若気の至り
いつも、聞かれると、こう言うことにしている。
資格すらない。
そう言いながらも、随分と未練を残していた。何せ、あれほど、激しい女性に出会ったのは、一度きりだ。
伯爵令嬢サツキと出会ったのは、貴族の学校だ。私は成績優秀であるため、問答無用で生徒会に入れられた。たまたま、同級生に皇族ルイがいて、そのせいもある。
色々ととあり、皇族ルイとは腐れ縁となる。同学年なので、生徒会でも、学生活動でも、組むことが多かった。先生方としても、あの事件から、皇族係りが決まったな、なんて生暖かい目で私を見てくる。ついでに、同級生もだ。
「すまないな」
皇族ルイは、済まなさそうに謝ってくる。そういう顔をされてしまうと、もう仕方がない、と諦めるしかない。
そうして、私は伯爵家次男でありながら、皇族のご学友、という輝かしい肩書を持つこととなった。
この事で、やはり腹を立てたのは、私の兄だ。両親は悪くはないが、兄弟で競わせて、切磋琢磨させようとしたのだが、兄には逆効果だった。兄は残念ながら、凡人なんだ。
そして、私は兄の才能を奪って生まれたのだろう。だから、兄には目の敵にされていた。
基本、長男が跡取りである。私はというと、兄のスペアとなり、兄に子が出来たら、家臣となることは、両親から言い聞かされていた。それに不満を持つ家臣だっている。だけど、私は別に伯爵になりたいとは思わない。
だけど、周囲はどんどんと、勝手に、加熱していくのだ。兄派と、弟派に分かれて、内部分裂を起こしていた。
まだまだ未熟な学生ですから、と私は見ないふりをしていた。両親は頑張って宥めているし、兄が跡を継げば、そういう騒ぎも収まるだろう、そう思っていた。
そうして、数年が過ぎて、私は生徒会副会長、皇族ルイは生徒会長となった。
「生徒会長は、マクルスがするほうがいいと思うんだが」
「皇族が学校にいる場合は、まあ、成績さえ良ければ、生徒会長ですよ」
「マクルスのほうが成績が上なのに?」
「私は家臣になるので、これでいいんですよ」
むしろ、生徒会から抜け出したい。成人した兄からの圧が恐ろしいのだ。
私も手を抜けばいいのだ。だけど、そこが不器用だった。成績は良いままで、生徒会の仕事も片手間にこなし、稼業も手伝い、と学校からも、父からも、良い評価を貰ってしまっていた。
そして、兄はどんどんと私を恨むように見てくる。どこに行っても、私のことは優秀な弟、と褒め称えられるのだ。毎日、怖くて、家に帰りたくなくなる。
私の内情は、ルイも知っている。だから、哀れみをこめて見てくる。
「いっそのこと、宮仕えになればいいではないか。僕が取り立ててやるぞ」
「兄一人に任せたら、家が潰れる」
すでに、何度も失敗して、その後始末を私がしている。友達だという貴族や、家臣からの甘言に乗って、後は大惨事だ。兄に全てをまかせたら、領地も爵位も失うことになる。
「お前は優しいな。しかし、その優しさは、いつか、自らの首を絞めることとなるぞ」
さすが皇族。身内といえども、切り捨てることを私に言ってくる。
「私は家を継ぎませんよ」
「領民と家臣のことを考えて行動するように。皇族では、愚君を立てることは、絶対に許されぬ」
普段は温和で、人も殺さぬような優し気な感じのルイだが、皇族としての顔は、なかなか恐ろしい感じを見せる。
それを垣間見て、私は、器ではないな、と思い知らされる。やはり、生徒会長はルイだな。私はどこまでいっても、家臣だ。
そんな話をしながらも、ルイは新しい生徒会役員の選任をしていた。だいたいは、成績上位者から選ぶのだが、一応、それなりの爵位も必要だ。そこのバランスを考えて、ルイは新入生から数人、選任する。
「これはまた、悪い噂しかないご令嬢ではないですか」
