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皇族姫  作者: 春香秋灯
男装の皇族姫-婚約解消のすすめ-
219/353

先ぶれなしの来訪者

「アーサーは甘すぎるよ!!」

「どんだけ甘すぎなんだよ!!」

 筆頭魔法使いティーレットだけでなく、私の妖精憑きキロンまで、私の判断に苦言を呈してくれた。苦言じゃないけど。

「義母はともかく、義兄と義妹には、お金がかかっていますからね」

 追放なりなんなりすればいいのだが、義兄リブロと義妹エリザには、母が生きている頃から、それなりの支援をされている。教育だってされているのだ。そのまま放り出すわけにはいかない。

 義兄リブロと義妹エリザは謹慎処分となった。一応、貴族の学校には通えるが、寄り道すら許されない。しかも、再教育ということで、帰宅後、厳しい教師から特別講義を受けることとなっている。

「しかし、ネロには容赦ないですね」

「これ以上、種をバラまかれたら、たまったもんじゃない」

 父ネロは、去勢である。あの男が私の妖精憑きキロンにしでかした光景は、未だに悪夢で見ることがある。顔も見たくないから、義兄義妹と同じく謹慎処分ではあるが、そこに、さらに加えたのだ。

「ティーレット、面倒臭いことお願いして、ごめんね」

「アーサーのためなら、あの程度」

「俺だってやったのに!!」

「キロンがやったら、犯罪になっちゃうから」

 筆頭魔法使いティーレットを使って、私は義母と元使用人たちに特殊な契約を行ったのだ。キロンは出来るが、ほら、魔法使いじゃないから。キロンは野良の妖精憑きである。公に魔法や契約に手を出させてはいけない。

 私は義母と元使用人たちを犯罪奴隷にし、実家に返した。領地から出られない、領地民たちには絶対に従わなければならない、その上、犯罪者の焼き鏝まで押されているので、一生涯、犯罪者として過ごさなければならないのだ。この犯罪奴隷の契約、逆らう事も可能なのだ。しかし、逆らった時の天罰がとんでもない苦痛である。この命令も、盗む、人を殺す、という犯罪関係は従わなくていいようになっている。また、自殺は絶対に出来ない。

 身内には甘い処罰になったように見える。しかし、義兄と義妹は再教育をされることで、明るい未来がないことに気づくこととなる。

 義兄と義妹は、片親が貴族ということから、平民としての仕事をこなしたことがない。義兄と義妹は、成人までに、何らかの足がかりをつかめなければ、平民だ。しかも、後ろ盾がない。我が家は、義兄と義妹とは成人を機に縁を切るという書面を出している。

 気持ち悪いことに、義妹エリザは、今更ながら、私のことを「お義姉様」とすり寄ってきた。もちろん、妖精憑きキロンと筆頭魔法使いティーレットが間に入って止めた。その瞬間、嫉妬で歪んだ顔をするエリザ。本音は、やっぱり、私のことが憎いんだな。

 そういった裁きを筆頭魔法使いティーレット立ち合いの元で行われた。父はさっさと去勢され、義母と元使用人たちは犯罪奴隷にされ、義兄と義妹は別邸に謹慎である。

 内乱後の報告書も作ったし、私が出来る事後処理は終わったので、一息ついて、談笑していた。

 美味しいお茶にお菓子、耳障りな声も聞こえない。やっと、落ち着いたな。

「アーサーは、貴族の学校は、辺境で通うの?」

 持て成される側であるティーレットが私の給仕をしながら、聞いてきた。

「先々代までは、王都の学校に通っていましたが、父は辺境の学校に通いましたね。母はどこの学校に通ったんだろう?」

「王都だよ」

 ティーレット、調べたんだ。きっと、私を王都の貴族の学校に通わせようと、色々と考えたのだろう。

「今では、王都の本邸は先代の借金のために売り払ってありませんから、辺境の学校に通うこととなるでしょうね。まだ、領地も落ち着いたわけではないから、無駄遣いは控えないと。ただでさえ、内乱のせいで、余計な出費がありましたし」

 ギリギリと胃が痛くなってきた。やっと余裕が出来たというのに、父たちが余計なことをするから、私は女物の服を新調出来ないよ!! 男物のほうが、動きやすいからいいけど。

