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皇族姫  作者: 春香秋灯
男装の皇族姫-婚約解消のすすめ-
221/353

不名誉な悪名

 目撃者等は、その場で捕縛となった。私は巻き込まれただけだし、何より、秘密の皇族なので、賢者ラシフ様といえども、手が出せないので、放置である。

 すっかり立場が逆転してしまった。死んだ皇族様のご学友と側近護衛たちは、椅子に座っている私の目の前で縄でぐるぐるまきにされ、転がされていた。

「アーサーの周囲は、賑やかですね」

 様子を見に来てくれた辺境の教皇フーリード様は、この光景を見て呆れた。

「うまくいかないですね。私は円満に婚約解消をしたいというのに」

 私は皇族様とそのご学友を煽って、ヘリオスとの婚約を解消したかっただけである。せっかく皇族様とそのご学友が来てくれたから、これをネタに、ヘリオスに婚約解消を迫るつもりだった。

 だけど、頭で考えていても、所詮は机上の空論である。現実では、そうはならない。でも、理想として、こうなればいいなー、なんて考えるわけだよ。

 そして、滅茶苦茶になっちゃったわけである。

「この皇族は、どうして、首を斬られたのですか?」

 現場を見て、まず疑問を口にする辺境の教皇フーリード様。首と胴体がお別れした死体を見ても、フーリード様、冷静だ。見慣れてるんだな。フーリード様のことは、本当に気をつけよう。

「皇族じゃなかったから、殺した」

「皇族と偽ったのですか。それは、仕方がありませんね」

 女帝レオナ様の返答に、笑顔で納得するフーリード様。本当に、フーリード様のことは気をつけよう!!

 この首を斬られた皇族様が、本物か偽物かは、私にはわからない。しかし、皇族と名乗るのなら、絶対に、魔法でやられた、なんて言ってはいけないのだ。皇族には帝国最強の魔法使いの守護がついている。だから、皇族には、そこら辺にいる妖精憑きの魔法は届かないのだ。

 しかし、この皇族様には、私の妖精憑きキロンの魔法が届いてしまった。それを多くの人の前で行われた上、皇族様は魔法が届いたと証言してしまったのだ。もう、この人は皇族ではいられない。

 そして、皇族様に魔法が届いた場面を目にしてしまったご学友の皆さん、死んだ皇族様のために報告に行ってしまった側近や護衛の皆さんは、今、生きるか死ぬかの場に立たされていた。

「女帝陛下、ご報告があります」

 仕方なく、私が動いた。

「えー、そんな他人行儀な呼び方するなよ。名を呼べ。敬称もいらん」

「レオナ様にご報告があります」

 敬称だけは外すものか。私は皇族である事実は隠し通してやる。

 私が何を言い出すのか、楽しそうに待っている女帝レオナ様。失敗すると、斬られちゃうな、私。

「先ほど、皇族様が、未来の女帝だと言っていました」

「ほお、そうなのか。あれ、俺様、もう寿命か?」

「まだまだ、長生きですよ」

 笑顔で答える賢者ラシフ様。そうだね、女帝レオナ様、もっともっと長生きしそうだよね。ほら、好き勝手やっているから。

「ということは、皇位簒奪するつもりだったか。あれか、男の皇族使って、やるつもりだったんだな。この女と親しい奴をすぐに、呼び出せ。その腕前を見てやる」

 こうして、また、未来ある皇族様たちが女帝レオナ様の手によって処刑されたという。私も、レオナ様には逆らわないようにしよう。

「アーサー、報告ありがとう。楽しみが増えた。で、ここにいる奴らは、あの女が皇位簒奪を企んでると知っていたのか」

「さあ、どうでしょうか。私はたまたま、聞いただけですから。普段から、そういう話をしているかは、私にはわかりません。ほら、私はど田舎の領地で暮らす貴族ですから。接点がありません」

