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皇族姫  作者: 春香秋灯
賢者の皇族姫-外伝 見えすぎた女-
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復讐

 計画通り、伯爵家を追い出されました。その後は、消息を断つようにして、侯爵マイツナイトに保護してもらうこととなっていました。

 エクルドと、その両親が伯爵家でお祭り騒ぎをしている間に、わたくしは侯爵の邸宅に行きました。そして、マイツナイトとアッシャーの間に生まれた赤ん坊を見ました。

 偶然です。たまたま、乳母が赤ん坊を抱いて歩いているところでした。何かあったのでしょうね。普通は、部屋の外に赤ん坊を出すなんて、ありえません。

 偶然ではないのですよ。この乳母、赤ん坊に興味を示さないマイツナイトのために、わざわざ、部屋から赤ん坊を出してきたのです。

 マイツナイト、本当に赤ん坊に興味がありません。それよりも、わたくしのその後のことばかり気にしています。こらこら、赤ん坊が可哀想ですよ。

 わたくしは赤ん坊の抱き方を乳母に教えてもらいながら、世間話です。


「本当に、旦那様も奥様も、ちっとも赤ん坊の所に来ませんよ」


 乳母が責めるようにわたくしを見てきました。そうか、わたくしのせいなのですね。

 よく見れみれば、邸宅にいる者たち全て、もの言いたげにわたくしを見ています。そう、わたくしは、ここでは邪魔者なのです。

 マイツナイトとアッシャーは優しいので、わたくしを手助けしてくれます。だけど、彼らの家臣や使用人たちは、わたくしの存在が邪魔で、危険だと思っています。

 それはそうです。エクルドとその両親が、わたくしの名前を使ってサインして、勝手にお買い物していますもの。これ、表沙汰となったら、侯爵家は大変ですものね。

 そう思うと、伯爵家に戻らないといけないような気になります。せめて、マイツナイトとアッシャーの迷惑にならないように、使い込みだけは、どうにかしないといけない。

 とりあえず、マイツナイトが作ったという離れで考えてみました。

 ここは、外からの侵入も、中からの脱出も難しいように見えました。でも、道具作りのわたくしの手にかかれば、ここ、簡単に脱出出来てしまうのですよね。窓ガラス、一度、分解して、外に出て、復元してしまえばいいのですから。簡単です。

 なんて考えていると、マイツナイトの家臣がやってきました。


「どうか、出て行ってください」


 ほーら、邪魔だった。明らかに、わたくしは侯爵家にとって、災いでしかありませんものね。

「いいですか、エクルドとご両親がやった、伯爵家の使い込みだけは、表に出してはいけませんよ。それだけは、絶対です。あとは、エクルドを廃嫡するなり、ご両親を縁切りするなりしてくださいね」

「わかりました」

 表沙汰にする内容は決まっています。その中で、侯爵家の不利に働くのは、サインの不正利用による使い込みです。あれが表沙汰となった時、爵位返上は免れません。それほど、あの使い込みは危険なものです。

 一応、サインの不正利用だけは、表沙汰にならないようにしました。アッシャーだってわかっていますよね。情報操作はアッシャーのお仕事です。彼女は、帝国中の新聞社を支配する男の娘。絶対に危険なことはわかっています。頭がいいですものね。

 侯爵家の家臣は、王都の街中まで連れて来てくれました。


「殺さないのですね」


「っ!?」

「殺す話もあったのでしょう。今、殺しておいたほうがいいと思いますよ」

 今なら、わたくしを殺せるでしょう。ほら、まだ、妖精除けをしていますから、魔法使いテラスの妖精の守護はありません。

 きっと、この家臣は、わたくしを殺すつもりだったのでしょう。そう、話し合って決めていたはずです。わたくしは生きていないほうがいい、と判断されたのでしょう。

 ですが、彼は、わたくしのことが憐れだったのでしょうね。結局、わたくしを置いて、戻っていきました。


 街にぽいっと捨てられたけど、自由ですよ。

 もう、伯爵の仕事しなくてもいいですよ。

 道具作りの役割なんて、くそくらえです。

 復讐なんて、もうやらない。


 だから、好き勝手に生きるために、経験を積もうと、食事屋で働いていました。さっさと王都を離れればよかったのですが、道具で姿を誤魔化していましたし、新聞を見て、現状を確認もしたかったですし、何より、王都から外に出たことがなかったので、ちょっと不安でした。


