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皇族姫  作者: 春香秋灯
男装の皇族姫-辺境の三大貴族-
229/353

情緒不安定

 服を着替えてから、辺境の三大貴族の一つである侯爵を待たせている部屋に入った。

「すみません、待たせてしまって。その、あのー」

「娘から聞いている。体が辛いだろう。楽に座ってかまわない。同じ三大貴族だ」

「そう言ってもらえると、助かります」

 やはり辛くて、妖精憑きキロンが気を利かせて、柔らかいクッションを椅子に置いてくれた。いい感じに座れる。

「ワシの姉がそうだったんだが、それよりも酷そうだな」

「次からは、学校を休むことにします。こんなに辛いなんて、知りませんでした。これもまた、いい経験です」

「明日から休んだらどうだ」

「お話、あるのでしょう。あの、妖精憑きについて」

「っ!?」

 回りくどいことはやめた。私は、さっさと、話を進めた。

 わざわざ、侯爵が先ぶれもなくやってきたのだ。しかも、名ばかりといっていい、三大貴族の一つ子爵家である。子爵家が現在進行形で、色々と問題を抱えている。だけど、それは子爵家内部の話である。外部である侯爵家は関係ないし、面倒だから、関わりたくないだろう。

 それなのに、わざわざ来たのだ。妖精憑きの件だろう。

「シリアが妖精憑きのお気に入り、という話、嘘なんでしょう」

「どうしてわかった!?」

「すぐ、認めないでください。頭が痛い」

 他家の問題を我が家に持ち込まないでほしい。ただでさえ、子爵家は問題がいっぱいだってのに。

 あんなに大きな図体だってのに、侯爵は背中を丸めて、小さくなる。

「つい、娘の我儘をきいてしまって」

「どこで買ったんですか?」

 妖精憑きなんて、簡単に見つかるものではない。だいたいは、生まれたばかりに、儀式を受けさせて、妖精憑きだとわかると、帝国が金を渡して取り上げてしまうのだ。

 野良の妖精憑きというと、だいたいは、貧民に発現した妖精憑きだ。そういうのを集めて、洗脳して、子飼いにする貴族や商人が実際にいるのだ。

「知り合いを通して、買ったんだ」

 さすが、政治の侯爵である。王都との繋がりを保つための権力を使えば、洗脳済みの妖精憑きなんて、簡単に手に入るだろう。

 そういうの、知ってる。母方の祖父は貴族だけど商人で、帝国中、駆けまわっている。後ろ暗いことだってしている。後で、祖父に調べてもらおう。あの妖精憑き、どこから流れたのかなー?

「帝国には、街を歩いていて、勝手についてきた、と報告している」

「あの幼さだと、それが許されますね。大人の妖精憑きだと、たぶん、帝国はすぐ、調査に入りましたよ」

「わかっている。辺境は遠い。幸い、調査を後回しにされているのだろう。そこで、認定をどうしてもとらせてやりたいんだ。どうすればいい?」

 私が妖精憑きのお気に入りの認定をとれたのだ。同じ方法で、可愛い娘の我儘を叶えてあげよう、なんて、優しい父親だな。私の父親とは大違いだ。あ、あの父も、義兄と義妹には甘いな。甘やかしてもらえないのは、私だけか。

 私は自嘲してしまう。笑ってしまう。だけど、それを侯爵をバカにした笑いに見えてしまったのだろう。

「貴様、名ばかりの三大貴族の分際で!!」

「いえ、我が家の現状を思い浮かべて、笑っただけです。いいですね、シリアは。どんな無茶な我儘も叶えてくれる父親がいて。私の父親とは大違いだ」

「す、すまん」

 きっと、我が家の現状を思い出したのだろう。侯爵は失言してしまったことに気づいた。遅いけど。

 普段から、そう思っているのだろう。だから、口に出てしまう。それは、侯爵令嬢シリアからも感じられた。辺境の三大貴族の一つ、なんて口では言っているが、実際はそうではない。ここにきて、私の予想が当たっていることが、侯爵の失言でわかった。いやな答え合わせだな。

