辺境の三大貴族のお茶会
お茶会は侯爵令嬢シリア主導で進んでいくのだが、給仕がつたないので、途中から、私の妖精憑きキロンと交代した。お菓子は、キロン特製である。
「君の妖精憑きはこんなことも出来るのか」
「妖精憑きって、ともかく囲いたいばっかりだから、こういうことも身に着けちゃうんですよ。力の強い妖精憑きほど、才能が豊かだから。キロンは、半年くらいで、だいたいのことは習得しちゃいました」
「えへへへ」
「でも、育ちが悪いので、すぐに剥がれますけどね」
ほら、メッキだから、こいつのは。いいものを身に着けても、そんなもの、感情に振り回されて、簡単に剥がれちゃうよ。
「それで、どうして、この顔ぶれでお茶会をすることとなったんですか?」
まずは、お茶会の理由である。お茶会のお誘いは侯爵令嬢シリアであるが、伯爵令嬢フローラがいるのは、私は知らない情報である。このお茶会、何か意味があると見た。
「辺境の三大貴族が貴族の学校に揃う時、親睦を深めるため、このようなお茶会を月一、二回、行うこととなっています。規則とかではありませんわ」
お茶会の主催者である侯爵令嬢シリアが教えてくれた。知らなかった。
辺境には、三大貴族と呼ばれる家柄が存在する。
一つは、侯爵家である。政治的に力を持つ貴族で、王都への橋渡しとなっている。
一つは、伯爵家である。辺境の工業を支配している。出来た工芸品等は、帝国中で販売される。
そして、最後の一つは子爵家である。辺境の食糧庫、と呼ばれる領地を支配し、辺境への食糧の安定供給を担っている。
なるほど、それで、この顔ぶれかー。
「アーサーは次期当主だから、ぜひに、とお茶会のお誘いの手紙を君の義妹と義兄に渡したんだが、お断りの返事がきてね。ならば、と、君の義妹を席に座ってもらうこととなったんだが、最近の君を見ていると、お断りの返事のように、忙しく見えなかったから、直接、声をかけてもらったんだ」
伯爵令嬢フローラは、義妹エリザに冷たい視線を向ける。私への手紙を義妹と義兄が握りつぶしたわけか。
わざと、義妹エリザをこの場に置いて、つるし上げる気だな。
「謹慎と再教育の延長ですね」
「そんなっ!!」
「生活費も減額しましょう。反省していないのがよくわかりました」
「っ!?」
ギリギリと歯を噛みしめて睨んでくる義妹エリザ。義兄リブロは、エリザのことを清楚華憐で可愛い、というが、今のエリザは、可愛くないな。
「内乱で私の敵になって負けたんです。当然でしょう」
「お家騒動と聞いていましたが、そうなっていたのですか。なんだ、お前、負け犬か」
途端、伯爵令嬢フローラは、義妹エリザを見下した。
「お前は席に座る資格がない。立て」
「わたくしだって、片親は、子爵の血筋ですよ!!」
「負けたんだろう。敗者は弱者だ。帝国は弱肉強食、勝者こそ正義だ。お前は敗者だ。敗者の血筋は、淘汰されるべきだ。お前の兄にも言っておけ。二度と、私に話しかけるな」
うーわー、きっつー。さすが、伯爵令嬢フローラ。別名、鉄の令嬢。この人は、文武両道である。確か、義兄リブロと同じ学年だな。だから、義兄の名前が出てきたのか。
これまでは、三大貴族の一員として、義兄リブロは、伯爵令嬢フローラとちょっと話したりしていたのだろう。だけど、これからは、リブロ、フローラに無視されるな。可哀想。
真っ青になる義妹エリザ。そして、きっと私を睨んだ。
「どうして、お前ばっかり!!」
「そりゃ、汗水流して働いているんだ。お前たちが蝶よ花よと遊んでいる間も、私は次期子爵として、厳しい生活を送っている。今も、亡き母の教え通り、質素堅実な生活を送っている。それなのに、お前たちは、あれが食べたい、これが食べたい、甘味が足りない、こんな野菜ばかりはイヤだ、と我儘ばっかりだ!!」
私はどんと机に拳をぶつけた。
