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皇族姫  作者: 春香秋灯
男装の皇族姫-妖精憑きを嫌悪する領地-
215/353

皇族

 皇帝レオン様は、とても珍しい皇族だ。生まれは貧民だという。たまたま、筆頭魔法使いラシフ様が貧民街の視察に行った時に見つけた貧民に発現した皇族だ。発見された時、レオン様は成人した後で、皇族教育は不可能、と言われていた。しかし、皇族最強の血筋と筆頭魔法使いラシフ様が言い切ってしまい、大変なこととなったのだ。

 これには、皇族間でも激震が走った。筆頭魔法使いを味方につけてしまった貧民に発現した皇族レオン様をどうにか排除しようと、戦争に参戦させたのだ。皇族は絶対に参戦というわけではない。それを何も教育をされていないレオン様を騙すように戦場に出したのだ。先帝は、レオン様の育ちの悪さに、さっさと戦死させようと、先陣を切らせたのだ。

 しかし、レオン様は貧民でありながら、腕っぷしは立派だった。無茶苦茶な剣術と体術で、敵兵を蹂躙し、なんと、将軍の首を持ち帰るなんて偉業をなしたのだ。

 貧民に発現した皇族レオン様が大活躍してしまったのだ。皇帝も先陣に出ることとなった。どうせ、筆頭魔法使いラシフ様の妖精が守っているのだ。皇帝は戦場に出ても、傷一つつくことはない。そう、先帝は考えていた。

 その隙をついたのが、よりによって、貧民に発現した皇族レオン様だ。先陣に立って、下手くそな剣術と体術で戦う先帝をレオン様は殺したのだ。

 戦争中での皇位簒奪であった。

 この行為に、皇族だけでなく、貴族まで批判した。戦争中に味方を攻撃するなど、戦意だって落ちる行為なのだ。

 戦時中、まだ、決着もついていない野営で、貧民に発現した皇族レオン様は、皇族たち、貴族たちを嘲笑った。

「何故、俺様を殺そうとしている奴に背中を任せなきゃいけないんだ? 俺様は死にたくない。だから、殺したんだ。何が味方だ。ここにいる奴ら全て、俺様の敵だ!!!」

 これには、誰も反論出来なかった。皇族だけでなく、貴族たちも、貧民に発現した皇族レオン様を排除したいばかりだったからだ。

 そんな中、レオン様の前に膝をついたのは、筆頭魔法使いラシフ様である。

「私の皇帝、どうか、ご命令を。私に先陣を命じてください」

「俺様の邪魔をする奴らを排除しろ。そうすれば、敵の大将の首をもっと、持ってきてやる」

 そうして、レオン様は帝国史上、ただ一人、人の力のみで戦争を勝利した皇帝となった。







「いえ、褒美はいりません」

 それよりも、はやく、この場から逃げ出したい!! 私は顔を下げたまま、表向きは殊勝なことを口にして、、内心では悲鳴をあげていた。

 私の内心を理解されるはずもなく、何やら、皇帝レオン様は誰かと話し合っている。その内容はわからない。まず、皇帝の隣りにいるのは、誰なんだ?

 色々と疑問は思い浮かぶが、私は沈黙する。こういう時は、黙っているのが一番だ。

 偉い人たちが勝手に話し合って決めてくれるのを待っているというのに、また、ティーレットが私の横にやってきて、べったりとくっついた。

「ティーね、この人と一緒にいるー」

「ダメです」

「お前なあ、きちんと親兄弟がいる奴を飼うわけにはいかないだろう」

 まるで、私は捨てられた犬猫みたいな扱いだな!! 人扱いされないが、私は耐えた。ほら、偉い人たちは、私を帰す方向へ話を進めてくれる。

 だけど、ティーレットが諦めない。私の腕にしがみついて、その場を立たせようと引っ張るのだ。

「ほら、立って!! ティー、決めたの。この人をティーの皇帝にする!!!」

「無理だよ!!」

 さすがに私も黙っていられなかった。何言ってくれてんの、この子!! これじゃあ、私、反逆を企てる危ない貴族だよ!!!

 再び、ティーレットは皇帝レオン様に首根っこをつかまれ、私から引きはがされた。

「お前なぁ、こいつ、ただの人だって話だぞ」

「そうです、この人は、ただの人です。間違いありません」

 皇帝レオンの隣りにいる人が、私をただの人と断言する。そうそう、私、本当に無害な人なんだよ!!

