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皇族姫  作者: 春香秋灯
影皇帝の皇族姫-貴族の中の皇族姫-
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子爵家の現状

 子爵家の屋敷に戻り、そく、使用人たちに今日のことを話した。

「話を聞けば、わたくしが子爵になれないことは、宰相から説明を受けています。今後は、叔父が子爵になります」

「なんてことだ」

 父の代から子爵家に働いてくれた執事は絶望で顔を真っ青にさせる。

「アブサム様は放蕩の限りをつくし、一度は廃嫡された方。先代も先々代も、絶対に継がせてはならない、と言われていました」

「帝国にもそれとなく訴えてみましたが、子爵家の事情には口出しも手出しもしない、と遠まわしに言われました。まだ、正式には、叔父は子爵ではありませんので、しばらくはわたくしが子爵家の権利を握っていますが、それもわずかな時間です。紹介状を書きますから、新しい職場を探してちょうだい」

「お嬢様!?」

「………どうにかするから、心配しないで」

 執事にとっては、わたくしは孫のようなものだろう。いつまでも側にいたいようだが、わたくしはそれを許可できない。だって、もう、給金が払えない。

 そうして、わたくしが使用人たちと今後のことを話しているところに、わたくしの教育係りとしてきたハイムントがやってきた。

「子爵家の台所事情は随分と酷いのですね。どこかの三文小説のようなことがあるとは、世の中は面白いですね」

「………恥ずかしい所をお見せしてしまいました」

 他人事だから面白いのだろう。ハイムントの態度と言葉に怒りを覚えるも、そこはぐっと我慢する。

 ハイムントは、うやうやしくわたくしの前に跪き、わたくしの手をとった。

「皇族教育の一環として、良いですね。いいですか、あなたは皇族です。帝国は皇族一人に随分とお金をかけます。わかりますか? あなたはどこにいても、皇族なので、皇族と同じ扱いをされなければいけません。いつまでも、子爵令嬢という安い気分ではいけませんよ。まずは、この使用人をどうするか、考えてみましょう」

「給金が払えませんから、解雇するしかありません」

「では、あなたの身の回りの世話は、誰がするのですか?」

「わたくしは全て、わたくし自身で行いました」

「ですが、一皇族は、それを許されません。あなたの身の回りの世話をする者が必要です」

「ですが、子爵家には支払えるだけの給金が」

「あなたは、皇族です。皇族にかかる費用は、どこから出ますか?」

「………帝国?」

「正解です。では、書類作りから始めましょう。全て、僕が教えます」

 ハイムントにとっては、ただの皇族教育なのかもしれない。でも、わたくしにとっては、光りさすことだった。

 ハイムントはわたくしの手に口付けする。その行為をわざわざされるのは、恥ずかしいことなので、手をひっこめる。

「もう、そんなふうに跪いたり、その、手に口付けするのは、やめてください!!」

「承知しました、ラスティ様」

 若い異性なので、わたくしは顔を真っ赤にしてしまう。慣れていないから、仕方がない。

 そうして、昔から子爵家に仕えてくれている執事とハイムントに教えられ、わたくしは、過去に遡って、使用人たちの給金を帝国に請求する手続きをとった。


 叔父家族は本当に愚かだ。


 わたくしが皇族とわかると、すぐ、帝国全土から、多くの手紙が送られてきた。これまでは、叔父が手紙を采配していたが、ハイムントがそれを許さなかった。

 いつものように叔父が使用人から取り上げた手紙を捨てている現場をハイムントに見られたのだ。

「皇族宛の手紙を捨てるとは、不敬罪ですね。これから、皇帝陛下に報告しないと」

「ま、間違えたんだ!! い、以後、このようなことは、絶対にしない!!!」

「手紙は一度、僕が目を通しましょう。皇族教育の一環ですよ。人付き合いは大事ですからね」

 そうして、ハイムントはわたくし宛の手紙だけでなく、子爵家の手紙まで全て、叔父の手から奪ったのだ。

 ハイムントのお陰で、台所事情も良くなった。叔父家族が勝手に買い物をしても。

「まだ、子爵家の権利は、ラスティ様ですよ」

「私が子爵となるのにか?」

「まだ、子爵ではないでしょう。手続き、しましたか? まさか、ラスティ様にさせるのですか!? たかが一貴族の分際で、帝国全土を支配する皇族の手をわずらわせるのですか」

