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皇族姫  作者: 春香秋灯
男装の皇族姫-妖精憑きを嫌悪する領地-
217/353

女になる

 王都の神殿に戻れは、私は妖精憑きキロンの元で一息ついていた。舞踏会では散々だった。もう疲れたよー。

 だから、私はもう、敬いとか、そういうのは出来ない。

 妖精憑きキロンは座っている私の後ろから離れるものか、としっかりと抱きついてきた。美味しいお茶を淹れてもらったから、許そう。

 そして、座ったいる私の膝の上に、もう定位置みたいに、ティーレットが座っていた。まあ、子どもだから、仕方がない。王都にいる間だけ、我慢しよう。

 私の向かいでは、絶世の美女を晒した皇帝レオン様改め女帝レオナ様が座って、同じお茶を飲んでいた。目の保養だから、これも我慢しよう。ほら、領地に戻れば、こんな美女、お目にかかれないから。

 女帝レオナ様の後ろには、筆頭魔法使いラシフ様が立っていた。何故か、ラシフ様と妖精憑きキロンが睨みあっている。頭の上で視線だけで戦うのはやめてー。

「やめなさい」

 場の空気を和ませるためか、辺境の教皇フーリード様がキロンの後頭部を容赦なく叩いた。

「何するんだよ!!」

「目の前にいるお方は、女帝レオナ様と、筆頭魔法使いラシフ様ですよ。帝国で一番目と二番目の権力者です」

「あいつ、俺のアーサーに妖精つけようとしたんだぞ!!」

「筆頭魔法使いなんだから、仕方がないでしょう。そういう契約なんです。それも、キロンに負けて、出来ませんでしたけど」

 あ、筆頭魔法使いラシフ様、むちゃくちゃ落ち込んだ。妖精憑きだから、自尊心高いんだよね。しかも、帝国最強、と呼ばれているから、ラシフ様、負けて悔しいんだ。

 膝に座っているティーレットは我慢しない。私に抱きつくキロンの腕を叩いた。

「いくら先に会ったからって、独り占めするな!!」

「俺はお前にも勝つ」

「ティーだって、勝つ!!」

 妖精憑き同士の、よくわからない戦いが勃発しているようだ。

「こら、キロン。こんな小さい子ども相手に、大人げないことするな」

 私はキロンを軽く注意する。妖精憑きにだって、大人子どもがあると考えたのだ。

 そう注意すると、キロンは怒りの形相となって、ティーレットの首根っこをつかんで、無理矢理、私から剥がした。

「この、離せぇ!!」

「何がガキだ!! こいつは、俺と同じだ!!!」

「………まさか!!」

 私は途端、鳥肌がたった。過去にも、同じような気持ち悪さを感じたことがある。

 私は皇帝レオナ様と筆頭魔法使いラシフ様を見た。

「あの、もしかして、ティーレットって、見た目の年齢じゃ」

「ないない」

「立派な大人ですよ」

「私に寄ってくる妖精憑きは、変態ばっかりだ!!!!」

 私はティーレットからも距離をとった。泣きついてくるが、私は容赦なく払った。

「子どものふりをして、私に悪戯しようとしたのか!?」

「そ、そんなぁ。ただ、アーサーにくっついていたいだけのに!!」

「それを子どものふりをしてやるから、タチが悪いんだ!!! この変態をどうにかしてください、ラシフ様」

「アーサー!!」

 私は妖精憑きキロンを使って捕獲したティーレットを筆頭魔法使いラシフ様に差し出した。子どもだと思って甘い目で見ていたが、その中身は立派な大人だと知った今、近寄るのもイヤだ。

