失踪
予定変更の密書をサツキから受け取った。定期的に、サツキがいる伯爵邸に人を秘密裡に送っていたのだ。
「サツキ嬢に賢者テラス様が一目惚れした」
「そうなのですか!?」
あまりの事に、アッシャーも驚いて、声をあげてしまう。アッシャーは慌てて口をおさえるが、驚いた程度だ。私の声なんて、外には漏れないほど小さいから、この事実を私の家族が知ることはない。
サツキは、賢者テラス様が日参するということで、計画決行までは、私は待つこととなった。
サツキはこれから、貴族の学校に入学するための試験である。しかし、今のままであれば、まず、願書すら出せないだろう。あのサツキの父、義母はそれを妨害する。サツキを貴族にしたくないのだ。貴族の学校を卒業しないと、貴族になれない。そうなったら、伯爵家の跡取り失格である。それをあの家族は狙っているのだ。それを防ぐために、願書を提出し、入試を受けられるようにしなければならない。
サツキはこれを魔法使いハサンに頼む予定だった。だが、万が一、それが出来ない時は、私が手を貸すこととなっていた。
だが、賢者テラス様がサツキについたのだ。テラス様が万全に行うだろう。
話では聞いたことがある。力の強い妖精憑きは、気に入った者を囲うという。その激しさは凄まじく、身に着けるものから、食べる物まで、全てを妖精憑きが作るという。それほどの執着を持つ対象は、絶対に妖精憑きに捧げなければならない。でないと、妖精憑きは手が付けられなくなる。
常に冷静沈着な感じを持つ賢者テラス様。そんな人がサツキに執着している。時々、密書を受け取るが、毎日三回、テラス様はサツキの元を訪れているという。サツキの復讐にも手をかすと言っている。それほどの強い執着を示したのである。
だが、サツキは大人しく囲われない女だ。復讐のために長年、耐え抜いたのだ。たかが賢者テラス様が見染めたからといって、復讐をやめない。その情念の深さに、テラス様は引きずり込まれていた。
そんな計算外のことが起こっている中、王都を騒がしたのは、男爵令嬢が魔法使いハサンの養女となったことである。
サツキとテラス様の逢瀬は秘密裡である。表には出なかった。まるで、それを隠すかのように、魔法使いハサンは本来は姪である男爵令嬢ササラを養女に迎えた。魔法使いがお気に入りを養女や妻に迎えることは普通である。しかし、これはとんでもない醜聞を呼び込んだ。男爵令嬢ササラの親が、魔法使いに養育費を請求したのだ。男爵令嬢、実は男爵と貧民との間に生まれた娘で、生家では、仕方なく育てていたのだ。生家としては、将来、ササラを金のかからない使用人にしよう、と考えていたのだろう。それだけに、男爵は必死だった。
しかし、帝国では、魔法使いに金を要求することはしていけないのだ。魔法使いは妖精憑きである。金のやり取りは妖精金貨という呪いの貨幣を作ることとなってしまうので、扱いを気を付けないといけない。魔法使いは買い物では金を払わない。後で帝国に請求するのだ。そうして、帝国の審査を受けて、金額に問題がないことを確認されてから、やっと支払いである。それほど、気を付けないといけないのだ。
この出来事を解決に動いたのは賢者テラス様だ。テラス様がわざわざ、男爵家に行き、話し合いをして、無事、解決したようだ。しかし、少々、頭の悪い子どもがいたのだろう。男爵の末娘がテラス様の怒りを買って、牢屋に入れられ、鞭打ちをされたという。
こういう、目立つことがあったので、サツキと賢者テラスが舞踏会で手を取り合っていた事実は、霞んだ。この二人が秘密の関係だなんて、誰も思ってもいなかった。伯爵家では、サツキは相変わらずの扱いだ。賢者テラス様は表立って行動しなかったので、この事を知る者は少ない。
貴族の学校に通うためには、サツキはただ試験を受けるだけにはいかない。サツキは首席をとらなければならないのだ。そのために、私は過去問を融通していた。サツキはとても頭がいい子だ。月に一回の茶会の場でも、過去問を解かせれば、全問正解であった。だから、そこは心配していなかった。
