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皇族姫  作者: 春香秋灯
男装の皇族姫-妖精憑きを嫌悪する領地-
214/353

十年に一度の舞踏会

 やっと、舞踏会当日である。まさか、王都の神殿にずっとお世話になるとは、思ってもいなかった。

 仕方がない。騙されていたのか、共犯だったのかわからない義兄リブロが関わってしまった、神殿の詐欺行為は、どこまで被害が及ぶがわからないからだ。

 神殿を騙して、神殿所有の馬車で小金を稼ごうとした義兄のお友達家族。義兄がこの企みに関わっているかどうか、ただの人ではわからない。だが、妖精は容赦がない。人の目では無罪でも、妖精の目で有罪であれば、容赦なく、妖精の復讐を行うのだ。

 質素な食事と質素な部屋で、父たちは文句ばっかり言っていたが、一晩経たないとわからないことなので、見守るしかなかった。

 結果、無罪放免である。父たちは、妖精の復讐を受けなかった。

 ちなみに、義兄のお友達家族は、妖精の復讐を受けていない。だからといって、無罪ではない。未遂なのだ。だけど、神殿を騙した事実は証拠つきで残っている。だから、有罪として、現在、一般の牢へと移送されたのだ。

 私に自慢したかったのだろうな。だけど、結果は最悪となってしまって、義兄リブロは大人しい。いつもこうだといいんだけど。

 身なりも整えて、招待状を持って、やっと登城である。お世話になった神殿は王都の城のお膝元である。徒歩で移動出来るな。

 しかし、城に行くのに徒歩って、むちゃくちゃ恥ずかしいな。普通は馬車だよ。あ、我が家の馬車は、領地に置いてきちゃったなー。失敗した。

 羞恥を覚悟して神殿を出ると、前に、見覚えのある馬車が停まっていた。その傍らに、辺境の教皇フーリード様が立っていた。

「城に用がありますから、一緒に行きましょう」

「四人乗りだと聞いています」

 どう数えても足りないよ。

「私が御者をします。アーサーは乗ってください。あとは、誰か一人、私の隣りです」

 私以外の誰かが、御者台に座ることとなった。そうなると、妙な絆で、私に視線が集中する。

「えー、この人たちと同じ空気を吸いたくないー。フーリード様の隣りは、私が座ります」

「なんだと!?」

「そんなぁ!!」

 父ネロが嫌味に怒るのはわかる。だけど、妖精憑きキロンが泣きそうな顔でいうのは、困る。そんな、フーリード様の隣りに座ったくらいで、そんあ顔しなくてもいいのに。

 泣く泣く、見送りの場に立っていたキロンは、キッとフーリード様を睨んだ。

「アーサーは俺のだぞ!!」

「知っていますよ」

「盗るなよ!!」

「………」

「アーサー!!」

 わざと無言で黙り込むフーリード様に不安になるキロンは、私に泣きつくついでに抱きついた。

「フーリード様、冗談はやめてください。やっとキロンを説得したってのに」

「つい、おもしろくて。キロン、大丈夫ですよ。そこは、早い者勝ちですから」

「そうだよな!!」

「ですが、キロンよりも強い妖精憑きが出てきた時は、盗られてしまいますね」

「フーリード様!!」

「あははははは」

 大笑いするフーリード様。楽しんでるよね。妖精憑きは妖精の感性に近いと聞く。フーリード様、悪戯心でやってるね。

「私の妖精憑きはキロンだけだよ。頼りにしてるから」

「うん、うん」

「あの屋敷で、私の味方はキロンだけだ。キロンに捨てられたら、大変だ」

「アーサーは俺のだ!! 絶対に離さない!!!」

「それは良かった」

 こうなると、どっちが子どもなんだか。

 私とキロンのこんなやり取りを王都の神殿の中では、あちこちで見られたことである。神官たちも、シスターたちも、微笑ましいとでもいうように、私とキロンを見守った。







 招待状を受付で渡して、どうなるかと心配して見てたが、問題なく、審査は通った。私、実際の性別は女だけど、引っかからなかったなー。キロンがしっかり、改ざんしてくれたから、と思いたい。私の胸が平べったいからじゃないよね。

