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皇族姫  作者: 春香秋灯
賢者の皇族姫-侯爵と悪女-
149/353

舞踏会

 私が男爵令嬢アッシャーと婚約する前に、サツキとアッシャーを会わせた。サツキの反応が気になる。サツキ、私のこと、どう思っているだろうか? もし、初恋とかだったら、これで、私とサツキの縁が切れるな。

 いつもの茶会に、男爵令嬢アッシャーがいることに、サツキは訝しんだ。だけど、初対面のアッシャーにサツキは笑顔を見せて、綺麗な礼をする。

「初めまして、伯爵家、跡取りサツキと申します」

「あ、あ、あの、その」

 礼儀作法はこれからだな。私はアッシャーを黙らせた。

「彼女は男爵令嬢アッシャー。君の役に立つ」

 サツキはじっとアッシャーを見る。アッシャーがどういう人かその目で見出そうとしていた。

 私はいつもの通り、椅子をひいて、サツキを座らせた。

「わかりました、マイツナイト様の婚約者ですね!!」

「ま、まだ、そう決まったわけではありません!!!」

 サツキの洞察力はすごいな。そして、アッシャー、君はそれ、肯定したようなものだよ。まだ、なんて言ってはいけない。

「マイツナイト様、男爵令嬢なんて、どうしたのですか。まさか、告白されて、とかですか?」

「随分と聞いてくるな」

「母がこういう安っぽい本、いっぱい隠していました。今、読んでます」

 妙なところで、サツキは子どもだ。本の影響をいい意味で受けている。ちょっと前まで、復讐するなんて言ってたけど、あれも、才女カサンドラが書いた小説の影響だな。

 いっそのこと、サツキには世の中が楽しくなる本をいっぱい読ませたほうがいいような気がしてきた。そして、復讐なんて忘れさせ、さっさとあの家族から離してしまえばいいんだ。

「あの、わたくしから、お願いしました。脅迫、ですが」

「脅迫って、告白でしょ」

「秘密を知ってます、と脅迫しました」

「そういう話、読んだことがあります!! きっと、そこから始まるんですよ、恋とか愛とか」

「そうですか? そうだといいです!!」

 サツキ、ちょっと変な方向に逸れていっているよ。そしてアッシャー、すっかりサツキに操られているな。サツキ、それが本気で言っているのならいいが、アッシャーを操っているのなら、それはやめなさい。

 だが、サツキはアッシャーのことを随分と気に入っていた。

「アッシャー様はいいですね。嘘がないです」

「今は、嘘、つく必要、ありませんから」

「わたくしはいつも、嘘つき呼ばわりされていますが、ご存知ですか?」

 サツキは噂のことを試しにアッシャーに訊ねた。アッシャーがどういう意図で私に近づいたのか、気になったのだ。告白だけではない、と会話の端々では気づいていた。

「私は、嘘と真実を見分けられます。あなたは、嘘は言ってない。ただ、言わないだけ」

 どういうことだ? アッシャーが何を言っているのか、私はよくわからなかった。

 サツキは大人のように笑った。嫣然と、アッシャーに向けて、笑いかける。

「正解です。わたくしは、嘘をつきません。ただし、全て話さないだけです。隠しています」

 サツキの言葉で、私はやっと理解した。私もよく使う。

「あの、わたくしとマイツナイト様の婚約は、いいのですか?」

 そう、そこが私も知りたい。サツキは私のこと、どう思っているんだ?

 サツキはここでしか食べられない菓子を口にいれて、アッシャーと私を見返した。

「エクルドと結婚すれば、義兄になりますね。マイツナイト様には、ぜひ、兄になってほしいと常々、思っています。ほら、家では姉のくせに、姉だから、と言われ続けています。だったら、上に兄か姉が欲しいではないですか。だから、マイツナイト様のことは兄と思っています」

 これっぽっちも、私に対して、恋心を抱いていなかった。半分、安心だが、半分、残念だ。これは、あれだ、サツキのことを私は可愛い妹のように感じていたんだ。だから、お兄ちゃん大好き、みたいに慕われたかったわけだ。

