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皇族姫  作者: 春香秋灯
男装の皇族姫-辺境の三大貴族-
231/353

見せしめと報復

 わたくしは、父に言われるままに、アーサーに手紙を書き、貴族の学校では、アーサーの義兄リブロとも接触していた。

 アーサーの義兄リブロは、頭の悪い男だ。成績は下のほう、剣術も体術も中途半端、なのに、辺境の三大貴族の一つ子爵の息子だと、偉ぶっていた。

 何もわかっていないな。辺境の三大貴族の子爵は、人身御供のような家柄だ。知っている者は知っている。そんなことで偉ぶったって、辺境の貴族は、心の底では蔑んでいるのだ。すごいとおだてているが、内心ではバカにしている。

 実際、アーサーの父ネロがそうだった。貴族の学校で、随分と三大貴族という立場で威張り散らしていたという。だから、ネロも騙されて、子爵家の借金をさらに増やしたのだ。

 同じ轍を踏むな。リブロを見て、わたくしは内心、そう思っていた。アーサーとは雲泥の差だ。アーサーは、もっと優秀で、努力家だ。

 わたくしは機会を伺って、アーサーのことを時々、質問してみた。わたくしとアーサーは、文通友達とは知っていた。

「アーサーは我儘で困るよ。贅沢して、父上も苦労している」

 わたくしの知らないアーサーだ。

 わたくしはリブロを嘲笑いたいばかりだ。リブロの見てくれは酷いものだ。手に入れた権力で、とりあえず、いいものを買っては身に着けて、としていた。どれもこれも、身の程違いだ。しかも、誰かが欲しい、というと、簡単にあげてしまう。

 そんなリブロを一年、我慢して見て、とうとう、アーサーの現状が、神殿に報告された。

「あのバカは、また、なんてことをしてくれたんだ!!」

 よりによって、妖精憑きのお気に入りであるアーサーをアーサーの父、義母、義兄、義妹は虐待していたのだ。その事実に、父は怒りで顔を真っ赤にして、机に拳を打ち付けた。

「アーサーを保護しましょう!!」

「すでにされている。だから、報告書があがったんだ。これから、侯爵家と話し合ってくる」

「アーサーに会わせてください!!」

「無理だ。今、アーサーは、男爵家で丁重に保護されている」

「あの時、会う許可さえくれれば!!」

 わたくしは父を責めてた。そう、文通なんか悠長にしている場合じゃなかったのだ。最初の一通目で、すでに、アーサーの身は危険に晒されていたのだ。

「いいか、行動を起こすということは、責任を持つということだ。お前一人で、我が家の責任を背負うのか?」

「友達として」

「お前の血と肉は、お前だけのものじゃない!!」

「っ!?」

 泣いたって、叫んだって、父のいう事は正しい。父は正しい判断をした。

 わたくしは悔しくても、言い返せなかった。そういう教育をわたくしも受けていた。






 わたくしは、手紙を通して、アーサーに全て伝えた。わたくしが何も出来なかった事、手紙ではなく、直接、伝えたかった。

 そして、返ってきたのは、許しだ。このまま、元の文通関係に戻ることをアーサーは強く望んでいた。そして、学校で会うことを約束した。

 アーサーは、貴族の学校に、一年遅れの入学を果たした。手紙では、散々なことが書かれていた。本当に、アーサーの父ネロは、酷い男だ。内乱まで起こして、どこまでも、アーサーを苦しめた。

 そんな内乱の結果も隠して、アーサーの義兄リブロは、平然と学校に通って、一年遅れで入学するアーサーの悪評を広めていた。それは、義妹エリザもだ。

 アーサーが入学してしばらくして、アーサーの悪評は新入生の間に広がった。せっせと種まきするリブロとエリザ。それをアーサーは静観していた。

 アーサーが、貴族の学校に通っても、特定の友達を作らなかった。まず、誰にも話しかけない。妖精憑きのお気に入りだから、アーサーに話しかける猛者もいなかった。

 そうして、孤独に過ごすアーサーのために、わたくしは、辺境の三大貴族の茶会を同じく入学したばかりの侯爵令嬢シリアにお願いした。そんな茶会、実は存在しない。勝手に始めただけである。

