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皇族姫  作者: 春香秋灯
男装の皇族姫-不完全な復讐-
239/353

深夜の騒動

 就寝の準備は終わり、よく眠れるお茶を私、侯爵令嬢シリア、伯爵令嬢フローラが飲んでくつろいでいた。こうしていると、一日の疲れがどっと押し寄せてくるなー。

 さすがに、気味が悪いからと、翌日には帰るという侯爵令嬢シリア。義母リサを初めて見たから、衝撃的だったんだな。

「わたくしも初めて見たが、あれは酷いな」

 伯爵令嬢フローラは、少し身震いした。フローラは、もう少し、様子見のため、居座るという。あれだな、元婚約者ヘリオスがいるからだな。フローラはヘリオスを警戒していた。

「他の領地民とも話してみたが、まともだったぞ」

「少し、反省しましたからね。少し前までは、妖精憑きのことを毛嫌いして、領地内が全てでしたが、今回は、辺境の三大貴族が保有する騎士団の一部を見せられ、たかが男爵と嘲笑っていた祖父の施設騎士団を見せられ、考えを改めたのでしょう。男爵は貴族の中でも底辺で、平民に近い、という見方をしていましたが、祖父が持つ騎士団は、立派ですからね」

 全ての貴族がそういうわけではない。祖父は、男爵という立場をそのままにしているだけだ。本当であれば、伯爵になっていてもおかしくない、財産を祖父は持っている。

 爵位を上げると、色々と面倒が増える。また、上からは生意気だ、と叩かれることもあるのだ。だったら、男爵め、と侮られていたほうが楽なんだろう。

 そういう裏事情は私は黙っておく。侯爵令嬢シリアはわからないが、伯爵令嬢フローラは跡継ぎ教育を受けているから、なんとなく、知っていそうである。

「お嬢様方、今日はお休みください」

 珍しく、妖精憑きキロンが執事の顔と口調で、就寝を促した。

「明日、帰るのにー」

「我が領地は、明日も朝が早いんだよ」

「そうなの!?」

「シリアは、ゆっくり寝ていていいよ。お見送りまでは、ここにいるから」

「う、うん」

 仲間外れが寂しいらしい。だけど、このまま領地に留まる気概はない。初日で、義兄リブロ義妹エリザを見て、今日は義母リサを見て、怖くなったんだよね。わかる。あんなのと毎日、付き合っている領地民と使用人の皆さんは偉いね!! 私はただ、金出して、命じているだけだから。

 領地を見回ったりしたから、さすがに疲れたんだろう。まだ早いというのに、侯爵令嬢シリアだけでなく、伯爵令嬢フローラまで、うとうととしだした。

 外は相変わらず、物々しい。常に灯りを灯され、騎士たちが巡回して、動き回っているのだ。そういうのを窓から見下ろして、私たちは寝室に移動した。

「明日も、面白いものが見れそうだな」

「え、あの、リブロとエリザの母親?」

「違う違う。王都から来た騎士だ。確か、ハリスだったか」

「えー、可哀想じゃない」

「妖精の悪戯が、ハリスに集中しましたね」

 私の元婚約者の兄ハリスは都会っこである。だから、農作業は初めて。騎士団でそれなりに訓練して、辛い目にもあっているというが、田舎は未経験であったのだ。

 ど田舎は、虫が多い。屋敷周辺は魔道具や魔法具で、虫や獣除けを施しているが、禁則地周辺の農地は、それが出来ないのだ。妖精に失礼になるからね。

 だから、ハリスは、ど田舎の洗礼を一通り受けたのだ。

 まず、虫やらカエル、トカゲと一通り見て、悲鳴をあげた。土を掘れば、ミミズに悲鳴をあげた。そこに、妖精が作った落とし穴に落ちて、何かの幼虫に悲鳴をあげた。

 あれは、妖精が喜ぶ反応だなー、なんて私は他人事のように見ていたら、どんどんとハリスに妖精の悪戯が集中したのだ。最後は、ハリス、獣のように、警戒して、人が寄り付けなくなっていた。

