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皇族姫  作者: 春香秋灯
賢者の皇族姫-外伝 化け物と加護持ち-
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化け物からの相談事

 ただ、ちょっと、可愛い孫娘とその婚約者の様子見で来ただけだった。

 昔懐かしい侯爵邸の中庭で、何故か、筆頭魔法使いハガルと茶を飲むこととなった。

 私は、逃げるように離れていった長男の背中を睨んで見送った。嵌めやがったな、あのクソガキ。

 筆頭魔法使いハガルは、微妙な表情で私の向かいに座っていた。筆頭魔法使いの服を着てはいるが、その顔は、私の知る顔ではない。そうか、こっちが素顔か。

 人前で見るハガルは、誰もが平凡と思う顔立ちだ。だから、昔から女に逃げられる噂ばかり流れていた。あの平凡顔では、女だって逃げるだろう、と筆頭魔法使いとして表に立ってからも、言われ続けるほど、女に逃げられている(現在進行形)。

 ただ、常々、私は疑問を持っていた。力の強い妖精憑きは化け物だ。力だけではない。才能もある。ちょっと教育してやれば、湯水のごとく吸収するのだ。

 そして、力の強い妖精憑きは、その見た目は人を狂わせるほど美しい、と言われている。

 力の強い妖精憑きの美貌については、実はあまり知られていない。記録では残されておらず、口伝で伝えられる程度だ。何せ、そこまでの力を持つ妖精憑きと接する機会など、早々、ないのだ。平民だと、一生に一度あるかないかである。

 力の強い妖精憑き、というと筆頭魔法使いである。帝国最強の魔法使いは最強の妖精憑きである。私が知る筆頭魔法使いは賢者テラスと、目の前にいるハガルのみだ。

 賢者テラスは、人を惑わすほどではないが、美男子だった。その見た目に、貴族の女どもは見惚れ、初恋とした者は多い。それほどの美貌である。

 なのに、筆頭魔法使いハガルは、見習い魔法使いの頃から、平凡でぱっとしない、と言われ続けていた。あまりにも平民とも接していたので、有名すぎたのだ。

 しかし、目の前にいるハガルの素顔は、男女問わず狂わせる美貌である。私も若ければ、狂っていたな。だが、もう年寄だから、色々と枯れて、そういうものがない。だから、私は平然としている。

「それが素顔か。隠してたんだな」

「私は、これまでの筆頭魔法使いとは違う、特殊な立場です。表立つことが許されませんでしたので、このように、素顔を偽装していました」

 瞬きすると、いつもの見慣れた平凡顔である。それも、また瞬きすれば、人を狂わせる素顔だ。

「その顔、私の身内に見せるな。いいな」

「あなたは平気なのですね」

「もう、そんなものに狂うほど、若くない。それで、わざわざ、私の身内を使って呼び出したのはどうしてだ?」

 私とハガルは、最悪な関係のはずだ。

 私の孫を悲劇の令嬢サツキの孫と婚約させる話し合いの場に私は立ち会った。立ち会ったが、あれ、ほとんど、私が交渉役だった。あの場で、皇族を貶し、筆頭魔法使いを子ども扱いし、魔法使いを殴り、サツキの孫の保護者である伯爵の自尊心を落としてやった。そうやって、場の空気を私に有利にしたのだ。

 皆、内心では面白くなかっただろう。その中で、一番、悔しい思いをしたのは、筆頭魔法使いハガルだ。才能の化け物であるハガルは、自尊心はその中で一番高い。爵位では最底辺であり、能力的にもハガルより下、唯一勝てるのは人生としての経験値の私にハガルは負かされたのだ。

 心の狭い男ではないだろうから、その後は縁遠い関係で終わり、と思っていた。

 なのに、目の前で、ちょっと不安そうな顔をしているハガルがいる。その顔、長男に見せるなよ。家庭崩壊する!?

