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皇族姫  作者: 春香秋灯
王国の皇族姫-外伝 賢者の弟子-
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皇帝の孫

 両親は血筋だけの皇族である。その二人の間に生まれたのが、俺ライアン。皇族の血筋なので、普通に皇族になるだろう、と言われていたが、新しい筆頭魔法使いアランが皇族だと言われていた人たちを半分も落としてくれたことで、それも怪しくなった。

 祖父であるライオネルお祖父様が皇帝となる時には、皇族の選定を賢者であるハガルが行っていた。しかし、賢者ハガルは高齢であったため、ライオネルお祖父様がハガルを大賢者として、皇族選定の儀を取りやめてしまった。それからは、皇族同士で結婚して、その間の子であれば、皇族だろう、と適当に決めていたわけである。

 それも、皇族の血筋に縛られる契約紋を背中に焼き付けられた筆頭魔法使いの誕生で、崩れていった。

 俺の両親は、とりあえず、皇族に生き残った。大変だったのは、しっかり仕事をしていたのに皇族でなくなった面々である。一応、お情けで貴族になったが、怒りの矛先は筆頭魔法使いへと向いた。

 筆頭魔法使いアランは、皇族の選定の儀では、ライオネルお祖父様のお手付きとなっていた。権力まで手に入れたアランに、元皇族だけでなく、貴族たちも恐れ、そして、裏で攻撃するのだが、全ては跳ね返されていた。

 バカだな。当時、まだ幼い子どもだった俺はそう思った。魔法使いは妖精憑きだ。アランは、大賢者ハガルが隠して育てた最後の最強の弟子だ。たかが人間に、勝てるはずがないんだ。

 結果、いくとかの貴族がなくなり、元皇族もいくつか処刑された。

「あんな人も殺さないような顔をして、恐ろしい」

 血筋だけの皇族の母は、アランを嫌悪した。実の父を誘惑したような男、という見方もしていたからだろう。だから、俺にはこういう。

「いいですか。男はいけませんよ」

「はい、わかっていますよ」

 表ではいい子の笑顔で答え、裏では舌を出していた。男はダメといっても、女がいいとは限らない。残念なことに、母や侍女、使用人、ついでに貴族の子女を見て、俺は女も絶望的にダメになっていた。一生、子作りはないな、と確信していた。

 そうして、両親の前ではいい子にして、年が近いで同じ皇帝の孫たちとは、それなりに悪だくみをしては、子どもらしく過ごしていた。

「ライアン、まった、抜け出すのか。先生に叱られるぞ」

 皇帝の孫で、まあまあ真面目なコモンが注意してくる。皇族なので、勉強は王城で行われる。不真面目な俺は、勉強など抜け出して、よく、城下町に遊びに出ていた。

 今日も、そうするつもりで、平民服を持参していた。王城の隠し通路も、完璧に覚えていた。

「そうだぞ。ほら、何もやってないから、お前、成績、ビリじゃん」

 同じく皇帝の孫で、頭よりも体を使うほうが得意なテリウスが木刀持っていう。

「さぼってる俺と真面目にやってるテリウスの点差がないってことが問題なんだぞ。たった一点の差だろう」

「今回は、難しかったんだ。次こそは、それなりの点数をとってやる」

「はいはい、頑張ってくれ」

 俺はさっさと抜け出して、隠し通路を走った。この隠し通路は色々と仕掛けをされているが、皇族と魔法使いは問題なく通り抜けられるようになっている。

 本来、筆頭魔法使いによる皇族選定の儀なんて必要がない。この通路を使えば、皇族の血筋がイマイチだと迷って、結局、元の場所に戻ってしまうのだ。まあ、道順を間違えなければ、普通の人もどうにか抜け出せるが、そのリスクは高い。不正しようと思えば出来てしまうので、使わないんだろうね。