「いい加減にしろよ。誰が作った野菜かわかっているのか? 私が作った野菜に文句をつけるなら、お前が作れ!! 農地をやる。自分の手で作ってみろ!!!」
「なんだ、作ったことがないのか。亡くなった子爵夫人でさえ、農作業をしていたというのに」
「母親が愛人時代からずっとですよ。こんな汚れ仕事は平民の仕事、片親は貴族のやることではない、というのが口癖だと、エリザの祖父から聞きました」
「いつまで座っているんだ。さっさと立て」
「違います。お前は我々を見下ろすことは許されない」
いつまでも居座っているエリザの椅子を蹴って、無理矢理、エリザを地面に倒した。
「何するのよ!!」
「また、私宛の手紙に、偽物の返事をしたな。お前たちは泥棒をして、なり済まして、私の事を貶めて、やりたい放題だ。だから、こうされたっていいだろう。戻って、義姉に意地悪されましたー、と泣きついてこい」
さすがに、私の名を騙って返事をしたことは許せなかった。だから、私は容赦なく、エリザの頭を踏みつけた。
「これで、泣きつく理由が出来た。その汚い顔で、さっさと出ていけ」
「酷いっ!!」
本泣きで、義妹エリザはその場を走り去っていった。
私が再び椅子に座れば、あまりのことに、驚いて、固まっている侯爵令嬢シリアを見ることとなった。伯爵令嬢フローラは、笑いをこらえている。
「アーサーは、変わらないなー」
「あまり怒りたくないんです。無駄に疲れるから」
「怖いわよ!!!」
やっと侯爵令嬢シリアの時間が動き出した。
「恥ずかしい所を見せてしまいました。初の月の物なので、どうも、感情が制御出来なくて」
「アーサー、休んだほうがいいんじゃないか? 顔色、悪くなってきたぞ」
「本当だ」
妖精憑きキロンだけでなく、伯爵令嬢フローラにまで言われた。私は平気なんだけど、他人がいうのだから、そうなんだろう。
実際に立ってみれば、地面が揺れて、私は無様に尻もちをついた。
目を覚ますと、誰もいなかった。消毒液の匂いがする。私は起き上がろうとしたが、目が回ってしまって、うまく動けない。
「キロン、どこだ」
「アーサー!!」
すぐに私の視界に妖精憑きキロンが入ってきた。私が手を伸ばせば、キロンが私の手を握って、ついでに、体を抱いて起こしてくれた。
「お茶会をしたところまでは覚えているんだけど」
「そこで、倒れた。貧血だろうって、医者が言ってた。もっと、肉を食べろって」
「肉、そんなに好きじゃないんだけど」
「月の物で、随分と血が流れている。もっと、血になるものを食べないと」
「じゃあ、キロンが作って、食べさせて」
「いつも、そんなこと言ってくれないのに、弱ってる時だけ、甘えてくるな」
苦笑するキロン。こういう時は、優しく包むように抱きしめてくれる。キロンの胸の音を聞くと、安心する。
母が亡くなってから、たった一年、一年も、私はキロンの胸の音を聞いて眠った。今では、この音を聞くと、気持ちも落ち着いて、眠くなる。
「また、口移しすればいいか?」
「そこまで弱っていない」
あまりに弱って、飲み込めない時、キロンにそれをやらせたな。仕方がない。咀嚼できなくて、飲み込んでも、すぐ、吐き戻してしまったのだ。
今が、まさしく、そういう状態に近い。大丈夫、まだ、自力で咀嚼して、飲み込める。だけど、吐き出すかもしれないなー。
「これでは、わたくしはお邪魔だな」
「っ!?」
私は反射でキロンの胸を押して離れた。だけど、私の体は弱っているので、また、私はベッドに倒れることとなった。
「フローラ、お見苦しい所を見せてしまいました」
「これで、お互い様だ。農業体験の時は、わたくしが倒れ、アーサーが介抱してくれた」
「さぼってたんですよ」
「そうなのか、あははははは」
過去を思い出して、フローラは、大笑いである。