「名ばかり三大貴族から言えることといえば、火消のお手伝いです。帝国を誤魔化すのは不可能です」

「な、なんだと!?」

「あんな奴隷のような妖精憑き、一目見れば、バレます。帝国を騙すことは危険です。遠い辺境といえども、帝国が本気になれば、簡単に手が届くのですよ」

 すでに、我が家には、女帝と賢者と筆頭魔法使いが聞き耳たてている。ばーれーてーるーよー。

 そして、頻繁に我が家にやってきたのは、もう一人の妖精憑きのお気に入りのことをついでに調べるためであろう。辺境の教皇フーリード様も嘘をつくんだな。辺境は遠いから、なんて誤魔化しているが、私の認定なんて、即日で決定したよ。

 辺境の教皇フーリード様が一目見れば、わかるんだ。

 私は妖精憑きキロンの所有物だというとんでもない匂い付けをされているという。ただの人にはわからないが、妖精憑きだけはわかるのだ。

 その種明かしをしたら、侯爵は、無理矢理、妖精憑きにシリアの匂い付けをやらせるだろう。しかし、あれはなー、体験したからわかるけど、かなり、破廉恥だ。

 私が経験しているのは、妖精憑きキロン相手である。他の妖精憑きは違うかもしれない。しかし、それを教えるのは、悩む。あの、育ちのいいお嬢さんのシリアは、次の日には、私を嘘つきと責めてくるな。ただの人には匂い付けはわからないからね。

「何か隠しているだろう。全て話せ。どうやって、認定を貰った」

「だから、一目見て、すぐですよ。力が強ければ強くなるほど、誤魔化せません。魔法使いは、妖精憑きの中で、選ばれた妖精憑きです。とても強い力を持っています。力の強い妖精憑きにとって、権力なんて、意味がありません」

 実際、そうなのだ。侯爵令嬢シリアが、家が持つ権力を振りかざしても、辺境の教皇フーリード様は従わなかった。

 本気になれば、魔法使い引き連れて、辺境を魔法で蹂躙してしまえばいいのだ。帝国がそうしないのは、見逃しているだけである。それを忘れて、侯爵家はつけあがり過ぎた。

 怒って、脅して、としたいのだろう。だけど、静観しているので、侯爵のほうが落ち着いた。

「小娘相手に、大人げないことをした」

「娘さんと歳が変わりませんからね。そうなっても仕方がありません。シリア、可愛らしいですよね。次席なんて、勉強も頑張って、素晴らしいです。どこに出しても、自慢になるでしょう。だから、汚点は残してはいけませんよ」

「お、汚点?」

「辺境内であれば、全て隠せます。ですが、辺境の外では、もう隠せません。わかっているでしょう。我々辺境の三大貴族の権力は、辺境のみのものです。外に出れば通じません。辺境内で終わらせましょう。お手伝いします」