 そうしたら、よりにもよって、騎士アルロに捕まりました。


 本当に、テラス、ダメですね。妖精憑きの力に頼り過ぎです。アルロなんて、きちんと情報収集して、わたくしを見つけたのですよ。

 ただ、アルロ、ちょっと怪しい人ですよね。わたくしは姿を偽装する道具を使って、人の記憶に残りにくいようにしていました。一目見ても、実はわたくしだとわかりにくいのですよ。

 なのに、アルロはわたくしを一目見て、気づきました。

 よく見れば、この人の片目、妖精の目という魔道具ですよ!? 才能がないと廃人になってしまう、という業物です。そんな危険な物を片目に装着して、普通にしています。この男もまた、ある意味、魔法使いですね。

 アルロは一体、何者なのかわかりません。貧民出の騎士だと言います。騎士になるのって、実はすごいことなのです。騎士は、実力のみです。身分は関係ありません。アルロは、貧民でありながら騎士となったので、それはすごいことなのですよ。

 なのに、アルロ、わたくしが利用しただけなのに、騎士、やめちゃいました。勿体ない!!

 説得しましたよ。騎士やめるなんて、本当に勿体ないことです。努力してなれるものではないのですよ。才能だって必要なんですから。


 なのに、アルロはわたくしのために騎士を捨ててしまったのです。


 女なら、皆、これで転がってしまいます。しかも、アルロ、妙に妖精憑き寄りなのですよ。わたくしを逃げられないように鎖で繋いで、閉じ込めてしまいます。食べる物も、身に着ける物も、全て、アルロが持ってきます。

 このまま、アルロに囲われているほうが幸せな気がしてきました。だって、女として、アルロは愛してくれます。


 ただ、アルロ、ちょっと、勘違いしています。


「復讐、もっと手伝おう」

 アルロは役割を求めていました。どうしても、わたくしのために何かやりたいのですよ。囲って、わたくしをアルロに染め上げつつ、役割を欲しました。

 なので、復讐計画をそのまま続けます。どうせ、流れは決まっていますから。だから、情報を集め、ただ、指示するだけです。わたくしは囲われたままですよ。

 復讐、もうどうでもいいのに、アルロは役割を求めているから、止められません。

 それは、わたくしが長年、守ってきた領地も滅茶苦茶です。魔法使いハサンったら、あんなにわたくしに道具作りの役割云々言ってたくせに、領地が滅茶苦茶になっても、何もしないのですね。あの邸宅型魔法具、万が一の時に備えて、妖精憑きが操作できるようになっているというのに、知らないはずがないですよね?


 なんだ、ハサン、わたくしにはあんなこと言っておいて、あなたは、何もしないんだ。


 本当に、わたくしは復讐の道具にされたんだ。最悪だ。





 アルロ、本当に残念な人。貴族に騙されて、わたくしを手放すなんて。しかも、皇帝の秘密のハーレムだなんて、何を考えているのですか!?

 そして、行った先には、魔法使いテラスがいましたよ。初めまして、と言ってやったら、合わせてきました。もう、軽い冗談だったのに。

 邸宅型魔法具の話をしたからでしょう。ハーレムはそれに近い作りでした。城のどこかに、まだまだ使える道具が転がっていて、それを上手に組み合わせたのでしょうね。ちょっと不足なところは、わたくしがこっそりと修正しました。ほら、わたくしの体全てが、道具作りのための道具ですから。