「………」

「学校には行ったのだから、出来ますよね」

 ハイムントはにっこりと笑顔で叔父を叩き落とした。叔父は、手続き一つ、出来ないのだ。

 叔父は、困ったことになったので、昔から子爵家に仕えている執事にやらせようとするも。

「この方は、皇族の執事です。子爵家の執事ではありませんよ。勝手に使わないでください」

「元は子爵家の執事ではないか!! この男は、子爵家のことに精通している」

「子爵となってから、新しい執事を雇ってください。まずは、子爵になってからです」

「ラスティと話をさせろ!! お前では話にならない!!!」

「一貴族が皇族に馴れ馴れしい。ラスティ様、と呼びなさい。いいですか、皇族でなくなった者は、家族にすら捨てられます。皇族でないものは、家族でも、身内でもありません。それが、皇族です。学校に通ったあなたなら、ご存知ですよね」

「………」

 わたくしの執務室や私室の前では、ハイムントが叔父をこんなふうにやりこめていた。聞いていて、怖いものを感じる。いつか、叔父は切れて、とんでもないことをしでかしそうだ。

 そういう心配を口にすると。

「いい機会だから、ぜひ、やってほしいですね。皇族に手を出すということが、どういうことか、ラスティ様も知ったほうがいい」

「何か起こってからでは、遅すぎます」

「あなただけは無事です。例え、この屋敷が全焼しても、ラスティ様だけは無傷ですよ」

「恐ろしいこと言わないでください!?」

 とんでもない例えは、現実になりそうで恐ろしい。

 ハイムントは、わたくしの苦情など気にせず、笑顔だ。

 今日も、ハイムントのお陰で、わたくしは人並の生活が送れている。人並の食事にありつけ、人並の服を着て、人並に清潔を保てる。

 一度は解雇した使用人たちに手紙を出せば、戻ってくる者もいた。それらも、皇族としての力のお陰だ。

「成人して、城に移る時には、優秀な使用人は連れて行けますよ。ただ、妖精の契約をされますが」

「妖精の契約って、どんなものですか?」

「秘密を外に漏らさない、裏切らない、その程度ですよ。皇族には絶対服従です。万が一、裏切るようなことがあった場合は、天罰をくらいます。死にはしませんが、死にたくなるほどの天罰です」

