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皇族姫  作者: 春香秋灯
男装の皇族姫-婚約解消のすすめ-
225/353

偽物の手紙

 俺は、アーサーのことが大嫌いだ。女のくせに、男として爵位を継承するというのだ。それもこれも、子爵家の借金のせいだという。

 アーサーには、何もない。ただ、その家に誕生しただけだ。男であれば、誰にも文句を言われることなく、爵位継承出来ただろう。しかし、アーサーは女で誕生した。子爵家の借金はアーサーの祖父である男爵が肩代わりした。その見返りに、血筋であるアーサーに爵位継承を要求したのだ。

 何の努力もせず、女でありながら、男として爵位を受け継ぐこととなったアーサー。なのに、アーサーが女であることを隠すために、俺の弟ヘリオスが、なんと、女装して婚約者になるという、滅茶苦茶は話となった。

 バカな話だ。だけど、両親はそれに従うしかなかった。昔、父が友人に融資した資金を持ち逃げされ、とんでもない借金を背負ったという。それを助けたのが、アーサーの祖父である男爵だ。返さなくていい援助として、その借金を清算したのだ。その過去を出され、両親は、弟ヘリオスを差し出した。

 ヘリオスは最初、アーサーのことを嫌った。やりたくもない女装をさせられ、俺と同じように父のような騎士を目指していたというのに、無駄に鍛えることも禁じられた。言葉使いから、歩き方まで、女のように再教育を受けたのだ。アーサーのことが嫌いになるのも無理はない。俺だって、アーサーのことは嫌いだ。

 だけど、月に一度、ヘリオスがアーサーがいるど田舎に行っていると、どんどんと、ヘリオスは落ち着いてきた。あんなにアーサーがいるど田舎に行きたくない、と文句を言っていたのに、気づいたら、言わなくなっていたのだ。

 アーサー、何かヘリオスに呪いか何かをかけたのだろうか。そんな気がした。



 それも、ヘリオスが貴族の学校に通い始めると、アーサーとは疎遠となった。



 ヘリオスは、貴族の学校を楽しく通っていた。俺もそうだったから、気持ちがわかる。そして、長期休暇が近づくと、貴族の学校で出来た友達と遊ぶ約束をとりつけるようになった。

「兄上、どうしよう。このままだと、アーサーのとこに行く時間がない」

 無計画に約束してしまい、婚約者アーサーの元に行けなくなったのだ。

 この時、アーサーの母は亡くなっていた。俺も、アーサーの母の葬儀には参列した。その時に、ヘリオスは長期休暇には遊びに行く、と約束したという。

「あんなど田舎、移動だけでも三日かかるんだぞ。それを月一でやってたのは、まだ、ヘリオスにも時間があったんだ。学校は忙しいんだから、思ったよりも時間がないだろう。そう手紙で書いて伝えろ」

「そうしてみる」

 ヘリオスは俺に言われた通り、アーサーに手紙を書いた。それから数日で、アーサーから返事がきた。

「アーサーの父親、浮気で子どもいるんだって。アーサーの母親が死んだばかりだってのに、浮気で出来た子どもを連れ込んでるんだって」

「片親が貴族だと、仕方がないな」

 帝国の法律では、片親が貴族の子は、貴族側に養育の義務がある。隠していたということは、アーサーの母親に問題があったんだろうなー。見たことがあるが、アーサーの母親は、綺麗だか、怖い感じがした。

「けど、アーサーとは仲良くしてるんだって。今度会ったら、紹介してくれるんだって」

「そうか」

 片親が平民といえども、アーサーは気にしないのか。そちらのほうが驚いた。俺も貴族の学校に通っていて、身分差というものを見せられた。片親が平民だと、色々と大変なんだ。貴族の選民意識が、片親が平民の子を区別する。差別ではなく、区別だ。

 アーサーはまだ、貴族の学校に通っていないし、しっかりした教育を受けたのだろう。そう思った。

 アーサーとヘリオスの文通は昔からだ。月に一回、会っていた頃は、何かの理由で手紙と一緒に、アーサーからの贈り物がヘリオスに届けられていた。それも、ヘリオスが貴族の学校に通い始めると、文通も月に1~2回になった。

