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皇族姫  作者: 春香秋灯
賢者の皇族姫-侯爵と悪女-
147/353

皇族への報復

 学校に行けば、幼女趣味め、と悪評が広がっていた。

「おいおい、いいのか?」

「悪評も誉め言葉だ」

 サツキが言ったことをそのまま、私も使うことにした。これはいいな、かっこいい。

 それは、私の友人たちも思ったのだろう。私が幼女趣味と知っても、特に交友関係を悪くすることはない。ほら、男にとって、笑い話だからな。

 女側は、私が危ない男だ、みたいに見てくる。そういうのはどうだっていい。今は、あの可哀想なサツキに、生きる希望を与えることだ。

 週一の茶会を続けているが、サツキがいつ自殺してもおかしくない。生きる希望がないのだ。サツキは、命を断つことで楽になると考えていた。だが、命を断つというのは、そう簡単に出来ることではない。死ぬというのは、わからないから怖いのだ。

 それが生きることよりも、死が怖くなくなる時、サツキは死んでしまうだろう。

「まさか、幼女が好きだなんて、知らなかったわ」

 皇族ハンナがわざわざ話しかけてきた。席も隣りだし、色々と話すことがある。話すことはあるが、嫌味が含まれているな。

「サツキ嬢は可愛いぞ。あの子なら、婚約者にしたいな」

「お互い、跡取り同士なんでしょ」

「解決方法なんて簡単だ。子を二人作ればいい。それで、互いの家門の跡取りは完成だ。それか、サツキ嬢の家門は、血族の誰かが継げば、問題解決だ」

 少し考えれば、突破口なんていくらだってある。

 私がサツキとの婚約を前向きに考えている姿勢に、皇族ハンナは顔をしかめる。

「本気なの? 相手は、親だって悪くいう子でしょ」

「おや、皇族様がそんなことを言ってしまうのか。サツキ嬢の父親は浮気相手である女との間に子がいるんだぞ。サツキ嬢の亡くなった母の喪が明ければ、浮気相手と再婚だそうだ。そんな奴らが口にする悪評を信じるなんて、皇族も落ちたものだな」

「っ!?」

 ある意味、皇族侮辱罪だ。別に、それでも構わない。これを機会に、新聞沙汰にしてやればいいんだ。皇族侮辱罪のきっかけが、サツキ嬢だと出されると、皇族は調査に入るだろう。

 私は皇族ハンナがどう反応するのか見ていた。友人たちは、はらはらと心配そうに私を見ていた。私が犯罪者になる、なんて心配してるんだな。優しいな。

「そうね。考えもしなかった」

「知らなかったんだから、仕方がない。発言する時は、まず、情報を精査しよう。私はそうしている」

「私もあなたを見習うわ」

 皇族は謝ってはいけない。ハンナは上手に言葉を選んだ。

 こんなやり取りをして、私はそこで終わらせようとした。友人たちもそれぞれ、席に戻っていったのだ。もうすぐ、授業も始まる。

「ねえ、マイツナイト、相談があるのだけど」

「今? ここで?」

「昼食時に、食べながらでいいから、お願い」

「人目がある所でなら」

 さすがに、私は皇族ハンナと二人っきりにはならない。気を付けないといけないからな。

 相手は皇族なので、断るわけにもいかず、私は受け入れた。


 だが、すぐに後悔することとなった。


「わたくし、皇族じゃないの!!」

 とんでもない相談事だった。

「もう、儀式を受けたんだ」

 確か、皇族の儀式って、十年に一度だと聞いていた。年齢的に、受けたような気がしてたんだけど、まだ、受けてなかったんだな。十年に一度だから、そういうこともある。

 人目はあるが、話が聞かれないような中庭で食事をとっていれば、そんな話である。

「まだ、受けていないのだけど」

「だったら、まだ皇族かどうか、わからないじゃないか」

「賢者テラスから言われたの。だから、貴族の学校に通っているのよ」

 賢者テラス様は、ハンナの今後のために、先に言ったのだ。こうやって、貴族の学校に通っていれば、皇族の儀式で皇族失格となっても、どうにかなるだろう、とテラス様に言われたのだろう。

 だけど、ハンナ自身は不安なのだ。貴族の学校に通っていれば、自覚する。皇族と貴族は違うのだ。それに、私やサツキの噂一つとっても、表向きしか読めていない事実を知り、ハンナは不安になったのだ。