 会場はバカ広い。ほら、帝国中の貴族が集まるのだ。それらを全て受け入れるためには、このバカ広い会場でも、足りないんじゃないか、なんて見てしまう。

 どさくさで付いてきた義母リサは、もちろん、弾かれた。招待状に名前がないのだ。入れるわけがない。とんでもない抵抗をしたので、受付まで心配で同行してくれた辺境の教皇フーリード様が捕縛した。神殿まで、送り届けてくれるという。優しいなー。城で暴れたなら、牢屋行なのにね。

 どうあっても、悪い事は全て私のせい、みたいに父、義兄、義妹から睨まれる。理不尽だ。少しでも軽くなるようにしたのに。

 舞踏会会場に無事、入れたので、私も行くべき所に行く。男爵家の手紙で、待ち合わせの場所が指定されたのだ。その場所、どうやら、父たちと同じらしい。私がずっとくっついているものだから、意地悪な顔で笑う父たち。

「知り合い一人いないから、寂しいんだな」

「いえ、祖父から来るように命じられているので」

「寂しいな!!」

「貴族の学校の件、許されたわけじゃないから」

「………」

 私の妖精憑きキロンを騙して、私の貴族の学校の入学試験の申込書を盗んだ件は、すでに母の生家である男爵家には伝わっている。男爵家は、すでに引退した先代子爵である父方の祖父母にかなりの苦情を訴えたあげく、伯爵様に告げ口したという。伯爵様は、子爵である父ネロを責めるのではなく、そんな父を育てた祖父母に罰を下した。その罰のせいで、今回、父方の祖父母は舞踏会を欠席である。とても、動ける姿じゃないという。欠席を認められるって、何やったんだろう。怖い怖い怖い!!

 指定された場所に行けば、母方の祖父が笑顔で両手を広げていた。私は、そんな祖父の胸に飛び込んだ。

「お久しぶりです、お祖父様!!」

「また、大きくなったな!! なかなか会いに行けなくてすまん」

「商売で忙しいんだから、仕方ないですよ。さて、婚約者様のご機嫌はどうかな?」

 私は母方の祖父が決めた婚約者を探した。

 私には、名目上だが、婚約者がいる。ほら、父のように、領地民と子なんか作ったら大変だ。しかも、私は男と偽っている女だ。だったら、事情を知っている身内を婚約者に立てて、しっかり周囲を固めたのだ。

 母方の祖父から離れて、視線を巡らせる。見つけたが、あまり、いい状況じゃないな。

 まず、義妹エリザと対峙しているのが、私の婚約者ヘラである。ヘラは、私の義兄と同学年である。ヘラは王都で暮らしているので、貴族の学校は王都の学校に通っている。

 ヘラはエリザの姿を蔑むように見下ろしていた。

「わたくしのお古をここまで着こなせないなんて、やはり、平民の血筋かしら。それとも、盗人の血筋?」

「こんな流行遅れドレスをと見てみれば、あなたのお古だったのね。貴族のくせに、アーサーお義兄様はケチ臭いわ」

「流行に関係ないドレスよ。周囲を見ればわかるでしょう。そんなことも知らないなんて、田舎者ね」

「それは、婚約者であるアーサーお義兄様も田舎者ということよ」

「まあ、アーサー!! あなたは何を着ても、似合うわね!!!」

 私が近くに行けば、婚約者のヘラは抱きついてきた。ヘラ、私よりも年上で、体も大きいから、負けちゃいそうだよ。もっと鍛えよう。

 私とヘラが抱擁している横で、義妹エリザは、貴族の学校のお友達に何やら慰められていた。

「聞いたわ。母親が平民だからと、ドレスも作ってもらえないなんて」

「お可哀想に」

「妹を蔑ろにするなんて、酷い兄だな!!」

「いいの。わたくしには、こんな素晴らしいお友達がいますもの。アーサーお義兄様の側にいるのは、高慢な婚約者一人。お友達一人いないのですから」

 味方をつけて、私を下げ落としてくるエリザ。私は気にしないが、婚約者ヘラは黙っていない。

「アーサーから聞いたわ。アーサーの亡くなったお母様の形見の宝石をエリザが盗んだって」

「ドレス一つ作ってもらえないのだから、仕方がないでしょう!!」

「だったら、アーサーに頼めばいいじゃない。アーサーだって、そこまで酷い人じゃないのよ。ねえ」

「え、貸さないよ」

 せっかく、ヘラが私の株を上げようとしてくれているが、私はドン引きするようなことを平然と言い切る。

「なんて冷たい人なんだ」

「妹に優しく出来ないなんて」

「酷い兄ね」

「以前、貸した時、なくしたと戻ってこなかった。仕方がないから、屋敷中を探してみれば、義母の部屋に隠されていた。亡くなった母の形見を返してもらえないんだ。二度と、貸さない」