通学方法だ。
入試の時も、サツキは馬車も使えなかった。その時は、賢者テラス様の力を頼った。しかし、毎日、賢者テラス様の力を頼るわけにはいかないのだ。
サツキの計画はどんどんと修正されていく。私が最初、聞いた計画からどんどんと崩れていっている。計画通りに進むほうが珍しいといえば、そうだ。しかし、サツキは計画を変更していけばいくほど、身を削る方へと向かっていったのだ。
せめて、サツキを私の元で保護したかった。だが、結局、サツキは全て、他人に譲ってしまうのだ。皆、彼女のことを悪女というが、ふりだ。本当は、とても心の優しい女の子なんだ。
サツキは見事、首席合格した。これで新入生代表挨拶となるとわかって、私はわざわざ、入学式に行った。サツキを最後に見たのは、舞踏会だ。
密書を届けてくれる者たちは皆、いうのだ。
「見違えましたよ」
「やはり、綺麗な方ですよね」
「驚きますよ」
そう、サツキを誉めるので、気になった。私はサツキの計画のために動いているというのに、サツキの見違えた姿を見てないのはおかしい。
私とアッシャーが入学式に行くのだ。弟エクルドが驚いた。
「俺の晴れ姿を見に来るなんて、兄上、やっぱり俺のことが好きなんだな」
「家族だからな」
本当のことは言わない。私が行くのが、エクルドとしても嬉しいのだろう。可愛いところがあるな。
どこかで騒ぎがあったが、無視した。サツキからは密書で色々と伝えられていた。下手に近づくわけにはいかない。魔法使いハサンがいる。私はあの男がサツキに関わる魔法使いと知っているが、逆は知らないのだ。それに、ハサンはエクルドの家族を蔑んだように見ている。近づかないほうがいいだろう。
そういうちょっとした騒ぎもあったが、入学式は無事、行われた。
「まあ、サツキ、綺麗になりましたね」
アッシャーは小声で私の耳に囁いてくる。
私は声もない。あんな短期間で、賢者テラス様は、サツキを見違えらせた。まだ、痩せすぎではあるが、それでも綺麗になった。目に見える傷も、賢者テラス様が何かしたのか、綺麗にされていた。
外野は酷いものだ。サツキの悪評を信じて、何やら煩い。
「あいつ、不正したんだな」
エクルドまで言っている。
「エクルドの順位はいくつだ? 私は学校では常に十位以内には入っていた。もちろん、上位クラスだ。アッシャー、もそうだね」
「はい、わたくしは頭だけは良かったですから。礼儀作法は、マイツナイト様のお陰ですね」
「それで、エクルドは何位だ?」
「………」
無言である。サツキのことを悪くいう前に、自らの見直せ。お前は下位クラスだと知っている。他人ばっかりで、エクルド自身は、何もかも中途半端だな。
我が家は、跡取りとなるためには、騎士の試験に合格しなければならない。何せ戦争に出るのだ。腕っぷしも必須だ。
エクルドは騎士の試験を受けたが、不合格だった。評価を聞いたのだが、散々だ。この結果から、エクルドが侯爵家を継ぐことは永遠にない。私がいなくても、家臣は絶対に許さない。弱者は敗者だ。騎士の試験にすら合格出来ないエクルドは、もう、侯爵家では見向きもされていない。
エクルドはもっと、自らを立ち位置を理解しなければならないのだ。父が跡取りとなれなかったのも、この騎士の試験に不合格だからだ。エクルドは、成人したら、この家を追い出される。そうなってもいいように、サツキとの婚約だ。なのに、エクルドはサツキではなく、義妹クラリッサにばかりかまけている。将来は、クラリッサを愛人にする腹積もりだろうな。
軽い頭の中が空けて見えた。だから、エクルドのことを蔑むように見下ろした。エクルドはもう、口を開かなかった。
華々しい登場をしたサツキは目立ったのだろう。色々と噂が流れてきた。悪評がほとんどだ。あのどうしようもないサツキの家族から、婚約者家族まで社交で話しすぎたのだ。私は肯定も否定もしない。ただ、黙って聞いていた。