「貴族だと、公爵家に養女として受け入れられるかもしれないだろう」

「そこは、皇帝のさじ加減よ。平民になることもある」

「そりゃ、大変だ」

 私は侯爵家だが、平民とも繋がりがある。ほら、商売をやっているし、最近は新聞社とも繋がっている。子どもの頃は、祖父母の連れられ、平民の子どもと遊んでいたくらいだ。平民のことはそれなりに知っているのだ。

「その、実は、マイツナイトの噂を払拭するために、わたくしと恋仲に、と頼むつもりだった」

「あわよくば、私と結婚して、貴族になろうとしたわけか」

「っ!?」

 考えが浅いな。顔が真っ赤だ。

 だけど、私がサツキとの婚約を前向きに考えていることを公然と学校でも言ってしまっているので、取り入る隙がないと気づかされたのだ。それでも、どうにかしようと、告白したわけである。

「私はね、サツキ嬢を助けたいんだ。君は他をあたれ」

「どういうことだ!? 助けたいって」

「そのままだ。君は他をあたればいいが、サツキ嬢は私しか頼る人がいないんだ。噂を流しているのが身内なんだ。家での扱いだって、想像がつくだろう。君はいい年頃だが、サツキ嬢は保護が必要な子どもな上、大人たちまで敵だ。助けが必要なのはどっちか、わかるよな?」

 私は皇族ハンナのことを冷たく突き放した。相談する相手を間違えている。

「待ってくれ!」

 なのに、腕をつかんできた。もう、相談なんか乗るんじゃなかった。

「わ、わたくしで、力になれるかも、しれない」

「皇族じゃなくなるのにか? サツキ嬢の虐待の証拠はどんどんと集めている。今からでも告発すれば、あのどうしようもない家族からも引きはがせる。彼女なら、責任とって婚約結婚でもいいな」

 本気で、そうう思っていた。サツキのことはもう、ただの可哀想な令嬢でなくなっていた。週に一回の茶会で、サツキと接していれば、間違いはおかさないけど、情みたいなものは沸いてくる。着飾って、私の前でだけは笑っているサツキのことは、可愛いと感じていた。幼女趣味と悪評がたっても、別に構わなかった。

 だが、この相談事が、サツキをさらに追い詰めた。





 迎えに行かせた侍女が、サツキを連れて来ないで戻ってきた。

「何があったのか?」

「もう、ご迷惑になるから、とサツキ様が拒絶されました」

「そんなこと言われたら、私から行くしかないじゃないか」

 こういうこともあるだろう、と私からサツキの元に行く。

 その日は、サツキはあの狭い私室にいた。私が窓を軽く叩いてやれば、サツキは驚いて、部屋の端に逃げていく。

「こらこら、逃げるんじゃない。ほら、開けなさい」

 開けなければどうにかなる、なんてサツキは考えている。確かにそうだ。が、そこは子どもだな。私はガラスを割って、鍵をあけてしまうのだ。

「手に怪我が!!」

 私の手がガラスで切れたことにサツキは近づいてくる。そうするから、私は力づくでサツキを部屋から誘拐だ。

「は、離して!!」

「ほら、今日は私直々に迎えに来たんだ。近くを散歩しよう」

 私はサツキが逃げられないように抱き上げて、伯爵邸の近くを散歩する。

「週に一回の楽しみだというのに、断ることないじゃないか」

「………」

 黙り込むサツキ。何かあったのは、これだけでわかる。

 最近の出来事というと、皇族ハンナだ。あの女、何かやったな。

「皇族とは結婚しないよ」

「でも、そういう話があると」

「手紙が城から来たんだね。めでたい話が出ているところに、邪魔するんじゃない、とか言われたんだろう」

「………そうです」

 皇族ハンナは、私の両親に手紙で送ったのだろう。見せかけの名声に弱い両親は、手紙でサツキの存在が心配だ、なんて書かれたから、サツキに言ったのだろう。邪魔をするな、と。