 まずは、近づきやすい人からだ。わたくしは、アーサーの義兄リブロに、侯爵令嬢シリアは、二年にあがったアーサーの義妹エリザに、招待状の仲介役をお願いした。アーサーに招待状が届くことは、期待していなかった。

 そして、翌日、それぞれ、お断りの手紙を持ってきた。わたくしは諦め、侯爵令嬢シリアは、代理としてアーサーの義妹エリザを招待したのである。

 そして、茶会当日に、直接、アーサーを招待した。アーサーは当日であるが、快く招待を受けたのだ。

 そして、アーサーの義兄リブロと義妹エリザの悪行を表沙汰にしたのだ。

 わたくしは、証拠となった、アーサーの名前が書かれたお断りの手紙を持ち帰り、早速、あの一年に受け取った手紙と照らし合わせた。

「書いたのは、リブロね」

 アーサーが閉じ込められた一年間、同じ筆跡の手紙が届いた。たぶん、エリザは、まだ、そこまで字が書けなかったのだろう。

「リブロ、こんな字で、よくもまあ、子爵家の跡継ぎと豪語してるわね。内容も稚拙、何より、手紙の規則が間違っている。貴族の学校で習うようなことだというのに、酷いものだ」

 アーサーは、貴族の学校に通うよりも昔から、完璧だ。文通なので、くだけたものだが、それでも、手紙を書く時の出だしから、終わりも、きちんとしている。

 何より、アーサーは字が綺麗だ。リブロは、丁寧に書いているが、今だに稚拙だ。

 アーサーの義妹エリザはと見てみれば、こちらも稚拙だ。こんな字では、貴族の誰かに嫁ぐなんて不可能だ。そんなことすら、辺境ではさせないが。

 こうして、順調に、アーサーの義兄リブロと義妹エリザを追い詰める材料を揃えていった。






 アーサーがとうとう、壊れた。月の物のせいで、情緒不安定になっていて、色々と、我慢していたものが爆発したのだ。

 そして、アーサーは早退することとなった。妖精憑きキロンが、アーサーを大事そうに抱きかかえている横に、わたくしはついていく。

「何か用か?」

「あなた、ここに、過去の記憶を移せない?」

 わたくしは、映像の魔道具を見せた。妖精憑きだから、見ただけで、キロンは察したようだ。

「いつのだ?」

「アーサーが小屋に閉じ込められた頃のものが欲しいの」

「………アーサーには見せるなよ。あと、消去もしろ」

 一瞬だった。キロンが映像の魔道具に手を置いて、それで終わりのようだった。キロンは歩く速度をはやめて、さっさと先へと行ってしまった。

「準備は整いました」

 我が家に使える家門の子息令嬢たちがわたくしに声をかけてきた。見てみれば、侯爵令嬢シリアは、深く頷いて、準備が完了していることを示した。

 少し前、そこでは入学式を行っていた場所である。そこに、全校生徒と、教師たちが集められていた。壇上には、捕縛されたアーサーの義兄リブロと義妹エリザが、縄でぐるぐる巻きにされたまま、転がされていた。何か叫んでいるが、誰も、何も言わない。ただ、見ているだけだ。