 半泣きで、ティーレットは辺境の教皇フーリード様が抱き上げられた。

「だから言ったでしょう。嫌われるって。以前、キロンも同じように、見た目を子どもでアーサーにくっついていたから、正体を知られた時に、変態と嫌われたんですよ」

「で、でも、大人になったら、儀式を受けないと、い、いけない、し」

 ぐずぐずと泣いている姿は、哀れみを感じる。見た目がいいから、何でも許してしまいそうになるな。

「大人になったら儀式をするって、嫌がらなくても」

「すっっっっっっっっごく痛いことやるんだよ!! 背中に、こーんな大きな焼き鏝で、契約紋をつけるんだから!!!!」

「?」

 まず、儀式が何なのか、わからない。私はただ、首を傾げるだけである。

 とこで、突然、筆頭魔法使いラシフ様が上半身を脱いだのだ。

「一応、私は性別女ですよ」

 見ても何も感じないけど。あ、女帝レオナ様は何やら意味ありげにラシフ様の引き締まった肉体を見ている。気づかないふりをしよう。

 ラシフ様は、私に向かって背中を見せてくれた。

「っ!?」

「うぇええええーーーーーん」

 私は声もない。ティーレットは、ラシフ様の背中にある酷い火傷でつけられた紋に大泣きする。

「これは、痛そうですね」

 こんな痕が残るほどの火傷である。相当、痛いはずだ。

「痛いなんてものじゃありません。この紋を定着させるために、回復を阻害されるんです。そのため、儀式を行って一か月は、寝たきりですよ」

「魔法使いって、皆、こんなことしてるんですね。大変だ」

「儀式を行うのは、筆頭魔法使いだけですよ」

「………へ?」

「ティーレットは、本来、筆頭魔法使いとして、ここに立っているはずなんです。それをこのバカが!!」

「悪かったって」

 ラシフ様、珍しく、女帝レオナ様を睨み下ろした。何かやったんだな。そんな二人を微笑ましいとでも見ている辺境の教皇フーリード様は、ティーレットが子どものまま成長を止めている理由を教えてくれた。

「魔法使いの間では、ティーレット様のことは有名ですよ。皇帝陛下が、筆頭魔法使いの儀式を恐ろしく伝えたものだから、ティーレット様は大人になりたくなくて、時を止めてしまったんですよ」

「えー」

 それはまた、情けない話だ。聞いてて、呆れた。そりゃ、女帝レオナ様はティーレットに嫌われるよ。子どもが物凄く嫌がることをレオナ様、一通り、ティーレットにやっちゃったんだ。

「けど、ティーレット、いつまでも子どものままはダメだよ。ティーレットの身の回りは、帝国民の税金で賄っているんだ。今すぐ、筆頭魔法使いの儀式をやりなさい」

「そ、そんなぁ!!」

「ティーレットは、私のことが好きなようですし、私がお手伝いしましょう」

 この甘ったれたクソガキを許せないので、私は笑顔でティーレットの身柄を確保した。

 私に抱き上げられ、ティーレットは抵抗しようとしたけど、悲しいかな、妖精憑きの本能に負けて、私の胸に顔を埋めた。








 舞踏会の翌日、王都の神殿を出る準備をした。

「王都の観光をしたい!!」

「そうよ!!」

「友人と約束してるんだ」

 義妹エリザが言い出すと、義母リサ、義兄リブロが続いた。

 私はいつでも移動出来るように、荷物をまとめた後だ。まず、観光なんてする気はない。さっさと帰って、領地民どもに現状を知らしめなければならない。

「アーサー、身分証の訂正が終わりました。これで、晴れて、女性として過ごせますね」

 そこに、辺境の教皇フーリード様が再発行された私の身分証を持ってきた。ついでに、余計な情報を投下してくれる。

「じょ、女性?」

「まさか、女なのか!?」

 義母リサは呆然となり、義兄リブロは私につかみかかった。もちろん、妖精憑きキロンが容赦なく魔法でリブロを吹き飛ばしたが。

「どういうことよ!?」

「よくある話です。私が女だと、爵位を受け継げないから、男と偽ったんです。今回は、法律も変わったし、女帝の温情から、性別の変更をしてもらえました。まあ、女に戻っても、ここがねー」

 男と偽って男装していたが、胸がないから、それを隠す必要もなかった。ちらっと義妹エリザを見れば、見事な胸だ。私は性別を女にしても、男にしか見えないだろうな。

 頭の足りない義母リサは、だんだんと理解して、怒りで顔を真っ赤にした。

「それじゃあ、本当は、リブロが跡継ぎだったということかい!!」

「そんなわけないでしょう。出る杭は打たれる。逆らう弱者は強者によって踏みつぶされると決まっています。義兄が跡継ぎだと名乗り上げた途端、あなたたち親子は、消されてますよ」