「………」

 このまま、叔父の元に残すわけにはいかないが、連れて行くには、かなり、恐ろしいことだ。使用人たちとは命までかけてもらうほどの繋がりではない。

「ぜひ、連れて行ってください」

 子爵家に昔から仕えている執事は、それを聞いて、わざわざ名乗り上げてくる。もう、先の短い人なので、のんびりと老後を過ごせばいいのに。

 そう言ってやると。

「子も孫も、旦那様のお陰で、立派に独り立ちしました。子爵領も、ラスティ様のお陰で、かろうじて、無事です。どうか、最後まで、お仕えさせてください」

「………あまり、無理はしないでね」

「はい」

 にっこりと笑う執事に、わたくしはそれ以上、拒否することが出来なかった。


 叔父家族は、本当に愚かだ。


 わたくしが皇族となってから、使用人たちは全て、皇族のものとなった。だから、叔父家族のための身の回りの世話は一切、しなくなった。

 食事一つとっても、全て、わたくしと、使用人たちだけだ。かかる費用も全て、帝国から出されている。

「我々の食事を何故、用意しない!?」

「で、ですが、ハイムント様からは」

「たかが教育係りの命令に従うのか!?」

「皇族の使用人に口答えですか」

 ハイムントは、叔父がちょっと怒鳴ると、どこからともなく姿を見せる。叔父はもう、ハイムントを見るだけで、イライラが止まらない。

「たかが教育係りだろう。聞いたぞ。貴族でもないと」

「いまだに子爵位を継ぐ手続きすら出来ていない、名もなき貴族の分際で、皇族の教育係りに口答えですか。皇帝陛下に報告ですね。皇族教育をするには、場が悪いと」

「貴族でもない貴様のほうが、立場が上だというのか!?」

「そこは、皇帝陛下にお伺いしましょう。皇帝陛下はとても優秀な方です。きっと、公平に見てくれるでしょう」

「………」

「使用人の食事は、皇族の下げ渡しです。下げ渡しが残っていれば、食べられますよ」

「くそっ!!」

 もう、叔父の言い分など通らない。だけど、叔父は無理矢理、使用人たちから食事を奪ったりと、横暴を続けた。

 買い物も全て、封じられた。どこに行っても、子爵家を受け入れられない。借金すら止められた。

「皇族相手に何かすれば、こちらは処刑です」

「借金なんて、とんでもない! 皇族相手にそれをすれば、潰される!?」

 これまで、笑顔で対応してきたというのに、わたくしが皇族となると、店側は全て、手のひら返しだ。それどころか。

「これまで、随分と取りすぎました」

「利子は、お返しします。もう、借金以上に取りすぎました」

 何を恐れてか、お金が返ってきた。

 皇族とは、そこまで恐れなければならないのか? 教育といっても、ほんの出入口な上、ぽんと本を渡されて自習だ。きちんとした教育は、実は、ハイムントから受けていない。なので、わからないことは、都度、聞いた。

「皆、どうして、皇族をそこまで恐れるのですか?」

「皇族ではなく、賢者ハガル様を恐れているのですよ。ハガル様は昔から、違法店を見つけては、妖精の力を使って潰しています。あの方を敵に回して、無事であった者はいません。それほど、力のある妖精憑きなのです。そんな妖精憑きに絶対服従させられる皇族には、契約紋により、ハガル様の妖精が付いています。万が一、皇族に対して間違いを犯せば、妖精が復讐します」

 ハイムントは、わたくしに渡した本のあるページを開く。そこには、筆頭魔法使いの儀式の説明と、契約紋の簡略図が描かれている。

「わたくしにも、その、ハガルの妖精が付いているのですか?」

「ハガル様の妖精が付いたので、ラスティ様が皇族だとわかったのです。妖精の復讐は恐ろしいことは、平民こそ、肝に銘じています。妖精によって生かされているのですから。ですが、貴族は平民の上に生きているので、妖精のことを甘く見ています」

 言われて、確かに、と納得してしまう。わたくしは、それほど妖精を恐れていない。むしろ、人のほうが恐ろしい。

 欲にかられて、子爵家の財産を食いつぶしているのは、叔父家族だ。

 借金をするのも叔父家族だ。

 わたくしを悪くいうのも、叔父家族だ。

 皇族教育のものだという本は、何度も読み返した。本を読むだけで、だいたいのことは理解出来る。そして、貴族とは立場や考え方が違うことを思い知らされる。

「ラスティ様は、領地経営のお陰で、随分と物事を理解されています。そこから、ちょっと、皇族の考え方を加えれば、もう、完璧でしょう。あとは、生家のことをどこまで切り離せるかです」

「………」

 ハイムントは、わたくしの執着が生家にあることを遠まわしに指摘する。それを言われると、わたくしも何も言えなくなる。

 いまだに、叔父は、子爵位継承の手続きが出来ていない。だから、子爵家の仕事はわたくしが行っている。まだ、わたくしが子爵家の跡取りという立場だからだ。

 わたくしとしては、都合がいい。しばらくは、このままにして、叔父の領地経営を先延ばしにしたい。そうすれば、わたくしの手にある内は、領地が酷いことにはならない。それに、無駄な出費も出来ないので、これまでのように、好き勝手も出来なくなっている。

 少し前までは、無駄に茶会を開いたり、茶会に行ったり、としていたせいで、無駄に出費がかさんだりしていた。それも、今はない。

 このまま、わたくしが成人するまで、子爵位をわたくしが持ち続けて、どうにか、叔父でない人に爵位を譲れるような方法がないか、調べればいい。そう、思っていた。


 でも、現実って、そんなに甘くない。


 叔父アブサムに味方する貴族はいる。ついでに、サラスティーナと結婚しようとする貴族だっている。だって、アブサムが子爵になれば、一人娘のサラスティーナが跡取りだ。将来的には、入り婿が必要となってくる。

 そうして、さる侯爵家が、アブサムの子爵位継承の手続きを手伝った。

 もちろん、侯爵家次男がサラスティーナと婚約することと引き換えだ。

「サラスティーナは素晴らしい。なんと、皇族を出現させる血筋だ。きっと、私たちの子は、皇族になるよ」

 わたくしが皇族となったことで、従妹であるサラスティーナの価値を上げた。

 侯爵家次男グレンは見た目はとても素晴らしい。長男は妾腹、次男は正室腹だ。侯爵の妻としては、本来ならば、侯爵位をグレンに継がせたいが、長男の出来が良すぎた。何せ、皇族からの覚えも目出度いという。だったら、サラスティーナの夫、という皇族を出現させた近い血筋に将来を見た。