 よく続くな。俺は、呆れた。だけど、その事を婚約者に言ったら、俺が叱られた。女心がわかっていない、と。アーサーは確かに女だが、男として過ごしている。あいつに、女心なんてあるようには見えない。


 そうして、ヘリオスが貴族の学校一年から二年に上がる頃、事件が起こった。


 アーサーの父親が、事業を失敗した上、大凶作により、領民まで飢えることとなったという。そのため、借金を作ったのだ。

 アーサーの母親が死んで一年で、また借金と聞けば、誰もが想像する。これまでは、アーサーの亡くなった母親が支えていたのだ。アーサーの父親は、口だけの役立たずだった。

 アーサーの祖父である男爵は、わかっていたのだろう。アーサーの父親が作った借金の証文を買い上げ、子爵の元へと行った。

 その時、たまたま、ヘリオスは学校が休みだったので、婚約者として、アーサーの元に行ったのだ。だが、普段は保護者か使用人がヘリオスに同伴するのに、今回は急な話だったため、予定があいているのは、俺だけだった。俺は渋々、付いて行った。

 ど田舎にある屋敷は酷いものだった。貴金属類は全てなくなっていた。

「アーサーはどこにいる?」

「あ、アーサー? それは、妻にまかせて」

「妻? マイアは死んだ」

「再婚しました。妻の、リサです」

 借金で首が回らないというのに、アーサーの父親は、愛人と再婚していた。

 紹介されたアーサーの義母リサは、気持ち悪い顔で笑って、膝をついた。

「アーサーはどうしている?」

「こ、子どもですから、どこかで遊んでいます」

「探せ!!」

 言い訳ばかりするので、とうとう、アーサーの祖父を怒らせた。男爵家の者たちが、屋敷の中にいるだろうアーサーを探した。その間、アーサーの祖父は、アーサーの父、義母を捕縛した。

「子どもがいました!!」

 そして、見知らぬ男の子と女の子を連れてきた。二人の子どもは震えて、だけど、アーサーの父と義母を見ると、救いを見たように笑顔で駆け寄った。

「そんな子ども、知らん。アーサーを探せ!!」

「また、アーサーのせいか!!」

 アーサーと聞いて、男の子が怒りで叫んだ。何か知っている様子だ。アーサーの父親と義母が男の子を止めようとするも、男の子は感情を爆発させて、抑制出来なかった。

 老人とはいえ、現役で商人をしている男である。アーサーの祖父は、意味もなく怒っている男の子の首根っこをつかんで持ち上げた。

「は、離せぇ!!」

「アーサーはどこだ」

「あいつは、贅沢ばかりする悪い奴だ!! だから、小屋に閉じ込めたんだ!!!」

 それを聞いて、アーサーの祖父は男の子を床に叩きつけて、駆けだした。

「こっちだ」

 よく、アーサーと遊んでいたヘリオスは、小屋と聞いて、その場所に思い当たったようだ。ヘリオスはアーサーの祖父の前を走って、屋敷の外に出て、みすぼらしい、物置のような小屋の前に立った。

「アーサー、また、こんなトコに隠れて!!」

 笑顔でいつものように、ヘリオスは小屋の戸を開けただけだ。

 妖精憑きキロンが、やせ細ったアーサーを抱きかかえて、ヘリオスに敵意を向けた。それは、まるで、獣が我が子を守っているようだ。

「また、アーサーを虐めに来たのか!?」

「き、キロン、俺だ、ヘリオスだ」

「………は、ははは、アーサー、嘘つきが来たぞ!! 来るって約束したのに、お前は来なかった!!!」

 キロンの血を吐くような叫びに、アーサーが反応した。うっすらと目を開いて、眩しそうに、俺たちのほうを見た。

「ごめんなさい、生まれてきて、ごめんなさい、ごめんなさい」

 アーサーは、笑って、そんなことを言い続けた。






 それから、ヘリオスはヘラとなって、完璧な女を演じた。体を鍛えるのはやめない。

「いつか、あの男を殴ってやる」

 ヘリオスは、アーサーの義兄リブロに強い恨みを抱いた。

 母親を亡くしたアーサーは小屋に閉じ込められ、外部とは隔離されていた。なのに、文通が成立したのは、アーサーの義兄リブロが書いていたからだ。

 嘘をおもしろおかしく書き立てたのだ。そして、手紙で書いた内容とは逆だった。アーサーは、小屋に閉じ込められ、一年間、虐待されていたのだ。

 アーサーのことが嫌いな俺でも、可哀想だと思うほど、救い出されたアーサーは酷い状態だった。出会う人出会う人全てに、言葉をかえて、謝っていた。食事をあたえても、なかなか飲み込めず、吐き出していたという。