 事情を知らないエリザのお友達は黙り込んだ。分が悪いと気づいたのだ。

「何よ!! あれもダメ、これもダメ、と言って、欲しい物一つ、買えないなんて!!!」

 まだ味方が多いと思い込んでいるエリザは無茶苦茶なことを叫んだ。

「父上が事業失敗したんだ。その借金が残っているのに、あれが欲しい、これが欲しい、と言われても困る。まずは、家族が一丸となって、借金を返済しないと。そのために、無駄な支出を減らしただけだ」

「でも、ちょっとくらい」

「あなたがたも、友達付き合いをするなら、気をつけるように。まさか、エリザに何か貸したりしてないよね。金銭ならば、今すぐいうように。私が後日、返済しよう」

 エリザのお友達の皆さん、物言いたげに私を見てきた。何かあるんだなー。だけど、こんな場所で訴えるのは恥ずかしい行為なので、皆、黙っていた。一応、貴族の矜持は持ち合わせているか。

 私は溜息をつきつつ、ぱんと手を叩いた。

「十年に一度の舞踏会です。人の足を引っ張っていないで、楽しみなさい。エリザ、将来、貴族として残るかもしれないのだから、しっかりと社交してきなさい」

「っ!?」

 義妹エリザは、悔しそうに顔を歪めて離れていった。エリザのお友達の皆さんは、私に頭を下げて、エリザとは別の方向へと去っていった。なんだ、こんなことで縁が切れるなんて、大したお友達じゃないな。

 改めて、婚約者ヘラと向き合う。ヘラは呆れていた。

「こんな場で、身内に敵を作らなくてもいいのに」

「ほんの数日遅く生まれた程度で妹面しているエリザのほうがすごいけど」

 いや、本当にすごいの。驚いたのなんの。私とエリザの誕生日って、数日違いなんだよね。

 実は、エリザが先に生まれる予定だったのだ。だけど、私が早産で生まれてしまったのだ。つまり、種付けはエリザが先なのだ。あの父親、愛人に手がつけられないからと、母と閨事して、私が誕生しただけなのだ。本当に、最低な父親だな!!

 そういう裏話は、私の胸の内にしまっておく。表に出せば、批難されるのは、父ネロだ。私、優しいな。

 私に言われて、ヘラも裏事情を思い出した。ヘラも知っていることだ。

「確かに、図太いわね。さすが平民」

「そこは、平民貴族、関係ないよ。それより、ヘラは、どうやって、この会場に入れたの?」

 私は別の疑問を口にした。

 ヘラ、見た目は女の恰好をしているが、性別は男である。

「そりゃ、届け出は男だから」

「えー」

「今のわたくしを男と知る者はいないわ」

 平然としているヘラ。まあ、確かに、どこから見ても、ヘラは立派な淑女だ。まだ、男らしい部分が出ていないのか、それとも、何かしているのか、ヘラの体は女のように華奢だ。

「アーサーはどうやって、ここに入ってきたの?」

「そりゃ、私の妖精憑きに改ざんをお願いした」

「もう、何でもありね、あの男」

 忌々しい、みたいに舌打ちするヘラ。ヘラと妖精憑きキロン、無茶苦茶、仲が悪い。あれだ、私を取り合っているからだ。

「いつまで、こんな茶番を続けるのやら」

 性別を偽るのなんて、いつかは出来なくなる。

 私はどれほど鍛えても、女だから華奢だ。背だって、なかなか伸びなくなってきた。婚約者として女装しているヘラだって、どうにか華奢な姿をしているが、成長していけば、男として目立つ部分が出てくる。喉ぼとけなんて、引っ込められないから、ヘラはスカーフで喉を隠している。

 人前に出るから、もうそろそろ、ボロが出てもおかしくないのだ。

「心配ないでしょう。ほら、アーサーの妖精憑きがいるじゃない。妖精憑きって、万能なのよ」

「完璧はあり得ないよ。いつかボロが出る」

 妖精憑きの力に頼るつもりはない。私は、ただ、出来るだけのことをするつもりだ。

 ヘラは私を連れて、王都のお友達の元へ行く。王都の貴族の学校に通う皆さんが集まる場所って、やっぱり、皇族のお膝元だな。会場の中心にあるただ一つの階段を見上げた。この階段の上には、皇族がいるという。そして、最上段には、皇帝だ。階段は、間違って上がれないように、魔法使いと騎士が見張りに立っている。そんな階段の途中には、宰相や大臣が座って談笑している。やっぱり、身分が高い人たちって、高い所で見下ろすものなんだな。