「レオン、離してぇ!!」

「もう、迷惑かけるんじゃない。だいたい、お前、まだ半人前なんだから、ここにいちゃダメだろう」

「でも、ティーの皇帝が来たから」

「そうなのか?」

「違います」

「だそうだ」

 ティーレットの訴えも、子どもの戯言、と皇帝レオンは聞き流す。

 いつまで、私はここで茶番に付き合わなければならないのだろうか。私は顔を下に向けたまま、偉い人たちとティーレットの口論が終わるのを待っていた。もう、このまま走って逃げてもいいと思う。許されるよね。

 しばらくして、ティーレットの迎えが来た。

「ティーレット様、お部屋に戻りましょう」

 やっぱり、こういう時は女性だな。声だけだが、とっても優しい感じがする。さっさとティーレットを連れて行ってくれ。

 なのに、ティーレットはまた、私の元に戻ってきて、私の腕にしがみついた。

「レオン、信じて!! この人は、皇族なの!!!」

「ティーレット、いい加減に」

「待て。これは、ここで話すことじゃない。坊主、付き合え」

 とんでもない話になった。私の左右を魔法使いが囲んだ。これ、逃げられないな。

 私は諦めた。顔を上げて、皇帝レオン様を見た。ガラの悪い話し方をしているが、皇帝だから、きちんとした身なりをしている。顔立ちも、まあまあ整っている。

 ただ、想像したよりも、小さいな。とても、戦争の英雄には見えない。

 なんて失礼なことを思いながら、私は再び、頭を下げた。

「喜んで、お付き合いします」

 長い物には巻かれよう。私は声に感情を乗せないよう、答えた。






 皇帝が座る玉座の後ろには、玉座で隠れるような扉があった。そういえば、皇帝や皇族の入場はなかったな。いつの間にか、皇帝と皇族は席についていた。舞踏会の始まりの合図もなかった。受付を終わらせて行ってみれば、賑やかだった。

 皇帝レオン様の後ろをティーレットを抱き上げて歩く男は派手な魔法使いの衣装を着ていた。衣装を見ただけでわかる。この男こそ、筆頭魔法使いラシフ様だ。

 帝国最強の妖精憑きと呼ばれるラシフ様。妖精憑きとしての力が強すぎるため、その見た目は若々しく美しい、とは聞いている。実際に見てみれば、確かにそうだ。

 もしかして、ティーレットは筆頭魔法使いラシフ様の子ども? 辺境の領地で暮らしているから、王都の世情には疎い。私の知らない情報なんだろう。

 そんなことを頭で考えながら、私は両脇を魔法使いに囲まれ、無言でついて行った。皇帝レオン様は、一度、城から出た。そして、王城の敷地内ではあるが、城の外にある豪勢な屋敷に入っていく。そこからは、私の両脇にいた魔法使いは屋敷の外で待機となった。私も外で待機したいなー。

 屋敷に入ると、筆頭魔法使いラシフ様は、ティーレットを腕から下ろした。

「私はお客様のお迎えの準備をします。ティーレットも手伝いなさい」

「ティーの皇帝は、ティーがおもてなしするの!!」

「ついでに、レオン様も持て成してください」

「レオンはやらない!!」

「どうして!?」

 何故か、ティーレットは皇帝レオン様のことを嫌っている感じだ。

 わかるけど。皇帝レオン様、きっと、子どもに意地悪しちゃう大人だ。可愛い子どもに対して、構い過ぎるのもあるのだろう。レオン様は可愛がっているつもりだが、受ける側である子どもにとっては、迷惑でしかないのだ。

 皇帝レオン様はむちゃくちゃ落ち込みながらも、私を応接室に案内してくれた。あれ、皇帝に案内させるのって、どうなの?

 皇帝レオン様が勧める席に黙って座る私。レオン様、私と何か話したいみたいだけど、私は貝のように口を閉ざす。許可もらってないから、黙っていよう。

 気まずい空気が私と皇帝レオン様の間に流れる。そんな部屋に、お茶やら菓子から持って筆頭魔法使いラシフ様とティーレットが入ってきた。

 皇帝レオン様の持て成しは筆頭魔法使いラシフ様、私の持て成しはティーレットである。

「ティーが作ったんだよ!!」

「上手ですね」

 菓子を食べて、感動して、ついつい、声に出してしまった。仕方ない、美味しいから。

 真正面には、皇帝レオン様が座り、その後ろに、筆頭魔法使いラシフ様が立った。座る私の膝には、当然のようにティーレットが座る。可愛いから許す。

 皇帝レオン様と筆頭魔法使いラシフ様が、物言いたげにティーレットを見ている。何かあるのだろう。私はその何かがわからないが、あえて、気づかな振りをした。知らないほうがいい時もある。