成績は素晴らしいが、社交界では、義妹をいじめ、わがまま放題と噂される伯爵令嬢サツキだ。世にいう悪役令嬢として、すでに同級生から嫌われていた。
サツキは、なかなか難しい立場だ。社交界では悪評が高く、だが、あまり顔が知られていない。噂だけが一人歩きしているのだ。こういう場合、噂は嘘なのだろう。しかし、貴族は足の引っ張りあいなので、この噂を真実のように広められていた。表舞台に出てみれば、サツキは新入生代表となる高得点の成績を叩き出した。本来ならば、入学式の新入生代表はサツキがするべきだったのだが、打診したところ、お断りの返事が父親からされた。これは、前代未聞の話であったため、学校側も困惑したのだ。これには、皇族ルイが表に出ることとなったのだが、無礼にも、父親は断った。
だけど、サツキは新入生代表の挨拶をした。
そこから、サツキは誰もが目が離せない存在となった。見た目はとても綺麗だが、角度によっては悪女だ。口も悪い。言い方がよくないのだ。
だけど、付き合ってみれば、サツキは素敵な令嬢だとわかった。そして、深く付き合えば付き合うほど、彼女に惹かれてしまう。
生徒会役員は、入学試験の首席と次席が行うことが通例となっていた。首席のサツキはもちろん、勧誘である。ただ、もう一人は次席ではなく、サツキの婚約者である侯爵家次男エクルドと決めたのは皇族ルイだ。
「婚約者と一緒のほうが、サツキ嬢も引き受けてくれるだろう」
ルイは、サツキが役員の誘いを断るとわかっていた。新入生代表挨拶だって、家族が邪魔をしたのだ。サツキはそれを見越して、断るだろうとルイは予想していた。
実際、サツキは断ったのだ。そして、勧誘に行かせた二年役員が持ってかえってきたのは、サツキの義妹クラリッサを役員にする宣言をしてしまった報告である。このことで、二年役員は皇族ルイの怒りを買うこととなる。一応、一度は許されるが、二度目の失敗では、一人は退学となり、一人は役員助命となった。
そして、生徒会では、サツキの婚約者エクルドと、義妹クラリッサの株は最底辺となった。最後には、エクルドが暴力事件まで起こして、それの火消に、サツキが影から奔走したのだ。被害者であるサツキは口を閉ざし、頭を下げたのだ。そして、サツキは私の交渉のような説得により、生徒会役員になることとなった。
サツキは口がちょっと悪い女だ。だけど、よくよく思い返すと、口が悪いのではなく、正直なのだ。思ったことをそのまま口にして、それを悪く受け取られてしまう。
そんな悪女も、恋をする。
軍神コクーンの弟子アルロにサツキは恋していた。たまたま、学校内で助けられたサツキは、アルロが連れてきた馬に乗せられた瞬間、少女のように恥じらったような笑顔を見せた。
それを見て、私でさえ、目を奪われた。皇族ルイも、サツキに見惚れた。それほど、清楚華憐な少女に見えたのだ。
だけど、サツキが見つめているのは、アルロだ。ぶっきらぼうで、愛想もない、馬車でなく軍馬でサツキを家まで送る、という非常識な騎士だ。貴族令嬢に、軍馬はないだろう。だけど、それをサツキは喜んで、アルロに全身を委ねた。
そして、アルロはあっという間にサツキを落ちないように後ろで支えつつ、軍馬で走り去ってしまった。
「素晴らしい男だな。さすが、コクーンの弟子だ」
コクーンは、満足で謝罪も出来ないため拘束していた残念な貴族子息エクルドを自由にして、皇族ルイの隣りに立った。
「あれでも、随分と人らしくなったものです。貴様も運が良かったな。私に出会う前のアルロであったら、命はなかったぞ」
蔑むようにエクルドを見下ろすコクーン。エクルドは、恥ずかしいやら、悔しいやら、軍馬が走り去った方を睨む。
それを見て、コクーンはエクルドを見限った。もう、エクルドが騎士となることはない。コクーンがさせない。