 義妹エリザがいう通り、私には知り合いがいないから、私は自己紹介をするだけで、話すことなんてない。ヘラは、私の腕をしっかりと組んで、隣りに無理矢理だ。

 ヘラの婚約者ということで、私は男女から物言いたげに見られた。ほら、貴族の結婚なんて、家同士の繋がりだ。私の見た目が頼りなくても、仕方がない。

 私がヘラの隣りでただ立っている木偶の棒をしていると、誰かが私の服を引っ張った。かなり下のほうなので、私は見下ろす。

「こんな小さい子どもが、どうして。そうか、はぐれたんだな」

 私は子どもを抱き上げた。

 舞踏会は十歳以上でないと参加出来ない。しかし、場合によっては、十歳未満の子連れでの参加も許される。

 ほら、世の中の貴族全て、子守りが雇えるわけではないのだ。面倒を見る人がいないという場合にのみ、十歳未満の子連れが許されるのだ。

 私は親が探しやすいように、子どもを抱き上げた。

「ヘラ、この子の親、探してくるよ」

 あんなに私を離すものか、とべったりだったヘラの拘束は、いつの間にか解けていた。一応、ヘラに声をかけたからいっか、と私なりに結論つけて、会場を歩き回る。

「あっち!!」

 抱き上げたことで、子どもは親を見つけたようだ。元気な声で指さす。言われた通りに進んでいく。

「あっち!!」

 いやいや、そこはダメだ。言われるままに進んだが、さすがに私は立ち止まった。だって、この子、会場の中央にある階段を上れとばかりに指さすんだもん!!

 私は仕方なく、階段の見張りについている魔法使いと騎士に声をかけた。

「すみません、この子、迷子のようなんですが」

「っ!?」

「どうぞ、上に上がってください!!」

「えー」

 見張りが私に道を明けた。

「あっち!!」

 叫ぶようにいう子ども。そして、私が進む先の障害物はいない。もう、行くしかない。きっと、皇族の子どもだよ。そうに違いない!!

 私は戦々恐々となりながら、階段を上った。いい年齢の宰相や大臣の皆さんがジロジロと私を見ている。見ないでぇ!!!

 まず、階段を上って、踊り場に立った。そこは、皇族の席で、立派な皇族様がずらりと椅子に座って、私を見ていた。

「えーと、この子の、お母さんは?」

「あっち!!」

 さらに上を指さす子ども。どうして!?

 私は縋るように皇族の皆さんを見た。ところが、皇族の皆さんは軽く頭を下げて、視線を反らしてくれた。えー。

 わけがわからない。子どもは「あっち!!」とさらに上を指さすので、私はそれに従った。もしかすると、皇帝の子かもしれないね。はやく届けて、降りよう。

 私はなるべく、皇帝を見ないように階段を数えながら上った。

 そして、上るべき階段がなくなった。振り返りたくない!!

「ティーレット、関係のない者を連れてくるんじゃない!!」

 ほら、叱られちゃったよ!! 私は慌てて膝をついた。顔をあげちゃダメだ!!!

 子どもはティーレットという名前らしい。ティーレットは、私から離れるものか、とばかりにしがみ付いてきた。鍛えておいて良かった。この不自然な姿勢でも、どうにか子どもを支えられる。

「このクソガキが」

 別の誰かが、ティーレットの首根っこをつかんで、無理矢理、私から離した。

「離せ!!」

「お前な、皇帝の俺様に逆らうんじゃない。坊主、悪かったな、ティーレットの我儘に付き合わせて。後で褒美をやってくれ」

 皇帝だった!!! 乱暴な口調だけど、この皇帝は仕方がない。この皇帝、特殊な出自なのだ。

 本来、皇族は城奥で守られるように存在するのだ。しかし、稀に、貴族や平民から皇族が発現することがある。

 私の前で、たぶん、玉座にふんぞりかえっている皇帝は、城の外に発現した皇族だ。

 この皇帝の出自、帝国で知らぬ者はいない。なにせ、貧民から発現した皇族なのだ。

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