「だから、安心してください。どういう意図で、マイツナイト様がアッシャー様と婚約を考えているのか、わかりませんが、とったりしませんよ」

 満面の笑顔で言われて、私は本気で落ち込んだ。

 そういうやり取りの後、アッシャーは父親が、情報面で力があること、侯爵家と伯爵家のことは調べられていることをサツキに話した。

「我が家の使用人は、しかるべき時には、全て解雇ですね。簡単に話してしまうような使用人には、紹介状なんか書けません」

「す、すみま、せん」

「いえいえ、いいんですよ、アッシャー様はこれっぽっちも悪くありません!! 金で裏切る使用人が悪いのですよ。そういう使用人こそ、悪事を働いているのですよ。でも、いいのですか? マイツナイト様は、わたくしなんか見捨てて、逃げたっていいのですよ」

 サツキはまだ、私を逃がそうとしてくれた。きっと、アッシャーとの婚約も、サツキのためだと思ったのだろう。半分はそうだな。

「今回、サツキを見捨てたって、あの両親と弟は、また、おかしなことをやらかしてくれるよ。この短期間で、それがよくわかった」

 そう、あと半分は、我が家のためだ。あの両親と弟とは縁が切れない。そのため、我が家はあらゆる方向で、醜聞にまみれるだろう。

「だったら、情報を操作しよう。サツキ嬢、気にしなくていい。これは、我が家のためでもある」

 勝手に書き散らされる危険の回避だ。上手に使えば、傷も浅いだろう。

「今すぐやろう」

「もう少し、待ちましょう」

「どうして!?」

「終わったら、マイツナイト様、アッシャー様との婚約はどうするのですか? まさか、そのままなしにしてしまうのですか!?」

「あ、そうですね、よく考えたら、そうなってしまいます」

 確かに、今すぐやったら、そうなるな。しかし、サツキをこのまま放置というわけにはいかないのだ。

 サツキは何事か考えこんでいた。まさか、あの復讐譚を使おうとしていないよな?

「お父様とお義母様、おもしろいのですよ。クラリッサが跡継ぎになれる、なんて言ってるんです。わたくしでも、それは無理だとわかっているのに、おかしいですよね。お母様のあの小説、ばかばかしい、とちょっと思いましたが、現実的には、あり得るのですね」

 やばい!! 私と同じ考えにサツキはいたっていた。あのバカバカしい復讐譚、サツキの父、義母相手ならば可能だと気づいてしまった!?

「もうすぐ、母が亡くなって一年です。喪があけたら、母の友人知人、血族を招待して、茶会を開きます。もう、準備をしています。その時、どうなるか、様子見ですよ」

 優しいサツキ。体は傷だらけだ。今着ている服、彼女にあわせて作らせたが、また、あわなくなっている。週にたった一回のたともな食事は我が家の茶会だ。伯爵家では、成長期だというのに、十分には得られていないのだろう。

 彼女が弱音を吐いたのは最初の一回きりだ。泣いたのも、そこで最初で最後だ。

 私はサツキの手を握る。サツキは淑女の笑顔を向ける。サツキはまだ、信じようとしている。





 伯爵家の茶会が終わってからは、私とサツキの茶会は回数を減らすこととなった。

 サツキはもう、復讐に憑りつかれていた。サツキの母カサンドラの友人知人、血族たちは、サツキを裏切ったのだ。

「聞いてください。血族に発現した魔法使いハサンが、手伝ってくれると言ってくれました。ハサン、実は母のことが好きだったんですよ」

 才女カサンドラの書いた復讐譚には、魔法使いの協力があった。だから、試しにサツキはハサンに言ったのだろう。

 魔法使いハサンは賢者テラス様の側近だが、その立場ははっきりしていない。常に、テラス様の影にいるような魔法使いである。名前を知られているが、表に出ることはない、謎の多い人だ。ただ、実力も権力も相当なものだ。

 サツキと私の茶会には、目出度く婚約者となった男爵令嬢アッシャーも参加している。アッシャーはお土産に持参した珍しい菓子をサツキにすすめる。

「噂では、次の筆頭魔法使いなのでは、と噂された方ですね」

「そうなの!?」

 魔法使いの情報まで、アッシャーは握っていた。さすが、父親は帝国中の情報を握る男だ。

「噂ですよ、魔法使いの間だけです。テラス様が筆頭魔法使いを引退した時に、ハサンは筆頭魔法使いになりませんでした。それで、噂は嘘だとなったわけです。随分と昔の話です」

「ハサンは、筆頭魔法使いになる力はありますよ」

 サツキはハサンの情報を簡単に話してしまう。

「お話していいのですか!?」

「外に漏れてしまっても、噂は嘘だった、となっていますから、誰も信じません。ハサンは筆頭魔法使いとしての気性が足りませんでした。ですから、ハサンは万が一の予備なんです。次の筆頭魔法使いが生まれず、また、賢者テラス様が亡くなった時のために、ハサンはいるだけです。ハサンは、わたくしに協力することで、筆頭魔法使いとしての気性を育てたいのでしょう」

