多くの来客
本当に来た!! もう、長期休暇初日から、すごいの。
まず、王都にいるはずの、元婚約者ヘリオスがヘリオスの兄ハリスと一緒に、あのでかい馬できたのだ。
「あれ、長期休暇って、今日からですよね。昨日まで、学校ですよね」
ヘリオスは、私より二歳上。まだ、貴族の学校に通っている。王都から辺境へ移動すると、馬車で三日である。それほど、遠いのだ。
「いい馬だからな。一晩でつく」
「まさか、徹夜!?」
「騎士は野営だってやるんだ。普通だ、普通」
ヘリオスだけでなく、ヘリオスの兄ハリスも平然という。
「これから人手が必要になるとヘリオスから聞いた。剣術では俺が勝てるんだが、体術では負けるんだなー。しばらく、世話になる」
「………は?」
「農作業で、体力作りをするんだ。ヘリオス、長期休暇中には、お前には勝ってやる」
「農作業って、力だけじゃないんだよ」
ハリスとヘリオスだけで、勝手に話が進められていく。私は慌てて、二人の腕をつかんだ。
「ちょ、ちょっと、あなたたちはお客様ですよ」
「お前は、自分の立場をわかっているのか?」
「ほら、お前は、………だから」
周囲に人がいるから、ハリスとヘリオスは、言えない何かで、言葉が詰まった。
そういうことか。ヘリオスとヘリオスの兄ハリスが辺境のど田舎に来たのは、密命だ。
ハリスは現在、王国の騎士団所属である。本来は、今、騎士団でお仕事をしているはずだ。それなのに、辺境のど田舎に来たのは、皇族である私の警護である。
私は貴族に発現した皇族であることを隠している。本来であれば、皇族であると発表され、さっさと城に閉じ込められるはずだった。それを面白いことは大好きな気まぐれ女帝レオナ様を説得して、皇族であることを内緒にしてもらったのだ。
ヘリオスとハリスは、私とヘリオスの婚約解消の場で、皇族であることを知ることとなった。だけど、私はまだ、皇族であることを口外されては困るので、二人に沈黙の魔法を筆頭魔法使いティーレットに施してもらったのだ。
城の外は色々と危険だ。本来は、私は護衛をつけないといけない。でも、私は妖精憑きのお気に入りである。護衛なんか必要ないのだ。学校でも、妖精憑きが側にぴったりとくっついているお陰で、私は無事だ。
だけど、この長期休暇で、何かあると、女帝レオナ様は予感したのだろう。妖精憑きの力を過信しすぎる危険をレオナ様はよく知っている。そこで、私が皇族だと知っている、ヘリオスとヘリオスの兄ハリスに密命を与えたのだろう。
きっと、密命を受けたのはハリスだ。ほら、騎士団だから。だけど、ハリスだけだと怪しいから、私の元婚約者であるヘリオスを同行させたのだ。
「そういうことなら、仕方がありませんね。大した持て成しは出来ませんよ」
「これも訓練だ、訓練」
「野菜はうまいんだよなー。肉は足りないけど」
「肉かー」
やっぱり、男二人は肉が足りないのは、寂しいらしい。ちょっと、表情が暗くなる。
「最近は、肉の援助を受けています。ほら、めでたく、私も子が出来る体となりましたから、もっと肉を食べろと、偉い人に叱られました」
「………え、もしかして、今年、初の月の物が?」
「遅すぎるぞ!!」
えー、なんで、驚かれるのかなー!! 叱られちゃうし。こういうのって、神さまの思し召しだから、私ではどうしようもないのにー!!
