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皇族姫  作者: 春香秋灯
王国の皇族姫-余後-
193/353

女帝

 簡単な戴冠式を終わらせて、私はいつもの平民服で執務です。

「その恰好はやめろ!!」

 早速、皇族ライアンに叱られました。

「あなたがたの服はこう、カチカチしていて、動きづらいのですよ。万が一、皇位簒奪で攻撃されたら、避けられないですよ」

「そうならない!!」

「絶対はありません。十年前は、クーデターが起きましたしね。書類の仕分けは終わりました」

「もう!?」

 文官たちまで、私の作業ほ速さに驚愕しています。

「お前たちは遅すぎです。寿命短いくせに、どれだけ無駄に時間をかけるのですか。もっと、残された寿命を大事にしなさい」

「これから皆、死ぬみたいな言い方やめなさい!!」

「えー、ここにいる人たちで、私よりも長生きする人なんて、一人もいないのにー」

 ちょっと見れば、ただの人並の寿命です。私はそれよりも倍以上、長生きなのだから、もっとゆっくり作業してもいいのですよ。

「皇族教育の抜き打ちに行きましょう。だいたい、貴族がやらかすのは、皇族教育ですよ」

「はやいはやいはやい!!」

 ライアンめ、煩いですね。

「もう、いいではないですか。見てみたかったのですよ、教育現場。私の教育は父の妖精ですよ。実物はどんなものか、知りたいではないですか」

 さっさと執務室から出ていってやる。ちなみに、私の私室は、城の皇族の生活区域にはありません。ほら、皇族、私のことを見下していますから。仕方なく、筆頭魔法使いの屋敷に居候ですよ。

 皇族教育も、皇族の生活区域で行われています。そこに入るのに、まずは門番ですよ。

 最初、私に無礼を働いた門番も入れ替わり、私を見ると、すぐに入れてくれます。宮仕えって、本当に理不尽の塊ですよね。

「待って!!」

「無理についてこなくていいですよ、ライアン」

 うんと年寄のライアンが、私の歩く速度にあわせようとしていますが、もう、追いついて行けてません。仕方なく、私は待っていてあげます。

「ライアン、私のお目付け役は、若者にしたらどうですか。あなたでは役不足ですよ」

「俺が頼んだんだ。俺が責任とって、十年、お前を見張る」

「そんな、私は帝国に対して、悪事なんてこれっぽちも働きませんよ。むしろ、二度も帝国を救ったではないですか」

「帝国を恨んでいるだろう!?」

「そうですね」

「っ!?」

 そこは正直に答えると、ライアン、驚いて黙り込む。

「一生、私の恨みは晴れません。ですが、ロベルトとアランが、それを望んでいませんから。ロベルトは、帝国を許すのではなく、受け入れる心の広さを私に説きました。アランは、気の毒に、私とロベルトの犠牲で、不自由をさせてしまいました。アランは自由であれば、きっと、ラキスのために、皇族の道を選んだでしょう。ですから、私はここにいます」

 ライアンの息も整ったので、私は仕方なく、ライアンにあわせて歩きます。

 しばらく歩いて行けば、妖精の導きもあり、すぐに教育の部屋に到着です。こっそりと覗き込んでみます。

「可愛い」

 小さい皇族かもしれない子どもたちが、ちょっと落ち着きもなく、教育を受けています。小さい子どもは、見るだけならば、可愛いです。

 ちょうど、休憩に入る頃合いでしょう。子どもたちは動き出しました。その中に、エリシーズの子ライオットもいます。私は机に座ったまま動かないライオットの元に行きました。