「サツキ!!」

 テラスったら、当然のように、わたくしに日参ですよ。昼も、夜も、時間があれば、やってきます。

 抱きしめて、口づけして、一緒に眠って、とママゴトみたいなことをしています。テラスはわたくしをこのハーレムに囲えて、とても幸福を感じています。

 たまたま、偶然、ここに来ただけですよ。テラス、あなたは、妖精憑きの力に驕って、わたくしを見つけられなかったのですよ。


 こんな驕りの塊のような男が、わたくしの魔法使いなのですよね。


 アルロに囲われている間も、テラスのことを忘れたことはありません。だって、わたくしを一番、最初に熱く口説いてくれた人なのです。一目惚れなのですよ。

 酷い女なのです。もしかしたら、テラスが迎えに来てくれるかも、なんて夢見たことがあります。アルロとの間に子が五人もいるというのに、最低最悪な女なんです。

 でも、テラスは帝国のものです。城から出ることなく、ただ、情報を集めて、探しているだけだったのですよね。


 見る目がないな、わたくしは。


 アルロのほうが、百倍、いい魔法使いだ。だって、何もかも捨てて、探しに来てくれたんだもの!? でも、アルロに捨てられたのですよね、わたくし。





 ハーレムって、日常が単調なんです。だから、暇つぶしになることを考えます。

「テラスは、あの元婚約者エクルドの生家はどうなりましたか?」

 気になりました。エクルドの兄マイツナイトとは、途中から、連絡を途絶えさせました。伯爵マクルスが、ちょっとやり過ぎたのですよ。表に出してはならない情報を新聞に出しました。なんと、エクルドとその両親のサイン不正使用を表沙汰にしたのですよ。

 これでどうなったのか、わたくしは知らない。あの情報だけは、決して出してはいけない、とわたくしは侯爵家の家臣に言いました。あれは、運が悪いと、爵位返上になります。

 テラスは嫉妬深い男です。いえ、妖精憑きは皆、そうなのでしょう。とても不機嫌な顔になります。だけど、教えてくれました。

「爵位返上しましたよ」

「………そう、ですか」

 目の前が真っ黒になった。マイツナイトとアッシャーはわたくしのために、不幸になってしまった。

 テラスはそれ以上のことは言ってくれない。わたくしも怖くて聞けなかった。

 これまで、マイツナイトとアッシャーのお陰で生きていた。いつも死にたかったのだ。生きていたって、いい事なんてなかった。それを生きていたい、と思わせてくれたのは、マイツナイトとアッシャーです。あの二人のお陰ですよ。

 だけど、わたくしのせいで不幸になった。最後に会った時、赤ちゃんがいました。あの子は、どうなってる?

 このハーレムで死ぬのは不可能です。テラスに支配されています。何より、今、わたくしは妖精除けをしていませんから、テラスの妖精が守護として付いている。なにかやれば、絶対に止められます。


 自殺は不可能だけど、わたくしを殺せる男がいるじゃないですか。


 ハーレムの主人である皇帝ラインハルトです。あの男は皇族です。皇族同士であれば、殺し合い出来ますよ!! ラインハルトなら、わたくしを殺すなんて簡単です。

 ただ、どうやって殺してもらうかです。本当のことは話せません。わたくしが皇族だと知られたら、ラインハルトはテラスの味方をします。ほら、皇帝は魔法使いのご機嫌取りがお仕事です。テラスはわたくしに執着しています。ラインハルトはそれが皇族の血筋だとわかったら、絶対にわたくしをテラスに引き渡すでしょう。ハーレムからも出されてしまいますよ。

 ハーレムでは、何故か香だけは入ってきません。香水はあるのに、香は入らないなんて、どうしてかな? と疑問に思っていました。

 そういえば、伯爵マクルスは、妖精殺しの一族ですね。

 妖精殺しの一族は妖精を狂わせる香を作る一族です。あの香、恐ろしい作り方をするのですよね。一子相伝ですから、マクルスだけが知っているのでしょうね。


 ですが、あれ、似たような感じであれば、わたくしでも作れます。


 テラスは、あの妖精を狂わせる香を警戒して、香をハーレムに入れないのでしょう。だったら、作ればいいのですよ。代用品なんて、いくらだってあります。

 この、妖精を狂わせる香が、わたくしの自殺に役立つと考えました。ほら、あの香を使えば、わたくし自身についた妖精を狂わせられます。自殺できますよ、簡単です。

 そうして、テラスの目を盗んで、香なんて簡単に作れます。色々と、目くらまししてやりましたけどね。植生変えさせたりしました。土まで指定しましたが、あれらは、材料でありませんよ。必要なのは、その中にいる虫ですよ。これで、作り方は誤魔化せるでしょうね。さすがにテラスに作り方を知られたら、妖精殺しの一族に悪いです。