「………どうにかならないのか?」

「なりません。まずは、嘘を本当に出来ないのなら、嘘の大本を消すことです。お任せください。私の妖精憑きは、得意なんです」

 私はにっこりと笑って、火消を側にいる妖精憑きキロンに命じた。






 確か、茶会って、月に一回か二回と聞いたんだけど。

 まさか、翌日に、茶会にまた、招かれるとは思ってもいなかった。

 侯爵令嬢シリアは、妖精憑きを連れ歩いていなかった。主催はシリアなんだけど、招待状を持ってきたのは、伯爵令嬢フローラだった。

「ご、ご迷惑を、おかけして、ごめんなさい」

 シリアは、伯爵令嬢フローラをびくびくと見ながら、私に深く頭を下げた。そうかー、主催はシリアなのに、招待状をもってきたのはフローラなのは、こういうことか。

 この茶会、フローラがやらせたのだ。フローラ、妖精憑きのお気に入りの件、知ってたんだな。どこで我が家の情報が流れているかわからないな。フローラには気をつけよう。

「アーサーは体調がまだ悪いというのに、迷惑をかけるなんて、親子ともども、反省しろ」

「ううう、だ、だって」

 半泣きになる侯爵令嬢シリア。

「し、子爵が妖精憑きのお気に入りだなんて、学校でも特別扱いなんて、ずるい」

「妖精憑きなんて、面倒ばっかりなのにー。まあ、お気に入りであって、命だけは助かりましたけど」

「そんな危ない目にあったの!?」

 あ、侯爵令嬢シリア、知らないな、子爵家の過去の汚点。伯爵令嬢フローラは沈黙する。余計な情報をシリアに与えないつもりだ。

 たぶん、シリアは外に出すことが決まっているので、後ろ暗い情報から離されているのだろう。逆に、フローラは、婿をとる予定だったので、跡継ぎとして、そういう情報を常に受けているのだ。

 ここにきて、二人の立ち位置がわかった。次からは気をつけよう。

 キロンが作ったお菓子を口にいれて、私は話の方向を変えた。

「妖精憑きは、神殿預かりとなります。ほら、キロンが妖精憑きの妖精全てを盗って、染め上げてしまったこととなっていますから。妖精を失った妖精憑きは、不安定ですからね」

 表向きは、格上の妖精憑きであるキロンが、目障りな妖精憑きを排除するために、妖精を盗ったことにしたのだ。妖精を奪われた妖精憑きは使い物にならなくなるので、神殿で保護されるのだ。

 一応、妖精憑きから妖精はなくなった。だけど、キロンが一時的に預かっているだけである。落ち着いた頃に、妖精憑きに妖精を戻して、そのまま、帝国がどうするか、決めるのだ。

 今回のことで、侯爵家は、随分とたくさん、神殿に寄付寄贈するという。後で、辺境の教皇フーリード様にそれとなく、聞いてみよう。

「も、もう、戻ってこないの!?」

「妖精憑きは、犬猫じゃないですよ。あんな危ないもの、忘れなさい」

 侯爵令嬢シリア、妖精憑きに妙な情を持ってしまったようである。ちょっとした火傷だから、すぐ、治るだろう。

「今回のことは、アーサーに迷惑をかけてしまったな。我が家が止めるべきことだったのに」

「動きが早すぎて、それどころじゃなかったのでしょう。そこは、さすが、政治の侯爵ですね。産業の伯爵では勝てませんよ。我が家なんて、名ばかりだから、領地内のことで手一杯です。私が持っているカードで、出来ることをしただけですよ」

 本当にそうだ。子爵家なんて、領地内のことしかない。たまたま、私の亡き母が外に手を広げてくれたので、そういう手段を私が持っていたにすぎない。子爵家の力ではない。私が持っている力と手段である。

「もうそろそろ、時間ですね。キロン、片づけて」

 私がキロンに命じれば、机と椅子は整えられ、机の上にあったものは消える。主催は侯爵家であるが、急だったから、私の妖精憑きキロンが全てこなした。私は、茶会をするための、場所の申請がわからないので、やりたくても出来ないけど。

 ちょっとしたお話は終わって、茶会の場所から出て、仲良く三人、教室に戻るために移動する。途中、食堂を通りかかる。

「あー、義兄上、エリザ、お昼も一緒だなんて、仲がいいですね。たまには、仲間にいれてください」

 笑顔で、私は心にもないことを言ってやる。仲間外れにするなんて、何を企んでいるのやら。

 嫌味ではない。半分は、仲いいな、と思って言っているのだ。昔は、それが羨ましいと思ったこともある。

 大したことは言っていないというのに、怒りの形相となった義兄リブロが手を出してきた。すぐに、妖精憑きキロンがそれを止める。

「アーサーに触るな!!」

「お前は、いつもいつもいつも、卑怯なことして、俺たちの邪魔をする!! フローラ、騙されてるんだ!!! こいつは、罪のない者たちに酷いことして笑ってるんだ。父上だって、ただ、真実の愛を貫いただけだというのに」