ヘリオスの兄ハリスは、無遠慮に私の肩とか背中とかお腹を触る。
「筋肉はついてるが、細いな。もっと食べろ」
「女なんですから、入らないんですよ!!」
頑張ったけど、そこは性別だ。男と女では、まず、食べる量が違うのだ。体格だって、こんなに違うのに。
私はハリスのお腹を力いっぱい、殴ってやる。
「お、いいの持ってるな!!」
「全然、効いてないじゃないか!!」
「そりゃ、ガキの頃から鍛えてるからな。けど、想像してたより、強いし、わかってるな」
ヘリオスの兄ハリスはお腹をさすって、考え込んだ。
「農作業、真面目にやろう」
「いや、そういうのじゃないから」
「いやいや、甘く見てた。ヘリオス、交代でやろう」
「えー、農作業、疲れるよー!!」
ヘリオスはイヤがって、ヘリオスの兄ハリスはやる気いっぱいだ。知らないって、すごいね。
「しばらくは泊まるなら、部屋を準備させるよ」
「別邸じゃないんだ」
婚約者時代のヘリオスは、別邸で一泊していた。
「あの頃は、屋敷の使用人が酷かったから。別邸には、祖父の息がかかった使用人をつけてたんですよ。今は、全て、祖父の息がかかった使用人だから、本邸です」
それに、別邸は、今、父、義兄、義妹の幽閉場所になっている。
「ふーん、そうなんだ」
すぐ近くの、ちょっと古い作りの別邸をちらりと見るヘリオス。
「なんか、気味が悪い感じだな」
「あそこで、父上、義兄上、エリザが幽閉中だからかな。世話と監視は、使用人に任せてるけど、危なくなったら逃げるようには言ってる」
「危なくなるって」
「拘束とか、そういうこと、一切していないから」
「それは危ないだろう!!」
あまりに甘い処遇に驚くヘリオス。
「どうせ、あの兄妹、将来は平民なんだから、足を斬り落とせばいいだろう。成人したら、貧民街に捨てればいい」
ヘリオスの兄ハリスは、怖いことを平然という。ヘリオス、そこまでのことは考えていなかったみたいで、私の横で震えた。
私とヘリオスが驚いて、距離をとるから、ハリスは不機嫌そうに顔をしかめる。
「そういうこともやったことがある。騎士といったって、綺麗なだけではない。汚れ仕事だってする。帝国のためにならないと判断されたら、誰かがやらないければならないんだ。見習いの時、それが出来るように、と実践に放り込まれる。抵抗しない人を斬れるようになるんだ。ヘリオスも、そういう覚悟を持て。お前は、アーサーのための騎士になるんだろう」
「う、うん」
思ったよりも、騎士って、大変なんだ。ヘリオスは、私のため、と聞いて、少し、表情を改める。そして、別宅を別の視線で見上げた。
次の来客は母方の祖父ウラーノである。男爵家なんだけど、私設の騎士団を持っている。帝国中を商売で駆け巡っているから、私設の騎士団は護衛のためである。
「アーサー………なんだ、お前ら。婚約解消したというのに、何故、ここにいるんだ」
私を見て笑顔になるも、私の両側に元婚約者ヘリオスと、ヘリオスの兄ハリスを見て、祖父ウラーノは不機嫌に顔を顰める。
「過去のことの償いのためですよ。そのついでに、体を鍛えるそうです。ヘリオス、ハリスに勝ったんだって」
「ふん、せいぜい、アーサーの代わりに働け」
老人だから、嫌味を吐いて、私が差し出す手をとって歩き出した。
そして、祖父ウラーノもまた、別邸に視線を向けて、足を止める。
「わしが引き取ってやるぞ。いくらだって、いなくなる口実を作ってやれる」
「まだ、平民以上、貴族未満ですから。万が一、帝国に訴えられたら、面倒臭いです」
「その程度の声、塞いでやれるぞ。喉をつぶして、両手を斬ってやればいいんじゃからな」
「………」
「お前は、妙に優しいな。だから、神の恵みも収穫出来るのだろうな。美味しかったぞ」
「良かった」
祖父ウラーノは、普通に食べられたんだ。やっぱり、食べる側にも、何かあるのかもしれないなー。
私は、収穫して切り分けた神の恵みという果物をあちこちにばら撒いて、試したのだ。
貴族の学校で行われた生徒会主催の舞踏会では、果物の盛り合わせに混ぜた。特に、問題なく、美味しい美味しいと大評判だった。腐った味がする、という話はなかった。