 来年には貴族の学校である。このままだと、初の女物は、帝国が作った制服となりそうだ。それは悲しいな。

「アーサー、学校は王都にしようよ。その、滞在費とか、そういうのは、僕が持つから」

 どうしても、王都で生活してほしい筆頭魔法使いティーレット。綺麗な顔で、私の顔色を伺う姿は、可愛いな。まだ、私中では、幼い姿のティーレットが前面に出てきてしまう。

「領主の仕事をネロに任せるわけにはいかないだろう!? まだ、油断ならないんだぞ」

 正論で拒否する妖精憑きキロン。ちょっと目を離すと、父ネロが何をやらかすか、わからないのは確かである。ほら、謹慎といったって、完全な監視は不可能なのだ。

 何より、妖精憑きキロンを完全に信用してはいけない。こいつ、自らの欲望のためならば、私を裏切るからな。

 私は無表情でキロンを見上げた。キロン、私の内心なんてわからないくせに、笑顔を見せる。私の前では、キロンも子どもに見えちゃうな。

「辺境の学校に願書出したから、入学試験は辺境の学校ですよ。ほどほどに勉強しないと。ただでさえ、一年、遅れちゃったし」

 ギロリとキロンを睨んだ。キロンは気まずいみたいに顔を背けた。そうだよ、お前が欲望のために私を裏切ったから、一年遅れで受験することになっちゃったんだよ!!

 今回は、私自身で願書を提出した。案内は亡き母の実家に届くようになっている。万が一、ということはない。

 そう、のんびりとお茶なんか飲んでいたのに、私の学校は、そう簡単には決められなかった。







 内乱終結から数日後、王都から、婚約者ヘラが先ぶれなくやってきたのだ。

 内乱は数日で終わったのだが、事後処理に時間がかかった。内乱は数日で、事後処理が二週間である。ほら、帝国に、きちんと解決しましたよ、と報告して、帝国から了解の書類を貰わないといけない。そうしないと、内乱がまだ続いていることとなって、領地が封鎖状態なのだ。一応、内乱が始まると、報告義務があるのだが、父たちがやるはずもなく、私がお世話になっていた神殿を通して、内乱の報告をしたのである。だから、帝国中が、辺境の領地で内乱が起こっている、と知っているのだ。

 内乱終息宣言をされたので、やっと領地の出入りが出来るようになったから、婚約者ヘラが心配してやってきたのだ。

「あのバカはどうしてるんだ!?」

 長い髪はそのままに、姿は立派な男子となった婚約者ヘラ。もう、女装やめたんだ。やっぱり、男なんだな、と見て思った。

 私はヘラの姿に呆然としているが、ヘラはそれどころではないのだ。案内された応接室に私が入るなり、つかみかかってきて、私自身に怪我ないか、と心配して、続いて出てきたのは、父たちの所在である。

「父は去勢、義兄と義妹は再教育、義母は犯罪奴隷です」

「………」

 あまりの内容に、ヘラ、絶句する。

「え、ネロは去勢? リブロも去勢したの?」

「いえいえ、父は去勢、義兄は再教育ですよ」

「そ、そうなんだ。リブロ、まだ、ついてるんだ」

「父はもう、子も為してるから、いらないでしょう。義兄は、次やった時は、去勢します。その時は、義兄といえども、子孫を残す価値はない」

「………」

 またも絶句するヘラ。笑顔でえぐいこと言ってる、と私も自覚している。

 私はヘラにお茶を勧めつつ、今日の分のお仕事を片手間にこなしていた。

「ねえ、アーサーは、いつまでアーサーなの?」

「? ずっとアーサーですね」

「女になったんだから、名前も改名するもんだろう」

「ヘラは?」

「ヘラは愛称。本名はヘリオスだよ」

「………そうでした」

 ヘラは元々、ヘリオスという男児として届け出されている。そこら辺を誤魔化して、学校に通っているだけだ。

 今は、ヘラ改めヘリオスは、男として通っているのだろう。もう、私は男と偽る必要がなくなったのだから、ヘリオスも女と偽る必要もない。

 一か月程前まで、帝国では、爵位継承は男児のみとされていた。ところが、皇帝レオンが、自らの性別が女であることを暴露した上で、帝国の法律を変えたのだ。

 男児でも女児でも、爵位継承が出来るようになった。

 私は爵位継承するために、性別を男と偽って届け出されたが、帝国の法律が変わったことで、性別女と訂正申告したのである。同じようなこと、帝国中に見られたことから、女帝が温情として、訂正申告を許した。お陰で性別の偽りは無罪とされたのだ。

