公国へ
公国に行くとなると、また、ご挨拶です。子どもたちにも、今生の別れの挨拶ですよ。
「手紙をください!!」
長男がとんでもないことを言ってきます。もう、それなりのいい年なのに、泣いていますよ。見た目は私より年上の男が男泣きするのは、なかなか見苦しいですね。
「もう、泣かないでください。便りがないことは、元気な証拠です。手紙は書きません。だいたい、どうやって、ここに届けてもらうのですか。それ以前に、王国も帝国も、公国の物は全て受け入れないこととなっていますよ。手紙一つも無理です。諦めなさい」
死んでるかもしれないし、とは言いません。内緒でいくのですから。
「毎日、ご無事をお祈りしています」
長女が泣きながら言います。すっかり、貴族らしくなってしまった長女は、泣く姿も綺麗です。孫たちもいい年齢ですが、私を見て、泣きそうです。もう、私の見た目と、変わらなく年頃に成長しましたね。
「私も、公国で祈っていますよ。あなたたちが生きている内には戻ってきませんから、待っていなくていいですよ」
「言い伝えます」
「やめなさい」
私のことを言い伝えで待っていられたら、後が大変です。私は強くそこを止めた。死ぬかもしれないし。
「母上、私もご一緒します!!」
次男がまた、とんでもないことを言ってきます。そういえば、私が一人で暮らししていた時も同じようなことを言われましたね。
「お前は、結局、結婚しませんでしたね」
「母上と一緒に生きます!!!」
ああ、すっかり母親第一になってしまいましたか。せっかく騎士団のいいところまでいったというのに。縁談はいっぱいあったのですが、次男は余所見しませんでした。
「足手まといです」
「っ!?」
そこははっきりと私は切り捨ててやります。実際、私のほうが強いですからね。
それに、目の前で私が溶けてしまったら、次男、気狂いで大変なことになってしまいます。親として、そこだけは避けないと。
「お母様、行かないでぇ!!」
次女は、子までいるというのに、もう甘えん坊はそのままです。私に抱きついて離れません。
「もう、あなたが大嫌いな義母はいなくなったではないですか」
「それが寂しいのです!!」
なんだかんだ言って、次女は義母とは上手にやっていたのでしょう。いなくなって、寂しくなって、そこに私までいなくなるというから、縋ってきました。
「次は、あなたが義母になるのですよ。どうするか、きちんと考えなさい」
次は、次女がイヤな義母になる番だ。こういうのは、歴史を繰り返すのですよ。
「母さん、行かないでください!!」
三男は私までいなくなるから、止めてきました。末の息子アランが亡くなってすぐにロベルトが亡くなって、と死に随分と敏感になってしまいました。私がやっと帝国から戻ってきたので、それからずっと、日参ですよ。
「あなたにも家庭があるのですから、まずは、そこを大事にしなさい。ロベルトも、家庭を大事にしましたよ。私はただのお邪魔虫です」
「そんなことありません!!」
「そう、見られているのですよ。ほら、離れなさい」
三男の妻にとって、私は邪魔者でしかないのだ。数年、やっと離れたというのに、戻ってきて、三男はまた日参ですよ。うんざりしています。
むしろ、三男の妻は、私が永遠に戻ってきませんように、と願っているでしょうね。心配いりません。生きている内、戻ってきません。
それ以前に、溶けて死ぬかもしれませんけど。
こうして、子どもたちとの別れの挨拶は終わりました。ですが、一応、帝国にいる顔見知りにも挨拶に行かないといけませんね。
仕方なく、帝国に行きましたが、皆さん、戦々恐々ですよ。
「戻ってきた!?」
「また女帝になるのか!?」
「もうやめてぇ!!」
私、いい政治をしていたのに、城で働く文官たちは、どうしてそう、嫌うのかしら。ちょっと、厳しくしただけではないですか。