私にそれなりに恨みを持たれている、辺境の教皇フーリード様にもあげた。フーリード様は泣いて、美味しいと食べていた、と女帝レオナ様から聞いた。
母方の親戚筋や、父方の親戚筋にも配った。特に、苦情はなく、一生食べられないものをありがとう、と感謝された。
もちろん、普通に領地民たちにも配った。中には、犯罪奴隷になった者たちもいた。面倒をみている身内は固辞したのだが、結局、無理矢理、渡したのだ。後で確認したところ、犯罪奴隷たちも、問題なく美味しく食べて、泣いていたという。犯罪奴隷となった者たちは、昔は我が家の使用人であった。その頃は、腐って食べられなかったのだ。それが、犯罪奴隷となって、粛々と労役をしていただけで、神の恵みを美味しく食べられるようになっていた。
そして、私の父、義母、義兄、義妹は、腐っている、と投げつけたという。
私の心は関係ない。私は、そんな、綺麗な人間ではない。切り分けているが、犯罪奴隷となった者たちにはそれなりに恨みを抱いている。散々なことをされたのだ。それは、父、義母、義兄、義妹だってそうだ。だけど、犯罪奴隷たちは、美味しく食べられた。父たちは、腐った。
私への好意ではない。だって、犯罪奴隷たちは、労役しながらも、やっぱり、私のことを恨んでいるのだ。そこは、私の父たちと変わらない。
日頃の行いだろう。犯罪奴隷たちは、私や父たちに関わらなければ、そこら辺の領地民と同じだ。家族に悪かった、とか反省しただろう。私のことを恨んでいるが、でも、お門違いだとはわかっているのだ。そうして、反省して、労役に勤しんでいた。だから、神の情けを受けたのだ。
だけど、私の父、義母、義兄、義妹は反省なんてしない。いつまでも、私のせいだと言い続けている。そう、報告を受けているのだ。そして、また、何か企んでいるのだ。
神は、私にそれを教えている。祖父がいう通り、私はもう、彼らをそういう事が得意な者たちに任せたほうがいいのだ。
私は心配そうに見てくる祖父ウラーノに笑いかけた。
「ある日、突然、人が変わる時があると言います。これは、私の自己満足です。誰だって、いい人でありたいでしょう。それだけですよ」
「神と妖精、聖域の教えか。骨の髄まで、染まっておるな」
「フーリード様には、散々、叱られましたからねー。私だって、最初はこうではなかったですよ。教えだけではありません。私は、神と妖精、聖域のお陰で、無事、大きくなりました。本来、私は、母が亡くなってすぐ、死んでいてもおかしくなかった」
「っ!?」
言葉がのどに詰まる祖父ウラーノ。何かこみあげてきたんだな。
「私は、奇跡によって生かされました。だから、神の裁きを待つだけです」
父たちを裁くのは、神だ。私はそう思っている。
そして、豪勢な馬車までやってきた。
「まさか、昨日の今日で来るなんて!!」
「いつでもいいって言ってたから」
「一度、神の恵みが実るところを見てみたかったの」
伯爵令嬢フローラと侯爵令嬢シリアがそれぞれ、家の持ち物である馬車から下りてきた。しかも、辺境の三大貴族らしく、護衛の騎士団を連れて来ている。
「えーと、大変だー」
すでに、祖父ウラーノが連れてきた騎士団が、屋敷の外で野営の準備をしている。そんな規模の騎士団が、なんと、また二つもきたわけである。場所がねー。
「アーサー、別宅の前も使わせよう。動物除け、虫よけの魔道具がまだ、倉庫にあるから、それも稼働させよう」
「キロン、助かるー!! こういう時、妖精憑きのお気に入りで良かったと思うよ」
魔道具魔法具って、魔法使いが動かしているのだ。だけど、辺境の、しかも禁則地周辺は、妖精が悪戯するから、なかなか大変なんだよね。
それも、私の妖精憑きキロンのお陰で、問題なく稼働させられるのだ。私は有難くって、キロンに抱きついて、感謝を示した。
他にも私設の騎士団がいるのもだけど、別宅の雰囲気が物々しいと感じたのか、ちょっと怯える侯爵令嬢シリア。
「なんだか、物々しいけど、どうして?」
「私の母方の祖父が来たんですよ」
「聞いた。引退した、元男爵でしょう。帝国中の商売を牛耳ってたって」
「そういえば、借金の証文を作った商人、いつの間にか、いなくなってたな」
「………」
祖父ウラーノ、もう、処理したんだ。怖い怖い怖い!!