 何より、アーサーは妖精憑きキロンが少しでも離れたり、見えなくなったりすると、おかしくなったように悲鳴をあげたのだ。

 キロンはずっとアーサーの側にいた。誰も、あの二人を離すことは出来なかった。

 このまま、アーサーは壊れたままかに見えた。その頃には、両親も、アーサーとヘリオスの婚約解消を男爵に言い出していた。どう見ても、アーサーは爵位を継げない。



 ところが、アーサーは救出されて半月で、もとに戻った。



 あんなに酷い目にあった領地に、アーサーは妖精憑きキロンを引き連れて、勝手に戻っていったのだ。まだ、体だって完全に回復していない、というのに。

 それから、アーサーは強かに、父親から子爵としての権利を奪い、領地運営し、最悪な家族を適当にあしらっていた。

 年に一度は、アーサーの元に挨拶に行くこととなっている。行けば、アーサーは強かに、嫌味をいう父親、義母、義兄、義妹をやり過ごしていた。とても、ヘリオスが文通で受け取った内容とはほど遠い、仲の悪さである。

 あまりの仲の悪いさに、ヘリオスが呆れた。

「アーサー、あんなの、許す必要なんてないのに」

 俺は口に出さないが、ヘリオスには同意だ。アーサーは遠まわしに、父親たちを許しているのだ。

「仕方ありません。父上はまだ、子爵ですから。あの人から爵位を取り上げるには、まだまだ、要件が足りない。その内、あの一年の時のように、父上は失敗してくれますよ」

 一年とは、アーサーが父親によって、小屋に閉じ込められた一年だ。

 酷い扱いを受けた一年を、アーサーは何でもないように口にした。

 そして気づかされた。アーサー、いつも笑っているが、作り笑いだ。救出された時も、アーサーは笑っていた。


 泣いた所、見たことがない。


 昔は、アーサーだって、癇癪を起こして泣くことはある。だけど、あの酷い一年を過ぎてからずっと、アーサーは泣かない。俺が聞いても、酷いことを言われているというのに、アーサーは笑顔だ。

 そうして、俺は気づいた。アーサーはおかしいままだ。あの笑顔の下で、何か企んでいるのかもしれない。それは、俺が想像出来るような、生易しいものではない。

 それに気づいたのかどうか、両親は、アーサーとの縁を切ろうと考えた。アーサーを蔑み、嫌味を言って、男爵には幾度となく、婚約解消を申し出た。

「もう、十分、やったでしょう!!」

「もうこんな茶番、やめましょう!! すでに、あの子はおかしくなりました。あんなので、爵位継承なんて」

 男爵を責めて、うまくいくかに見えた。

「わたくしは別れません。アーサーと結婚して、あの領地を一緒に支えます」

 しかし、ヘリオスは婚約から結婚まで考えていた。あんなに勉強を嫌っていたというのに、アーサーのために、次席にまでなった。アーサーには、生徒会役員になりたい、と言って、実は、アーサーの力になるためだ。

 アーサーの家族は酷いもので、貴族の入学試験の願書を盗み、アーサーが貴族になるのを妨害した。本当に、偽物の手紙に書いてある内容は全て、嘘ばかりだ。

 そして、法律が代わり、女でも爵位を引き継げるようになって、アーサーは女であることを表沙汰にしたのだ。それを知ったアーサーの父親は、とうとう、内乱を起こした。

 それも、ほんの数日で、アーサーによって鎮圧され、アーサーの父、義母、義兄、義妹は捕縛され、犯罪者となったのだ。

 どういう沙汰を下したのか、俺はヘリオスから聞いて驚いた。アーサー、実の父親を去勢したのだ。それを聞いて、さすがに俺も震えあがった。男では考えられない処罰である。確かに、アーサーは女だ。

 そして、女でも爵位が継げるようになったことで、やっと、ヘリオスとの婚約解消が可能となった。もともと、この婚約は、アーサーが女であることを隠して、男しか引き継げない爵位をアーサーに受け継がせるためだ。それも、法律が変わり、女でも爵位が引き継げるようになったので、ヘリオスとの婚約は必要なくなった。