「アタシが平民だからって」

「順位があります。一番は私です。その次は、確かに父の息子である義兄でしょう。ですが、その次も存在するのですよ。有力貴族の後ろ盾を持つ三番目がいます。私がいなくても、邪魔なあなた方は声をあげた時点で、消されます」

「それじゃあ、お家乗っ取りじゃないか!?」

「声をあげる人を消せばいい。それで終わり。何より、義兄は本当に父親が貴族だと、どう証明するのですか?」

「アタシが浮気したっていうのかい!!」

「死人に口なしですよ。長生きしたかったら、黙ってろ」

「っ!?」

 いつも笑顔で、上手に対応してやっているが、さすがに私にも我慢の限界がある。

 それでも、わけのわからない自尊心で、義母、義兄、義妹は私を憎悪をこめて睨んできた。

「さっさと帰る準備をしなさい。男爵家への借金はまだまだたくさんあります。無駄遣いなんて許しません」

「ケチっ!!」

 投げセリフが育ちの悪い平民だな。私は義母リサを呆れて見送った。

 義母たちがいなくなってから、私は改めて、身分証を見る。確かに、性別は女になっている。

「女帝レオナ様、万歳」

 一生涯、女帝レオナ様には感謝しよう。

 そして、改めて、辺境の教皇フーリード様に深く頭を下げた。

「これまで、性別の偽りを見逃していただき、ありがとうございました」

「あなたが皇族だと知った時は、私も死を覚悟しましたよ」

「その時は、私がフーリード様を助けます」

「………私は、あなたの母マイアに一目惚れしました」

「………」

 妙な告白が始まった。これは、聞いていいものだろうか。

「マイアは浮気していませんよ。あなたの父ネロを嫌っていましたけど、貴族としての教育をしっかり受けた女性ですから、浮気なんてしませんでした。誘惑はしましたけどね」

「したんだ!!」

「しましたよ。ですが、マイアは待っていてほしい、と言いました。なのに、先立たれるなんて」

「すみません」

「突然の死でしたから、調査をしたかった。私は、ネロを疑っていました」

 恋は盲目、という。こんなに出来た人である教皇フーリード様といえども、私情に走ることがあるんだな。

「結局、マイアの実家がそれを強く拒否しました。遺書にまで書かれてしまったら、調べようがありません。マイアの実家は男爵といえども、権力が強く、マイアの遺体はすぐに消し炭にされ、骨一本、残されませんでした。死因を調べられないように、痕跡全てを消してしまいました」

 フーリード様は、私の頭を優しく撫でた。

「もし、アーサーが私の子であったら、全てをもって守りました。ですが、あなたの父親はネロだ」

「あの男が父親なのが、私の最大の汚点です」

「ぷっ、あははははははは」

 笑いのツボに入ったようで、フーリード様はしばらく、大笑いしていた。

 笑いがおさまると、フーリード様は私を力いっぱい抱きしめた。

「あなたは、マイアにそっくりだ。あなたと話していると、マイアを思い出す」

「うーん、母の胸はこう、ふくよかでしたが」

「そこは、父親の血筋なのかもしれないな」

「義妹の胸もふくよかで」

「ふふふふ、あははははははは」

 また、大笑いするフーリード様。笑い過ぎて、ちょっと涙目になっていた。







 領地に戻ってすぐ行ったことは、領地出身の使用人の解雇である。解雇理由はいっぱいある。これまで溜めに溜めた不正の数々を証拠つきで突きつけた。この中で、一番ひどかったのが、父ネロについた執事や家令である。あまりの不正に、土下座まで許しを請う執事や家令をそのまま、役人に引き渡した。こうして、領地出身の使用人は綺麗にいなくなった。

 屋敷の中で外部の味方がいなくなった父たちは、しぶとく居座っていたが、私は容赦なく、本邸から別邸へ移動させた。使用人は全て、外の領地からの採用である。執事や家令は、男爵家から派遣された者たちなので、父たちがいくら命じても、聞く耳なんて持たない。イヤは話だが、給料を支払っているのは、男爵家なのだ。子爵家の者に従うはずがない。