「情けではない?」

「わたくしの話に乗ったのです。情けだけではありませんよ。だいたい、情けであれば、わたくしはもう助けられています。ハサンはやはり、妖精憑きだ、ということです」

「?」

 私もアッシャーも、サツキが言いたい意味がわからない。

「マイツナイト様は立場がありますから、わたくしを助けるために迂闊に行動には移せません」

 確かにそうだ。私は、サツキを助けようにも、立場が邪魔をしている。そして、その判断を遅らせたことで、今、窮地に立たされている。

「魔法使いなのです。憐れな小娘なのですから、さっさと手を差し伸べて、助ければいいのです。ですが、妖精憑きの気性がそれを邪魔しています。妖精とは、慈悲な生き物と思われがちですが、そうではありません。実際は、そんな慈悲も何もありません。欲しいものは欲しい、殺したいものは殺したい、遊びたいものは遊びたい、と欲望の権化です。妖精憑きは、力が強ければ強いほど、妖精寄りの感性を持ちます。筆頭魔法使いとなれるほどの実力ですから、ハサンは妖精寄りでしょう。妖精の復讐は残酷です。じわじわと呪い、痛めつけ、死ぬまでそれが続くのです。ハサンとしては、母の復讐のために、わたくしを利用して、あのどうしようもない家族と、母の友人知人と、血族たちを痛めつけて復讐したいのですよ」

「そう、提案したわけだ」

 サツキは賢い。ハサンの正体と反応を見て、瞬時に、妖精憑きが好むような計画を作ったはずだ。

「慈悲は必要です。ハサンもまた、慈悲を持っています。だから、たった一度の裏切りでも、待てをします。力のある妖精憑きにとって、待つことは苦ではありません。十年でも、瞬きしている程度なのですよ。何せ、長生きですから」

「そんなに待つのか!?」

 早い段階で、復讐をするものと思っていたのだ。

「いえ、十年も待ちません。次は、十年に一度の舞踏会ですよ。あそこでは、帝国中の貴族が絶対に集められます。病気でもない限り、不参加は処刑です。その時に、最後の審判です」

 確かに、十年は待たない。それでも、数年、サツキは待つのだ。

「すぐにやりましょう!!」

 アッシャーはサツキの置かれた状況を情報として知っている。だから、すぐに計画決行を勧める。

「魔法使いハサンの協力は絶対です。今のままでは、彼は協力しないままです。彼は必要な駒なんです」

「舞踏会で確認しないといけないのか? 今でも十分、罰を与えられる」

「慈悲ですよ。ハサンには、わたくしがきちんと慈悲を与えた、ということを見せなければいけません。ハサンの目の前で慈悲を見せたのは、今回で二回です。あと一回は必要ですよ。それが、舞踏会です。三回も確認作業をすれば、十分です。あとは、生かさず殺さず、です。アッシャー様、裏切らないでくださいね」

 サツキはアッシャーが手土産に持ってきた菓子を手をつけない。まるで、警戒しているようだ。

「ど、毒なんて、入っていませんよ!?」

「いえ、もう、食べるのをやめようかと。こういうものを食べると、わたくしの決意が揺らぎます。食べられる草や木の実を見つけました。ここで施しを受けなくても、生きることは出来ます。栄養さえきちんととれば、成長はしますよ」

 サツキは目の前の菓子を遠ざけた。彼女の決意は固い。

「マイツナイト様もご婚約されたのですから、茶会の回数も減らしましょう。一か月に一度程度にして、舞踏会が近づきましたら、接触をなくしましょう。連絡方法は、マイツナイト様かアッシャー様が作ってください。別に、わたくしのお願いなんて、きかなくていいのですよ。無視してくださって、かまいませんから」

 そう言って、サツキは席を立った。





 十年に一度の舞踏会の時には、私は一人前の侯爵となっていた。アッシャーは婚約者から妻となっていた。

「男爵を妻だなんて。しかも、爵位を金で買った男爵だなんて」

「我が家は公爵家よりも古い歴史のある一族だぞ!!」

「うわ、暗くて気持ち悪い女」

 アッシャーのことを散々、悪く言っていたが、アッシャーが婚約をしては贈り物をして、邸宅に来る時はお土産を持ってきて、結婚には莫大な持参金を渡して、とするものだから、両親も弟も悪く言わなくなった。ただ、黙っているだけだ。