「あんたの母親がいたせいで、お母様は愛人にされたのよ!!! 本当なら、お母様が子爵夫人になって、わたくしたちは、あなたと同じような扱いをされていたはずなのに」

「三大貴族の一つと名乗るべきは、長男の俺なのに」

「お義姉様だけ、ずるいです!!」

 言いたい放題だな、こいつら。ただでさえ、座れないから、私は調子悪いというのに。

 私はまだ、調子が悪い。たぶん、月の物が終わってもしばらくは、体調を崩すだろう。失った血を取り戻すのは、そう簡単なことではないのだ。

 本当は、今日、休みたかったのだ。昨日、侯爵から相談があったので、その関係で、休めなかった。きっと、今日か明日には、侯爵令嬢シリアから接触されるだろう、と予想していたからだ。この問題をさっさと解決したくて、無理して学校に来たのだ。

 だというのに、私の行く手を阻む義兄と義妹。私はとうとう、溜まりに溜まった、色々なものがせき止めていた何かが崩壊する音を聞いたような気がした。

「う、うううう、ひ、ひどぃいいいーーーー」

 私はボロボロと無様に泣き出した。口をおさえ、震えて、キロンに体を支えてもらって、どうにか立っていた。

「わ、私だって、兄と妹ができると聞いて、楽しみに、してたのにぃ。贅沢してる、と石を投げられ、贅沢だと腐った野菜をなげつけられてぇ、水だって、腐っててぇ、何を食べても、腐った味しかしなくなってぇ」

 過去に受けた傷がまざまざと蘇ってきた。

 いや、今も、その傷は癒えていない。今も、物を食べれば、腐ったような感じがする。味がわからない時だってあるのだ。キロンが頑張って、私が食べられるように、美味しく、工夫してくれている。

 私は立っていられない。蹲って、両手で頭を覆った。

「私、何も、やってないのにぃー。お母様のものだって、全部持っていって、まだあるだろう、と、義母上は殴ってぇ」

 家のもの全部、奪っていったくせに。私は外の小さい小屋に押し込めておいて、出せという。素っ裸にされたって、出てこない。それを嘲笑う義母。私は体が痒くなってきた。がりがりと痒いと感じた部分に爪をたてた。

「失敗したのだって、私のせいじゃないのにぃ、私が悪いと、父上が殴ってぇ。違うぅ!!」

 頭を抱えて、過去の暴力に震えた。

「アーサー、大丈夫だから。誰も、もう、二度と、アーサーに手を出させない」

「妖精憑きの力を使ったら、私から、キロンが取り上げられちゃうぅ!! だめだよ!!!」

 過去、閉じ込められた時、妖精憑きキロンが魔法を使わなかったのは、私から引き離されるからだ。

「私には、もう、キロンしかいないの!! 何でもするから、離れないでぇ!!!」

 私はキロンに抱きついて、縋った。過去、そうしたのだ。

 母が亡くなってから、たった一年、一年も、私は、そうしていた。

 そして、義兄リブロと義妹エリザを見上げる。

「もう、痛いことしないでぇ。どうして、仲良くしてくれないのぉ? 兄弟なのにぃ、仲良くしなさい、と母上は言ってたぁ。どうしてぇ!!」

 私は叫ぶように言った。亡くなった母は、隠し子のことを知っていた。時々、村の視察をしていれば、見かけるのだ。亡くなった母は言ったのだ。母親は違うけど、兄弟なんだ、と。