フローラは伯爵令嬢ではあるが、家の教えから、きちんと剣術と体術を身に着けていた。何でも身に着け、何でもこなすのが、辺境の三大貴族の一つ、伯爵家が長年、物作りを支配出来た理由である。
辺境はバカでかいが、ともかく不便だ。王都から離れているから、魔道具や魔法具の恩恵が受け辛い。だから、その身こそ力なのだ。そうして、伯爵家は自らの力で切り開くことを教えとして、跡継ぎだろうとそうでなかろうと、子どもたちに叩き込んだのである。
伯爵家には、子は二人いる。一人は、フローラ、もう一人はフローラの弟だ。私は、フローラの弟のことは知らない。何故って、私とフローラが知り合った時、まだ、フローラの弟は誕生していなかったのだ。
フローラは、伯爵家に男児がいないため、跡継ぎ教育を受けている真っ最中だった。近い血縁で、それなりに優秀な婿をとることとなっていたが、万が一ということもあるので、フローラ自身が裏で支えられるように、教育を受けていたのだ。
そして、歳の離れた弟が愛人から誕生した。
愛人といっても、貴族であるし、疚しい関係というわけではない。ただ、正妻は子が出来ないので、仕方なく、愛人をとり、子だけ産ませたのだ。子が誕生するとすぐ、愛人には金を渡して、縁を切らせたと聞いている。徹底しているなー。
我が家と同じ、腹違いの姉弟。弟が誕生した時は、まだ、男しか跡継ぎになれなかった。でも、今は帝国の法が変わって、女でも跡継ぎになれる。
「フローラ、弟は可愛いですか?」
さすがに正面きって、聞けないので、私は遠まわしに聞くことにした。ほら、我が家の現状を目の前で見たから、疑問も持たれないだろう。
「お前は、本当に出来た女だな。男であれば、わたくしが子爵家に嫁入りしたんだがな」
「………」
「跡継ぎになるかどうか、と父と話し合い中だ。アーサーが女だと知らなかった頃、わたくしは、アーサーへ嫁ぐことを父上に進言していた。わたくしの初恋は、アーサーだ」
「っ!?」
とんでもない告白をされた!! それを聞いたキロンが、私を抱き寄せる。
「女同士なんだから、心配ない。ああして、久しぶりに会って、過去の初恋を思い出したけどな。こんなに華奢なのには驚いた。髪は短く、ボロボロで、顔だって荒れている。だけど、無駄な脂肪もない。昔と変わらない。それに比べて、お前の義妹と義兄はどうだ。身なりを整えているが、見苦しいばかりだ。リブロなんて、無駄な脂肪をつけて、お山の大将のように偉ぶっているが、実力なんて、大したことがない。辺境の三大貴族の子だと、威張り散らしているだけだ。あの男は、過去の子爵家がどういった立ち位置が、わかっていないな」
「私もわかっていませんが」
「十分、身の程をわきまえているじゃないか。辺境の三大貴族、なんて呼ばれているが、実際はそうじゃない。リブロも、エリザも、もうそろそろ、思い知らせてやらないといけないな」
「学校まで、酷い目にあわせたら、可哀想でしょう。どうせ、将来は、家から追い出されて、もっと酷い目にあうのに」
「だったら、今から」
「無駄に知恵なんかつけなくていい」
「っ!?」
伯爵令嬢フローラは、驚いたように私を見返した。
私は、フローラの前だというのに、キロンの胸に顔を埋める。キロンの胸の鼓動は、私の心を落ち付かせ、冷静にしてくれる。
「人は長く生きて百年。平民でも、五十年生きれば十分、と言います。人生の半分は思い上がり、残り半分は苦痛。始めは幸福で、残りは不幸。そんな人生を送って、最後はどう思うのでしょうね。私はこう思っています。幸せになった者が勝ちだ。私は、終わりが幸福であれば、それでいい」
「そ、う、なのか」
「王都の舞踏会で、私を手伝ってやる、と言ってくれる権力者とお友達になりました。出来るなら、自力で事を進めたいですが、フローラがやりたいのでしたら、どうぞ」
「………」
「フローラは、三大貴族として、やればいいですよ。私は止めません」