 そして、舞踏会での参加は、私とアッシャー、両親、弟である。私が舞踏会の招待状を渡せば、人数確認をして、無事、通過だ。不正があると、参加出来ないからな。招待状を帝国が回収出来ていないなんてじなったら、お家取り潰しである。

 中に入って、私はアッシャーと待った。

「クラリッサ、遅いな」

 婚約者はサツキだというのに、待っているのはサツキの義妹クラリッサか。エクルド、本当に愚かな弟だ。

 聞いていたアッシャーでさえ、エクルドを蔑むように見ている。

「マイツナイト様、良かったのですか? エクルドがサツキさんに贈った服、明らかにあっていませんよ」

 我が家で金を使うには、私の許可が必要だ。だから、エクルドは、舞踏会のために、対となる服をサツキに贈りたい、とか言ってきた。私は将来の可愛い義妹だから、と許可したのだ。

 だが、実際に服の制作のための採寸に来たのはサツキの義妹クラリッサである。

「わたくしとお義姉様は、ほら、それほど変わりませんから」

 酷い言い訳をするクラリッサ。エクルドまで、歪んだ笑顔を見せたのだ。バカか。我が家ではサツキとの茶会のために、常に採寸しているのだ。採寸自体、必要ない。

 私は、エクルドを試したのだ。きちんとサツキを連れて来るか、と。そして、結果、クラリッサを連れてきた。

 この後の茶番は見なくてもわかる。伯爵家は随分と遅れてやってきた。そして、クラリッサがエクルドと対となる服を着ていた。

 エクルドは呑気にクラリッサに駆け寄る。だが、私はそれをただ、見ているだけでは済ませない。エクルドの首根っこをつかむと、私の正面に引き戻した。

「あ、兄上」

「よくもやってくれたな」

 私はその場でエクルドの腹に思いっきり拳をいれてやった。

 私は騎士団の試験を合格するほどの実力だ。私の拳は重い。苦痛やら何やらで歪んだ顔でその場にうずくまるエクルド。声も出ないだろうな。

 クラリッサはエクルドに駆け寄り、きっと私を睨み上げる。

「弟に何てことするのよ!?」

「よくもまあ、姉の婚約者からの贈り物である服を着ていられるな!?」

 声高に言ってやる。途端、近くにいる貴族たちは、うずくまるエクルドと、その側にいるクラリッサに集中する。見ればわかる。この二人の服は、見事に対だ。だが、私の叫びで、クラリッサが服を横取りしたことは、周囲もわかる。

「お義姉様が、着ないというから」

「だったら、貴様は別の服を着ればいいだろう!! この恥知らずが。我が弟は婚約者の妹に寝取られた、という醜聞を、この帝国中の貴族集まる舞踏会でまき散らすつもりか!?」

 これでもか、と大声で言ってやる。途端、周囲は蔑むようにクラリッサとエクルドを見た。その中には、二人の知り合いもいるのだろう。そそくさと離れていく。

 羞恥で真っ赤になるクラリッサ。それを私は嘲笑ってやる。

「私に口答えするのなら、まず、身ぎれいになってからにしろ。程度の低い女が。お前たちを見ていると、目が腐りそうだ。声を聞くと、耳も腐りそうだ。本当に、お前たちは最低最悪で、お似合いだな」

「マイツナイト、なんてことをいうの!? 実の弟と、将来は義妹となるのよ!!」

「私の双肩には、領地民がいます。これらが間違いを犯すことをただ黙って見過ごすことは、我が家、ひいては、領地をも危なくするということですよ。どこまでも無様だな。帰りの馬車は別々だ。アッシャー、行くぞ」

 とりあえず、人前でこの二人を恥知らずにしてやった。頭の軽いお友達は、真実の愛、とか謳っているが、バカバカしい。

 私は素早くサツキを探した。サツキはさっさと家族から離れて、挨拶周りだ。遠くから見ていれば、酷い扱いを受けている。それでも、サツキは笑顔を絶やさない。相手は最悪な礼儀なのに、サツキは令嬢らしく、きちんとした礼儀を返していた。

 そうして、最後はあの公爵夫人アーネットである。あの女はどう言っているのか、わからない。が、私はただ見ているだけではない。サツキが挨拶した奴ら全てには、それなりの人が側にいる。何を言ったのか、全て、道具を使って記録をとらせている。しかるべき時に、全て、暴露してやる。特に公爵夫人アーネットには怒りしかない。我が家をよくも陥れるような真似をしてくれた。あの女だけは、絶対に許さない。社交界の底辺まで落として、貴族からも落としてやる!!