「フローラ、助けてくれ!!」

「エリザ、どうか、助けてください!!」

 リブロはわたくしに、エリザは侯爵令嬢シリアに助けを求めた。もちろん、無視である。勝手に叫ばせておく。

「これより、妖精憑きのお気に入りを害した者たちの私刑を行う」

「はぁ!?」

「何をするつもりだ!!」

 罪人扱いされて、エリザとリブロは暴れた。なのに、集まる生徒たちから教師まで、拍手喝采である。

「まずは、証言を!!」

 生徒数人が、壇上に出た。彼らは、アーサーの義兄リブロと義妹エリザの知り合いである。

「アーサー様のことを男にだらしない女だと言っていました」

「浮気で婚約破棄されたと言っていました」

「浮気で出来た子だと言っていました」

「家でも、暴力をふるうと言っていました」

「贅沢三昧して、借金の元はアーサー様だと言っていました」

 次から次へと出てくる、アーサーの義兄リブロと義妹エリザが知り合いに語ったアーサーの悪評。全て、この二人が広めていたのだ。

「う、嘘じゃない!! アーサーは甘やかされて育ったんだ」

「両親が貴族だからと、贅沢三昧してたのよ」

「本当に? 証拠は? まさか、証拠もないのに、そんなこと、学校で触れまわっていたの?」

 わたくしは笑顔で聞き返した。リブロとエリザは黙り込んだ。証拠なんてない。言っているだけだ。

「そんな、証拠なんてあるわけないだろう!!」

「そ、そうよ。そういうものには、証拠なんて残らないのよ」

「そうなの。では、あなた方が贅沢した証拠を出してなさい」

 わたくしがそう命じれば、次々と、アーサーの義兄リブロと義妹エリザが知り合いにあげた物が壇上にあげられた。

 知らないはずがないのだ。全て、リブロとエリザが持っていた物だ。それをちょっとおだてられて、彼らは手放したのだ。

「こ、これは、アーサーの罠だ!!」

「わたくしの物じゃないわ!!」

「いつ、どこで、誰が受け取ったか、全て、書面で記録とっている」

 わたくしは、ばさりと書類を叩きつけてやる。リブロとエリザから取り上げた物は全て、わたくしの元に集まるようにしていた。そして、この書類を書かせたのである。皆、正直に書いて、差し出してくれた。

「わたくし、一か月だけど、子爵家の屋敷で暮らしたことがあるのよ。領地が安定していないから、屋敷の調度品は最低限、アーサーの持ち物は全て、親戚のお古だと言っていたわ。こんな新品、見たことがない」

「そ、それは」

「リブロ、これを手放した頃、あなたの家、とんでもない借金を抱えていたわね。そんな時に、よくもまあ、手放したわね。これがあれば、少しは借金も減らせただろうに。それどころか、無駄遣いしなければ、借金はもっと少なかったわね」

「………」

 アーサーの父親が失敗して、とんでもない借金をしていたこと、リブロは黙っていても、わたくしは知っていた。それをここで暴露すれば、ざわざわと生徒たちが騒ぎ出す。

「辺境の食糧庫であるというのに、お前たちは、とんだ無駄遣いをして、辺境を危険に晒してくれたわね」

「たかが食い物だろう!! 辺境の外にいけば、いくらだってあるだろう!!!!」

「何も知らないのね、外からくる食糧はとんでもなく高額になるのよ。たかが小麦が三倍の値段で売られるの。それを辺境の食糧庫である、あなたが暮らす領地で生産して、辺境では適正料金で販売されるようになるのよ。知らなかったの? あなたの贅沢は、わたくしたちがお金を出しているの」