 ハガルも自覚はあるのだろう。人払いは完璧だ。私の孫とサツキの孫は、サツキのために作られた離れで遊んでいる。あそこは、安全な遊び場であり、教育の場となっている。

「それで、私に何か用か? もう、老い先短い身の上だ。権威だって、大したものは持っていない」

「あなたには、完璧に負けました。ですから、あなたから教えを請いたい。どうか、私に、帝国のために、教えていただきたい」

「………」

 えー、年寄だから、耳が遠くなって、幻聴が聞こえるー。

 私は、誉められた人間ではない。若い頃は、幼女趣味と新聞でも叩かれたりもした。侯爵家を一度は没落までさせた。平民に落ちたが、妻の生家である男爵家に助けられ、今は男爵である。

 こう、私の一般的な背景を書き連ねると、ダメな人だ。ごめん、帝国で二番目に偉い筆頭魔法使い様に教えるようなことなんて、何もないよ。

 なのに、筆頭魔法使いハガルは私に頭を下げてくるのだ。どうしよう。

 美味しい茶をハガルが淹れてくれる。

「まず、私は茶の味はどうだっていい」

「気に入りませんか」

「お前は完璧主義すぎだ。私もサツキも、飲めればいいんだ。味は知っている程度でいい。味を楽しむよりも、領民のことを考えるのが、領主なんだよ。面倒臭いばかりだけどな。あんたは、それをだだっぴろ帝国のためにやっているんだ。手を抜けるところは、抜きなさい」

「同じようなことを言われました」

 誰か、聞かなくてもわかる。その顔は、過去を思い出して、ほころんでいる。年寄で良かった。

「たかが茶一つで読まれてしまうとは、私もまだまだ浅い人間ですね」

「完璧な美味しい茶は、誰のために淹れ続けた? そんなの、私にまでしなくていい」

「癖ですよ。もう、身に染みてしまっていますから」

「妖精憑きらしいな。力の強い妖精憑きは尽くして囲うと聞いている。出来たのか?」

「うまくいきません。ラインハルト様は、私が子どもすぎて、遅すぎました。もっと早く、私も素直になっていれば、もっと長く囲えました」

 そうか、皇帝かー。噂では聞いていたが、本当だったんだ。しかし、このハガルの見た目では、仕方ないか。皇帝ラインハルトも狂うよな。

「囲い込みは成功したわけか」

「囲われてくれたんですよ。皇帝は、筆頭魔法使いのご機嫌取りが仕事です。私のために、わざと囲われただけにすぎません」

「そうなんだ。その見た目に惑わされないとは、それはそれで、すごい人だったんだな」

「そうなんです!! ラインハルト様は、本当に素晴らしい方なんで」

 そこから、ハガルはとんでもない勢いで、皇帝ラインハルトの話をしたのだ。聞きなくない内容がほとんどだな。そうか、子どもの頃から、ハガルに手をつけていたのか。ハガル、私は噂では幼女趣味と言われているが、噂だからな!!

 妙なところでハガルには勘違いされているな。否定しないけど、醜聞もまた誉め言葉だ。死んだ後も、この醜聞は語り継がれるだろうが、どうだっていい。死んだ後だし。

 一通り、皇帝ラインハルトの話をして、満足しただろう。もう私、いらないだろう。帰りたい。

「あなたには、ラインハルト様に似たところがあります」

「気のせいだろう」

「そんなことありません!! ぜひ、あなたからは色々と学びたいです。まずは、その、魔法を使わない、権力も使わないで、あなたのように問題解決を出来るようになりたいです」

「そう考えるのなら、まずは、妖精憑きとしての自尊心を捨てろ。テラスもハサンも、妖精憑きとしての自尊心が高すぎて、失敗したんだ。何でもかんでも、自力でどうにかしようとするからな」

「どういうことですか!?」

「能力が高すぎるから、才能と妖精と魔法で解決しようとする。人を使うよりも、妖精憑きとしての能力で全て済ませてしまうだろう。その自尊心をサツキに漬け込まれたんだ。あの二人がサツキに負けたのは、そこだ。もっと権力と人を使うべきなんだ。お前もそうだが、テラスも権力の使い方が下手なんだ」

