領地戦
領地戦の条件の最終確認のために、立会人となった皇族スイーズと、護衛役の魔法使いマクルスが、男爵家にやってきた。
「伯爵が勝った場合は、伯爵領の被害の弁償と、協力者である侯爵家次男に領地を明け渡すこと、となっているが、いいのか?」
「負けたら、父上に泣きつこう」
あんなに自信満々に言っておいて、負けた先のことを考えているハイムント。
「ハガルに泣きつくと、どうなるのですか?」
「筆頭魔法使いの秘密の部屋に、一生、軟禁だ」
試しに聞いてみれば、微妙だ。軟禁が良いのか悪いのか、わからない。
「そうか、負ければ、いつでも会いに行けるな」
スイーズはとても嬉しそうにいう。負けてほしいみたい。
「確かに、一生、軟禁のほうが、ラインのためだろうな」
なんと、魔法使いマクルスまで、軟禁に大賛成だ。
「あら、マクルスは、ハイムントのことをライン、と呼ぶのですね」
ハイムントの本名はラインハルトだ。ラインは、愛称である。よほど親しいのだろう。
「筆頭魔法使いの実験の頃は、そう名乗っていたから、魔法使いの間では、それが普通に出てしまう。当時は、まだ貧民で、名前がない、ということから、ラインと名乗っていたんだよな。まさか、本名の愛称だとは、後で知って驚いた」
「僕のことをそう呼ぶ人はいなかったから、呼ばせたかっただけだ。あれはあれで、新鮮だった」
「ハガル様のご子息だと知った時は、生きた心地がしなかった。ハガル様に口封じされるんじゃないか、と震えたものだ」
「口の固い、それなりの実力者を集めたんだ。父上がそんなことをするはずがない。お前たちは、父上に信用されているんだ。自信を持つがいい」
「ラインがそういうのなら、そうなんだろうな」
ハイムントは、魔法使いマクルスと話していると、どこにでもいる人となる。不思議だ。マクルスも、ハイムントに対しては、あまり身構えたりしない。自然体だ。
「そうだ、なかなか厄介なことになってきたぞ。侯爵家が、ハガル様にとんでもないお願いをしてきた」
「魔法使いを貸してほしい、だろう。それでいい、と伝えておいてくれ」
「………お前な、また、無茶をするなよ。いざとなったら、俺たちを頼れ」
「領地戦では、よろしく頼む。どうせ、あの伯爵はやらかす」
「ハガル様を怒らせると、大変だってのに、お前に何かあったら、誰があの人を宥めるんだ!?」
「そういう必要がないように、僕は動いている。僕の計画は完璧だ。領地戦で、あのウジ虫どもを父上に献上してやる」
マクルスは心配をしているというのに、ハイムントはこれっぽっちも止まるつもりがない。マクルスは友達として、とてもハイムントの味方になりたいのだろう。
ここで、マクルスたちに頼ればいいのに。だけど、ハイムントの計画では、マクルスたちに頼る部分がないのだろう。
「それで、ハイムントが勝った時の商品はどうするのかな? まだ、決めていないよね」
スイーズは真っ白の紙をハイムントの前に置く。
「まだ、決めていないのですか!?」
てっきり、適当に決めていると思っていた。わたくしは驚いて、隣りに座るハイムントを見る。ハイムントは、とても難しい顔を見せる。そんな、悩むことかしら。
「領地はいらない。金もいらない。人もいらない。さて、相手を叩き落とせるような商品が思いつかない」
「お金でいいではないですか。ここで、どーんと大金を」
「この領地戦、途中で中止になることが決まっているからな」
「は?」
「え?」
「どうして!?」
スイーズ、マクルス、わたくしは驚いた。ハイムントは、この領地戦に勝利する以前に、中止となる計画だという。
「中止になる根拠は?」
「黙秘する。相手はわかっていない。僕の領地で絶対にやってはいけないことがある。伯爵は、それをやらかすよ、絶対に」
「もう、ハガル様に今すぐにでも、軟禁してもらおう。そうするべきだ」
「友達にそんなこというのか」
「友達だからだ。長く、友達でいたい。会いに行くから、もう、こんなことはやめろ」
「僕はまだ、僕だけの一番星を手に入れていない」
マクルスが説得しているというのに、ハイムントはじっとわたくしを見る。何故、そこでわたくしなのかが、わからない。
マクルスは深いため息をついた。
「もういい。軟禁されても、助けてやらないからな」
「その時は、会いに来てくれればいい」
「あんなに頭がいいのに、お前はバカだ」
「認めよう」
二人だけしかわからない会話だ。マクルスは悔しそうに顔を歪め、ハイムントは穏やかに笑っている。
問題の、領地戦での商品に、ハイムントは何か思いついたようで、笑顔になる。
そこに、侯爵家次男の首、と書かれた。