「ライオット、こんにちは」

 ご挨拶したのですが、ライオットは私を睨み上げてきます。あら、何か吹き込まれましたね。

「私はライオットを怒らせるようなことをしましたか?」

「ライアンを足蹴にしたって、聞いた」

 私は瞬間、笑顔のまま、部屋の外で気まずい顔をしているライアンを見る。お前、どこまでも愚かね。だから、階段から落ちるのよ。

 ライオットは、ライアンに懐いているのでしょうね。いえ、皇族の子どもたちは皆、そうです。私に対して敵意さえ向けてきます。実際、やりましたしね。

「どうして、私がライアンを足蹴にしたか、理由を知っていますか?」

 私はわざわざ教卓に立って、休憩中の子どもたちに問題のように質問します。皆さん、私には口もききたくないようですが、言いたいことはありますよね。

「育ちが卑しいから!!」

「血筋で嫌がらせしてるって、聞いた!!!」

「エリシーズに嫉妬してるからだよね」

 どんどんと好き放題言ってくれますね。だいたい、こういうのは、親がいうものですよ。

 ライアンはというと、子どもの口は塞げませんので、真っ青です。

「わかりました。それでは、私はどういう人か、ご存知ですか?」

「だから、育ちが卑しい」

「何をやった人か、知っていますか?」

「………」

 そう、子どもたちは誰も知らないのだ。大人だって知らない。誰も、私がどういう人なのか、教えない。卑しい育ちの女だから、知ろうともしないのだ。

 ライアンでさえ、それを教えない。教える必要性を感じていない。だから、私は帝国を見捨てたのだ。

「私はこう見えても、過去二回、帝国を救った聖女です」

「うっそだー」

「見えない!!」

「聖女だったのは、大昔ですよ。大昔、帝国は滅びかけました。皇帝を貴族が操り、やりたい放題したため、帝国の聖域はとんでもなく穢れました。その穢れを取り除いたのは私です」

「嘘つき!!」

「そんな話、知らない!!」

 私はとうとう、怒りが頂点に達しました。ライアンを魔法で教室の端に吹き飛ばしてやりました。

「ライアン、どういうことですか?」

 私が妖精憑きの力を発揮して、ライアンを締め上げてやります。手も使わずに、ライアンがとんでもない目にあっているのです。子どもたちは、私がどういう存在が、本能で気づいたのです。

「ま、待て、話し合おう」

「お前は本当に、救いようのない男ですね。大昔のやらかしといっても、私が命をかけて施してやったのですよ。それをなかったことにしようとは、許せません。これからは、階段から落ちた時の痛みは二倍です。死なないですから、大丈夫ですよ。怪我もしません。ただ、物凄く痛いだけです」

「ごめんなさい!!」

 私がもっとライアンを痛めつけてやろうとしていると、エリシーズの子ライオットが私の腕にしがみついて謝ってきました。

「どうして、謝るのですか?」

「母上から聞いていました!! あなたは、とても素晴らしい姉妹だ、と。だけど、皆、あなたを悪く言うから」

「仕方ありません。どっかの誰かが、情報操作をしたのです。こういうのは、諸悪の根源を潰すに限ります。ライアン、覚悟しなさい」

「許してあげてください!!」

「許しません。ライアンは、私が純真無垢な若い女だった頃、最低最悪なことをしました。この男は、絶対に許してはならないのです」

 いくらライオットの願いでも、私はライアンだけは許さない。

 ライアンは、お得意の、軽い頭を下げてくる。

「許してほしいとは、もう言わない。悪かった!!」

「当然です。お前は悪事を働いたら、謝罪しなさい。許しませんが、謝罪はしなければなりません」

 私は容赦なく、ライアンの頭を踏みつけてやる。

「そんなことしなくても」

「されて当然のことをこの男は私にしたのです。いいですが、あなた方にとってはライアンはいい人でしょう。ですが、私にとってはライアンは最低最悪です。ライアン、あなたは私に感謝しなければなりません。私は父に、あなたのこと悪くは言いませんでした。父は最後まで、あなたのこと可愛い弟子と思って死にましたよ」

「っ!?」

 ライアンは知らないのだ。父アランがライアンをどう評価していたのか。

 私は父と和解はしたが、帝国への不満をいうような真似はしなかった。父はずっと、帝国は正しい、と思って死んだのだ。

 ライアンはひれ伏したまま、喉を詰まらせて、泣いた。この男にとって、父アランの評価こそ、最大の罰なのだ。





 エリシーズの私室に遊びに行けば、ライオットが勉強をしていました。エリシーズはというと、のんびりと椅子に座って、お茶を飲んでいました。

「ゆっくりしていますね」

「聞きました。ライアンは、本当に救いようのない男ですね」

「あの男は、一生、ひれ伏していればいいのですよ」

 使用人が気を利かせて、私の分のお茶を給仕してくれた。

「長居するつもりは」

「もう、仕事も終わったと聞いていますよ。私が一週間かけてやる仕事も、あなたは一瞬で終わらせてしまったとか」

「リッセルが容赦なく、仕事をふるからですよ。子育てをする暇を与えないなんて、酷い男ですね」

 筆頭魔法使いリッセルは、何を考えているのやら、エリシーズが女帝時代、無茶苦茶な仕事配分をしていた。それをそのまま私に放り込んだのだ。それには、私は呆れるしかない。