 俺は、一応、皇族なので、迷いの魔法は効かない。ついでに、道順も覚えてしまったので、簡単に抜け出せてしまう。

 そうして、城を抜け出せば、城に一番近い王都の聖域だ。有事の時に行きつくのが、王都の聖域というのもあれだな。

「アラン様、こんにちは」

 タイミング悪く、筆頭魔法使いアランが聖域に慰問に来ていた。アランだったら、隠し通路も完璧だろう。

 人も殺さないような顔をしているが、見方によっては、精悍な顔立ちだ。魔法使いだけど、有事には肉弾戦なので、体もそれなりに鍛えて、体格がしっかりしている。

 元は貧民で、今は筆頭魔法使いだけど、皇帝の情夫と蔑まれているアランは、穏やかな笑みを俺に向ける。

「一人でお出かけとは、危ないですね。妖精をつけておきましょう」

「え、大丈夫、です」

「普通に話して良いですよ。敬語、苦手でしょう」

 魔法使いに嘘は通じない。俺はいつもの通り、笑うしかなかった。

「ねえねえ、アランはこれからどこに行くの?」

 早速、子どもの特権で、アランに聞いてみた。魔法使いの仕事に、興味があった。

「これから、公国側の聖域に行くのですよ。一緒に行ってみますか?」

「え、いいの?」

 まさか、同伴させてもらえるとは、思ってもいなかった。

 アランは、当時からそうだが、子どもには優しかった。まあ、悪ガキには恐ろしい面を見せていたが、礼儀をしっかりとれば、優しい人だった。

「手を」

「はい!」

 アランが手を出すので、俺は迷いなく握った。

 そして、一瞬で、洞窟の中の聖域に到着した。

 岩の間から湧き出る水が溜まって、泉になっている。そこが、青白く輝いていた。

「何か、見えますか?」

 アランがじっと俺を試すように見ていた。うーん、これは、アランの罠に嵌ったな。

 アランはたぶん、俺がよく城を抜け出していることを知っていて、王都の聖域で待ち構えていたのだろう。優しい物腰で、俺を罠に嵌めたんだ。

 聞かれたので、俺は辺りを見まわしてみると、なんと、何か人が浮かび上がった。

「え、幽霊!?」

 俺はアランにしがみついた。なんと、女の幽霊が見えた!

「アラン、帰ろう! 幽霊がいるよ!!」

「僕の前では、幽霊も敵ではありませんよ」

「えー、アランは妖精いなかったら、ただの人間じゃん。幽霊は、触ることも出来ないし、武器だって通じないよ」

「ライアン様は、よくわかっていますね」

 相手の力量を測るように見下ろしてくるアラン。一体、どういうつもりで、俺を公国側の聖域に連れてきたのか、その時はよくわからなかった。

 それから、公国側だった領土の見せてもらい、いくつかの聖域を移動して、王都の聖域に戻ってきた。

「なんか、すごいものを見てしまった」

「ライアン様、誰にも言ってはいけませんよ。内緒です」

「うん、わかった」

 あれは、誰にも話してはいけない光景だった。俺は一生、誰にも話さないと決めた。





 しばらくして、皇族の選定の儀を子どもだけで行った。次の皇帝を子どもの内に教育しよう、という話だ。

 子どもは戦々恐々だ。皇帝の孫といえども、親の組み合わせによっては、皇族でなくなる。もう、運だね、運。

 俺の両親は皇族だ。確率からいって、俺も皇族になるだろう。その確信はあったので、普通に「跪け」とアランに言えば、アランは笑顔で跪いた。

 皇帝ライオネルの孫は全て、クリアした。

 ただ、あの頭の可笑しいアグリがやらかした。アランを苦しめる命令をして、皇帝を激怒させた。

 普通なら、処刑だ。頭が可笑しい皇族は、生かしておいては危険だ。何より、命をおびやかすほどの命令を実行させてしまうアグリの血の濃さは、危険すぎた。

 アグリの母親は泣いた。アグリはそのまま殺されるだろう、と。

 ところが、アランの一言で、それは回避された。

「アグリは将来、僕が引き取りましょう」

 アランは泣いているアグリの母にそう言って、慰めた。

 その時は、子どもに優しいからだ、なんて俺は思っていた。

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