そして、とうとう、サツキは生家を追い出された。私の両親が、エクルドの婚約者をサツキからクラリッサに変更したのだ。これで、サツキがいなくなれば、クラリッサが跡取りになる、なんて両親は考えた。クラリッサもエクルドも同じ考えだ。
すぐに、私の使いが、サツキを保護して、我が家に連れて来た。
「あの、ご迷惑になるので」
「遠慮しない。離れがある。そこにいなさい。賢者には、随分と愛されているな。綺麗になった」
サツキは年頃の顔をして、顔を真っ赤にして、恥ずかしがった。肩の力も抜けていた。
そこに、乳母が赤ん坊を連れてやってきた。
「赤ちゃん………まさか、マイツナイト様とアッシャー様の子ども!?」
サツキは目を輝かせて喜んだ。
「いたな」
「もう、子どもは一人では出来ませんよ。学校で習いました」
「………」
それは逆に言えば、子どもの作り方をサツキは学校に行くまで知らなかったということだ。貴族の子息令嬢は、入学前まで、それなりの教育を受けている。子どもの作り方も最低限、習うのだ。ほら、学校で間違いが起こるといけないから。
なのに、サツキは学校で習ったというのだ。
「テラス様とは、どういうお付き合いをしている?」
何も知らないのだ。あの賢者、サツキにとんでもないことをしていないよな!?
「食事をいただいて、少しお話するくらいですよ。口説かれたりもしますね。それ以上はありませんね。心配いりません。子どもを作るようなことはされていませんよ」
知識を持ってから言われてもな。
賢者テラス様が、もし、サツキのこの知識のなさを知っていたら、漬け込んでいただろうな。運が良かったといっていい。
兄の気持ちで、この話に安堵した。
サツキは乳母から赤ん坊の抱き方を教えてもらい、恐る恐る抱いた。
「やだ、柔らかい!! 壊れちゃいそう!!!」
「そうなんだ」
「マイツナイト様も、ほら、抱いてみてください」
「そういうのは、乳母と妻の仕事だ。私はやらない」
「えー、抱いてみてくださいよー。見ーたーいー」
サツキには勝てない。私は仕方なく、赤ん坊を抱く。途端、泣き出した。
「もう、下手ですね。いつも抱いてあげないから」
サツキが抱くと、初めてのくせに、赤ん坊は泣き止んだ。
「ほら、離れに行こう」
「エクルドたちが帰ってきてしまいますものね。家では、パーティですよ。きっと、お祝いの品を買いたい、とか、強請ってきますよ」
「不許可だ。当主である私を無視して婚約者変更なんぞ、認めるわけがない。跡継ぎ変更届けも不許可だろう。賢者テラス様が、許可するはずがないからな」
「もう、赤ちゃんの前で怖い顔をしないでください。ほら、笑顔ですよ」
「乳母に返しなさい。乳母の仕事を奪ってはいけない。貴族は、仕事を与える立場だ」
「はーい」
サツキは素直に赤ん坊を乳母に返した。そして、笑顔で私の後を付いてきた。
「この後は、新聞の暴露だな。アッシャーにはすでに手配をまかせている」
「赤ちゃんがいるのに、アッシャー様を動かすなんて」
「彼女がどうしてもやりたい、と言っていた。アッシャーも、怒っているんだ」
サツキの手書きの告白文はすでに、帝国中に手配されていた。あとは、合図を送れば、一斉に、新聞記事となる。帝国中にある全ての新聞社を手中におさめているわけではないので、そういう新聞社には封書を送ることとなっていた。無視しても、他の新聞社がこぞって記事にすれば、慌てて、記事とせざるを得ないだろう。
アッシャーはサツキの扱いに怒りを持っていた。常にサツキを救いたい、とサツキを説得していたのだ。だが、サツキは復讐をどうしてもしたい、と逆にアッシャーを説得した。アッシャーの父親の情報網は今、アッシャーが握っている。サツキは上手に、アッシャーを味方につけたのだ。