「さて、この坊主が皇族だっていうが、ラシフの妖精は守護についてるのか?」

「ついていません」

 笑顔で言い切る筆頭魔法使いラシフ様。

「坊主は、皇族ってのは、どういうものか、どこまで知ってる?」

「皇帝陛下のことは有名ですから、辺境のど田舎でも、語り草となっています」

「えー、そんなに俺様、有名なんだー。照れるなー」

 姿勢悪くして、意味ありげに笑う皇帝レオン様。照れてないよ、それ。どちらかというと、私を値踏みしているよね。

 皇族と認めてもらうのは、実は簡単である。筆頭魔法使いを跪かせればいいのだ。

 筆頭魔法使いは、皇族に絶対服従の契約を施されているという。そのため、皇族には逆らえないのだ。そして、その契約の中には、皇族に妖精の守護を与える、というものがあるという。

 皇帝レオン様が貧民でありながら皇族だとわかったのは、筆頭魔法使いラシフ様の妖精が、勝手にレオン様の守護についたからだ。ただ、何か間違いがあるかもしれないので、きちんと、皇族の儀式を行い、見事、レオン様は筆頭魔法使いを跪かせたという。

 貧民が皇族、さらには皇帝にまで成り上がったのだ。帝国中が興奮した。皇帝レオン様を元にした大衆小説がたくさん書かれたほどだ。この大衆小説で、間違ったことが書かれるといけないから、と帝国は皇族の儀式の内容を公開した。お陰で、演劇にまで皇族の儀式は正しく取り込まれ、文字が読めない平民まで、知識として得られるようになったのだ。

 私は、新聞や大衆小説で学んだけど。演劇なんて見る余裕ないよ。何せ、父親が新な借金をこさえてくれたから、それをなくすために、私が当主代理をしているのだ。

 わざわざ、口にしなくても、皇族の儀式の常識を確かめることはないだろう。皇帝レオン様も、答え合わせのような真似はしない。

「しかし、坊主には、ラシフの妖精が守護についてない。皇族なら、筆頭魔法使いの妖精がつくもんだ。こいつは、皇族じゃない」

「皇族だもん!! ラシフが弱いだけだよ!!!」

「私は帝国最強の魔法使いですよ!!!」

 さすがに自尊心を傷つけられて、筆頭魔法使いラシフ様がティーレットに言い返した。相手は子どもだけど、大人げない、とは言えない。

 筆頭魔法使いは帝国最強の魔法使いである。つまり、帝国最強の妖精憑きなのだ。筆頭魔法使いになれるほどの妖精憑きは、帝国中の妖精憑きが束になっても敵わないという。

「ラシフは、ティーよりは弱い」

「っ!?」

 そうなの!? 私は膝に座って自慢気にいうティーレットを見る。

「待て待て!! ティーレットは確かにラシフより強いけど、お前は、まだ、筆頭魔法使いじゃないだろう。儀式やってないお前の妖精が、この坊主の守護についてるのか?」

「つ、つけてない。もう、他の妖精憑きの匂い付けされてる」

 身に覚えがある。私にべったりくっついている妖精憑きキロンだ。ただの人ではわからないが、妖精憑きにはわかる匂い付けを私はキロンにされているという。これをされると、私は妖精憑きキロンのお気に入りとなって、他の妖精憑きは手が出せないという話だ。