「私の皇族姫を侮辱したんだ。お前の首を踏みつぶしてやる」
影皇帝の顔でそう呟いた。
領地戦の日程が決まると、領地内は騒がしくなる。何せ、男爵領は防戦一辺倒だ。攻められるだけなので、防備が必要となる。犠牲となるのは領民だ。
ただの子爵だった頃は、領地戦なんて出来るはずがなかった。何せ、ただ、運よく領地を得られただけである。近くの貧民街があるので、子爵領は扱いが難しい領地であった。だから、攻めてくる貴族なんかいない。手に入れたって、旨味がないのだ。だから、領地運営に力を入れて、兵力なんか必要がなくなり、削減されたのだ。だから、税率がおかしかったのだろう。兵力に力をいれるなら、あの税率では成り立たないのだ。
戦争もなくなり、平和となった帝国で、兵力を持つのは、領地戦を仕掛けられる旨味のある領地くらいだ。伯爵も侯爵も、そういう旨味のある領地なのだろう。知らないけど。
現在、男爵領となったけど、貧民街が目の前にあるので、旨味なんてこれっぽっちもないように見える。
旨味があるといえば、わたくしの存在だろう。わたくしが貴族の元で皇族教育を受けているので、色々と恩恵を受けている。もしかすると、わたくしが皇族となった後も、出身地として、何か旨味があるかもしれない、とう侯爵家は思ったのだろう。伯爵家は、その旨味の一部を手に入れたいのだ。
「ハイムントが負けたら、城に入っちゃおう」
ついつい、そんなことを口にしてしまう。それを側で聞いていた元貧民の若者ガランはとても驚いていた。
「若を捨てるのですか!?」
「捨てるって、まだ、そういう関係ではありません!! なんてこと、大きな声でいうのですか!!!」
周りで領地戦のために、なにやら動いている貧民たちが手なり足なり止めて、わたくしとガランのほうを見る。
「姫様は負けた男は捨てるんですか!?」
「言い方!! そういう言い方しないの!!! 万が一、負けた時、ここに、あの侯爵次男が来るのよ。絶対にイヤよ」
「言ってくれれば、侯爵次男を暗殺してあげるよ」
笑顔でとんでもないこというな、この男は。やはり、こいつもハイムントの部下だ。見た目はいい感じの青年だけど、中身は真っ黒よ。
「若、邸宅の隠し通路のほうは、洗い出しが終わりました。どうしますか?」
「地図に書き出したのならいい。魔法を発動させるから、さっさと出ろ」
「全員、出ろ!!」
隠し通路の地図を作るために、随分とたくさんの貧民が歩き回っていた。出てくる数に驚く。
人数の確認が終わってから、ハイムントが何やらしている。魔法で何をしているのやら。
「隠し通路に魔法って、何ですか?」
「この邸宅自体、今では使われていない魔道具やら魔法の痕跡があります。たぶん、領地戦に役立つでしょうから、作動させています。使用者は、僕の先祖になっていますので、この際、継承の手続きもしてしまいます。継承の手続き後には、色々とやりますので、ラスティ様はサラムと一緒にいてください」
「………わかりました」
何を言っているのか、理解出来ないので、わたくしはさっさとサラムの元に行く。
サラムは元々、わたくしの護衛として命じられているようで、大人しく立っていた。
「ガラムはどうしたのですか?」
いつも、サラムとガラムは一緒だ。二手に別れるのは、初めて見た。
「ガラムはハガル様へお遣いに出されました。いいなー、お遣い。きっと、魔法使いから妖精の力、吸い放題だろうなー」
「ハイムントではダメなのですか?」
「若は、ほら、魔法使いだけど、妖精憑きではないですから」
「何が違うのですか? 妖精、使えるではないですか」
「若は、妖精を生まれ持っていません。ただ、妖精を他人から借りたり、自然発生する妖精に願いを叶えてもらっているだけです。若を通しては、妖精から力を貰うことは出来ません」
「だから、ハイムントは魔法使いを五人も引き連れているわけですか」
「若なら、十人でも百人でも、妖精を使えますがね、人は信用出来ませんから」
五人しか引き連れていない、ということは、それだけしか、信用出来ないのか。その人数を決めたのは、ハガルだ。
そうして、領地戦のために、内も外も色々としている光景は、次の日の早朝まで続いた。
領地戦の当日、ハイムントは、あのとんでもない軍馬に乗っていた。そこには、何故かわたくしも同乗させられる。
「怖い!!」
「城に入ったら、領地戦なんて経験できませんよ。絶対に怪我はさせませんから」
「馬が怖いの!!」
夜走らせた時は、真っ暗だったから、目を閉じて、ハイムントにすがっていれば良かったがら、こう明るいと、色々と怖い。もう城に入ったら、一生、馬なんて乗らない!!