「………わかった」
一体、何をやろうとしているのやら。私は三大貴族の矜持なんか、どうだっていい。今は、月の物のせいで、気分が悪く、食欲もなく、眠い。
ずっと、キロンの胸で眠っていたい。
屋敷に帰れば、来客だという。行ってみれば、辺境の教皇フーリード様が、お忍びでやってきた女帝レオナ様と賢者ラシフ様、筆頭魔法使いティーレットと、なかなか、物々しい面々を連れて来て、私を待っていた。
「聞きましたよ。また、学校で倒れたと」
「学校のこと、いちいち、報告されるんですね」
「妖精憑きのお気に入りが学校にいるのだから、当然でしょう」
そっちかー。きっと、私がお忍びの皇族だとは、学校側も知らない。だけど、公には、妖精憑きのお気に入りだから、それを理由に、私の行動を報告させているのだ。どっちにしても、学校は戦々恐々なんだろう。
「思ったよりも、月の物が重くて。こんなものが、今後、月に一回、起こるなんて、女って、不便ですね」
「人にもよるだろう。俺様は軽いぞ」
同じ女である女帝レオナ様は、羨ましいことを言ってくれる。いいなー、それ。
「聞いたぞー、茶会の場で、義妹を足蹴にしたんだってなー。義妹が学校中に泣きながら、言いふらしていたぞー」
「今日の今日で報告されるんだから、すごいな」
あの義妹の声の大きさは、とんでもないな。一日も経たない内に、王都にいる女帝の耳にまで届くのだ。もう、学校中が私の所業を知っていると言っていい。
「どうせ、腫れもの扱いだから、いいですけどね」
「アーサー」
「説教は聞き飽きました。説教するなら、帰ってください」
私は辺境の教皇フーリード様を強く拒絶する。月の物は、普段、我慢していたことが我慢できなくなるので、何もかも、吐き出してしまう。言った後で、私は失言だ、と口を強く閉ざした。
まさか、口答えされると思ってもいなかったフーリード様は驚いて、固まった。いつも素直に、フーリード様には従っている私だが、本心はそうではないのだ。
私は服を緩めて、女帝レオナ様の向かいにどっかりと座る。
「すみません、言い過ぎました。フーリード様のお言葉は、いつも、有難く思っています。母は亡くなり、父はあの体たらくです。私を諫めてくれる人はもう、フーリード様しかいません」
「体調が悪いというのに、私は、アーサーを叱ってばかりですね。気をつけます」
「お前は親じゃないんだから、アーサーのことでとやかく、口を出すな。俺様から見ても、出しすぎだ」
「それは、そう、なんですが」
女帝レオナ様が軽い感じでフーリード様の普段の行いを注意する。それを言われて気づくフーリード様。
私は、当然と受けているが、そうなんだろう。私は他を知らない。女帝レオナ様は、フーリード様、というより、他の教皇を知っているのだろう。だから、フーリード様の行動が、私に対してだけ、関わり過ぎていると気づいていた。
「仕方ありません。私は、母を亡くしてたった一年、一年も、屋敷の外にある小屋に閉じ込められて、虐待されていましたから」
「………そういえば、その報告、抜けていたな」
「っ!?」
油断していた。てっきり、神殿は、過去、私の家族が妖精憑きのお気に入りに対してやらかしてしまったことを報告していたと思っていた。
女帝レオナ様を見れば、剣呑となっていた。
「妖精憑きのお気に入り、辺境のアーサーを虐待していた報告をどうして、帝国にあげなかった!?」
女になっても、この人は、帝国で一番の権力者である。持っているものが違う。私だけでなく、辺境の教皇フーリード様まで震えあがらせた。
「へ、辺境では、辺境の問題は、三大貴族が裁きを下す決まりなんです。辺境のみの不文律です。そう、先代の教皇から教えられました。重要な報告はまず、侯爵家、伯爵家に判断を仰ぐのです」
「帝国をバカにする話だな」