「そうだよなー。なんで、お前の屋敷に、皇族がいたんだ?」

「私と婚約者は釣り合わないということをわざわざ言いに来たんですよ」

「ああ、あの、女の恰好した婚約者か」

 いつ見たんだろう? 具体的にいうから、ちょっと怖くなった。女の私の婚約者を見たことがあるから、女の恰好をした、と言えるのだ。

「確かに、アーサーには、あの男は釣り合わないな」

「逆です、逆」

「お前はもっと、自信を持ったほうがいい。俺様が出会った者たちの中で、お前ほど、いかれた男も女もいない。実の父親を去勢したと聞いた時は、笑ったぞ」

「義兄は無傷です」

「どうせ、もう一度、間違いを侵したら、去勢するんだろう。お前の腹違いの妹はどうするんだ?」

「子を為せなくする手術が、王都では行えると聞きました。親子ともども、その手術を受けてもらいます」

 義妹だけではない。あの義母も、一緒に手術で子を為せない体にしてやる。

 私が平然とそういうと、女帝レオナ様は呆然となって、しばらくして、大笑いした。

「ぎゃははははははははは!! お前、本当にいかれてるな!!!」

「アーサー、後で話しましょう」

 さすがに辺境の教皇フーリード様は、私の言動には、何かまずいと感じたようだ。うーん、これは話し合いではなく、説教だな。頑張って耐えよう。

 そして、女帝レオナ様は、じっと捕縛されている者たちを見下ろした。まさか、手術するつもりじゃないよね? 私が言ったからって、やるのはやめてよ。レオナ様がやると、きっと、しばらく、流行っちゃうよ。

「さて、笑い話はここまでにしよう。皇位簒奪の証言も聞いてるというのなら、無罪放免、というわけにはいかないなー。俺様は、逆らう奴らは全て殺す、と決めている。実際、そうしてる」

「レオナ様が皇帝となってから数年は、いっぱい、皇族が死にましたね」

「あの時は、殺しすぎだって、お前に叱られちゃったなー」

「まさか、皇族が半数にまで減るなんて、思ってもいませんでしたから」

「反省しないけどな」

「知ってます」

 無茶苦茶、やったんだ!! 新聞にも載らない昔話だ。聞いていて、びっくりである。

「貴族の学校に通って、真面目に勉強して、偉いなー、なんて話してたのに、蓋をあければ、皇位簒奪のための武力作りだったとはなー。こいつの家族も処刑しよう。どうせ、同じこと考えてたんだろう」

「そうですね」

 軽々しく、未来の女帝、なんて口にしちゃいけないね。それを喜んで聞いていただろう、ご学友、側近に護衛は、真っ青を通して真っ白になっていた。調子に乗り過ぎたんだ。

「身の程をわきまえろって、それは、お前たちのことだな」

 そして、女帝レオナ様は、捕縛されて転がされている者たちを嘲笑った。







 皇族が死んだって、新聞に載るわけではない。皇帝だったら、新聞で喧伝するけど、一皇族ごとき、発表はされない。だいたい、皇族がどれだけいるのか、なんて表には出されない。表に出されるのは皇帝の情報のみである。

 だけど、皇族だけでなく、貴族の子息令嬢がどんといなくなったのだから、王都の貴族の学校は大騒ぎになった。貴族の学校に通っていた皇族が自主退学すると、時間差で、数人の貴族の子息令嬢が自主退学したのだ。それが皆、皇族様のご学友なのだ。

 貴族の子息令嬢なので、それなりに横の繋がりがある。突然のことに、仲良くしていた者たちが連絡をとってみれば、なんと手紙が戻ってきた。

 つまり、自主退学した貴族の子息令嬢は家族ごと、存在しなくなったのである。

 察しのいい者たちは、自主退学した皇族様関連で、何かあったのだろう、と気づき、沈黙した。最初は騒いでいた者たちも、忠告され、どんどんと口を閉ざされ、一か月もすれば、話題にも上らなくなったという。

 そんな話、辺境のど田舎にいる私は知らないはずだった。だけど、私のことを心配した婚約者ヘリオスが、また、先ぶれもなくやってきて、貴族の学校で起こっていることを話したのだ。

 私に会うなり、ヘリオスはすぐ、私の無事を確かめるように抱きしめて、体のあちこちを見て、さすってとする。もう、儀式だね、これ。

「友達に言ったんだ。私と婚約者のことは構わないでくれって。そしたら、次の日には、友達数人が学校を休んで、それから数日後には、自主退学してたんだ。ごめん、守ると言ったのに、また、私は」

「何もないですよ。この通り、平和です」

 いつもと変わらない光景を見せる。いつも出迎えている応接室の調度品はない。あるのは、椅子とか机のみである。ほら、昔、借金のため、そういうもの全て売り払ったから、屋敷のほとんどが、貧乏くさいんだ。