領地のあちことに罠が仕掛けられているという。目に見えないものから、そうでないものまで色々だ。
「お、魔法使いを使ったな。妖精が来てる」
「それって、卑怯ではありませんか。魔法使いには誰も勝てませんよ」
目に見えない、神の使いの力は人外だ。人はどうやって勝てない。
「領地戦では、妖精憑きの力を攻撃には絶対に使ってはいけない決まりがあります。だから、こうやって、敵情視察に使うのですよ。
よしよし、いいこだ」
ハイムントには見えたり触れたりするのだろう。手でなにかしている。
「でも、どうして、魔法使いが侯爵家につくのですか。ハガルは絶対にハイムントの味方をすると思っていたのに」
「侯爵家はちょっと、厄介な情報を握っているのですよ。父上は、その情報が喉から手が出るほど欲しがっている。さて、その情報が本物であればいいが、偽物だった場合、血祭りだな」
「知っているのですか、その情報の真偽を」
「情報はともかく、父上も、いい加減、誰が家族か、しっかりと気づいてもらいたい。過去の亡霊を引きずりすぎだ」
忌々しい、みたいに舌打ちするハイムント。普段は、ハガルのことを愛して尊敬する息子の顔をしているのに、珍しく怒っている。
ハガルは不死身の化け物、と呼ばれるほど長寿だ。皇帝ライオネルが四人目の皇帝だという。その間に、たくさんの人の死を見送ったのだろう。だから、過去には色々とあったと思われる。
しばらくして、領地戦の先兵は、海の貧民街との境界線となる巨大な防壁に到達した。よりにもよって、海の貧民街を蹂躙したのだ。
「宣言通り、やったな、伯爵は」
影皇帝への恨みをここぞとばかり、領地戦で晴らしたのだ。せこいな、あの男。
そこのところも、ハイムントの読み通りだ。海の貧民街は、この日、無人となっていた。ついでに、金目のものも全て、回収されたという。今、ハイムントが魔法で貧民街に炎を放ったら終わりだな。
なんて考えていたら、火が放たれた。
「はやくこの壁を壊せ!!」
敵側が大騒ぎとなる。何せ、戻るための道が炎で塞がれたのだ。あまりにも燃える速度が早すぎて、敵側は混乱して、壁に体当たりしている。
その境界線となる壁は、賢者ハガルが作ったものだ。最初は体当たりすれば簡単に壊れる代物だったのをハガルは簡単には壊れないように補強したのだ。
その補強は、人外並だった。
どんどんと悲鳴のような声まであがってきて、体当たりというより、壁を叩くような音となっていく。その向こうは、阿鼻叫喚となっているが、男爵領内からは見えない。
人が焼ける臭いって、こんなのか。
他人事のように、そんなことを思って、わたくしは口をおさえる。
「後で、父上に消し炭にしてもらおう。骨の回収は面倒だ」
人の死など日常の男は、まるで何も感じていない。それどころか、その後の処理のことを考えていた。勝敗など、まるで気にしていないのだ。
次に攻撃をされるのは、領地戦で絶対に攻略しなければならない、邸宅である。領地の内側にある罠を妖精の情報でどうにか避けてきたのだろう。だけど、その数は少ない。少数精鋭で、邸宅の隠し通路からの侵入を試みたのだ。
だけど、すぐに、敵は邸宅の外に出されてしまう。
隠し通路の地図をどこから手に入れたのかはわからない。間違っているのかもわからない地図を頼りに、何度も何度も入るも、すぐに出される。この現象に、恐怖しかない。
そうして、彼らは表に出て、邸宅の窓を壊す方向へと動く。だけど、どれだけ叩いても、蹴っても、石まで投げても、傷一つつかないのだ。
ここまでこれば、邸宅自体、特別なものだと気づくものだ。邸宅の攻略は、不可能だった。その事実を報告するために動くしかなかった。
だけど、信じる者なんていない。また、別動隊が放たれて、同じことを繰り返すのだ。
そうして、敵兵の間で、恐怖が伝達していく。