この出来事がきっかけであろう。アルロはよく、護衛の騎士として表に姿を出しては、学校で、サツキを見ていた。サツキは、頭はいいのだが、それだけの女だ。気配とか断ってしまったアルロが学校にいることは気づいていない。
アルロが貧民出の騎士であることは、いつの間にか、学校中で広がった。こんなことをわざわざ言いふらすのは、アルロのことを知る者だけだ。その事に、皇族ルイはご立腹となった。
ずっと見守っているだけだったアルロだが、我慢が出来なかったのだろう。たった一度、サツキの前に姿を出して、また、軍馬で家まで送っていった。そのたった一度の事で、サツキは大勢の生徒たちの前で、浮気者扱いされた。
そして、次の日には、サツキは伯爵令嬢ではなくなった。エクルドの婚約者を義妹クラリッサに変えられ、サツキは家を出ていったという。
このサツキが家を出奔した事実は、後日、コクーンの弟子であるアルロが騎士をやめるという凶事を起こす。アルロは、元婚約者となったエクルドを殴ったのだ。この暴力事件は騒ぎとなり、学校は急遽、休みとなった。生徒たちは帰宅した。残ったのは、生徒会役員である。
「どうして、教えてくれなかったんだ!!」
皇族ルイから何も知らされていないことに、私は責めた。同じ生徒会役員として、サツキが不幸なことになっていると知っていれば、それなりに力になっただろう。
「僕も、アルロがコクーンに相談するまで、サツキがそんなひどい目にあっているなんて、気づきもしなかった」
「だいたい、あのアルロという騎士はなんなんだ。貧民から騎士になったというが、急に出てきて、サツキ嬢を付けまわしているような感じじゃないか」
入学式から、サツキの登下校を見ているような口ぶりである。深く読めば、騎士になる前から、アルロはサツキのことを知っているようだ。
「アルロは、今年、僕付きの護衛になった騎士だ。貧民出だから、試そう、という話になったんだ。アルロはな、たまたま、入学式の早朝、一人で歩いてくるサツキ嬢を見かけただけだ」
本当に、偶然の話だった。
アルロは初めての任務に、随分と朝早く、学校に来てしまった。そして、たまたま、女生徒が一人で、学校にやってくるのを目撃したのだ。本当にたまたまだった。皇族の護衛なので、入学式前の出来事をアルロも見ていた。サツキが威勢よくやりこめているのを最初は笑って見ていたという。
サツキは目立つ。護衛をしながらも、入学式当日、アルロはずっとサツキを見守っていた。入学式が終われば、そのまま馬車に乗って家族と帰るだろう、と見ていれば、サツキは馬車乗り場で呆然としていた。そして、馬車には乗らず、歩いて帰って行ったのだ。女一人で歩きなど危ないので、アルロは適当な理由をつけて、護衛から離れ、サツキを見守った。
そして、毎日、アルロはサツキが早朝から歩いてやってくるのを見て、下校も歩いて帰っていくのを見てしまう。入学式当日は、どうにかごまかして、皇族の護衛を抜けたが、さすがに連日は不可能だったので、アルロはコクーンに相談した。コクーンは、何か事情があるサツキを見守るアルロのために、早朝と下校時は、皇族の護衛を代わったのだ。
「僕のほうでも、追い出されたサツキ嬢を探しているんだが、どこにいるのやら。もしかしたら、もう生きていないかもしれない」
「私も探そう」
サツキが家から出ていって、一週間も経っていない。今更ながら、私はサツキを探す行動に思い至る。サツキを探そう、なんて、皇族ルイに言われるまで、思いつきもしなかった。
それは、他の生徒会役員たちも同じだ。サツキは言い方が良くないが、仕事は出来るし、気配りも完璧だ。とても、噂の悪女とは思えないほど、サツキはよい令嬢だった。