「ですが、人は裏切ります!!」

「人を操るんだ。お前は口は立つんだ。それで上手に操れ」

「そ、そうですか?」

「上手だろう。辺境の僻地の話は、素晴らしい解決だった」

「そうですか? あれ、魔法で解決したようなものですよ」

「領主一族のことだな。それではない。禁則地の話だ」

「?」

 意味がわかっていないハガル。

 辺境の僻地は、妖精憑きに恨みを抱く地域で有名であった。はるか大昔に、妖精憑きがやらかしたらしく、辺境の僻地の住人たちは、妖精憑きのことを嫌っていた。しかし、辺境の僻地は王都から遠すぎるため、魔法が届かない。そのため、魔法使いを常駐させる必要があった。魔法がないと、辺境の僻地一帯は、便利な魔法具や魔道具が使えなくなるからだ。

 しかし、辺境の僻地の住人は、妖精憑きである魔法使いに嫌がらせをしたのだ。それに耐えたのが、辺境の僻地出身の魔法使いだ。魔法使いは十年もの間、その嫌がらせに耐えた。しかし、これまで、辺境の僻地で、魔法使いが常駐したのは一年だけだったので、それを不審に思った筆頭魔法使いハガルは抜き打ちの視察をしたのだ。そこで、魔法使いが辺境の僻地の住人に要求されるままに、禁則地に足を踏み入れていたという。その時に、ハガルがやってきたのだ。

 禁則地は、妖精が支配する領地である。そこは、妖精憑きでさえ命の危険があるという。そんな所に魔法使いを行かせたことをハガルに知られた。ところが、魔法使いは無事に戻ってきた上、神が与えるという果実まで持ち帰った。その果実は、人の心のありようで変化する果物だ。魔法使いが持っている時は、瑞々しい果実であったが、住人が持つと、真っ黒に腐ったという。その事実をハガルは突きつけ、辺境の僻地の住人の蟠りと説き伏せたのだ。

 そこまでは、いい話なのだ。そこからが、筆頭魔法使いハガルの悪名を轟かせたのだ。

 その後、領主の横領が発覚したのだ。魔法使いに支払われるべき給与を領主が横取りしていたのだ。その事実に気づいたハガルは、領主を捕縛し、それが過去数百年から続いていた横領だと、取り調べにより発覚し、一族郎党の処刑となった。ハガルお得意の、妖精の呪いの刑である。

「帝国民は、皆、禁則地の解放を今も望んでいる。私もそれがいいと思っていた。しかし、お前は禁則地の解放をしなかった。その理由は、実に良かった」

「当然のことを言ったまでです」

「お前は、妖精の視点でも、物事が見れる。あの禁則地は、人からは、宝の山だ。しかし、妖精から見れば、あの場所は大事な安息地だ。それを聞いた時、確かに、と納得した。私もまだまだだ、と思い知らされた。お前には、妖精の見方が出来ることは、強みだ」

 物凄くうれしそうに笑うハガル。私は年寄で良かったな。

「あの後、貴族どもは散々、怒ってましたけどね」

「それは仕方がない。普通は、人中心の価値観しか持てないんだ。だが、帝国は神と妖精、聖域に支えられている。妖精のことは大事にしなければいけない。わかってもらいたいのなら、そうすればいい。だが、時には悪者になって、それを貫いたほうがいいこともある。禁則地のことは、ハガルが悪者になったことで、解決したんだ。わかる人にはわかることだ。悪者になることもまた、優秀な為政者に必要なことだ」

「それは、そうですね」

 嬉しそうに笑うハガル。言われないんだな、この子。まあ、帝国で二番目に偉い人だからな。誉める人は皇帝だけだ。皇帝、もっとハガルを誉めてあげて!!