「アーサー、大丈夫だから」

「いやぁ、こわいぃー!! キロン、助けてぇー、いなくならないでぇー!!」

 伯爵令嬢フローラが手を伸ばしてきたが、私はすぐにそれを払った。あの時、どんなに手を差し伸べられても、全てが怖かった。

「アーサー、ほら、今日は帰ろう。荷物はそのままでいいよな」

 キロンは私を抱き上げて、伯爵令嬢フローラと話を進める。

「あ、ああ、荷物はわたくしが責任を持って届けよう。決して、リブロとエリザには渡さない」

「そんな、皆、違う」

「フローラ、俺は、アーサーに」

「お前たちは片親が平民だ。わきまえろ。もう二度と、私を呼び捨てにするな。いや、名前を呼ぶな。汚らわしい」

「待ってくれ」

「捕らえろ。この後、緊急だが、全校集会を行う」

 伯爵令嬢フローラの声が怖いの。私は怖くなって、キロンの胸に顔を埋めて震えた。キロンの胸の鼓動を必死に探した。周囲の音が煩くて、うまく、聞き取れない。

「アーサー、働きすぎだ。やっぱり、少し休もう。皆、言ってる。休んだほうがいい。そうしたほうが、仕事の効率があがるって、フーリードが言ってた」

「うん、うん、キロンのいうこと、きくからぁ」

「俺のこと、捨てるなよ」

「私の側にずっといてぇ」

「離れないよ」

 そこで、私の意識は遠のいた。








 久しぶりに起きた感じがした。起きてわかるのは、月の物が終わっているということだ。そして、月の物が始まってからの日々を思い出した。

「は、恥ずかしー!!」

 感情が制御出来なかったため、感情に振り回されていた。最後は、過去の終わったことをぶちまけて、大泣きである。子どもみたい、って、私は子どもだ。

 目を覚ませば、側には妖精憑きキロンがいる。いつものように、私の視界に入らなくても、側にはキロンがついている。私が起きたのを喜ぶキロンに私は手を伸ばした。キロンは私の手を握り、自らの頭の乗せた。私は、キロンの頭をどうにか撫でた。

「月の物がある時は、大人しくしている」

「本当に、そうだな。アーサーの仕事は、ここで俺がやってやるからなー。もう、視察だってやらなくったっていいんだぞ。俺の妖精がしっかりと領地のこと、見てくれる」

「領地民との交流もまた、領主の仕事だよ。円滑な交流は大事だ。また、内乱を起こされたら、大変だ」

「………まだ、ここにいるのか? ここを捨てて、旅に出たって、誰も、アーサーを責めない」

「………私は、生まれた時から、ここの一部だから」

 私と亡くなった母は違う。亡くなった母は外から来た人だ。あの人は、出て行けるのだ。だけど、私は生まれた時からずっと子爵家だ。私の血肉は、領地民から吸い上げた税で成り立っている。

 そういう教育を骨の髄までされている。同じような教育を義兄リブロと義妹エリザだってされているのだ。なのに、贅沢したい、あれがほしい、これがほしい、どうして我慢しないといけない、と言いたい放題である。アホだな、あいつら。

 あんなのに明け渡したら、領地はすぐ、ダメになる。実際、母が亡くなって一年で、借金まみれにしたのは、父だ。その間、義母、義兄、義妹はやりたい放題である。私が権利を奪って、たった一年、一年もの杜撰な収支を直して見て、吐き気がした。何が貴族だ。毒虫がなんと、四匹もいた。四匹が、領地をどんどんと腐らせてくれた。

 だから、内乱が起こった時、一気に腐った部分を処理しただけである。増えた毒虫どもは、生かしておいたのは、見せしめである。ほら、毒だって、使い方によっては、薬になるから。

 私はキロンに上体を起こしてもらう。

「どれくら寝てた?」

「三日ほど。侯爵令嬢シリアと伯爵令嬢フローラが昨日も見舞いに来た。今日も来るかもな」

「持て成しの準備をしておいてくれ。私も着替える」

「そのままでいいのに。まだ、回復してない」

「あの後、どうなったか、話を聞かないといけない。私にだって、計画はあるんだ」

 私は感情に振り回されてはいたが、覚えているのだ。

 最後に、伯爵令嬢フローラが、緊急の全校集会を行うと言っていた。私は義兄リブロと義妹エリザが、生徒たちに捕縛されているのを視界の端ではあるが、見た。覚えている。

 話題になったからだろう。私の客人が来た、と使用人が部屋にやってきて言った。

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