ところが、事はそううまくは進まなかった。すぐに、サツキの生家は大変なこととなった。
あまり知られていないことだが、先代伯爵は、サツキの亡くなった母だった。サツキの父親、実は、爵位を継げないのだ。実際は、サツキの父親は、サツキが成人するまでの代理人であった。
つまり、あの伯爵家を継げるのは、サツキのみだ。サツキの義妹は、母親違いである。伯爵家の血筋ではないので、跡継ぎではない。それなのに、義妹クラリッサは、堂々と跡継ぎを宣言してしまっていた。
その事に気づいたのが、サツキの母方の親戚筋だ。こういうものは、言ったもの勝ちだという。先に言った家が、次の伯爵家当主だ。そして、サツキの母方の親戚筋全てが、一斉に、帝国に訴えたのだ。
サツキの父親、義母、義妹が、伯爵家を乗っ取るため、サツキを追い出した、と。
帝国は弱肉強食である。普通なら、これは不問とされる。しかし、サツキはまだ成人前、しかも、貴族の学校に通い始めたばかりだ。学校には皇族ルイが生徒会長をしており、サツキは成績優秀者であるため、生徒会役員をしていた。帝国は成人前の乗っ取りは許さない。それは、卑怯な行為だからだ。万が一、成人前の跡継ぎが亡くなった場合、調査が入ることとなっている。皇族の覚え目出たいサツキの生家である。帝国は調査をしないわけにはいかなくなったのだ。
途端、サツキの父親、義母、義妹、ついでに婚約者エクルドは伯爵家乗っ取りの容疑者となった。
これまで、学校では、クラリッサとエクルドの婚約を、真実の愛、と謳っていた。それが、とんでもない犯罪行為だと知った生徒たちは、戦々恐々となった。そう謳っているところを皇族ルイが蔑むように見ていたのだ。
影で、皇族だからわかっていないんだ、なんて言っていた生徒は大勢いた。そのことを皇族ルイは嘲笑って聞き流していた。
皇族ルイは、皇帝ラインハルトに、こう報告した。
「今、いる生徒たちは、見る目がない。宮仕えの採用をしてはならない」
このことにより、弱小貴族の将来まで、潰された。皇族ルイは、実は、わざと貴族の学校に通い、貴族の動向を見張っていた暗部の役割をもった皇族であることを私は後に知ることとなった。
サツキの生家のお家乗っ取りは、そこから、先代伯爵の毒殺事件にまで発展した。先代伯爵の死は、病死として届けられた。しかし、お家乗っ取りを訴えた親戚筋は、毒殺の死に方だった、と訴えたのだ。調査してみれば、義母に毒を売った、という貧民が出てきた。もちろん、違法である。貧民は捕らえられ、証言をとられ、ちょっと鞭打ちされて釈放である。
罪が重いのは、義母だ。先代伯爵であるサツキの実母を毒殺したのだ。義母は否定したが、証言が出ている。しかも、親戚筋からは、死に方は毒殺としか思えない、なんて今更、言われたのだ。だったら、実母が毒殺された当時に訴えればいい、というのだが、当時は思っているのは自分だけではないか、という不安から言えなかった、と親戚筋は口を揃えて訴えたのだ。これには、仕方ないと判断するしかなかった。
こんなことになってしまったので、サツキを捜索するどころではない。迂闊に動くわけにはいかない。
なぜなら、サツキの命が危ないからだ。サツキが万が一生きていた場合、損する者が多かった。迂闊に探し出して、横からかっさらわれてしまうと、大変なこととなってしまう。だから、そこは皇族ルイに任せることとなった。
だが、サツキは結局、死体で発見された。
サツキの父、義母、義妹の罪を追及することにばかり目がいって、サツキの捜索はおろそかにされていたのだろう。親戚筋の一人が、たまたま、サツキの死体を見つけ、帝国に報告したのだ。
その事実を知ったのは、皇族ルイが私にそっと教えてくれたからだ。まだ、正式発表されていない情報だ。