 そうして、アブサムは子爵位を継承してしまった。

「侯爵様はお優しいな。なんと、我が家に使用人までつけてくれるという。お前とは、大違いだな」

 完全なお家乗っ取りの構図だ。叔父の嫌味を聞き流して、そんなことを思うが、口に出さない。

「はあ、やっと子爵家の雑事がなくなりましたか。いつまで皇族に一貴族の仕事を押し付けておいて、謝罪もないのですか」

「貴様、子爵位の私になんて口をきくんだ!?」

「皇帝陛下に報告、してあげましょうか。僕には、皇帝陛下直通の魔道具使用が許可されています。まだ、使っていませんが、これを第一報にしてもいいですよ」

「こちらには、侯爵がついているぞ。宰相とは懇意にしているという話だ」

「へえ、そうですか。でも、あなたは所詮、子爵です。切り捨てられないように、気を付けてくださいね」

 ギリギリと歯ぎしりまでするアブサム。ハイムントが貴族位でないのに、皇帝の威をかりて口ごたえすることが、どうしても腹が立つのだ。

「もう、いい加減にしてください。この執務室は、これから、叔父のものです。わたくしはわたくしの私室に下がります。侯爵から使用人や執事が手配されているのでしたら、わたくしから引き継ぐことはないでしょう。いいですか、税は取りすぎですので、下げてください」

「ラスティ、そんなに税を取りすぎるとは、酷い領地経営をしていたんだな。やはり、学のない小娘だ」

「叔父家族が無駄遣いをしたからでしょう!! もう、無駄にドレスやら宝石やら、買ってはいけませんよ。せっかく、借金もなくなったのですから、領地の整備にお金を使ってください。このままでいくと、自然災害で大変なこととなりますよ」

「たかが小娘に何がわかる。私にまかせれば、兄上よりも立派な領地にしてやる!」

「………」

 タガが外れたアブサムは、わたくしの言葉など無視だろう。

 わたくしは私室に戻ると、ハイムントに指示する。

「これから、わたくしは子爵家の居候です。どうせ、叔父はわたくしに屋敷の使用料を請求してくるでしょう。不当にならない程度に、皇室から支払えるようにしてください」

「さすがラスティ様。もう、そこまで考えられるようになりましたか。素晴らしい。今すぐにでも、城に入りましょう」

「成人までは、ここに居座ります!」

 ハイムントは、もう、今すぐにでもわたくしを子爵家から引きはがしたいのだ。だけど、そんな企みにわたくしは乗らない。

 少しでも、時間稼ぎをしないといけない。子爵の執務室には、余ったお金で災害対策をする計画書まで作成して、それをそのまま放置した。費用計算も終わっている。後は、新しい子爵であるアブサムが子爵印を押すだけで、計画は実行となる。ここまでお膳立てしたのだから、後はどうにかなるものと思っていた。


 叔父家族だけでなく、侯爵家まで、愚かだった。


 わたくしは、子爵家のことが手を離れたので、領地を見回る余裕が出来た。皇族教育は、領地経営をしていたわたくしには、簡単だ。しかも、本を読むだけなので、疑問が出ればハイムントに質問する程度だ。皇族の考え方は、だんだんとわかってきた。確かに、いきなり皇族として城に入ってしまっては、わたくしは酷いこととなっていただろう。それほど、皇族と貴族の考え方は違う。

 皇帝は、さらに違うという。

「皇族の中で選ばれる皇帝は、さらに考え方が違います。最優先事項をどうするか、そこが難しい。それを上手に導くのは、宰相や筆頭魔法使いの役目です」

「宰相はわかりますが、筆頭魔法使いは、その、政治というより、軍事ですよね」

 妖精を使って、皇族を守ったり、戦争をしたりする印象強い魔法使いが、政治に関わることは、想像出来ない。

「筆頭魔法使いにまで選ばれる妖精憑きは、化け物です。ただ、妖精憑きの力が強いだけではありません。能力全てが人外です。そのため、筆頭魔法使いに選ばれる妖精憑きは、幼い頃から皇族教育も受けています。そこから、筆頭魔法使いだけの特別な教育を受け、影の皇帝と呼ばれるほどの政治力を身に着けます」

「………皇帝、いらなくない? 筆頭魔法使いに王様させればいいじゃない」

「妖精憑きは、神の恩恵で誕生します。親が妖精憑きだからといって、子が妖精憑きになるわけではありません。その中で、化け物並の妖精憑きが生まれるのは、奇跡といってもいい。そんな不確かな魔法使いに王をやらせるわけにはいきません。だから、筆頭魔法使いは皇帝の教育係りとなり、導くのですよ。今の僕とラスティ様のように」