邸宅の攻略が出来ない。
貧民街は火の海。
あとは、皇族を抱えているハイムントを直接攻撃するしかないのだ。ハイムントが抱える、わたくしを敵側がいる陣地に連れて行けば、領地戦は伯爵の勝利である。
「妖精を使う回数は決められている。敵情視察で使いきっただろうな、もうそろそろ」
魔法使いを使うには、攻撃だけでなく、回数も制限をかけられている。人外の力を使いすぎると、戦争の不利益が出てしまうからだ。
ハイムントは馬を走らせる。何故か、貧民街と領地の境界線となっている防壁だ。もう、そこは死の臭いしかしないから、行きたくないのに。
敵側は、わたくしを探すために妖精を使う。ともかく、わたくしのいる場所を見つけないといけない。そして、わたくしが、貧民街と領地の境界線にいることが伝わったのろう。また、炎がくすぶる貧民街から敵がやってくる足音がする。
防壁に攻撃がなされる。ともかく、この防壁を壊せばいいのだ。炎で少しは弱っているだろう、誰もがそう思う。
「妖精の力が宿っているから、壊せないぞ」
ハイムントはそう囁くようにいう。また、妖精に教えてるのね。何を考えているのやら。
魔法使いの力は、絶対、攻撃では使えない。ならば、防壁に宿る妖精の力を取り除けばいいが、そこは、攻撃となるのか、それとも、そではないのか、わたくしはわからない。
そうして、しばらくすると、壁を叩く音がぴたりと止まる。
途端、あれほど頑丈な防壁が砂となったのだ。
色々なもので汚れた敵たち。目の前にわたくしとハイムントが馬の乗っているのを見て、目をギラギラと輝かせて向かってくる。
『みぃつけたー』
視界がとんでもない光景となる。それは、わたくしだけではない。その場にいる人全てが見たのだ。
よく、絵本などの挿絵で見られた、妖精の姿だ。
一面を埋め尽くす妖精という妖精が、キラキラとした目でわたくしとハイムントを見ている。この光景に、何故かわたくしはぞっとした。だって、獲物を狙っているような目だ。
「サラム、ガラム!」
「若、おまかせください!!」
「逃げきれ、若!!」
ハイムントは軍馬を走らせる先で、サラムとガラムが身構えていた。その横を通り過ぎると、妖精たちが、何かにぶつかるように、サラムとガラムから先に進めなくなっている。
それでも、他の方向から妖精たちが追いかけてくる。ハイムントは余所見なんてせず、まっすぐ軍馬を走らせる。
そうしていると、向かいからも妖精たちが飛んでくる。このままぶつかるか、とわたくしは馬にしがみついて見ていると、その先に、五人の魔法使いたちの姿がある。
「許可します、ライン!!!」
五人がそれぞれ、そう叫ぶ。途端、ハイムントの妖精の目が色をかえる。
「邪魔だ!!」
ハイムントが叫んだ途端、五人がかかえる妖精たちが動き出し、行き先にいる妖精たちをつかまえる。そうして、ハイムントは上手に馬を操り、妖精たちをすり抜けた。
先にあるのは、あの、邸宅だ。敵は誰も入れなかった。その邸宅には、なんと、妖精たちも入れないでいる。一定の距離にへばりつく妖精たち。彼らは、わたくしとハイムントを見た途端、目の色を変えて向かってくる。邸宅にはもう、見向きもしない。
『小さいハガル、みぃつけたー』
『みぃーつけたー』
ハガルと聞くと、賢者ハガルのことだろう。小さいハガルは、きっと、ハイムントだ。
妖精の狙いはハイムントだ。わたくしは身をこわばらせる。妖精に狙われるって、一体、ハイムントは何をしたのだろうか。
ハイムントは片手で手綱を操りつつ、片手には剣を抜き放つ。わたくしは絶対に落ちないように、軍馬の首にしがみついた。
そうして、ハイムントが剣をふるうと、妖精たちが悲鳴をあげた。
向かってくる妖精たちの動きが止まる。ハイムントが持っている剣は、ただの剣でないことに気づいたのだ。