「ヘリオスも、これから男として過ごすわけだから、大変だね」

 ヘリオスは届け出を偽ったわけではなく、女装していただけである。これから男として学校に通うとなると、色々と言われそうで、心配だった。

 ところが、ヘリオスは平然としている。

「心配ない。私が女装、アーサーが男装している、という話になっているから」

「そうなの!?」

「校則では、男が女の、女が男の制服を着てはいけない、とはなっていない。だから、堂々と女の制服を着て、男に混ざって、男の授業を受けてる」

 想像の斜め上をいっていた。そうかー、女装を堂々としている、と言ってしまえば、嘘にはならないね。

「でも、私は性別偽ってたわけだから、いつかは、私の嘘がバレたんだろうね」

「アーサーと結婚したら、王都のお友達とは疎遠になるから、バレることない予定だった」

「そんな事しなくてもいいのに、ヘリオス、学校、楽しいって手紙でも書いてたじゃないか。もう、私は性別を偽らなくていいんだし、婚約解消しちゃっていいんだよ」

「婚約はこのまま続けるよ。女帝がいう通り、今度こそ、アーサーのこと、私が守るから」

「気にしなくていいのに」

 ヘリオスは、まだ、過去のことを気にしていた。

 母を亡くしてすぐ、実権を父ネロが握ってすぐ、私は小さな小屋に一年間、閉じ込められたのだ。その間、私の味方は妖精憑きキロンのみ。新しく出来た家族である義兄と義妹は私に石を投げ、領地出身の使用人たちは私の食事を抜いてくれた。まだ愛人ではあったリサは、子爵夫人の顔をして、亡き母の持ち物を奪い、私のことを虐待した。

 たった一年、一年も、その生活が続いた。それも、父ネロが失敗して、領地民を飢えさせるほどの凶作となり、借金をまた、作ったのだ。その借金の証文を買い取った母の実家である男爵家が子爵家に乗り込んで、やっと、私は救われたのである。

 私の母が亡くなった頃、ヘリオスは貴族の学校に通い始めたばかりだった。それまでは、月に一度は領地から離れられない私の元に遊びに来ていたヘリオスだが、学校に通っているため、私の元に足を運べなかったのだ。それでも、長期休暇の時に、ヘリオスは私の元に来る予定となっていた。

 ヘリオスは、学校の友達と約束があるということで、手紙一つで、断りをいれたのである。

 別に、ヘリオスは悪くない。結婚すれば、私とヘリオスはずっと一緒だ。だから、学校に通っている間だけでも、好き勝手したいのは、仕方のないことなのだ。

 だけど、ヘリオスは、長期休暇の予定を変更したことを酷く、後悔した。

 もし、長期休暇で、ヘリオスが私の元に訪れていたら、もっと早く、私は救われたかもしれないのだ、と。

 気にしなくていいのに。私は救い出された後、ずっと、ヘリオスにはそう言っていた。本当に悪いのは、父、義母、義兄、義妹、そして、使用人たちだ。ヘリオスは悪くない。

 だけど、ヘリオスは今も、私が小さな小屋に閉じ込められた一年のことを気にしていた。

 ヘリオスは、私の手を両手で握る。

「次は、私を頼って。私がリブロの去勢をやるから」

「えー、でも、皆やりたがって、大変だよ」

 父ネロの去勢をするのに、筆頭魔法使いティーレットと妖精憑きキロンが大げんかした。他にも、リサの父親も名乗り上げていたなー。実は、去勢を実行したい人、いっぱいなんだ。

 ちなみに、義兄リブロと義妹エリザは、父ネロが去勢される現場を無理矢理、見せられた。リブロは、自らの下半身を両手で庇って、真っ青になって震えていた。エリザは、醜いリブロの下半身を見せられ、真っ青になっていた。