 そうして、しばらくして、皇帝ラインハルトから相談を受けます。特別な子どもですって。

 ちょっと計算してみます。筆頭魔法使いになれるのは、百年に一人生まれるか生まれないかの才能ある妖精つきか、千年に一人必ず生まれる化け物か、です。邸宅型魔法具での記録を思い出してみれば、もうそろそろ、千年に一人の化け物が生まれてもいいかもしれないですね。生まれるてるといいですね。

 腹が立つ。テラス、こんなハーレムなんか作って。わたくしは、こんなもの作らせるために、あの邸宅型魔法具の話をしたんじゃない!!

 本当に、テラスは最悪だ。どんどんと怒りしかない。なのに、やっぱり、わたくしはテラスのことを愛しているのだ。あんなにアルロに全身全霊をかけて愛されたというのにだ。テラスは初恋だ。どうしても、捨てられないのだ。


 だから、滅茶苦茶にしてやる。


 きっかけは簡単だ。やっぱりテラスだ。この男は自尊心の塊な上、わたくしの女心をこれっぽっちも理解していない。こういうのを盲目だから、で済ませられないことをテラスはやらかしてくれました。

 ある日、わたくしが過ごす私室に、テラスが物を持ち込んできました。

 それは、わたくしのために、とマイツナイトが作ってくれた服です。生家に持って帰ると、あの強欲の権化のような義妹クラリッサが、根こそぎ奪っていくので、マイツナイトが離れに保管していました。わたくしが侯爵家の離れで見たのが最後でした。それは、最初の一枚でしょうね。

「爵位返上の時に、預かりました。装飾品もですよ。ここを出て、見に行きましょう」

 テラスは満足なんかしていない。ここは皇帝のためのハーレムだ。やはり、テラスは筆頭魔法使いの屋敷にわたくしを囲いたかったのだ。

 だから、わたくしにとってかけがえのない思い出の品で、外に連れ出そうとしました。

「爵位返上って、いつ、されたのですか?」

 このハーレムに入った頃に聞きました。それよりは前でしょうね。

「随分と昔です。新聞で、侯爵家の者がサツキのサインの不正使用を暴露されてすぐです」

 本当に昔ですね。


 会いたい。


 心底、そう思いました。マイツナイトに会いたい。会って、謝りたい。ごめんなさい、とひれ伏して、謝りたい。

 きっと、テラスは叶えてくれます。ものすごく不機嫌になりながらも、わたくしの願いですから、不承不承、叶えるでしょう。それには、引き換え条件を出してきます。

 ハーレムから出ることです。

 テラスのことです。マイツナイトに会うためには、このハーレムから出ないといけない、なんていうでしょうね。ここ、入って来た男というと、皇帝ルイくらいですもの。そのルイでさえ、一度しか入ってこれませんでした。

 腹が立つ。テラスの考えが透けて見えます。お前は本当に、わたくしを怒らせる天才ですよ。女心なんてこれっぽっちもわかっていない。それはそうです。この男の見た目は物凄い美男子です。あなたは女心を理解しなくても、相手の女があなたを理解してくれます。あなたに合わせてくれるのですよ。

 大事な大事な、思い出の服です。わたくしにとっては、それを投げつけてやるなんて出来ません。だから、大事に大事に扱って、テラスに返します。

 テラスったら、ほっと安堵しています。それはそうです。必死に縋って、出してきましたが、これで懐柔されるなんて、テラスは本当はイヤなんですよね。手段にしても、他の男がわたくしのために作った服ですもの。あなたに出会ううんと過去といえども、テラスは嫉妬します。本当に、どうしようもない男です。

「あなたは本当に、わかっていませんね」

 笑うしかありません。笑って、テラスに抱きつきます。最低最悪なお前には、最低最悪なものをあげます。

 テラスが最後、手にするものは、わたくしの死ではありません。わたくしを縛り付けた、あの邸宅型魔法具です。

 この世で最後、一番、いらなくなった宝箱です!!

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