 皇帝ラインハルトへの依存が高いのは、上手に誉めたりしたんだろう。幼い頃から、皇帝ラインハルトに随分と手をかけられていた感じだ。最初は父親で、そこから特別な存在となったのだ。力が強い妖精憑きな上、才能の化け物だ。頼るべき相手は皇帝ラインハルトのみだったのだ。

 その依存を私に持たれそうなので、そこは、どうにか避けないといけない。私は、ハガルを置いていく側の人だ。皇帝ラインハルトは、そこのところを失敗したな。

「千年に一人、必ず誕生する妖精憑きは、神が人に与えた試練だと言われている」

 侯爵家はともかく歴史が長い。口伝ではあるが、それなりに伝えられていることがある。その一つが、妖精憑きの話だ。

 ハガルは、千年に一人誕生する化け物妖精憑きだ。この妖精憑きは、見た目もそうだが、才能もありふれているため、ともかく帝国を狂わせるのだ。その一端が、妖精の呪いの刑である。一族郎党を滅亡させる刑罰こそ、天罰である。

「ハガルは、人側に立つ必要はない。もっと、神や妖精側で物事を見ていればいい」

「それだと、ただの我儘な暴君です」

「だから、神側にも立つんだ。まあ、神も妖精も、平等なわけではない。人の生まれからもわかるように、不平等なんだ。その不平等を人に教え込むのが、ハガルの役目だろう。

 私でも失敗はある。サツキのことは、最大の失敗だ。もっと、当主としての役割の束縛から解放してやれば、もっと違った終わり方になっていたんじゃないか、と思うことはある。ハガルもまた、帝国に縛られすぎだ。そういう教育だから、仕方がないが、そこに遊びを持ち込めばいい」

「十分、やっていますよ。人を壊すことは、面白いです」

「なら、それでいい」

「………やめろと言わないのですね」

 悪い事やっている、と笑顔で言っているくせに、それを私が肯定してやると、不安そうな顔をするハガル。

「サツキに言われた。悪評は誉め言葉と思うことにした、と。それを聞いてから、私もそうしてる」

「私も、それを聞いてから、そう言っています」

 ハガルは、サツキの子と面識があるという話だ。サツキは、子どもにも、同じようなことを言っていたのだ。つい、笑ってしまう。

「あれは、名言だな。それでいい。君は、必要悪だ。世の中には、必要悪がいっぱいだ。私の存在もまた、必要悪だ。ハガルのように、天災のような存在は、人の驕りを叩きのめすための必要悪だ。そのままでいなさい」

「ありがとうございます」

「というわけで、私の役割は、これで終わりだ。君に教えることは以上だ」

「そんなぁ!?」

 ハガル、私に依存しようと縋ってきた。ハガルの欠点は、この依存だな。

「私は老い先短いんだ。やめておきなさい」

「私の力があれば、寿命以上の長生きをさせられます!!」

「本当にお前は化け物だな。私が長生きすると、後進が育たなくなる。私のような者は、さっさと人生から退場することこそ、世のため人のためだ」

「もっと早く、出会いたかった」

 まだ、諦めきれないハガル。子どもがそのまま大きくなったような奴だ。諦めきれないのは、仕方がない。

「それもまた、神の導きだ。本来なら、私とお前は交わることがなかった。それが、サツキという存在を通して、交わったんだ。私の存在は、お前を成長させるための一助だ。軽く受け止めなさい」

「週一、ここで雑談しましょう!!」

「断る。もう年寄をこき使うな。本来なら、引退して、田舎に引っ込んでいるべきなんだ。男爵は、なかなか引き継ぐのが難しくて、私が持っているにすぎない」

「うー」

 私の腕にしがみついて離さないハガル。そんな顔をしていても、私には通じない。もう年寄で、色々と枯れてしまっているのだ。

「サツキは悪女として、後世に語り継がれることとなるだろう。しかし、悲劇の令嬢としても、後世に語り継がれるべきなんだ。ハガル、それだけは、帝国として、語り継がれるようにしてやってくれ」