「あの女、後で覚えていろ」

 可哀想なサツキに、随分なことをしてくれた。私では無理だから、サツキを攻撃したのだ。弱者から搾取するようなやり方に、私はハンナという女を見限ることにした。

 適当に歩いていると、突然、サツキは「下ろしてほしい」と言い出した。

「逃げるつもりだろう」

「逃げません。見せたいものがあります」

 逃げても、サツキのような子ども、私だったら簡単に捕まえられる。それに、近くには侍女や家臣がいる。サツキは逃げられない。

 サツキは大人しく立って、私の手をつかんで、引っ張っていく。

 何故か、その方向には行きたくない。だけど、サツキはどんどんと引っ張っていくのだ。その違和感を耐えた先に、とんでもない豪勢な邸宅が目の前に突然、現れた。

 私とサツキが突然、いなくなったので、侍女や家臣たちがあわててやってきて、突然、目の前に出た邸宅に驚いた。

「これは?」

「邸宅型魔法具です。これのお陰で、我が領地は、恵まれた実りを得られているのです」

「本当だったのか」

 サツキの話は半分は嘘かと思っていた。見たことがないからだ。

 だが、目の前に突然現れた邸宅に、私はサツキの話を信じるしかなかった。ただの人でも感じる。この邸宅は普通ではない。

 サツキは普通にドアをあけて、中に入っていく。慌てて、私たちも入って、中の豪勢な作りに驚かされた。

「サツキ嬢、いっそのこと、ここで暮らしたらどうだ」

「これは、魔法具です。人が暮らすには向いていません」

「そんなことないだろう!?」

 邸宅を探索すれば、人が暮らせるように出来ている。ベッドもある、水もある、風呂だってある、食事さえどうにかすれば、生活できる。

 常に隠されるような魔法を施されている。サツキをここで匿って、騒ぎを起こせば捜索が始まる。帝国は、成人前の跡継ぎには敏感だ。いなくなったとなれば、必ず、帝国は捜査をするだろう。

「どうせ、後見人が代わっても、私の扱いは変わりません」

 サツキは色々と見限っていた。私の考えを読んで、諦めたように笑った。

「私がなろう!!」

「あのどうしようもない親がいなくなれば、縁が切れます。エクルドの婚約もなくなるでしょう。そうなったら、あなたと私は茶会一つ出来ませんよ」

「だから、今のうちに婚約を結ぼう。そうすれば」

「利用価値なんてないですよ」

 最初に言った言葉が悪かった。サツキは、私の心ない言葉に、傷ついていた。

 過去に戻って、自分を殴ってやりたい。心底、そう思い、後悔していた。

 サツキは邸宅にある道具を使って、お茶をいれた。それは、不思議なお茶だ。

「これを飲めば、今日のことは忘れます。飲んで、帰ってください」

「なんだ、それ」

「皇族がどういうつもりで介入してきたのか、わかりません。ですが、皇族に逆らうほど、わたくしは愚かではありませんよ」

「皇族といったって、もうすぐ、皇族失格となる女だ!!」

「でも、今は皇族です!!」

 サツキは賢過ぎた。だから、皇族ハンナを危険視した。このまま、私とサツキが繋がっていて、万が一、ハンナが皇権を使えば、私もサツキも無事ではない、と読んだのだ。

 まだ、皇族であるハンナ。皇族の儀式がいつなのかはわからない。だが、このまま、黙って従っているほど、私は甘い人ではない。

 私は茶を床にぶちまけた。

「見ていなさい。あの女を叩き落してやる。それまで、君は大人しくしていなさい。いいね」

「ですが」

「君は少し、バカになったほうがいい」

 私はサツキの頭を撫でてやる。サツキは何を言われているのかわからず、呆然と私を見上げた。

「君は、役目や役割に縛られすぎだ。私にはわからないが、この邸宅は君しか作動出来ないと言っていたな。だったら、やめてしまえばいい」

「そんなことしたら、領地が!?」

「言い方を変えよう。君しか作動出来ないような代物は、もう役立たずだ。それは、滅ぶべきだと神が言っているんだ」

「そ、そう、ですね」

 言われて初めて、サツキは悟った。

 サツキはきっと、母カサンドラに、次期当主として、色々と教え込まれているのだろう。それは、洗脳に近いのかもしれない。だから、領地を守ることも当然、と思い込んでいるのだ。

 だが、私から言わせれば、こんな領地は滅んでしまえばいい。だいたい、邸宅型魔法具で支えるしかない領地だ。しかも、それを作動出来るのがサツキ一人だという。代わりのないそれは、もう、意味がないのだ。

 サツキがいなくなったら成り立たないのだから、そこからすでに、破綻していた。

 それを他人である私に指摘されて、やっと、サツキは解放されたのだ。一族で連面と受け継がれていた役目は、終わらせる時がきた、と気づいたのだ。

 だが、言った後で、まずいことになった、と私はすぐに気づいた。サツキが生き続ける理由をこれでなくしたかもしれないのだ。

 サツキは生きることに諦めていたが、それでも、領地を守るという役目で、かろうじて、生きようとしていた。それが、今、私に否定されたことで、死を選択出来るようになったのだ。