サツキのために整えた離れは、私の両親とエクルドは絶対に入らせないようにしていた。それなりの使用人を見張りにつけ、外部からの侵入出来ないようにしたのだ。
中を見て、サツキは顔を綻ばせた。
「まあ、懐かしい!!」
茶会の度に着せた服やら貴金属がそこにあった。
「これらは全て、サツキ嬢のものだ。といっても、もう小さいな。また、採寸をして、新しいものを作ろう。いや、もう、それはやってはいけないな。君はもう、賢者テラス様の恋人だ。妖精憑きを差し置いて、そんなことをしてはいけないな」
「わたくし、なにもお返し出来ないのに」
「万が一の時は、テラス様に口添えしてくれ。我が家は今、崖っぷちだ」
賢者テラス様は、弟エクルドのやらかしを知っている。それは、我が家まで飛び火しているのだ。間違いなく、我が家は今、最も危ない。
サツキには言っていない。帝国との取引を全て止められていた。唯一残ったのは、サツキのレシピにより誕生した茶葉だけだ。あれはどうしても、魔法使いたちも、皇帝陛下も、止められなかったのだ。そのお陰で、まだ、信用は残った。
賢者テラス様は、我が家を落ちぶれさせようとしている。ついでに、アッシャーの生家にも圧力をかけているのだが、商売をしていないので、全く影響がなかった。
いくらテラス様でも、新聞社には圧力はかけられなかったのだ。情報の伝達は重要である。時には帝国だって情報戦を使うのだ。だから、帝国中にある男爵家の息がかかった新聞社は無事だった。
そういう苦しい状況を私は隠した。サツキにこれ以上、心苦しい、なんて思わせてはいけない。
サツキは、ベッドや椅子の座り心地に感動していた。
「いいですね! ここだったら、ずっと引きこもっていたい」
「もう、伯爵の仕事もしなくていい」
「それがとっても嬉しい!!」
心底喜んでいるサツキ。それを見ているだけで、私は安心した。ここにいれば、サツキは安全だ。
なのに、サツキは次の日には、離れからいなくなったのだ。
油断した。外からの侵入には備えていたが、中からの脱出には全く警戒していなかった。サツキは手紙一つ残さず、離れの邸宅からいなくなってしまった。
サツキが離れにいることは、両親もエクルドも知らない。報告を受けた私は、両親を追い出し、エクルドもさっさと学校に行かせ、すぐにサツキの捜索を命じた。そう遠くに行っていないだろう、そう思っていた。
だが、探してみると、サツキは見つからない。あれほど綺麗な娘だ。街にいれば、普通に見つかるだろう。そう甘く見ていた。
だが、数日、経っても、サツキは見つからない。それどころか、サツキがいなくなったことで、伯爵家は大変なこととなっていた。お家乗っ取りで、とうとう、帝国が動いたのだ。
ここから、私はサツキ捜索と情報拡散、同時進行することとなった。
ついでに、婚約者であったエクルドが義妹クラリッサとの関係があったことも暴露してやった。証言もたくさんあるから、もう、誰も否定しようがない。
サツキの父、義母、義妹はお家乗っ取りで捕縛された。
「全部、サツキのせいだ!!」
私の前に立たされるエクルドは、また、サツキのせいだと叫んだ。
「私の許可なく、婚約者交代の手続きをしたな。それについては、成立していない。が、お前がサツキ嬢を追い出される現場にいたことは明白だ。いいか、今、我が家はお家乗っ取りの片棒をかついだことになってる!!」
鞭を鳴らした。その音にエクルドは怯える。
両親は、拷問用の椅子に拘束である。我が家は私が絶対だ。使用人は誰も、両親の命令も、エクルドの命令も従わない。
「このままでは、我が家は大変なことになる。ただでさえ、信用が落ちてきて、商売もうまくいっていない。領地と、あの皇室御用達の茶だけが便りだ。知っているか? この皇室御用達の茶は、サツキ嬢の提案だ。我が家の生命線は、サツキ嬢のお陰だな。感謝しなさい」
サツキのせいで、エクルドは私に締め上げられているけどな。
エクルドは震えながらも、いつもの通り、鞭で打たれて終わりだと思っている。そんなわけがないだろう。