私が女帝時代、最初の頃、本当に私のことを随分とバカにした大臣やら文官やらをかたっぱしから言い負かし、実力で痛めつけただけです。私は悪くない。悪いことする奴らが悪いのです。
そういうことを帝国各地でやったので、帝国中に恐怖の女帝と恐れられました。えー、大昔の化け物筆頭魔法使いも普通にやっていたことを真似しただけなのにぃ。
そういう目で見られ、口にまで出されましたが、私はもう女帝ではありません。罰したりしませんよ。
「皇族だよ!!」
そのまま素通りしていると、リッセルに捕まりました。
「きちんと、皇族侮辱罪を発動してください!!」
「えー、もう、いいではないですか。私、もうすぐ帝国からも、王国からもいなくなるのですからー」
そう大声で言ってやると、もう、皆さん、大喜び。こんなに喜ばれるなんて、私、本当に嫌われていたのですね。いい政治、以下略。
「お前たち、エリカ様に失礼だろ!!」
リッセルが一喝すると、さすがに静かになります。そして、そそくさと逃げていきますよ。逃げても、リッセルの追及は逃れられないのに。
「そんなに叱らないであげてください。皆さん、優秀なんですから」
「それもこれも、エリカ様のお陰だというのに、皆、わかっていません」
「皇権の使い方が上手だっただけですよ。丁度良いので、皇帝の所に案内してください」
「ぜひ、案内させてください」
リッセルったら、いつまでも、私のことを上に扱ってくれますね。私のお願いも、腰を低くして、引き受けてくれます。こういう所、やっぱり、経験の差ですね。私よりもうんと年上で、さらに、私よりもうんと長い寿命で、ずっと生き続けるリッセルの後ろを歩く私は、リッセルの広い背中を見ました。
ちょっと前まで、普通に過ごしていた城です。案内なんてなくったって、どこに行けばいいか、わかります。皇帝が今いる場所だって知っていますよ。妖精使えばいいですからね。ですが、私はもう部外者です。そこは、リッセルに任せました。
新しい皇帝は執務室で仕事中でした。私がリッセルと一緒に入るのを見て、笑顔で近くに駆け寄ってきます。
「エリカ!!」
しかも、抱きしめてくれます。これ、普通なのですよ、普通。ほら、私と皇帝ライオットは、叔母? と甥ですからね。
ですが、すっかり大きくなってしまいましたので、私のほうがよろけてしまいます。
「ちょっと力加減をしてください。強いですよ」
「ご、ごめんなさい!!」
「男の子は、どこまでいっても、子どもですね。息子たちは、今もこうです」
「えへへへ」
笑い方もまだまだ子どもです。
皇帝ライオットは、私の手をひいて、椅子に座らせてくれました。
「リッセルから聞きました。公国に行くとか。いつ、公国から戻ってきますか?」
「行く前から、戻ることをいうなんて、どこまで気が短いのですか」
「はやく会いに来てほしいからです。次、会う時は、私の子を抱いてください」
「残念ながら、私は孫が死ぬまで、帝国にも、王国にも戻りません」
「そんな!? まさか、王国から追い出されるのですか!! だったら、帝国に来てください」
「誰も、私を追い出したりしませんよ。ただ、私の存在を悪用する者は、王国にも、帝国にも、たくさんいます」
「あ………」
ライオットは目を見開いて、涙を溜めます。だけど、泣かないように我慢しました。
表向きは、私の気晴らしで公国に行くと言っています。ですが、実際は、王国と帝国のためです。
私は、非常に厄介な存在です。王国民でありながら、帝国の皇族です。しかも、数年とはいえ、女帝になりました。そんな存在は悪用されてしまいます。だったら、私は王国からも、帝国からも、いなくなったほうが、両国のためなのです。
後ろ盾一つない公国では、私を利用する者はいないでしょう。私の価値って、王国と帝国にあるだけですから。公国では、ちょっと変わった女がやってきた、なんて見られるだけです。