 たまたま、ヘリオスに皇族からの声もかかって、我が家は、欲をかいてしまった。昔、その欲で、父は失敗したというのに、また、失敗したのだ。

 婚約解消をヘリオスだけが、最後までごねていた。だが、アーサーと二人っきりで話し合った後、ヘリオスは、泣きながら、婚約解消を了承したのだ。






 家に帰ってすぐ、ヘリオスは部屋の中で何か探し物をしていた。我が家は騎士で貴族をしている。アーサーの屋敷のように部屋数があるわけではない。俺とヘリオスは、一緒に一つの部屋を共有していた。

 だから、俺はよく、ヘリオスを通して、アーサーの情報を聞かされていたのだ。そりゃ、詳しくなる。

 時々、鼻をならしながら、ヘリオスは二つの箱を出して、机の上に置いた。

「それは、アーサーとの文通か」

 箱の蓋をあけて、中身を机に広げられて、驚いた。塵も積もれば、とはいうが、その数はすごいものだ。アーサーは筆まめなようで、何事かあると、手紙をヘリオスに送っていた。婚約してからずっとだから、実際に見ると、すごい数だ。

 ヘリオスは、封筒を確認して、手紙を並べた。見てみれば、几帳面に、封筒の端に、手紙を書いただろう年月日が、綺麗な字で書かれていた。

 そうして、順番に並べられた手紙の中から、行先不明の手紙の束が出てきた。それをヘリオスは封筒から用紙を取り出して、目を通して、笑った。

「俺は、バカだ」

 泣いて、その手紙をぐしゃぐしゃになるように握る。

 俺は、別の手紙を見てみる。読んでみれば、アーサーが小屋に閉じ込められている間に書かれた手紙である。内容は、アーサーの家庭環境を知る俺から見れば、嘘ばかりだ。

「本当に酷いな」

「全然、字が違う」

「………は?」

 ヘリオスが何を言っているのか、最初、わからなかった。改めて、手に持つ手紙と、綺麗に日付順に並べられた封筒を見た。

 日付順に並べられた封筒の文字は、とても綺麗だ。さすがに、最初の頃は、字の大きさが微妙だ。それも、年々、綺麗に整ってきた。そして、アーサーの母親が亡くなる前年には、完成された綺麗な文字となっていた。

 ところが、アーサーが小屋に閉じ込められていた一年間は、拙い文字であった。読めるし、俺だったら気にしない。

 だけど、こうやって並べれば、明らかに、この日付不明の封筒は、別の誰かが書いたものだとわかる。

「リブロが、俺の手紙の返事を書いていた。しかも、わざわざ、アーサーに読み上げた後で、手紙を俺に送ってたんだ」

「なんだ、それ」

「アーサーに言われた。俺が書いた手紙が本物だと、字を見ればわかる。だけど、俺は、リブロが書いた偽物の手紙なのに、字を見ても、気づいてくれなかった、と。俺は、アーサーに言われるまで、全然、気づかなかった!!」

「っ!?」

 たぶん、俺も気づかないだろう。俺もまた、無頓着なんだ。文字の綺麗汚いは気にしない。内容を見て、読み流して、終わりだ。

 ヘリオスが婚約解消を承諾したのは、この手紙のことで、アーサーが恨み事を吐いたからだ。

 いつも笑顔で、アーサーは俺たち家族のことを許し、ヘリオスが過去に約束を破ってしまったことも、許した。


 だけど、アーサーは、偽物の手紙を信じたヘリオスのことを今も憎んでいる。


 種明かしをされて、やっと、わかった。アーサーは、復讐をしているのだ。物置のような小さな小屋に閉じ込められた一年をアーサーは絶対に許さない。だから、一つずつ、復讐をしているのだ。

 実の父親を去勢するなんて、と俺は思った。だが、今は仕方がない、と思う。アーサーは、父親の所業を許していない。

 ヘリオスでさえ、許されなかったのだ。この偽の手紙を笑って作ったアーサーの義兄リブロには、相当な恨みを抱いているだろう。

「リブロ、絶対に殺してやるっ」

 ヘリオスは、偽物の手紙を握りつぶして、何度も、呟いた。

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