 エリシーズは悔しそうに顔を歪めます。

「リッセルは、まだ、ライオットのことを諦めていないのですよ」

「妙な所にこだわっていますね。それも、妖精憑きゆえですね」

 リッセルは、私の末の息子アランに強い執着を持っています。亡くなってしまいましたが、アランはライオットとして生まれ変わりました。リッセルは第二のアランとして、ライオットを手に入れようとしているのです。

 ライオットは、私とエリシーズの話に興味を持ちます。勉強しているふりをしてますが、手が動いていませんよ。

 私はライオットには聞こえないように魔法で音を遮断してしまいます。子どもに聞かせるような話ではありませんね。

「リッセルの気持ち、わかります。ですが、妖精憑きだからと許されるものではありませんよ」

「エリカから言ってくれますか?」

「リッセルとライアンは後回しです。まずは、ライオットですよ」

「ライオットに、何かしなければならないことはあるのですか?」

「あなたも、世間知らずな上、洗脳まがいの教育を受けましたね。今、ライオットは同じようなことをされようとしていますよ」

「よく、わかりませんが」

 世間知らずだから、エリシーズはそれが当然と思っています。私が言いたいこと、理解出来ないでしょうね。

「エリシーズは、ライオットをアランにしたいのですか?」

「しません!!」

「ですが、このままでは、ライオットは、どちらかのアランになりますよ」

「そんなこと、ありえませんよ」

「あなたはどうですか。正しい女帝となるべく、魔法使いから、皇族から教育を受けています。この正しい女帝、というものは、主観ですよ。やらかした皇帝と私たちの母だって、見る人によっては、正しい皇族なのですよ」

「ですが、聖域は穢れました。間違った皇族だと、神と妖精、聖域は証明しました」

「そうなった時には、遅いのですよ。そうなる前に、止めないといけません」

 聖域の穢れ具合でやっと認めるなんて、随分と時間のかかる、帝国を滅ぼしかねない判定方法です。しかも、これ、事後ですし。

 ここは、生存の危機が皇族にはないからですね。私は生きるか死ぬかを体験しています。しかも、孤児育ちですから、底辺が一番最初に被害にあう、ということを身をもって知っているのです。

 仕方なく、私はライオットと向き合うことにします。私はエリシーズから離れ、ライオットの勉強の進み具合を見ます。

「なかなか、いい感じに進んでいますね」

「リッセルにも誉めてもらっています」

 照れるライオット。そこに、末の息子アランの面影が見えます。リッセルも、見ているのでしょう。

「ライオットは、将来、立派な皇帝になりたいのですか?」

「? 皇帝になれ、と言われています。僕がなるのは決定ですよね」

「どうでしょうか。私の気まぐれが働くと、あなたはずっと、一皇族のままかもしれませんよ」

「リッセルは、僕が次の皇帝だと言ってます」

「リッセルでは、私に勝てません。妖精憑きとしての格が違い過ぎます」

「どこが?」

 ライオットもまた、妖精憑きです。ただ、ちょっと力がある程度です。そのライオットから見ても、私は大した妖精憑きに見えないのでしょう。

 だから、リッセルも私に負けたのですけどね。

 私は悪戯心で、ちょっと妖精を解放してやります。途端、部屋いっぱいに妖精が溢れてしまいます。

「これは、私が持つ妖精のほんの一部ですよ」

 エリシーズにはわかりませんから、普通にお茶を飲んでいます。ですが、見えるライオットには、この物量は恐怖です。真っ青になります。可哀想なので、すぐにひっこめてやります。