リッセルなんか、私の本音を聞いて、驚いています。まさか、そこまで考えているなんて、思ってもいなかったでしょう。リッセルも、勧めておいて、そこまで考えていなかったのですね。私よりも年上だけど、やっぱり、世間知らずです。
それは、王族ポーにも言えます。私の長い人生の励みに、と勧めただけです。まさか、私がそれを違う用途に利用するなんて、ポーすら思ってもいなかったでしょう。
リッセルが淹れたお茶は、相変わらず格別です。同じように淹れていますが、同じになりません。
「私を知る者がいなくなれば、もう、悪用される心配もなくなります。もし、生きて帰ってきたら、リッセル、面倒をみてくださいね」
「ぜひ、やらせてください」
リッセルったら、また、私の前に膝を折り、深く頭を下げます。
「次、会う時までに、そういうのはやめてください。私、それほど偉い人ではありません」
「いえ、エリカ様は偉大な方です。本来、帝国民も、王国民も、あなたを敬うべきなのです」
「私のことを覚えている人がいなくなれば、私もただの人ですよ。ライオット、ほどほどの皇帝となってください。どんな皇帝だったか、リッセルから報告させます」
「はい、ほどほどに頑張ります」
皇帝ライオットは泣き笑いして、やっと、私から離れた。これで、叔母? 離れですね。
皇帝の執務室を出て、そのまま城の外に行くことにしました。
「ラキスには会っていかないのですか?」
「口うるさい義母みたいな女、いないほうがいいでしょう」
「そんなことありません!! ラキス、喜びますよ」
「私が行くと、また、アランのことを思い出させてしまいます。私は、いないほうがいいのです」
「………そうですか」
ラキスはもう、別の道を歩いています。そこに、過去の怨念のような私が行くのはよくありません。
リッセルは、城から出ても、まだ名残惜しいとばかりに、聖域まで付いてきました。
「リッセル、ほら、帰りなさい」
「エリカ様は、これから、どこに行くのですか?」
「………」
「聖域を慰問して、穢れを全て、持っていくつもりですね」
「バレましたか」
私は笑って誤魔化しました。しかし、リッセルは私がやろうとしていることを読んでいました。さすが、年上です。
「帝国と王国にある穢れを全て持って、公国で死ぬつもりですね」
「死ぬとは限りませんよ。昔の私と今の私は違います。昔、出来なかったことも、今は出来ます。それに、大した穢れではありませんよ」
「それでも、ただでは済まないでしょう」
「それは、やってみないとわからないことです」
リッセルったら、また、膝を折って、私に深く頭を下げます。もう、こんなこと、やめてほしいのに。
「帝国が一度、滅びようとしていた時よりも昔から、私は生きています。本来ならば、私が、筆頭魔法使いとして表に立ち、皇帝を操り、聖域の穢れを上手に浄化するべきだったのです。しかし、私は出来たのに、しませんでした。私もまた、あなたに罰せられるべき罪人です」
「そういえば、そうですね」
リッセルの実年齢を知っている私は、計算してみて、それに気づきます。あら、リッセルったら、出来るのにやらなかったのですね。これは由々しき問題です。
「ですが、仕方ありません。あなたは、あの子爵領の邸宅から出てしまったら、妖精に寿命を盗られてしまう、そんな立場でしたから」
リッセルの一族は、元々、妖精に寿命を盗られる、という妙な存在だった。それを防ぐために、領地の邸宅に、大昔の魔法使いが魔法をかけたのだ。
「そんなこと、アランに出会うまで、知りませんでした。ただ、祖父にきつく、子爵領から生涯出てはならない、と言われ、家臣たちからは、絶対に子爵領から出てはならない、と止められていました。それにただ、従っていただけです」
「きっと、あなたの祖父と家臣は知っていたのですね。領地から出ると、妖精に寿命をとられてしまうことを」
リッセルのために、皆、止めたのだ。それは、仕方のないことだ。