 婚約者ヘリオスがわざわざ、辺境のど田舎にやってきたのは別の用事であった。ヘリオスは、私宛の貴族の学校の受験票を持ってきたのだ。

「今度こそ、無事、受理されたんだー」

「王都の学校に通う約束は!?」

「………」

 そういう約束、子どもの頃にしたなー。母が健在の頃の話である。

 ヘリオスに言われて、私は思い出した。

「昔と今では、状況が違うよ。昔は、母上が生きていたから、そういう話になってたよ。だけど、母上が亡くなって、お祖父様からも、辺境から出るな、と言われたし」

「その話、お祖父様、覚えてもいないよ!!」

「私は覚えている」

 よく覚えている。

 母の葬儀で、祖父は私に言ったのだ。


「お前が爵位を継ぐんだ。そのために、領地から離れるんじゃない。あの男に隙を見せるな。いいな」


 母を亡くしたばかりだというのに、祖父は冷たい目で、私にそう言ったのだ。

「お祖父様は後悔してる!! まさか、それが、あんなことになるなんて、お祖父様も思ってもいなかったから」

「母ほど、私は出来がいいわけではありませんから。お祖父様の期待に答えられなくて、すみません」

「………」

 他にも色々と言われていたが、別に気にしていない。本当に、父ネロによって閉じ込められた一年は、色々と、勉強になった。

「お祖父様がいう通り、領地から出ることは、きっと、家を乗っ取られる。あの父から目を離したら、また、何か起こすだろう。いくら、領地民が私の味方といっても、父にはまだ、味方がいるでしょう」

「………わかった。だったら、私が辺境の学校に転校する!!」

「ヘリオス、生徒会役員やってるって聞いてるよ」

 生徒会役員って、名誉職である。誰もがなれるわけではない。

 生徒会役員は、首席と次席しかなれないのだ。これ、成績を落とすと、容赦なく交代である。ヘリオスは、努力して、やっと、生徒会役員になったと聞いている。

「王都の学校は、なかなか競争が激しいんだよ。きっと、辺境は簡単に首席か次席になれるかもね」

「でも」

「アーサーはどうなの。一緒に生徒会役員になろうよ。そうしたら、学校でも一緒にいられる」

「ヘリオスは、王都で頑張って。王都で勝ち進んだほうが、ヘリオスのためになるから。私は、せっかくだから、学校だけでも、のんびりと過ごすよ」

「じゃあ、私ものんびり過ごそう。どうせ、アーサーと結婚して、辺境で暮らすんだから。だから、ここでお世話になるね」

「まずは、ご両親と話し合って」

 ヘリオスの思いつきだけで話を進められる事ではない。

 幼い頃、私には話がわからないだろう、と大人たちは私の前で色々と話てくれたのだ。

 私は知っている。ヘリオス、本当は女装なんてしたくなかったのだ。

 私が女で生まれてしまったため、爵位を受け継ぐために、男として届け出をされたのだ。だけど、婚姻は女と、というわけにはいかない。そこで、年齢的にも近く、子爵家次男であったヘリオスを私の婚約者にしたのだ。私は男装しているので、ヘリオスは女装するしかない。

 私と婚約関係になったから、ヘリオスは無理矢理、女装することとなった。

 私と婚約関係になったから、親睦を深めるため、月に一度、ヘリオスは辺境のど田舎に顔出しすることとなった。

 私と婚約関係になったから、騎士の夢を諦めさせられた。

 子どもの頃のヘリオスは、態度からも、私との婚約に不満を示していた。そして、ヘリオスの両親だって、渋々、受け入れたのだ。

 この婚約、母方の祖父の命令である。

 仕方なく、の婚約だった。だけど、帝国の法律が変わったので、ヘリオスは、もう、私の婚約者でいる必要はないのだ。

 私は書類の間に差し込まれていた手紙に目を通した。

 それは、ヘリオスの両親からの、婚約解消に関する手紙だった。

 私は、ヘリオスの目の前でその手紙の返事を書いて、ヘリオスに渡した。

「ヘリオス、もう、女の恰好はやめていいですよ」

「だったら、アーサーだって、女の恰好しなさいよ」

「父上が余計なことをしなければ………」

「やっぱり、リブロも去勢しよう。まだ未成年だからって、許されるのはおかしい。内乱に参加してたんでしょう」

「エリザはどうするの?」

「そういう手術しちゃうとか」

「そんなこと、出来るんだ。でも、娼館では、そういうこと、されてないよね」

 娼館では、子どもが出来ないように、避妊薬を常用していると聞いている。安い避妊薬だと、体を壊すという話だ。

 だったら、妊娠出来ないように手術する、という選択肢を娼婦たちに与えればいいのに。

「聞いた話だけど、そういう手術すると、太るんだって。実際、そういう娼婦がいるんだよ」

「詳しいね」

「き、聞いた話だから!!」

「私も、一年もキロンと同衾していたから、決して綺麗な身じゃないんだよね」

「違うから!!」

 強く否定するヘリオス。別に、健全な男なんだから、娼館で女遊びしたっていいのに。私は気にしないよ。

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