「フローラ、笑ってはいけませんよ。初めてここに来た頃のフローラだって、あんな感じだったんですから」

「そうだったかなー」

「そうですよ」

 ありし日の伯爵令嬢フローラは、悪戯好きの妖精の恰好の的になっていた。さすがにひど過ぎて、私が妖精憑きキロンに命じて、止めさせたけど。

 ハリスも、あまり酷いようなら、止めないといけないなー。ハリス、女帝レオナ様の密命だから、逃げられないのだ。あれは、気の毒だ。

 そういう会話をしても、やっぱり眠い。疲れたんだね。フローラもシリアも、目を閉じて、眠りに入ろうとしていた。

 外で、けたたましい警鐘音が鳴り響いた。魔道具を使ったんだな。

「な、何よ!!」

「まさか、脱走か!?」

「二人とも、ここから出ないように。護衛、中に入って、二人を守れ」

「アーサーもここに」

「私には、キロンがいますから」

 すでに部屋の前で待機していたキロンは、私に上着を着せてくれる。

 屋敷の外に出て、それなりに偉い立場の騎士たちが集まっている所に行った。

「どうかしましたか?」

「幽閉中の三人が、部屋からいなくなりました」

「父上も?」

「そうですが」

 おかしな話だった。父ネロは、別邸に幽閉されてから一度も、外に出ていないのだ。脱走するのも、義兄リブロと義妹エリザだ。

 三人同時というのが、気持ち悪い。私は危険を感じた。

 すぐに別邸に入って、中を検分する。

 三人はそれぞれ、離れた部屋で幽閉していた。下手に隣り同士にすると、密談なんかされて、妙なことを考えてしまうからだ。

「アーサー、勝手に動くな!!」

 慌てたように、元婚約者ヘリオスと、その兄ハリスが武装してやってきた。

「キロンがいるから、大丈夫ですよ」

「それでも、魔法で人を傷つける許可は下りてないと聞いてる」

「だから、キロンの腕っぷしです」

 過去、魔法に頼り過ぎていたキロンは、私がたった一年、一年も閉じ込められた時、手も足も出せなかった。だから、体術と剣術を身に着けたのだ。

 今では、本気になれば、そこら辺の平騎士なら、軽く叩きのめせる実力だという話である。実際、王都に行った時、辺境の教皇フーリード様の監視の元、実力を見たという。ほら、野良の妖精憑きだから、どんな実力を持っているかわからないのだ。魔法から、体術剣術、記述まで、全て試して、キロンは魔法使いでも、かなり上、騎士としても、上位に食い込むほどの実力と確認されたと、後で女帝レオナ様から聞かされた。

 たぶん、現役騎士であるハリスよりも、キロンは強い。

「アーサー、あいつら、本邸にいるぞ。なんで、リサがいるんだ?」

「フローラとシリアの護衛についている騎士に報せて。すぐに、屋敷から外に出るように。野営に避難したほうが安全だ」

 いざ、逃げるとなると、屋敷の中は限られている。外ならば、逃げられるし、何より、騎士が大勢いる。

 妖精を使っての指示だったが、私が外にある野営の場所に行けば、伯爵令嬢フローラと侯爵令嬢シリアが厳重に守られて、粗末な椅子に座っていた。

「すみません、こんなことになって」

「やっぱり、殺すべきよ!!」

「そこは、ここの領地民に決めさせます。人数に余裕がありますね。領地民たちの招集をしましょう。使用人に案内をさせます。ここに、領地民全てを集めてください」

「そんな、悠長なことを」

「ただ、殺してしまっては、蟠りが残ります。リサ、リブロ、エリザは、領地民たちに裁かれるべきなんです」

 そう簡単な話ではないのだ。あの三人は、領地内でやりたい放題なのだ。

 侯爵令嬢シリアや、伯爵令嬢フローラがいう通り、あの三人は処刑してしまったほうがいい。見せしめとして、晒したほうがいいのだ。王都からかけ離れた辺境では、私刑は簡単に出来るのだ。