「あなたは、別に、帝国のために、なんて育てられたわけではありません。あなたは、一領主として教育されたのでしょう。それでは、仕方のないことです。帝国のことなど、二の次ですよ」
「ですが、今、後悔しています。せめて、筆頭魔法使いアランが王国から戻らなくなった頃に、聖域を慰問していれば、と」
「そうしたら、あなたの寿命を妖精に盗られていますよ。結局、同じです」
後から、そう思ったところで、リッセルは妖精に寿命を狙われているのだ。結果は同じだ。リッセルがいようと、いまいと、聖域は穢れ、帝国は滅びかけたのだ。
「後から、ああすれば良かった、こうすれば良かった、と言ったって、仕方ありません。良かったではないですか。今は、リッセル、領地の外に行っても、寿命を盗られることはありません。帝国中、好きな所に行けます」
「………はい」
「ライオットのこと、よろしくお願いします。あの子もまた、私にとっては、息子のようなものです」
「はい!!」
こうして、やっと、私はリッセルと別れた。
「嘘つきー----!!!!」
公国の領地に入るなり、私は空に向かって叫んだ。
公国への案内のために、同行してくれた王族ポーはびっくりしている。
「エリカ様、どうかしましたか?」
「ちょっと、予定外のことが起こりました」
「忘れ物ですか?」
「そうではありません。予定が狂ったんです」
リリィったら、嘘ついたのね!!
公国の領地に入ったというのに、私、溶けない。せっかくなので、帝国と王国の穢れ全てを持って行って死んでやろう、としたのに、五体満足ですよ。しかも、私、過去に徳を積み過ぎてしまって、持ってきた穢れも、公国の領地に到着する前に、浄化してしまいました。
死ぬつもりで、荷物だって最低限ですよ。ロベルトの遺骨はもちろん、男爵領に埋めてきました。死ぬつもりでしたので、持ってくるわけがない。
公国側には、ポーが連絡をいれているのでしょう。よくわからないもので連絡しあっています。持たされそうになりましたが、イヤな予感がするので、遠慮しました。
ポーと一緒に、がっしりした作りの建物に案内されました。そこに、偉そうな人たちが会議するみたいに座っています。
「こちらが、エリカ様です」
「エリカです。よろしくお願いします」
丁寧に頭を下げれば、品定めされます。見た目は小娘ですものね。
「ポーよりも年上だと聞きましたが」
「孫もいます」
ざわざわして、煩いです。そんな、孫までいたって、そういう若作りの女、探せばいるでしょうに。女でしたら、化粧で誤魔化すことだって出来ますよ。
公国へ行くのは、簡単かと思っていましたが、そうではありません。何やら、話し合いをされています。私は下座で、座り心地最悪なあ椅子にポーと一緒に座らされませいた。
「まさか、入国審査があるとは、知りませんでした」
「公国では、普通にありますよ。公国、たくさんの国があつまる集合体ですから。国同士の行き来は、なかなか大変なんです」
「帰ろうかしら」
「ここで通ってしまえば、適当に行動すればいいですよ」
「だったら、こっそり入国してしまえば良かったではないですか」
まさにそうです。入国後、適当に動けばいいのなら、入国審査なんて必要ない。
偉い人たちは、ともかく話が長い。それは、どの国でも一緒です。権威を振りかざし、示して、あーでもない、こーでもない、と不経済なことを話すのですよ。最後には、責任の所在がー、なんて言い出してきます。別に、悪いことしませんよ、たぶん。
適当なところで休憩となったので、私とポーは休憩する部屋へと案内されることとなりました。
あれですね、私は女だから、男性を案内役に持ってきましたね。
「こちらです」
「っ!?」
私はつい、相手の男性の腕をつかんで引っ張ってしまいました。
「王国では、やはり、女性の手をとって、エスコートするのが普通ですか」
「いえ、エリカ様には、そんなこと許されません。彼女は、王国でも帝国でも、最上位ですよ」
