過去を後悔しているネロに向かって、リサは叫んだ。ネロはもう、意識がないので、何も言わない。

「あんたの種が悪いんだよ!! アタシの子を子爵の子に出来なかった、あんたが悪いんだよ!!!」

 すぐに、リサは領地民たちに殴られ、黙らされた。







 最後に気持ち悪いものを見せられて、ある意味、蝶よ花よと育てられた侯爵令嬢シリアは、真っ青だ。気分が悪い、と馬車の近くで休んでいた。

「なんだ、お前ら、ここにいたのかー!!」

「き、キロン!!」

 そこに、妖精憑きキロンが、一年前と変わらない姿でやってきた。わたくしは、慌てて、キロンの周りにいるはずのアーサーを探した。

「アーサーは、どこにいるの?」

「アーシャは死んだ」

「………え?」

「アーシャから、お前宛に手紙を頼まれたんだ。見つかって良かった。お前の家、俺は知らないからな」

「どうして!!」

 わたくしは笑っているキロンにつかみかかった。

「アーサーが死んで、どうして、あなたは笑っていられるのよ!!!」

 死んだと聞いて、わたくしは泣いている。

 どうして? アーサーはやっと好き勝手出来るというのに、死ぬなんて!!!

「人はいつか死ぬ。どんなに頑張ったって、定めは変えられない。アーサーがそれでいいと言ったんだ。最後は、笑っていた」

 誰よりもアーサーの側にいた妖精憑きキロンは、アーサーのことを誰よりもわかっていた。

 キロンは、持っていた手紙を私の胸に押し付けた。

「アーシャからだ。ほら、文通の約束しただろう」

「これは、遺書よ!!!」

「そうとも言う」

「わたくしのはないの!!」

 そこに、傍観していた侯爵令嬢シリアが割り込んできた。仲間外れにされて、悔しいのだ。

「お前もいたのか。ちっさすぎて、気づかなかった!! そういうと思って、アーシャはお前の分も書いてたぞ!!!」

「ついでみたいじゃない!!!」

「あはははは、仕方ない。お前、まだ、友達じゃなくて、知り合い止まりだったからな」

「っ!?」

 妖精憑きキロン、的確に人の心を抉るわね。侯爵令嬢シリアは、それを指摘されて、悔しそうに顔を歪めた。実際、そこまで、シリアとアーサーは仲良しなわけではない。

 だけど、侯爵令嬢シリアは、アーサーと友達になりたかった。アーサーは、人誑しな所がある。人のいい所を持ち上げるのだ。シリアのいい所をアーサーはよく誉めていた。

「貴様、アーシャをどこに隠した!!」

 わたくしたちが騒いでいるから、屋敷に下がっていたアーサーの祖父ウラーノが出てきて、妖精憑きキロンに持っていた杖で殴りかかった。キロンはひょいっと避けたけど。

「あんたもいたんだなー。ほら、アーシャからだ。じいさん、長生きしろよ!! じゃあな!!!」

 ウラーノ宛の手紙を投げつけて、妖精憑きキロンはどこかへと消えていってしまった。騎士たちが、キロンを追いかけたが、ちょっと物陰に消えると、その先には、キロンの姿はなかったという。







 フローラ、お元気でしょうか。これを読んでいるということは、私は死んだのですね。私は、そう長く生きれない身の上なので、色々と覚悟していましたが、まさか、こんなに早く死んでしまうなんて。



 フローラとは、文通約束をしていましたが、その約束を守れなくて、ごめんなさい。私は、体質から、長く生きれないとわかっていました。母もそうです。母も、私がまだ子どもだった頃に亡くなってしまいました。私は、それよりも早く死んでしまいましたね。

 そのことを私は母から聞いて、知っていました。そう長くないと知っていながら、文通しよう、なんてフローラに守れない約束をしました。

 私は嘘ばっかりだ。男だと偽って、ずっと友達でいようと言って、嘘ばっかりだ。だから、真実を見破る力を持つフローラに、いつ嘘がバレてしまうか、恐れていました。

 私は、フローラにだけは嫌われたくなかった。フローラだけが、嘘の手紙を見破ってくれました。

 私はたった一年、一年も、父たちに監禁されていました。亡くなった母には捨てられ、父は私のことを嫌い、仲良く出来ると思っていたリサ親子には暴力を受けて、信じていた婚約者は偽物の手紙を信じて、と絶望していました。私に残ったのは、妖精憑きキロンです。だけど、この男は最低最悪です。私と出会う前には、たくさんの子や孫がいるのです。だから、キロンを返せ、と子や孫がやってきたのです。

 私は、妖精憑きキロンに捨てられないために、縋りつき、全てを捧げました。もう、娼婦のように、私自身を差し出したんです。後悔はしていません。キロンは、最後、私のものになってくれましたから。

 私のものって、何もありません。着ていた服は全て、誰かのお古です。玩具なんて持っていません。受け継ぐ爵位だって、祖父が金で買ったものなので、私のものではない。ほら、何もない。

 私のものは、妖精憑きキロンだけ。やっと、醜い手段で手に入れた。

 こんな成り下がってしまった私には、フローラは眩しい存在です。偽物の手紙を見破り、たった一年、一年も、私のために、動いてくれていた。そんな素晴らしいフローラが、私のことを好きだと言ってくれました。