そうして、わたくしとハイムントは馬ごと、邸宅の敷地内に入った。
ハイムントが馬を止めて、馬から降りる。振り返ると、邸宅より一定の距離をとった外側に、物凄い数の妖精たちがへばりついていた。
『小さいハガル』
『みつけた』
『やっと、みつけた』
『まってるよ』
『いこう』
口々にハイムントをいざなう声をかけてくる。それを聞いて見ていると、気持ち悪くなってくる。
「しつこいな、お前たち。あと少しで行くから、待ってろ。待てないわけがないだろう。お前たちにとって、人の時間なんて、瞬き程度だ」
困ったように笑っていうハイムント。
『はやく、つれていきたい』
「もう少しだ」
『まってる』
「僕も待ち遠し」
『また、かくれる』
「また、見つけてくれ。待ってる」
妖精たちはどんどんと姿が消えていった。
そうして、領地戦は妖精が大量発生したことで、中止となった。
領地に、あの偽装を解いたハガルがやってきた。後ろには、皇帝ライオネルがいる。
「何故、中止にするのですか!?」
「こちらは、被害が甚大なのですよ!!」
帝国の騎士や兵に囲まれて、苦情を訴える伯爵ドモンドと、侯爵家次男のグレン。この二人は、帝国の騎士に捕らえられていた。
「よりにもよって、帝国のものではない妖精憑きを使いましたね」
若い、美しい男がその美声で言い放つが、相手が誰なのか、ドモンドもグレンも知らない。ただ、美しさに見惚れる。
「この地は、妖精除けを施しました。そのため、防壁には私の妖精の加護をしかけたというのに、それを解かれました。帝国の魔法使いたちは、絶対に妖精の加護を解いたりません。そうしてはいけない、と教育されているからです。ということは、帝国の所有物でない妖精憑きの仕業です。よりにもよって、私の手がけた妖精の加護を解くとは、万死に値する!
妖精憑き狩りをする。今すぐ、公爵領、伯爵領を魔法使いで攻め滅ぼしてくれる!!」
「ハガル、落ち着け」
怒っても美しいハガルでは効果がない。なので、ライオネルが前に出る。
さすがに、皇帝が前に立つと、ドモンドとグレンも正気に戻る。
「我々は、何も不正など」
「そうです! 何をしたというのですか!?」
「男爵がハガルの弟子であることは知っているだろう。弟子でありながら、魔法使いになれなかった男だ。それは何故か、考えたことがないだろうな。どうせ、落ちぶれたんだろう、と思ったんだろう」
魔法使いとして出来ないことが一つあった。それだけだと、わたくしは聞いた。だけど、表立っては、正確な情報は出ていない。
「男爵は、妖精に命を狙われているんだ。賢者ハガルは男爵をかなり可愛がっていたからな。男爵を守るために、命を狙う妖精が入れないように妖精の加護を領地のあちこちにつけたんだよ。それを野良の妖精憑きがほどいてしまった。妖精の視認化は、領地戦で起こってしまった。目撃者も多い。知らぬ存ぜぬではすまないのだよ。お前たちの領地は全て、今から調査することとなった。魔法使いも動員する。
これで満足か、ハガル」
「………もっと簡単な方法があります」
ハガルは考え込んでいたが、何かを思い出したようで、機嫌がよくなる。
「妖精の呪いの刑を発動させましょう。無罪なら発動しません。せっかくなので、この男をどもを使って、実験です」
「話が見えないんだが」
「私が説明しよう」
皇族スイーズがライオネルに数日前、海の貧民街で妖精憑きの売買を行った際、影皇帝が血族の根絶やしに妖精の呪いを使ってみては、と提案した話を簡単に説明する。
ライオネルは、邸宅の敷地から出られなくなったハイムントを見る。ハイムントは、魔法使い五人と世間話をしているのか、普通の若者の顔をしている。
苦々しい顔をして、ライオネルは視線をハガルに戻す。
「仕方がない。我々皇族は、ハガルの下僕だ」
その場で、妖精の呪いの刑が発動させられた。