 そうして、領地民たちが、どんどんと集められていく。皆、魔道具を使った警鐘音で、警戒していたのだ。あれ、音がすごかったからなー。

 屋敷の周囲が物々しくなっていく。その中、屋敷のドアが開いて、着飾った父リブロ、義母リサ、義兄リブロ。義妹エリザが出てきた。

「お祖父様!!」

 私は義兄リブロが引きずる、拘束された母方の祖父ウラーノの姿に声をあげた。

 ばっと祖父ウラーノが連れてきた騎士団たちを見る。騎士団、大切な主人を保護出来ていない事実に、真っ青である。

 命令系統が乱れたからだ。三つの騎士団で、それぞれ、動いていた。その中での優先順位を見失っていたのだ。

 また、祖父ウラーノは、連れてきた騎士団に、私を優先するように命じていたのだろう。私が外を移動する時も、男爵家の騎士団の半数が、私の側にいた。

 思い返せば、祖父ウラーノは一人で行動していた。屋敷周辺は、入れ替わり立ち代わり、騎士たちが警戒していたから、大丈夫と私も思っていた。

「お嬢様、すみません。突然、部屋にあの男がいて、旦那様を人質にとられてしまいました」

 一応、屋敷内にはいたのだ。祖父が連れてきた騎士が私に膝をついて報告する。

「とりあえず、話をしましょう。お祖父様を助けないと」

「いけないわ!!」

「こういうのは、馴れた者にやらせるんだ!!」

「アーサー、出てこい!!!」

「ご指名です」

 侯爵令嬢シリアと伯爵令嬢フローラが止めるも、父ネロが呼ぶのだから、行くしかない。

 私は傍らに妖精憑きキロンを従えて、父たちはそれなりの距離をとって前に出た。

「アーサー、さっさとやれ!!」

「黙ってろ!!」

「ワシなんか見捨てろ!!!」

 祖父ウラーノが、自らの命を差し出すようなことをいうので、義兄リブロが暴力で黙らせようとした。

「リブロ、大事な人質でしょう。老い先短い老人なんですから、大事に扱いなさい。妖精憑きが側にいる私とは違うのですよ」

「妖精憑きさえいなければ、あの時、お前は死んでたのにな!! 運のいいやつめ!!!」

「私から妖精憑きを引き離したから、妖精に呪われましたものね」

 母が亡くなってたった一年、一年も、あの粗末な小屋に閉じ込められていた時、どうしても私から妖精憑きキロンを離せなかったのは、妖精の復讐を受けて、義兄リブロは体の一部を変異してしまったのだ。

 治せと言ったところで、妖精憑きキロンは従わない。それどころか、義母リサの自慢の顔まで歪められて、大変なこととなったのだ。結局、虫の息となっていた私の元に、キロンを戻すしかなった。お陰で、私は九死に一生を得られたというものだ。

 あの時、キロンは逃げて、神殿に駆けこめば、違う道もあったかもしれない。だけど、私が生きるか死ぬかという状態だったため、キロンは、私の元に戻ることを選んだのだ。

 あの時とは状況が違う。あの時は、領地民全てが父たちの味方だった。しかし、今は、領地民たちすら、父たちの敵である。

 騎士たちだけでなく、領地民たちまで、どんどんと集まってくる。それを見て、父ネロは笑う。

「お前たち、愚息アーサーを捕縛しろ!!」

 当然のように、父ネロは命じた。

「おい、領主代行はどうした?」

「領主代行に従おう」

 だけど、領地民たちは領主代行の判断を待っていた。

 子爵家が領地に都落ちするよりも遥か昔から、領地民たちは領主代行に従っていた。領主代行は平民であるが、ある意味、貴族の権利を持っていたのだ。

 その弊害が今、ここに出た。明らかに、父たちは騎士たちに取り囲まれて、辺境の三大貴族である侯爵家と伯爵家に逆らっているのだが、領地民たちはわからないのだ。肝心の判断を全て、領主代行が行っていたからだ。