「そんなこと、本には書いていない!」

「こういうことは、それなりの能力のある皇族にのみ、口頭で伝えることです。ラスティ様は能力がありますので、言いました」

「………」

 もう、皇族教育で、ふるいにかけられている。ハイムントは、わたくしが腐ったリンゴかどうか、見極めているのだ。

 それでも、子爵の役割がなくなったので、わたくしはとても楽になった。

 せっかくなので、領地を馬に乗って見回る余裕まで出来た。両親を亡くしてからずっと、わたくしは領地を見ることもなかった。

 馬車だけでなく、馬まで帝国からの支給だ。わたくしだけが乗れる馬に乗るが、実は乗馬は出来ないので、ハイムントにお願いした。

 ハイムントはわたくしを支えながら、領地を一緒に回ってくれた。


 そして、災害対策が一切されていないことをわたくしは知ることとなる。


「税も上げると言われました!! ラスティ様はこれ以上はあげない、と約束してくださったというのに!?」

「このままでは、立ちいかなくなってしまいます!!!」

「皇族の力では、どうにか出来ませんか!?」

 わたくしが行けば、領民の陳情が酷かった。わたくしが皇族となったことは、領民全てが知っていた。舞踏会で発現が発覚したのだ。どうしても、噂は流れる。

「皇族は帝国全てのことを考えなければならない。たかが一領地のことに、煩わせるな」

 わたくしが黙り込んでいると、ハイムントが冷たく言い放つ。

 縋るように見上げてくる領民たち。わたくしは誰の顔も見れない。一人呑気に領地を見回るわたくしは、本当に愚かだ。

 屋敷に戻れば、即、叔父に訴えた。

「あれほどの余剰金がありながら、何故、税をあげるのですか!?」

「侯爵次男を婿にするのだぞ。それなりのものが必要だろう」

「それを領民に押し付けるのですか!? あなたは先日、わたくしに言いましたよね。酷い領地経営だと。あなたはどうですか。わたくしの時よりも税を重くするなんて、話になりませんよ」

「立場が変わったんだ。侯爵様の血族を受け入れるのだぞ! しかも、我々は皇族を発現させた血族だ!! 私たちは皇族のようなものだ。皇族を支えるのが、領民の務めだろう」

「領民がいなくなったら、支える者はいなくなってしまいますよ!! そんなこともわからないのですか!?」

「まだ、独り立ちも出来ない小娘の分際で、知った口をきくな!! だいたい、皇族が一領地の経営に口出すのは、おかしいんだろう。そう、聞いたぞ」

 アブサムはハイムントを見る。ハイムントは、何を考えているかわからない笑顔を浮かべるだけだ。

「皇族を発現した血筋のくせに、領地経営を失敗した、なんて言われますよ。領民は領地を支配する貴族が代わるだけでいいですが、あなたは爵位返上の上、平民落ちですよ。大きな口をきけば、結果、自らの失敗に返ってくるものです」

「侯爵様の執事も私と同じ意見だ。これまで、生易しすぎたんだと」

「皇族を発現した血筋のくせに、執事の言いなりですか」

「優秀な者の意見を取り入れただけだ。こんな物こそ、無駄な出費だ!!」

 そう言って叔父は、わたくしが作った災害対策の計画書をゴミ箱に捨てる。

 わたくしはあえて、その計画書をゴミ箱から拾い上げる。

「帝国から、わたくしの屋敷での使用料が支払われることとなりました。ですが、使用料がしっかりとした方向へ使用されているか、監視をするそうです。さぞや優秀な執事でしたら、帝国が納得いく使用先を帝国に見せてくれますよね」

 わたくしは、災害対策の計画書を黙って見ているだけの子爵家の執事に手渡す。

「わたくしの目の前で無駄な出費をした上、災害が起こった時は、帝国に陳情を出します。わたくしのための費用ですもの。陳情を出す権利はあるますよね」

 子爵家の執事は震える手で計画書を握る。万が一、ここで無駄な出費が出た場合、子爵家の財政についても口出し出来るのだ。そこで、侯爵家が関わっているというなら、侯爵家にまで飛び火である。

「一皇族としては、帝国民全ての平和のために、不正は小さいうちに摘み取らないといけませんね」

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