屋敷をちょっと見上げれば、窓際に立っている祖父ウラーノが、人の良さそうな笑顔を浮かべて、私たちを見ていた。
さすが、商業の伯爵である伯爵令嬢フローラは、情報が早い。もう、知ってたんだ。その情報は新しすぎて、私のとこには来てない。いや、永遠に来ない予定だったんだろうな。
「お、フローラじゃないか!! 相変わらず、アーサーにべったりだな」
「?」
「わからないか。ヘラだよ、ヘラ」
「………はああああああーーーーーーーー!!!!」
外の騒ぎにやってきた元婚約者ヘリオスが女装していた時のヘラだと名乗って、驚く伯爵令嬢フローラ。つかみかかっていったよ。
「貴様、女じゃなかったのか!?」
「アーサーが男装してたんだ。俺は女装したんだよ」
「くそ、婚約解消したから、これで敵が減ったと喜んでいたのに、まさか、貴様が男だったなんて」
「俺はまだ、諦めてない」
「邪魔してやる」
相変わらず、二人は仲悪いな。
伯爵令嬢フローラは、一か月だけ、職業体験として、我が家で過ごしていた。その時、女装していたヘリオスと会っていたのだ。会ってすぐ、二人は喧嘩したなー。
「お前は、俺という婚約者がいたアーサーにべったりしてくれたなー」
「婚約解消したんですってね。いつまでも、側にいないでちょうだい。もう、赤の他人なんだから」
「婚約解消したって、遠縁なんだよ。一族で繋がってるからな。だから、俺が女装して、アーサーの婚約者になってたんだよ」
「わたくしとアーサーは、今でも文通友達ですものねー。偽物の手紙を見破れない誰かさんとは違うわ」
「っ!? ち、ちくしょーー!!」
私と侯爵令嬢シリアは、伯爵令嬢フローラと元婚約者ヘリオスのやり取りを呆れたように見た。
「あの二人、実は仲が良いんじゃない?」
「違うわ!!」
「違う!!」
迂闊なことをシリアがいって、フローラとヘリオスがつめ寄ってきた。妙なところで息があうというか。
「やめろ、ヘリオス。相手は女性なんだ。俺みたいに、失敗するぞ」
それを止めるヘリオスの兄ハリス。私のことで反省したんだなー。
「この女はそういうのじゃない!! こいつ、いきなり毛虫を投げつけてきたんだぞ!!!」
先手はフローラである。ヘリオスを婚約者ヘラと紹介してすぐ、農作業で捕まえた毛虫が入ったバケツをヘリオスに投げつけたのだ。害虫は手作業で駆除なんだよ。
「毛虫って、そんなのがいるの!?」
「いるよー。そこに神の恵みが実るんだよー」
「えー、どうしよう」
侯爵令嬢シリアは、そんな泥臭いことには無縁である。好奇心でやってきたけど、箱入り娘なりの試練があるんだよ。まずは、その洗礼を受けないといけないんだよねー。伯爵令嬢フローラも受けた。
ちょっと前まで、女だからー、なんて言っていたハリス。毛虫と聞いて、身震いした。
「え、虫? 虫がいるのか!?」
「普通にいます」
「………」
そっかー、生粋の王都っこだから、虫とは無縁なんだね。そういう人は、やっぱり、ど田舎の虫が大嫌いというより、苦手なんだよね。見て、逃げるんだ。
「カエルとか、蝶、青虫とかはどうにか耐えられるけど、毛虫はちょっと」
さすが、辺境の三大貴族の一つである侯爵家のシリアは、やっぱり辺境の人だね。辺境は不毛地帯だから、トカゲとか虫を食べるんだよ。そういう洗礼を普通にシリアも受けていた。だけど、見た目で毛虫は苦手なんだ。
「え、青虫がいる? カエルって、他には?」
王都っこのハリスは、次から次へと試練が降ってきているようだ。大変だなー。明日から、農作業やるって張り切っていたのに、もう、精神が折れそうだ。
「もう、騎士団の人たちが困ってるよ。皆、屋敷に入って入って。シリアとフローラは、私と同じ部屋で寝泊りね」
「俺は?」
「もう婚約者じゃないんだから、別だよ」
「もしかして、婚約時は、アーサーとこの男は一緒の部屋にいたの!?」
「疚しいことはしてないよ」
過去の話である。だいたい、私もヘリオスも子どもの頃の話だ。それをフローラったら、反応して。
そして、過去、フローラが一か月だけ、我が家に過ごしていた時のことを思い出したのだろう。
「あの時、あんた、アーサーと一緒に寝てたのね!!」
「いいだろう」
「煽らない。あの時は、仕方なかったの」
私の父、義母、義兄、義妹が本当に酷かったのだ。義兄リブロなんか、ヘリオスに色目なんか使ってたの。今思えば、義兄、アホなことしてたな。女装した男に言い寄ってたんだ。そして、義妹エリザは、女装したヘリオスのことをお義姉様、なんて呼んでたよ。気持ち悪っ。
だから、私がヘリオスの側にいて、牽制していたのである。ヘリオスが男であることがバレたら、大変なことになるから。
そういう深いけど、言えない事情があるのだ。私はいがみ合うヘリオスとフローラの間に入って、過去のことは誤魔化して、仲裁した。