 私ははやく、皇族の問題を解決しなければならなくなった。





 私はすぐ、あの魔法使いたちが愛してやまない茶の販売を休止した。そして、私の醜聞を新聞に書かせた。


 皇族からの愛の告白を受けるも、私は幼女が好きだからとお断りをした、と。


 この醜聞を乗せた新聞は、飛ぶように売れた。社交界でも、私は幼女がいい、と認めてしまっている。だから、嘘偽りなんてないのだ。

 さらに、私はこの記事を訴えない。情報提供したことはお互い秘密にして、知らん顔で笑ってやった。

 学校に行けば、その新聞を持って、友達がもう大騒ぎだ。

「お前、ハンナ様を振ったのか!? なんて恐れ多い」

「皇族と書いてあるだけだろ。ハンナ様とは限らない」

「接点のある皇族って、ハンナ様だけだろう!!」

「こらこら、勝手に噂を広めるなよ。一歩間違えると、皇族侮辱罪だぞ」

 そこに皇族ハンナの登場である。ハンナ、新聞なんて読まないだろうから、今の状況がわかっていない。

 皆、好機の目でハンナを見ている。私がハンナを振ったという話が広がっているのだ。だが、新聞では、名指しされていない。ただ、皇族、としか書いていないのだ。

 皇族侮辱罪になるのか? そうならないために、私は両親から皇族の手紙を取り上げたのだ。皇族の印がしっかり押された手紙が証拠である。嘘は言っていない。

 ハンナはわからないまま、私の隣りに座る。

「何かあったのですか?」

 私は無言で友達が持っている新聞をハンナの机の上に置いてやる。

 ハンナは新聞の見出しを見て、新聞をつかんで立ち上がった。羞恥やら、怒りやらに震えるハンナ。私を睨むが、私は無表情で見返すだけだ。先にやったのは、お前だ。

 そして、その日の内に、私は城に呼び出された。ハンナが、この新聞を城に持ち帰って、大騒ぎとなったのだろう。

 私が呼び出された先は、なんと賢者テラス様だ。とんだ大物が出てきた。テラス様直々にお茶をいれてくれたが、それは、よくあるお茶だ。

「お気に入りの茶を切らしてしまって」

「そうですか。テラス様が愛飲している茶をぜひ、飲んでみたかったです」

 すらっとぼけてやる。テラス様は敵に回してはいけない人だ。何せ、皇帝すら顔色を伺う魔法使いである。

「新聞を見ましたよ。皇族の告白を断ったとか。本当ですか?」

 私は無言で、証拠の手紙をテラス様の前に出した。いつでも持ち歩いていた。

 テラス様は手紙を簡単に見て、私に返した。

「困ったことをしてくれる。情けをかけてやったというのに、皇権なんぞ使って、身の程知らずなことをしたな、あの小娘」

 テラス様にとって、皇族ハンナのやったことは、決して、許されないことである。

 ハンナはまだ、皇族の儀式が終わっていないので、一応、皇族の立場だ。しかし、ハンナは正式な皇族ではない。皇権は使えるのだが、その力は弱いのだ。

 しかも、テラス様はハンナが皇族失格者だと知っている。そこに、この騒ぎである。皇族を貶めるようなことをハンナと私がしたのだ。

「名前は出ていません」

 皇族失格者が皇権を使った事実を私は隠している。名前を出していないのだから、まだ、問題ではない。

 ただ、貴族の学校では、この皇族がハンナだ、と噂が流れている。新聞社には、名前を出してはいけない、ときつく注意しているから、そこで出ることはない。しかし、人の口からは伝わっていくだろう。

「どうしてほしいですか?」

 だから、私から皇族失格者でない者から告白を受けたことにしてほしいのだ。その交換条件を賢者テラス様は私にきいてきた。

「ハンナを皇族にしてやればいいではないですか」

「こんなことをやらかすような女、皇族にはいりません」

 ハンナは皇族失格者だから、テラス様はさっさと切り捨てる。

「処刑してください。皇族の役割を忘れた女として」

「いいでしょう」

 勘違い女を始末してくれることとなった。

「それで、いつ、あの茶葉は販売再開になるのかな?」

「持ってきました」

 私は賢者テラス様にお土産として、販売休止した茶葉を渡した。

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