「それじゃあ、感謝しろよ!!」

「お前は何もやってないじゃない。ただ、金を使っているだけ。適正に処理しているのは、子爵の仕事を代行しているアーサーよ」

「だったら、俺にやらせろよ!! もっと、融通してやる」

「どうやって?」

「ただ、売ればいいだけだろう」

「辺境の食糧庫を呪わせた血族が?」

 ざわざわと騒ぎ出した。表沙汰にされていない話だ。

「リブロとエリザの母親は、平民よ。母親の祖父が、領地に誕生した妖精憑きを虐待して、領地を妖精に呪わせたのよ」

「そんなの、俺には関係ない!!」

「そうよ、わたくしがやったわけじゃないわ!!」

「でも、血のつながりがある」

 軽蔑と、嫌悪と、様々な悪意の視線が、リブロとエリザに集中する。

「こんな血筋、残すわけにはいかないわ」

 皆、同意の声を上げる。

「俺は悪くない!!」

「悪いのは、全部、やった人でしょう!! 関係ない!!」

 あくまで、リブロとエリザが否定する。身に覚えのない話だ。血族だけで、そんな裁きを受けるなんて、理不尽なんだろう。

 だから、わたくしは、まだ、内容確認をしていない、妖精憑きキロンから得た記憶をおさめた映像の魔道具を動かした。

 会場全体に見えるように、壁に映し出される映像。わたくしだって、初めて見る。

 妖精憑きは奇跡の存在だ。本来、この映像の魔道具は、目の前のことを記録するための道具である。それを妖精憑きキロンは、過去の出来事を魔道具に保存したのだ。

 アーサーに、笑って石を投げて、蹴って、と暴力をふるうリブロ。

 アーサーの髪を切って笑うエリザ。

 アーサーに腐った料理をぶつけるリブロ。

 落ちた料理をアーサーに無理矢理食べさせようと頭をおさえつけるエリザ。

 そういう悪行が次から次へと、音声つきで流れた。

 その中に、手紙の朗読が行われた。それは、わたくしが書いた手紙だ。

『誰も、お前のことは、どうでもいいんだよ!!』

『お兄様が書いた手紙を信じているわ!!』

『あははははははは』

『きゃはははははは』

 呆然と見上げるリブロとエリザ。第三者の視点から見た、自らの行為と姿に、信じられないようだ。

「これは、偽物だ!!」

「こんな顔してない!!」

「信じてくれ!!! 俺、こんな顔してないよな」

「そうよ。わたくしは、清楚華憐よ。こんな、毒女じゃない!!!」

 壇上の一番近い位置に、リブロとエリザの顔見知りが並ぶ。

「同じだろう」

「お前、いっつも、こんな顔してるよ」

「アーサー様のことを話す時は、こういう顔よね」

「清楚華憐って、どこがよ。むしろ、アーサー様がそうでしょう」

「舞踏会でも、アーサー様、優しかったわよね」

「酷いこと言わされたけど、アーサー様、怒ったりしないで、寧ろ、許してくれたわ」

「あの後、エリザったら、アーサー様のことを散々、悪く言って」

「酷いよね」

 誰も、リブロとエリザの味方なんてしない。皆、リブロとエリザの悪行を全て、証言する。

「いつ、どこで、アーサーのことを悪く言ったのか、それも記録をとっている」

 わたくしは、さらに書類を積み上げた。

「わざわざ、新入生にまで広がるように、食堂では、大声で話していたな。学校側からの注意事項、覚えている? 妖精憑きのお気に入りは気をつけて、扱わないといけない」

「そんなのおかしい!! どうしてあの女だけ、特別なのよ!!! 本当は、わたくしがそうなるべきよ!!!!」

「母親が違うだけで、こんなに人って、違うのね。雲泥の差だわ。お前は底辺の底辺よ。貴族の矜持すらない。そのお前たちをそのまま許すわけにはいかないわ」

 思いあがったアーサーの義妹エリザの言葉に、集まっている者たちは冷笑する。

「時々、あなたみたいに、思いあがった片親が平民の貴族未満が出てくるのよ。そういう時は、見せしめにすることにしているの。今回は、あなたたちよ。やっと、リブロを見せしめに出来る。お前に話しかけられる度、気分は悪くなったわ。それも、今日で終わりね」

 我が家に従う者たちが、二人を抵抗出来ないように、仰向けにおさえこんだ。

「アーサーのこと、去勢する恐ろしい女、と言いふらしていたわね」

 リブロの下半身が晒された。それを見て、わたくしだけでなく、近くにいた者たちは噴き出した。

「やだ、ちっさい」

「や、やめろぉっ」

 晒しただけで、羞恥で泣き出した。

「これくらいで泣くなんて。これから先は、もっとすごいこととなるのに。あなたを去勢するのよ」

「や、やめろぉおおおおおおおおおお!!!」

 去勢と聞いて、リブロは全力で抵抗した。

「そんなふうに動くと、上手に去勢出来ないわ」

 わたくしは錆びた短剣を抜き放った。やるのはわたくしだ。

「や、やめてくださいぃ、アーサーが悪いんですぅ」

「リブロは悪いところはないの? アーサーにあんなことしたのに?」

「お、俺じゃ、ないぃ。これは、嘘だぁ」

「証拠は?」

「エリザ、違うよな?」

「そうよ、違うわよ!!」

 唯一の味方は、同じようにされてしまうかもしれないエリザだ。

 その間に、リブロの抵抗はなくなってきた。ほら、中途半端に鍛えているだけだ。複数の人間におさえこまれてきて、リブロの力がなくなってきたのだ。

 映像の魔道具は繰り返し、リブロとエリザの所業を映し続けた。

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