 そして、サツキは壁の華となった。

「行きましょう」

「ああ」

 サツキには、それなりの服を私が準備していた。アッシャーと対となるようなデザインの服だ。せめて、私の側にいる間は、着飾らせてやりたかった。

 ところが、あのバカな弟エクルドと、サツキの義妹クラリッサがやらかしてくれた。サツキの服をわざと汚したのだ!! あれは、サツキの母の形見だ。後で綺麗に洗ってから、サツキの元に返す予定となっていた。サツキはあの服に思い入れがあるようなことを言っていた。

 なのに、あのバカ二人はサツキの大事な服を汚した上に、謝罪もしない。クラリッサとエクルドがバカなことを声高に言っている。それを聞いていると、本当に耳が腐りそうだ。止めに行こうと向かうと、それより先に、賢者テラス様が、エクルドの胸倉をつかんで、放り投げた。

 賢者テラス様が出てきた。一体、何が起こったのかわからない。サツキも、戸惑っていた。

 ただ、わかるのは、テラス様はサツキの味方だ。クラリッサとエクルドに酷い怒りを見せていた。そして、テラス様のご機嫌が悪くなると、必ず、皇帝ラインハルト様が来る。見ていれば、皇帝ラインハルト様がやってきた。

 そして、その場はサツキの口上でおさめられた。

 私はサツキが一人になると思って見ていた。しかし、サツキはそのまま、賢者テラス様に連れて行かれてしまった。

 それからは、普通に舞踏会は再開する。しかし、もう、私は怒りしかない。無様に転がっているエクルドの胸倉をつかむと、引きずるように会場を出る。

「どこに行くのですか!?」

「帰るんだ」

「まだ、舞踏会の時間が」

「賢者と皇帝陛下の前で、こんな恥晒しなことをして、まだいるというのか!?」

 縋るクラリッサに、私は叫ぶように言ってやる。周囲はクラリッサとエクルドが賢者と皇帝陛下から怒りを向けられているのを見ていたから、蔑むように見る。

 私に言われて、私の両親、ついでに、伯爵家族も、今、まずい事となっていると気づいた。遅すぎだ。

「エクルド、お前は地下牢だ。父上、母上はしばらく、屋敷で謹慎です」

「ど、どうして!?」

「何もやっていないのに!!」

「何もやっていないからだ。クラリッサの服を見てみろ。これを黙って許したのはお前たちだ。そして、賢者と皇帝陛下を怒らせるような真似を許したのもお前たちだ!!」

「私たちは、何も」

「そうですよ、子どもたちが勝手にやったことで」

「子どものやらかしは、親の責任だ。いいか、お前たちがエクルドを育てると言ったんだ。私は今も覚えている。教育も全て、お前たちがやると言ったんだ。それが、これだ。賢者と皇帝陛下を怒らせた。失敗したんだ。エクルドは罰を受けるんだ」

「兄上、俺は悪くない!! サツキが悪いんだ!!!」

「サツキ嬢は賢者に誉められていたな。賢者も皇帝陛下も、礼儀には厳しいんだ。見苦しいと、高位の貴族でも許さない。そんな人たちがサツキ嬢を誉め、お前たちは見苦しいと言っていた。兄として恥ずかしいよ。だが、将来の義兄として、サツキ嬢のことは誇らしい」

 悔しそうな顔をするクラリッサ。私はそれを嘲笑ってみてやる。

「悔しかったら、賢者と皇帝陛下に誉められる礼儀を身につけなさい。それまでは、お前は我が家には入ることも許さん。父上、母上、エクルド、この女を無断で連れて来てみろ。僻地へ幽閉してやる」

 私の脅しに、とうとう、両親とエクルドは黙り込んだ。

 いつまでも黙り込まないのは外野だ。伯爵家族は、私のことを睨んでくる。格下の家だから、何も出来ないだろう。

 それから、私は両親とエクルドを馬車に乗せ、別々に帰った。屋敷につけば、エクルドは家臣と使用人の手によって、地下牢に閉じ込められた。そして、そこで、私はエクルドに鞭での罰を与えた。

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