 そういう貧乏くさいとこも変わらず、何か入れ替われば、一目でわかるものだ。

「何か言われなかった?」

「誰にですか?」

「誰か、来たんだよね。私と婚約解消しろって」

「こんなど田舎に好き好んで来る人なんていませんよ。あ、ヘリオスは、仕方なく、ここに来てるだけですよね」

「アーサー」

「辺境の食糧庫であるここに来るのは、商人くらいです」

 あの日のことは、なかったことにしたのだ。

 この領地に、皇族の馬車は来ていない。領地民たちは、そんなもの、見ていない。屋敷では、皇族を出迎えていない。ヘリオスが調べても、皆、口を揃えて、否定してくれる。

 ヘリオスは苛立ちを隠さず、足をガタガタと震わせて、私を睨んだ。

「私に秘密を持つなんて。私は将来、アーサーと結婚するんだ。アーサーが秘密だと言えば、私は誰にも話さない」

「ヘリオスはご両親の説得、出来ましたか? ほら、貴族の学校を転校するって、言ってたでしょう」

「今は、そういう話じゃない!!」

「大事なことですよ。時間って、あっという間に過ぎていくものです。気づいたら、忘れていた、で終わりです。田舎はのどか、と言いますが、ちょっと油断すると、大変なことになります。天候一つとっても、神頼みしているだけではいけないのですよ」

「………ごめん、まだ、話していない。両親とは、いつも、アーサーとの婚約解消の話ばかりだから、最近は、顔もあわせてないんだ」

「そうやって、逃げてばかりだと、何も進みませんよ」

 私はヘリオスに厳しいことを言った。ヘリオスは途端、子どものように拗ねた顔をする。

 それを見て、私は内心、呆れてしまう。私とヘリオスでは、そもそも、経験が違い過ぎるのだ。私は生まれた時から、爵位を受け継いで、領主となるために、厳しい教育を受けて、今では、子爵代理である。ヘリオスは、子爵家次男なので、貴族の子息としての教育を受けているだけで、よくある子ども時代を送っていた。

 私は常に、子爵、領主の心構えを叩き込まれていた。

 ヘリオスは、ただ、最低限の貴族としての教育を受けただけで、後は、普通の人と変わらないのだ。

 私は田舎者、と王都の人たちに罵られる。王都はとても忙しい感じだ。だけど、王都で暮らしているヘリオスは、とてものんびりしている。逆に、私は常に、並行して、物事を解決していくようにしている。

 婚約解消や、学校の転校の話をのんびりと進めるヘリオスには、危機感がない。どうにか出来るだろう、なんて甘い考えが見えてきた。

 私は溜息をついた。

「もう、お祖父様が、この婚約関係を強制的に続けさせるつもりなんてありません。ヘリオスのご両親が、婚約解消の後押しをお祖父様に頼めば、私も婚約解消に了承している、と聞けば、強制的に、話は進みますよ」

「私は絶対にしない!! 私は学校を卒業したら、アーサーと結婚するんだ!!! アーサーは心配なんだよな。私の力が足りないって。だから、私は学校の成績を次席にまで上げたんだ」

「頑張りましたね。私は、入学試験の成績は、真ん中の中の真ん中です」

「アーサーなら、上位クラスにだってなれる実力はあるだろう!!」

「これが、私の実力です」

 嘘だけど。下手に上位クラスになったら、目立つ。だから、わざと真ん中になるようにしたのだ。入学試験のだいたいの成績を皇族の権力を使って調べて、それを元に、問題を解いたのだ。

「貴族になるということは、ただ、学校の勉強が出来ればいい、というわけにはいかないんです。今の私には、きちんとした保護者はいません。私が頼るのは、キロンです」

「私も頼りになるように、頑張るから!!」

「なら、まずは、ご両親としっかり話し合ってください。順序は守るべきです」

「だって、話にならない!! 兄上まで、婚約解消しろというし」

「皆さん、私のことを田舎者と散々、言ってくれてましたからね」

 ヘリオスの兄は、特に私のことを毛嫌いしていた。たぶん、女のくせに生意気だ、と思ったのだろう。

 現在、女も女帝になれるし、爵位を受け継げるし、跡継ぎにもなれるし、といい話に聞こえる。しかし、長年、男が優遇された世界だから、女が台頭するのは、そう簡単な話ではない。女帝が実力で皇位簒奪を行ったから、男は陰口をいうしかないのだ。

 女が上に立つなんて許せないから、この婚約をなくしたい。それが、ヘリオスの兄の本音だ。

「それでも、筋は通しなさい。ヘリオスだけで話すのではなく、お祖父様を巻き込めばいいのですよ。だいたい、この婚約が持ち上がったのは、年齢だけではありません。ヘリオスの家は、一時期、お祖父様から援助を受けていましたから。それが原因で、この婚約が成立してしまっただけです」