 私はハガルの頭を撫でた。

 サツキの悲劇は、何もしなければ、消え去ってしまうはずだった。それを今も語り継がれているのは、一年に一度、悲劇の令嬢を題材とした戯曲と舞台を帝国中で発表しているからだ。それを主導しているのは、帝国である。

 あまりに悲惨な出来事であった。それを忘れさせないためだ、と言われている。しかし、本当は、これもまた、サツキの策略だ。皆、サツキに踊らされているだけだ。

 死んだ後も、サツキは人を操っている悪女だ。

「サツキは、本当は、優しい子なんだ。持っている物全て譲って、これから得られるであろう幸福まで譲って、そうして、不幸になってしまった。でも、それは間違いなんだ。譲ったからといって、幸福になれるわけではない。サツキは、譲れば、いつか、自分の番がくる、と思い込んでいた。結局、サツキ自身の番は来なかった。何故か? 誰もサツキに譲らなかったからだ」

 この幸せの譲りあいは、サツキの一方通行で終わった。誰も、サツキに幸せを譲らなかった。

 ハガルは首を傾げた。

「幸せは譲りあいだ。帝国中が幸せを譲りあっていれば、サツキのような不幸はない。だけど、譲りあいなんて誰もしない。だから、譲ってばかりの者は不幸だ。サツキは今、帝国の悪女と呼ばれている。これもまた、サツキが幸せを帝国に譲っているようなものだ」

「………」

「サツキは、本当に優しい子なんだ。忘れないでやってくれ」

 残念ながら、誰も、サツキの優しさに気づいていない。

 ハガルは考え込んだ。私が言いたいことは通じただろう。ハガルは私の腕を離した。

「君は、そのままでいい」

 天災は必要なんだ。

「わかりました、諦めます。しかし、どうしても、あなたにお願いしたいことがあります。どうか、引き受けてください」

「内容による」

 ここで、軽々しく了承してはいけない。面倒臭いことをさせようとしているのだ、この天災は。

「辺境の僻地の領主になってください」

「断る!!」

 やっぱり、面倒事を押し付けてきた。どこまで私をこき使うんだ、このクソガキは!?

 あの辺境の僻地の最奥にある禁則地をどうにか解放したい貴族は多い。今の領主も、悪あがきをして、筆頭魔法使いハガルに訴えているのだ。ハガルの偉業をコケ落とすようなことをしているのだ。

「あなたのような人こそ、領主となるべきです。いえ、あなたしかいません」

「私は私で、男爵しての仕事がある」

「そこはもう、後進に任せましょう。辺境、大した仕事はありません。ただ、領主として、見張っていればいいだけですよ」

「あそこは、不正の温床だ」

 帝国から離れているため、辺境は不正がいっぱいだ。ともかく、役人も不正し放題なのだ。だから、魔法使いの給与の横領なんてものが、百年単位で行われたのだ。

「では、週一で私と雑談してください」

「どっちも断る!! もう、私を楽にさせてくれ。本来なら、孫を甘やかせて、ダメにするのが年寄の役割なんだ。私は、それすらさせてもらっていない」

「私も甘やかしてほしいな」

 まだ諦めてないのか、この化け物は!!

 だいたい、この化け物は、私が領主を引き受けたって、週一で、私の元にやってくるのだ。それくらい、簡単に出来てしまうのが才能の化け物である。どっちを選んだって、この化け物との縁は、死ぬまで続く。

「私は、皇帝ではないんだがな」

 筆頭魔法使いのご機嫌とりは、皇帝の仕事だ。私は一貴族でしかない。しかも、歴史の古い侯爵家を一度、没落させた失敗者だ。

 子どものように笑うハガル。これで、皇帝ラインハルトを狂わせたんだな。私は絶対に狂わないぞ!! 何故って、もう、枯れてるからな。

「わかった、辺境の領主となろう」

「ありがとうございます!!」

 結局、私は苦労をとった。私もまた、幸せを譲ってしまう側なんだ。

 こうして、私は男爵位を後進に引き継ぎ、辺境で働かされることとなった。

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