「辺境は、広すぎ、王都から離れすぎています。王都に報告して、判断を仰いでいると、問題が先送りにされて、一年後に沙汰が下りる、ということが、昔、よくあったんです。だから、辺境の三大貴族が代わりに沙汰を下す暗黙の了解を帝国から貰ったんです」
「………」
きっと、文章にも残っていない事なんだろう。
大昔なんだ。そんな大昔のこと、伝言し続けて、その内、抜けてしまう。辺境で解決しているのだから、ま、いっか。そう、ある皇帝が思えば、もう、伝えない。勝手に辺境で解決されるし、帝国の敵ではない。それどころか、帝国の敵を辺境が勝手に駆除してくれるのだから、助かる。
そして、その弊害が今、起きている。
辺境の三大貴族が判断を下す事ではないのに、それを行ったのだ。
私の脳裏に、伯爵令嬢フローラが横切る。フローラ、私がされたこと、知らないはずがない。もう、歳の離れた弟が誕生しているといっても、世の中はどうなるかわからない。フローラは変わらず、跡継ぎ教育を継続して受けていただろう。跡継ぎとして、この問題を耳にしているはずだ。
実は、私がたった一年、一年も、閉じ込められ、虐待されていた事実は、隠されている。妖精憑きのお気に入りに悪さをしたことは、表沙汰にしていい話ではないから、辺境で唯一知っているだろう教皇フーリード様は口を閉ざしたのだ。
フローラのことは気になるが、今は、目の前で激怒している女帝レオナ様である。
「それで、レオナ様は、今日は、お見舞いに来てくれたのですか? だったら、私は着替えたいのですが。横にもなりたいので、そこでお話したいです」
「………貧血だと聞いた。そういう時は、肉を食べればいい。色々と持ってきたから、食べろ」
「肉かー。食べられるかなー」
「なんだ、肉が嫌いなのか?」
「粗食で育ったので、うまく食べられなくて」
「だから、こんなに小さいのか!! おい、俺様も一緒に食べるから、作ってこい」
そう言えば、妖精憑きキロンだけでなく、賢者ラシフ様、筆頭魔法使いティーレットまで、部屋から出ていった。あの三人が作るのかー。
「まずは、辺境の三大貴族がどうするか、お手並み拝見といこう」
「言っておきますが、辺境の三大貴族と言ってますが、正確には、二大貴族ですよ。我が家は、お飾りです」
「そうなのか!?」
「そうだと思います。我が家の歴史を勉強すれば、わかるでしょう。今日、学校で聞いた話にも矛盾がいくつか見られます。大体、三大貴族と言いながら、我が家が今だに子爵なのがおかしいんです。どうしてか、わかりますか?」
「子爵のままでいたい?」
「違います」
誰だって、もっと上の権力が欲しいものだ。三大貴族なんて呼ばれるのだから、せめて伯爵になりたいと考えるだろう。
「三大貴族の一つと言って、おだてているだけですよ。誰も、あの領地の面倒なんてみたくありません。辺境の食糧庫、なんて呼ばれていますが、ようは農業しかない領地です。中には、妖精たちのご機嫌をとらなければならない禁則地まであります。そんな面倒臭い場所、誰も領主になりたいなんて思いません。だけど、爵位をあげたら、領地替えをしてしまうでしょう。そうしたら、また、別の貴族がやってきます。その貴族が上手に領地運営をしてくれればいいですが、そうでなかったら、辺境は大変です。だから、辺境の三大貴族の一つと言って、おだてて、領地を手放さないようにさせたんです」
蓋を開けてみれば、そんな話である。
「さすが、アーサー。私が教えなくても、そこまで読みましたか」
いつもの調子で、私を誉めてくれる辺境の教皇フーリード様。私はちょっと嬉しくて、笑う。
「アーサー様、お客様です」
使用人が、別の来客を報せにやってきた。お断りしたいなー。
「どこの誰ですか?」
「侯爵様です」
話題にあがった、辺境の三大貴族の一つ、侯爵が先ぶれもなく、やってきた。