「昔、リッセルは我が家からアランを奪おうとやってきました。仕方なく、私とロベルトで、リッセルを撃退してやりました。それ以来、リッセルは私には絶対に逆らいません」

 リッセルは、真の意味で、私の恐ろしさを知っている。だから、私のことを”エリカ様”と呼ぶのだ。

「私は普段から、全て偽装して、隠しています。そうして、相手を試しているのですよ。今のままでは、ライオットは、皇帝には不向きですね」

「卑怯だ!!」

「大人は卑怯ですよ。私なんて、長生きして、世間の荒波で生きていますから、ライアンよりも、リッセルよりも卑怯です。ですが、その卑怯すらも出来るのが皇帝です」

「僕はしない」

「しなければなりません。時には、皇帝は悪者になる必要があります。出来ない、しない、ではなく、やるのです」

「やらない!!」

「ラキスが愛するアランは、平然とこなしましたよ」

「っ!?」

 さすが、同じ魂です。一目惚れの女性も同じですね。

 可愛いライオット。顔を真っ赤にして膨れています。

「ラキスは別に、悪者であるアランのことも愛していましたよ」

「………」

「だからといって、あなたはアランの真似事をしなくていいのですよ」

「だけど、僕はアランが転生した人だし」

「そんなにアランになりたいなら、今から、男爵領であなたを教育してあげましょう。アランにしたことそのまま、してあげます」

「そうしたら、アランみたいになれる?」

「いえ、なれません」

「なれるんじゃないの!?」

 からかわれたと感じたのでしょう。ライオットは物凄く怒りました。

 離れた所で聞いているエリシーズは心配そうに見ています。私がライオットをアランみたいにするのでは、と危惧しているのですよね。

「我が家は、男も女も、同じように育て、教育しました。でも、皆、違う大人になりましたよ。つまり、同じことをしても、あなたはアランになれません」

「そうなの?」

「そうですよ。同じことしてアランになるのなら、私だってそうしています。私はアランを含めると六人も子がいました。皆、同じように育てました。ですが、皆、違う個性と才能の持ち主でした。どんなことしても、同じになりません」

「それじゃあ、ラキスは一生、アランのことを思って生きるんだ」

「そんなの、あり得ませんよ」

 私は笑って言ってやる。

「でも、今も、アランを思っている、と結婚の申し出を断っているって」

「都合よくアランを使っているのでしょう。アランが死んで十年ですよ。確かに、目の前で命までかけられたのです。忘れられないでしょう。ですが、十年も思い続けるというのは、あなたが思っているほど、簡単ではありません。世の中には、楽しいことは一杯です。心だって揺れます。残念ながら、今の皇族たちには、ラキスの心を揺らすものがないのでしょうね」

「それじゃあ、どうすれば、僕とラキスは結婚出来るの!?」

 もう、必死です。今のままでは、ライオットはアランに負けてしまっていますものね。

 ほら見なさい。子どもなんて簡単に懐柔出来てしまいますよ。ちらっとエリシーズを見れば、真っ青です。ライオットは、私に簡単に懐柔されてしまっていますが、口出しが出来なくて、泣きそうな顔になっています。

「ライオット、そんなに慌てて大人にならなくていいのですよ。親としては、まだまだ子どもでいてほしいのです。まずは、子どもを満喫しなさい」

「でも、ラキスが誰かと結婚したら」

「それはないでしょう。あなたがいます。アランの転生体だとリッセルが認めたあなたがいる以上、ラキスはよそ見出来ません。魅力ある男性が出てきてしまうこともないでしょう。私の息子は王国一、帝国一、かっこいい男です!!」

 アランを越えるような男が皇族の中に出てくるわけがないのだ。

「あなたも、親ばかね」

 とうとう、エリシーズまで会話に混ざってきました。

 まさか、エリシーズが話に入ると思ってもいなかったライオットは姿勢を良くします。そうか、ライオット、エリシーズの前では、お行儀よくさせられていたのですね。

「あら、アランは男爵領ではものすごく女性に告白されていましたよ」

「貴族の学校ではどうなのですか?」

「ラキス一筋でしたから、そんな告白する愚か者はいません。それに、ラキスの前で、他の女性に愛想振り撒いたりするような、愚か者ではありませんよ。アランは、そういうところ、しっかりしていましたから。ライオット、気をつけなさい。女性は、妙なことで不安になったり、嫉妬したりします。安心を与えられるように、身の振り方には気を付けてください」

「本当に、そうね」

 エリシーズは苦々しく同意する。ライオットのどこの誰かわからない父親のことを思い浮かべているのでしょうね。

 ライオットは、皇族では珍しく、父親不明です。皇族としては、片親が不明なのは不利なのですが、エリシーズは元女帝ですので、その立場でねじ伏せてしまいました。

 でも、隠す必要なんてないのに。私は妖精憑きなので、ライオットの父親がどこの誰か知っています。誰にも教えませんけど。

「そういえば、ラキスが言っていました。アランの男友達は敵だ、みたいなこと」

「………」

「え、どういうこと?」

 エリシーズは意味がわからないでいますが、私はよくわかります。

「本当に、そこはラキスに同意です」

 私にも見に覚えがある怒りですね。

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