 どこにいっても、借金というものはある。

 ヘリオスの生家は子爵家であるのだが、領地持ちなわけではない。堅実に、役人や城の文官、騎士として、貴族をしているのだ。だから、我が家のように領地運営の失敗で借金、なんてなさそうに見える。

 堅実に生きていれば、そんな、借金をすることなんてないのだ。ヘリオスの両親は、友人の甘言に乗り、資金提供して、そのまま持ち逃げされてしまったのだ。もう、生活が出来ない、と困っている所、男爵家のお祖父様が援助したのである。

 援助というが、ようは借金だ。ヘリオスの両親は、返さなくていい援助、と受け取ったのだが、それをネタに、私とヘリオスの婚約を強制したのである。

 お祖父様、返せとは言っていない。しかし、次はない、と脅したのだ。

 次ということは、ヘリオスの両親だけではない。ヘリオスの兄の時だって、困っても、援助はしないぞ、と言ったのだ。こうして、ヘリオスは私の婚約者となったのである。

 婚約者となった事実は残る。もう、私は性別を偽る必要はないので、婚約解消をヘリオスの両親が申し出ても、お祖父様は許可するだろう。

 逆に言えば、ヘリオスがきちんとお祖父様に話を通せば、婚約解消は防がれるのである。

「私からは、何も言いません。ヘリオス、頑張って、お祖父様を説得してください。それくらいの甲斐性を見せてくれれば、私も考えを改めます」

「わ、わかった」

 ヘリオスだけが納得していない婚約解消だ。誤魔化しとなるが、あの祖父が、ヘリオスの味方になるとは思えない。

 私はヘリオスを見送るために屋敷を一緒に歩いた。ヘリオス、色々と覚悟した顔をしている。見た目はいいんだよな。成績もあげ、体術剣術も素晴らしいと聞いている。そりゃ、学校では人気者になるよ。

「あら、お義姉様、まだ、しつこく、ヘリオス様に迫っているのですね」

 貴族の学校帰りの義妹エリザがわざわざ私に声をかけてきた。嫌味をぶつけてくるとは、もう、私と仲良くするつもりはないな。

「そういうな。実の父親を去勢するような女の元に婿に来たいなんて、どんなに金を積まれたって、イヤだろう」

 義兄リブロも嫌味をぶつけてくる。お前も去勢してやろうか。

 私がじっと義兄リブロの下半身を見た。その視線に、リブロ情けなくも、義妹エリザの後ろに隠れた。

「次は俺を去勢するつもりか!?」

「まさか、私が父上を去勢した話、学校で吹聴してませんよね?」

「………」

「………」

 我が家の醜聞をよくも、吹聴してくれたな!! こいつら、本当にやってやろうか!!!

 反省もせず、我が家の、というよりも、私の悪評を貴族の学校で吹聴する義兄と義妹をヘリオスは呆れたように見た。

「まがりなりにも、片親を同じくする兄弟だろう。よくもまあ、そんな恥ずかしいことをするな。そういうことをすると、この家自体の格を落とすこととなるぞ。ひいては、お前たちの格も落とすとわかっているのか?」

「どうせ、爵位を受け継ぐのは、アーサーだからな」

「わたくしは、よい嫁ぎ先を見つけるだけよ。こんな田舎、さっさと出てやるわ」

「義兄上は?」

「俺は騎士になる!!」

「あははははは」

 私は大笑いした。その態度には、義兄リブロは怒った。

「今に見てろ!! 騎士になって、見返してやるからな!!!」

「あんなへっぴり腰で、何を言ってるんだか!!! 農作業を手伝わせてみれば、すーぐ息切れして、倒れちゃうのに、出来るの?」

「っ!? 農作業と剣術体術は別だ!!」

「えー、騎士って、技術だけでなれるわけじゃないんだよー。体力がないと。女で、こんなに小さい私よりも体力のない義兄上は、まず、見習い騎士の訓練を乗り越えられるのかな?」

「ど、どうにか」

「やめておいたほうがいいぞ。我が家は代々、騎士を排出する家系だから、我が子といえども、容赦のない指導をする。見たところ、リブロのこの体では、訓練には耐えられないな」

 ヘリオスは、リブロの体をぽんぽんと叩いて、呆れた。

「一応、貴族枠というものもあるが、そういうトコは、だいたい、上位貴族の子息が入ると決まっている。お前は子爵の子とはいえ、片親は平民だ。まず、貴族枠には入れない」

「義兄上、頑張ってください。応援しています」

 私は笑いをどうにかこらえて、心にもないことを言ってやった。

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