「あの、ぜひ、手をひいてください」
ポーを黙らせて、私は彼の手を無理矢理、とりました。案内の男性は、私がよく知る笑顔で、私の手をひいてくれます。
まさか、ここまでとは、偶然にしても、瓜二つです。
ポーは案内の男を見ても、何も気づいていません。気づかないでしょうね。
案内の男は、夫ロベルトの若い頃に瓜二つです。手の感触まで、そっくりです。ポーが気づかないのは、ロベルトがそれなりの高齢だったこともありますが、長年、領地で魔法を行使し続けていたため、すっかり、やせ細っていた姿だったからです。そこから、目の前の男がロベルトと瓜二つなんて、ポーはわからないでしょう。
案内の男を見て、大昔の記録を思い出します。最低最悪な魔法使いハガルを最低最悪と言わしめたのは、三人目に仕えた皇帝を狂わせたからです。三人目の皇帝は狂皇帝と呼ばれるほど、皇族で殺し合いをさせました。それもこれも、ハガルを独占するためです。ハガルは、一見、平凡な見た目でしたが、それは魔法で偽装した姿です。実際は男も女も狂わせる美貌の持ち主でした。ハガルはその素顔を晒し、狂皇帝を狂わせました。そこまでした理由は、一人目に仕えた皇帝ラインハルトと狂皇帝が瓜二つだったからです。ハガルは、一人目の皇帝ラインハルトを心の底から慕っていました。その想いが狂皇帝と出会ったことで再燃したのです。そして、ハガルは長年、狂皇帝を狂わし、狂皇帝との仲を邪魔する皇族を殺させました。
案内の男は、私に対して、何の感情も抱いていません。ただ、命令通りに動いているだけです。ですが、私は違います。ハガルの気持ち、今ならわかります。
目の前の男はロベルトとは別物です。ですが、外側はロベルトと瓜二つです。触れた感触から、肌の匂いまで、きっと、全て、同じでしょう。ロベルトを失って以来、なかった胸の高鳴りを感じます。
「こちらでお待ちください」
「せっかくなので、ご一緒してください」
「部外者がいないほうが」
「ポー、席を外してください」
「何故ですか!?」
「邪魔です。お話しましょう」
私は立場を利用して、案内の男を無理矢理、部屋に引っ張り込みました。痴女だ、と周囲で見られていますが、知りません。この機会を逃してはなりません。
私は無理矢理、案内の男を椅子に座らせ、その向かいに座ります。外でポーが中に侵入しようとしていますが、妖精憑きの力では、私が上なので、出来ませんよ。
私は瞬間、偽装を解いて、案内の男を見つめます。私の姿が変わって、案内の男は驚くよりも先に、見惚れました。
「もう、結婚していますか?」
「いえ、そんな、恋人すらいません」
「本当ですか?」
「本当です!!」
私の素顔を前にして、嘘はつけないでしょう。それほど、私の素顔は男も女も狂わせます。
よし、この男は独身で、女もいない。だったら、あとは、なし崩しです。
「私は公国のことは、右も左もわかりません。出来たら、あなたに案内していただきたいのですが」
「僕でいいんですか!?」
「あなたがいいのです。ぜひ、お願いします」
「僕でよければ」
「あなたがいい」
私はそのまま、男の胸に顔を埋めました。若い頃のロベルトと同じです。
それから、休憩が終わったと告げられるまで、この男の身の上を全て語らせました。男の名前を呼ぶところまで、仲を短時間で深めていて、ふと、足りないものを感じました。
「そういえば、私は名乗っていませんでしたね」
「いえ、あなたの名前は聞いています」
「それ、本名ではありません」
私は通称で”エリカ”と呼ばれているにすぎない。そちらの名前のほうが先に広がってしまったから、そのまま呼ばせているだけだ。
実際は、別の、母がつけた名前があるのだ。誰も、その名を呼んでくれない。
私は、せっかくなので、この男に、私の本名を呼ばせることにしました。
「私の名前は………」
公国では、私は本名で呼ばれることとなりました。