 やっと、屋敷も綺麗になった、と思ったら、今度は内乱である。領地出身の使用人たちを足がかりに、父たちは領地民たちを扇動して、屋敷を襲ったのだ。

 この内乱、確かに成功した。私は屋敷を明け渡したのである。屋敷を乗っ取ったその日はお祭り騒ぎとなった。領地民全てが屋敷に集まり、やりたい放題だったのだ。しかし、次の日、領地民たちが家に帰れば、貴重品類が全てなくなっていた。料理するための鍋類までなくなっていたのだ。貴重な食糧もない。

 この領地、それなりに領地民の所在とか、管理されているのだ。大人も子どももいなくなった家を家探しするなんて、簡単だ。子爵家にいる使用人たちは全て、領地外出身の者たちだ。泥棒のような真似ではあるが、私の命令に忠実に従い、領地民たちの財産を根こそぎ、没収したのである。

 これには、領地民たちは怒り狂った。泥棒だ何だと役人まで呼んだのだ。

 そこに出てきたのは、男爵家が持つ借用書と、領地民全てに課せられた契約書である。

 役人まで呼んで、私を泥棒だ、と訴えたのだが、借金の返済をしない領地民の持ち物は、領地民の物ではない、となった。盗られたのではなく、差し押さえである。しかも、内乱に加担したのだから、領地民の財産は全て、私に没収されても仕方がない、とまで役人に言われてしまったのだ。

 内乱は成功したが、父たちからの施しは初日のみであった。

 私はというと、辺境の神殿でお世話になっていた。神殿は妖精憑きの巣窟だと毛嫌いしていた領地民だが、背に腹は代えられない、と神殿に押し入ってきたのだ。

 出迎えたのは、辺境の神殿で一番偉い教皇フーリード様である。

「どうか、アーサー様に会わせてください」

「もう、着る物もなく、食べる物もなく」

「赤ん坊もいるんです」

「助けてください!!」

 見るからに薄汚れている領地民たち。お祈りに来た平民たちでさえ、この領地民の汚れには、近寄りたくないと、神殿から飛び出して行った。

「どうかしましたか? 領主は父になりましたよ」

 場所を神殿の外に移動してもらい、私は健康そのままで、笑顔で領地民たちの前に出た。

 一瞬、怒りで剣呑となる領地民たち。しかし、神殿にいる者たちは、領地民たちの所業を知っているので、蔑むように見ていた。それは、お祈りでやってきた平民たちもだ。領地外に出れば、領地民たちにとっては敵地であった。

「俺たちが悪かった!!」

「どうか、食べ物だけでも返してほしい」

「頼む!!」

 赤ん坊まで大泣きである。これには、野次馬たちも憐れなものを感じた。

「もう、手元に残っていませんから、返せません」

 しかし、私は容赦しない。没収した物全て、処分したのだ。

「あんた、なんて酷いヤツなんだ!!」

「こんな奴のために」

「俺たちは悪くない!!」

「悪いでしょう。借金、返済出来ていませんよね」

 領地民たちは、黙り込んだ。借金まみれのくせして、悪くないなんて、図々しいなー。

 借金と聞いて、野次馬たちの見る目も変わる。踏み倒すのは、悪い事なのだ。そんな領地民を誰も信用しない。逆に、巻き込まれたら大変、と遠巻きとなった。

 結果的に悪いのは領地民である。父の口先三寸に踊らされ、内乱を起こして、勝利はしたが、財産全てを奪われてしまった。それも、借金が理由だ。

 しかし、神殿は迷える者を受け入れる場である。心優しいかどうかはわからないけど、辺境の教皇フーリード様が、憐れな領地民たちに味方した。

「アーサー、それでは可哀想ですよ。間違ったとしても、許してあげないと」

「しかし、返せないです。もう、ないですから。全て、処分しました」

「そうですか。それでは、神殿から、必要なものを差し上げましょう」

 辺境の教皇フーリード様がそう言うと、待っていましたとばかりに、神殿から、どんどんと物資が運び出された。

「これは」

「まさかっ!!」

 出てきたのは、元は領地民たちの持ち物であった。

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