「へー、じゃあ、ラシフの妖精はつけられないのか」

「そんなわけないでしょう!! 匂い付けされていても、皇族であるのなら、私の妖精が守護としてつきます!!!」

「じゃあ、この坊主は皇族じゃないな」

「皇族なの!!!」

 矛盾が生じるのだが、ティーレットは私を皇族だと言い張る。

「匂い付けした妖精憑きは、ラシフより強い妖精憑きなの!! ティーよりも先に匂い付けするなんて、悔しい!!!」

「そんなはずありません。私に匂い付けした妖精憑きは、どこにでもいる妖精憑きですから」

「まずは、この坊主の情報だな」

 見えない力での解決は不可能だと気づいた皇帝レオン様は、ここで話を止めた。

 私から話すことはない。まず、情報提供するものがないのだ。何がどうなっているのか、私が持っている知識ではわからない。

 しばらくして、ドアがノックされる。入る許可を筆頭魔法使いラシフ様がすると、使用人によって、ドアが開けられた。

「何故、教皇が!?」

「フーリード様!?」

 ラシフ様が驚いた。私が驚くのは仕方がないが、帝国最強の妖精憑きである筆頭魔法使いラシフ様がわからなかったというのは、おかしい話だ。

 辺境の教皇フーリード様は、両手に書類の束を持って入ってきた。いつもの穏やかな笑顔を浮かべて、ラシフ様の横に立つと、深く一礼して、書類を差し出した。

「こちらが、アーサーの報告書です」

「まさか、この者が、例の辺境のアーサーとは」

 筆頭魔法使いラシフ様は、辺境の教皇フーリード様と私の組み合わせで、合点がいったようだ。

 フーリード様はそのまま在籍するため、私の後ろに立った。それには、私は居心地の悪いものを感じた。

「フーリード様、一緒に座ってください」

「許可が下りていません」

「そんなぁ」

 私は縋るように、フーリード様の上司である筆頭魔法使いラシフ様を見上げた。

 ラシフ様は、受け取った書類をめくるように目を通していた。あれで、内容が理解出来てるんだよな。妖精憑きって、化け物だよな。

 我が家の妖精憑きキロンがそうだ。キロンは情報の処理能力も化け物だ。お陰で、私は物凄く助かっている。キロンも、同じように、意地悪に渡された書類の束も、ラシフ様のようにめくるように目を通して、綺麗に一枚の紙にまとめてくれる。

 筆頭魔法使いラシフ様は書類の束全てに目を通して、深く溜息をついた。

「まさか、私よりも才能が上な妖精憑きが野放しにされていたとは」

 そんな呟きを聞いて、私は生きた心地がしなかった。キロン、そんなにすごい妖精憑きなの!?

 帝国、別に野良の妖精憑きを許しているわけではない。大した実力じゃないから、見逃してくれているだけだ。帝国には帝国最強と呼ばれる筆頭魔法使いが皇族に絶対服従しているのだ。野良の妖精憑きが束になったって、帝国には勝てない。

 だけど、筆頭魔法使いよりも強い妖精憑きが野良でいるのは許されない。

 本当に、あの領地民ども、とんでもないことをしでかしてくれたな!? 理不尽だ。私は、本当に関係ないのに!!

 私が誕生するよりも遥か昔の悪行を恨んだ。領地に戻ったら、父、義母、義兄、義妹は別邸行に追い出してやる。ついでに、屋敷の使用人は全て、男爵家から派遣してもらって、領地から採用した使用人は全て暇を出そう。紹介状なんか出さない。私に散々、逆らっているんだ。出してやる義理なんかない!!

 私は瞬間、領地に戻った後のことを強く決意した。

 しかし、まずは目の前の問題である。ここにいる間に、全て、解決しなければならない。

「まずは、この坊主が、皇族かどうかだ。坊主、俺様の魔法使いに命じてみろ」

 皇帝レオン様は、私が皇族かどうかの確認を進めることにした。確かに、もっとも簡単に解決出来るのは、簡略だが、皇族の儀式だな。

 私は立ちたいのだが、膝にティーレットが座っていて立てない。困っていると、辺境の教皇フーリード様がティーレットを後ろから抱き上げてくれた。

「この、離せぇ!!」

「アーサーに嫌われたくないのなら、離れたほうがいいですよ」

「嫌われるって、そんなこと」

「私はアーサーのことをよく知っています。聞き入れたほうがいい」

「………」

 ティーレットは不貞腐れながらも、辺境の教皇フーリード様に従った。

 私の膝が軽くなったので、私はソファから立った。それにあわせて、私の横に筆頭魔法使いラシフ様が移動する。

「私に、跪くように命じてください」

 そういう場面、本で読んだなー。私は、こそばゆいものを感じた。まるで、劇で演じているみたいだ。

 こんな綺麗な人を目の前にすれば、夢うつつになるのは、仕方がない。ラシフ様は私が命じるのを待っていた。

「失礼します。筆頭魔法使いラシフ様、跪いてください」

 本では、もっと乱暴な言葉だったが、私は丁寧にお願いした。

 まるで、演じているように、ラシフ様は私の前で跪いた。

「いつ見ても、嘘か本当かわからない儀式だな。ラシフ、立て」

 皇帝レオン様が命じれば、筆頭魔法使いラシフ様は立ち上がった。だけど、ちょっと辛そうな表情をしている。

「これは、確かに、皇帝になりうる血筋ですね」

「俺様よりは弱いだろう」

「どうでしょうか」

「どっちにしても、女じゃ皇帝になれないからな」

「っ!?」

 よりによって、皇帝レオン様に見破られていた。

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