「エクルドは廃嫡とする。お前はこれから、平民だ。手続きは済ませてある」
「そんなっ!?」
「お前はサツキ嬢との婚約がイヤだったんだろう。ならば、もう我が家から出ていけ。クラリッサと一緒になればいい。ただし、お前は平民としてだ。もう、籍から外したからな」
「どうして、兄上は俺のことばっかりぶつんだ!? サツキにはあんなに優しいのに!!」
エクルドは、サツキに嫉妬したのだろう。私があまりにもサツキの味方をするから。
「お前はどうなんだ。クラリッサの味方ばかりしてるじゃないか。お前がクラリッサに優しいから、不公平にならないように、サツキ嬢に優しくしているだけだ」
そう言ってやれば、エクルドは言い返せない。お前が全ての原因なんだよ。
私がエクルドに鞭うつのは、サツキのせいではない。エクルド自身のせいなのだ。婚約者であるサツキを守らなければならないのに、エクルドはクラリッサを守るのだ。しかも、クラリッサの嘘を信じて、サツキに暴力をふるったのだ。だったら、私はサツキのことを信じて、エクルドに罰を与えるしかないのだ。
私はエクルドと同じことをしているにすぎない。ただし、私はエクルドがサツキに手をあげなければ、鞭なんてしない。エクルドがサツキに手をあげるから、鞭うつのだ。
家臣たちは、身分を示すような代物全てをエクルドから剥いだ。金目になりそうな貴金属もだ。
「兄上、俺、金は」
「サツキ嬢は、着の身着のままで追い出されたそうだ。可哀想にな」
「死んじゃうよ!?」
「だったら、サツキ嬢は死んだな!! 酷いことをしておいて、何を泣いてる? お前がやったことだろう!! 同じことされて泣くな。街のどこかに捨ててこい」
「兄上、兄上ー---!!!!」
私は容赦なく家臣に命じた。家臣たちは、エクルドのことを心の底から蔑んでいる。何より、騎士の試験に落ちたのだ。当主の一族とすら認めていない。
エクルドの叫び声なんてすぐに聞こえなくなる。残るは両親である。
私は、帝国から渡された、サインの不正使用の証拠を両親の前に叩きつける。
「伯爵家の金を随分と使い込んだ、と訴えが出ている。サツキ嬢の名前で、随分と買い物したな。今、お前たちの私物を全て、換金している」
「あれは、私のものだ!?」
「わたくしのものですよ!! 泥棒!!!」
「煩い!! 我が家にあるものは全て、私のものだ。お前たちの物なんて、何一つない!!!」
拷問用の椅子に拘束されているので、無様に倒れる両親。痛いやら、怪我したやら、煩いな。
「随分と過去に遡っての請求となっている。現在、伯爵家は当主がいないことから、財産が凍結されている。今回の訴えによる返金も、帝国が一時的預かりとなった。それなりの蓄えもあるから、今回はどうにかなるだろう。だが、今後は、無駄遣いをしないように。使える金額を決めましょう。いいですね」
「本当か?」
「許可をとらなくていいの!?」
「そういう締め付けが良くなかったのですよね。だから、伯爵家の横領なんてしてしまった。私も反省しました。使うといっても、大した額ではありません。ですが、社交で必要なものは、許可制ですからね」
甘いことを言ってやれば、両親は笑顔になる。
そして、両親は普通に解放してやる。部屋に戻っても、もう、両親の私物は全て、換金された後だがな。それでも、帝国からの請求には足りない。本当に、やらかしてくれた。
「いいのですか、あの二人に金を持たせて」
家臣が心配する。金がどういうふうに流れるか、心配しているのだろう。
「そんなことより、サツキを探せ。噂を拾うんだ。もしかしたら、王都にはもういないかもしれない。範囲を広げろ」
「ですが、もう、諦めたほうが」
「賢者の恋人だぞ。万が一のことがあった時の命綱だ。絶対に見つけろ!?」
「はいー--!!」
もう手を引きたい家臣たちだが、サツキの立場がかなり重要なのに気づかされ、動き出した。