「見たが、酷い状態だった。死んだ時期が、伯爵家を追い出された直後辺りではないか、と魔法使いは判断した。サツキも、身内の誰かに殺されたかもしれない」
サツキは、生徒会役員であったため、私にとっては、少し近い人ではあった。だからだろう。無意識に、涙が零れた。
「ど、どうした!?」
「あんなに、毎日、顔をあわせていたというのに、か弱い女なんて、思ってもいなかった」
今更ながら、騎士を捨てたアルロの言葉が胸を突いた。
生徒会の仕事は毎日あるわけではない。ただ、サツキは役員となった以上、なんとなく、毎日、顔を出しては、割り振られた仕事があれば、簡単にこなして帰っていった。言い方はよくないが、それが、サツキの持ち味だと気づいた時、それが楽しくなっていった。
すっかり、生徒会役員は、サツキを受け入れ、和やかとなっていたのだ。そんな時に、サツキは生家を追い出された。
私は、気づくのが遅すぎた。あんなに強いような感じをしているが、元婚約者に簡単に首を絞められてしまうようなほど、弱い女なのだ。
貧民に戻ったアルロの消息はわからない。まだ、学生の身の上だから、そこまでの力を私は任せられていない。実家は後ろ暗い仕事もこなしているが、それを私に引き継ぐのは、学校を卒業してからだ、と父に言われていた。
「もっと、力が欲しい」
「………」
ルイは慰めの言葉は言わない。ただ、私の肩を叩いて、無言で隣りに座った。
その力を手に入れる方法はある。兄を殺せば、跡継ぎは私になる。兄はすでに成人しているので、私が殺しても、病死で済まされるだろう。
そんな恐ろしい考えが思い浮かぶほど、サツキは私に良くも悪くも影響を与えた。
しかし、そんな考えは、すぐに吹っ飛ぶこととなる。
サツキの死が発覚後、次代の跡継ぎを誰にするか、サツキの親戚筋が争うこととなった。最初は、サツキの死体を見つけた親戚が手柄をたてたと訴えてきた。それを他の親戚が、”殺人に加担したんだろう”と疑うようなことをいうのだ。そこから、内戦へと発展していった。
サツキの生家が治める領地は、広大で、肥沃なところだった。サツキの父親、義母、義妹は、後でわかったことだが、かなり散財していたという。それをどうにか出来るほどの領地をサツキが上手に治めていた。
それほどの領地である。誰だって欲しい。不思議なことに、サツキの親戚筋は皆、口を揃えて我こそは、というのだ。
帝国は、この争いには口を挟むことはない。そこは、弱肉強食である。話し合いで決めてもいいし、戦って決めてもいい、と投げ出したのだ。
こうなると、力づくだ。帝国は強者こそ正義である。それぞれ、領地のために内戦を始めてしまう。
その結果、あの肥沃で広大な領地は、大変なこととなった。実りは燃やされ、領民たちの生活は戦争でめちゃくちゃにされたのだ。
領民たちにとっては、誰が跡継ぎでもかまわない。ただ、はやく決まってくれないと、内戦によって、領内はめちゃくちゃにされるだけである。その事を領民たちは帝国に訴えるのだ。しかし、これは伯爵一族の問題であって、帝国は関係ない、とばかりに傍観する。
領民は帝国に文句だって言いたいが、言えない。この内戦が勃発すると、帝国は問題解決するまでは免税する、というのだ。領民は何もしなくても、税を徴収されることがなくなったのだ。
しかし、この特例のため、領民は、勝手に領地の移動は許されなくなった。領民もまた、伯爵家の財産である。流出をさせることを帝国は許可しない。領地の移動をするのならば、伯爵家当主の許可を持ってして、するしかないのだ。
この骨肉の争いを見た他の貴族たちは気づいてしまった。身内で争うことの本当に恐ろしさを。
私は、サツキがいなくなった伯爵家が、とんでもないこととなっていくことを情報として知ってしまい、兄の暗殺を諦めた。