 男に生まれたかった。

 貴族の学校で、告白されて、心底、そう思いました。せめて、嫌われないように、私自身、嘘で塗り固めました。最低最悪だ。


 手紙での報告となってしまいますが、私とキロンの血を継いだ子がいます。キロンに頼んで、女帝レオナ様に育児をお願いしました。私は皇族だから、生まれてきた子も皇族扱いです。私のように、城の外で育てるわけにはいきません。

 でも、もしかしたら、血が足りないかもしれません。片親は妖精憑きですから。その時は、きっと、私の子は、辺境に戻されるでしょう。私が頼まなくても、レオナ様はそうしてくれます。

 もし、私の子が辺境に戻ってきた時は、フローラ、影から見守ってあげてください。レオナ様が育てた子ですから、外でも逞しく生きていけるでしょうが、やっぱり心配です。

 こんなこと頼めるのは、フローラだけです。私は都合のいい時にばかり、友達なんだから、なんて言ってますね。だから、出来なくていいです。

 どうか、私の息子アーサーを見守ってください。







 家に帰るなり、わたくしは父の執務室に入った。

「お父様、わたくし、家を出ます!!」

「なんだ、跡を継がないのか。お前は優秀だから、弟を押しのけて、跡を継ぐと思っていたんだがな」

 法律が変わって、女でも爵位を受け継げるようになった。父はてっきり、わたくしが伯爵家を乗っ取るみたいに考えていた。

 アーサーが生きて元気であれば、そうしていた。才能があるかどうかわからない、血筋だけはしっかりしている幼い弟が、役立たずであれば、伯爵家を乗っ取ってやるつもりだった。

「どこに嫁ぐんだ? 学校に、いい家がいたのか」

「いえ、結婚はしません」

「女が家を出る時は、嫁ぐ時だぞ!! 我が家は辺境の三大貴族だ。婚姻もまた、重要な仕事だ」

「お父様は、昔、アーサーを見捨てましたね」

「それは、仕方がない。あの時は、あの子どもがどうなっているか、わからなかったんだ」

 アーサーの母が亡くなってしばらくして、わたくしはアーサーの名で書かれた偽物の手紙を持って、父に訴えたのだ。その時、父は動かなかった。それどころか、私に監視をつけ、出す手紙も監査したのだ。

「あの時は、アーサーはただの一貴族でしたが、妖精憑きのお気に入りでもありましたね。それなのに、報告書を改ざんさせました」

「仕方がないだろう!! 妖精憑きのお気に入りを虐待していたなんてことが表沙汰となったら、辺境の食糧庫である、あの領地は、帝国に消し炭にされる。辺境のために、正しい判断をしたんだ」

「今は、帝国も知っています。アーサーは女帝レオナ様と仲良しなんですよ」

 わたくしは、アーサーの遺書のような手紙を父に見せた。父は、読み進めていって、真っ青になった。

「まさか、アーサーの子が、女帝の元に!?」

 最後まで読めば、将来、アーサーの子が辺境に来る可能性に、震えただろう。女帝はアーサーの子を可愛がって育てたとしたら、皇族失格となった場合、辺境に監視をつけるだろう。

 そうならないかもしれない。しかし、女帝レオナは、行動が読めない。移り変わる天気のような人なのだ。手紙で書かれたような未来が起こるかもしれない。

「わたくしは、女帝に、お父様がしたこと、全て、話します。正直に話します」

「フローラ、貴様!!」

「わたくしに何かしてごらんなさい。女帝は調査するでしょう。女帝はアーサーのこと、随分と気に入っていました。わたくしのことも、気にかけているでしょうね」

「っ!?」

 ギリギリと歯がみする父。権力で私を押しつぶしていたが、さらに上の権力を使って、私が父を押しつぶそうとした。

「お前の証言で、辺境は大変なことになるんだぞ!!」

「そうならないのは、全て、アーサーのお陰です。アーサーが、女帝を諫めたからです。皇族だって、貴族だって、逆らえば、女帝は容赦なく処刑します。辺境で隠した事、女帝が黙っているはずがないでしょう!!」

 王都が遠いから、忘れがちだ。女帝レオナは、別名、皇族殺しの皇帝、と呼ばれるほどの暴君である。逆らう者、たばかる者、裏切る者、全て、容赦なく、家族もろとも、女帝自身が処刑するのだ。決して、魔法使いを使わない。人の手で行うのだ。

 父は、今更ながら、改ざんしていた事全てが、女帝を怒らせるということに気づかされた。女帝、ましてや皇族様に関わることなんてないから、判断を狂わせたのだろう。

 わたくしは、アーサーの手紙を取り戻して、綺麗に畳んだ。

「わたくし、王都に行って、皇族の教師になります。調べましたが、貴族の学校を卒業して、試験を受けて、面談を通ればなれるのですね。この手紙を女帝に見せれば、きっと、面談は通ります」

「フローラ、貴様、何を企んでいる」

「きちんと、伯爵家のためのことをしますよ。ですが、教師になるためには、やはり、家の後押しが必要です。侯爵家のほうは、シリアに頼みました。侯爵家は、アーサーに大きな借りがありますものね」

 侯爵家は、妖精憑きのお気に入りを偽証した。それをアーサーは誤魔化してくれたのだ。侯爵家は、アーサーのためならば、協力してくれる。

「お父様も、後押ししてください。皇族の教師となって、辺境のことを宣伝しますわ。おまかせください」

「………わかった。好きにしなさい」

 とうとう、父は折れた。

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