 それを聞いて、義母リザが大笑いした。

「領主代行はもういないよ!! アタシと、アタシの子どもたちで、殺してやったからね!!! 皆殺しだよ!!!!」

「そ、そんなっ」

「それじゃあ、どうすればいいんだ!!」

「そうだ、領主代行には息子が」

「言っただろう。皆殺しだよ!! 父ちゃんも、兄弟姉妹も、その子どもたちも皆、殺してやった!!!!」

「俺に逆らうからだ!!!」

「わたくしのこと、ブスなんて言って、失礼なガキども」

 領地民たちは、領主代行の血族を探した。どれだけ見回しても、集まって来る領地民たちの中にも、領主代行の血族は見当たらなかった。

「あはははは、これで、アタシが領主代行だよ!! アタシだけだからね。さあ、アーサーを捕まえな!!!」

 唯一残った領主代行の血族は義母リサである。リサは大笑いして、領地民たちに命じたのだ。

 だけど、誰も動かない。

「誰が、お前なんかに従うものか」

「お前みたいに、何もしないヤツ」

「口だけで、なーんにも出来ないくせに」

「本当だよ!!」

 もう、石まで投げたよ。

「お前たち、こいつがどうなったっていいのか!!」

「旦那様!!」

「おい、やめろ!!!」

 慌てて、男爵家の騎士たちが、領地民たちを止めた。領地民たちには、人質となっている祖父ウラーノが見えていなかった。慌てて、石を投げるのをやめた。

 どちらにしても、祖父ウラーノが人質にされているから、動くに動けないのだ。平民だったら動いているが、まがりなりにも貴族である。

 しかも、祖父ウラーノは、引退したとはいえ、帝国中の商売を牛耳る男である。傷一つつけただけで、恐ろしい報復が待っている。

「お祖父様を解放しなさい。このままでは、罪を積み重ねていくこととなります。もう、領地でも、あなたたちは罪人扱いです」

「俺は、辺境の三大貴族の子爵の息子だぞ!! 俺がやることは、罪にならない。ただ、平民を殺しただけだろう!!!」

「ただの平民ではありません。リブロにとっては、身内でしょう。血のつながりのある祖父に、叔父伯母、従兄弟たち。ただの平民とは違います」

「俺は片親が貴族だってのに、あのクソジジイ、俺を鞭で打ったんだ!! たかが平民だってのに。そんな奴、殺していんだよ!!!」

「リサ、親殺しなんて、大罪を侵して」

「あんたもバカだね。アタシに、殺人の制約をかけないなんて。殺せるから、笑ったよ」

 義母リサは、私が抜けている、と大笑いである。

 そんな話を聞いて、領地民たちは、まだ、労役中の犯罪奴隷たちから距離をとる。

 義母リサは、殺人禁止の契約を施されていなかったのだ。殺人などの悪行の命令は従わなくていいこととなっている。しかし、自らの意思で行う悪行は禁止されていない。

「そんなことしません。何故って、当然のことではないですか。だから、身内に世話をまかせたのです」

 悪行をしないことは当然のことだ。だから、しなかった。表向きのことを口にする。

「バカだねー。平民なんだよ!! アタシたちは違う。アタシは、子爵である旦那様の子を産んだ女。特別なんだよ!!!」

「悪行は平民貴族、関係ありません。やってはいけないことです。そういうこと、ただの子でも教わることです。それがわからないお前は、平民ではありませんね。お前は、貧民です!!」

「なんだと!?」

「教育を受けていない、そういう教えをされないのは、貧民ぐらいです。リサ、リブロ、エリザ、お前たちは、貧民です!!!」

 最低最悪なことをした彼らを私は貶める。

 貧民と言われて、怒りに震えるリサ、リブロ、エリザ。だけど、すぐに、手元にいる祖父ウラーノを踏みつけて、私を嘲笑う。

「あんたの祖父が人質だって、忘れるんじゃないよ」

「大事にしなさい。もし、祖父が死んだ場合、お前たちは、ここにいる者たち全てが襲い掛かるのですよ」

 いや、襲い掛かりたいんだよね、皆さん。伯爵家と侯爵家の騎士団の皆さんは、祖父ウラーノはどうだっていいのだ。後が怖いが、だけど、辺境では三大貴族が最強である。万が一の時は、三大貴族の権力でごり押しすればいい。

 それを止めているのが、伯爵令嬢フローラと侯爵令嬢シリアである。私の祖父だから、騎士団を止めてくれているのだ。

「さっさと、ここから出て行きな!! ここは、子爵である旦那様のものだよ!!!」

「そうだ、お前たち、出て行け!!!」

「アーサーも、出ていけ!!! ここは全部、俺のもんだ!!!!」

「そうよ、お兄様のものよ!!! 女のお前は、大人しくしていればいいのよ!!!!」

 祖父ウラーノを痛めつけていう父たち。祖父ウラーノにも、それなりに恨みを持っているんだな。

「アーサー、来た」

 妖精憑きキロンが、私にだけ聞こえる声で言った。どうやら、私のために、他にも動きだしたものがいた。

 とんでもない馬の嘶きと走る音がどんどんと近づいてきた。それは、男爵家の騎士団、伯爵家の騎士団、侯爵家の騎士団を押しのけ、その数は数倍だった。

「消し炭にしてやる!!」

 そして、先頭に立った男が叫んだ。途端、屋敷が一瞬にして業火に包まれた。

 あまりのことに、全てが呆然となる。背後で燃え盛る、子爵家の象徴といっていい屋敷に、義母リサが悲鳴をあげた。中に入ろうとして、義兄リブロと義妹エリザが止めた。

「あそこには、まだ、アタシの宝石が!!」

「お前のものなんて、なにもない!!」

 これまで、拘束されて、されるがままだった祖父ウラーノは、拘束を自力でといて、義兄リブロを殴り、父ネロを蹴った。その動きは、とても、老人とは思えない。

 祖父ウラーノは悠然とした足取りで、呆然となる私の元にやってきた。

「もう、次からはワシなんか見捨てろ。お前のほうが大事だ」

 そう言って、祖父ウラーノは私を抱きしめた。

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