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皇族姫  作者: 春香秋灯
賢者の皇族姫-男爵令嬢と悪女-
140/353

魔法使いの養女

 十年に一度の舞踏会には、わたくしも参加となりました。ほら、片親は貧民だけど、片親は貴族ですから。そう、届け出も出されています。だから、わたくしは男爵家の一員として参加です。参加といっても、いつも通り、お古ですよ。

 男爵家、とうとう、わたくしの食事まで絞めてきました。サツキ様が伯爵家で酷い扱いを受けている事実を知って、じゃあ、わたくしも酷くていいよね、となったわけです。

 サツキ様は数年もの間、耐え忍んできました。本当に苦行でしょうね。わたくしはというと、一年未満ですので、知らん顔して、ハサンから施しを受けました。もう、成長それなりにしたので、ハサンから食べ物貰っても、見た目ではわからないでしょうね。

 でも、ちょっと痩せました。二日に一回はハサンからの施しをなくしたからです。お陰で、舞踏会の服は大きかったですね。誰かの御下がりで、古い様式なので、見るからに、訳あり令嬢です。誰も声なんかかけてきませんよ。

 サツキ様はというと、曰くありの服で参加です。血族やら、亡くなった伯爵カサンドラ様の友人知人に挨拶周りです。わたくしはあえて、男爵家から離れました。顔をあわせると、顔に出てしまいますから。

 そして、サツキ様が壁の華となった時を狙って、わたくしは近づいていったのです。でも、その前にサツキ様の義妹クラリッサが、サツキ様の服を汚しました。あの女、なんてことするんですか!? あの服は、亡くなった伯爵カサンドラ様の形見だってのに。それを謝罪もしないで、責めるクラリッサと、サツキ様の婚約者エクルド。本当に、伯爵家はどうなってるんだか。サツキ様の婚約者が、義妹と対になる服着てるって、おかしいでしょ!?

 どうにかサツキ様がそこから離れるのを待っていると、そこに、賢者テラス様がやってきて、謝罪もせず、サツキ様を責めるエクルド様を痛い目にあわせていました。しかも、皇帝ラインハルト様まで登場して、サツキ様を助けてくれました。それを見て、わたくしは神がいるんだな、なんて思ってしまいました。

 ただ、その後、サツキ様は賢者テラス様とどこかに行ってしまったのは気になります。賢者がまさか、無体なことをするとは思いませんが。



 十年に一度の舞踏会は、少し、予想外のことが起こったが、それだけだった。わたくしはいつもの日常に戻るはずでした。

 いつものように、あの隠された邸宅に行けば、ハサンが先に来ていた。

「どうかしましたか?」

「計画が崩れた」

「もう、サツキ様、復讐をやめるとか?」

「それはない。ただ、私と君は、サツキ様に接触出来なくなった」

「まさか、サツキ様、どこかに閉じ込められたのですか!?」

「魔法使いである私がいるんだ。そんなこと、問題はない。サツキ様は皇族だ」

「………そうなのですか!?」

 確かに、皇族となってしまっては、迂闊に接触なんて出来ない。皇族は、城の奥深くに隠される存在だ。

「でも、サツキ様が皇族だとわかれば、もう、あのどうしようもない家族も、血族も、処刑ですね」

 皇族となったサツキ様が言えば、もう、誰も無事ではいられないのだ。

 だけど、ハサンはとても深刻な顔をしていた。そんな簡単な話ではなかったのだ。

「サツキ様は、皇族であることを隠して、復讐を続けると言っていました」

「では、その通りにするしかありませんね。わたくしに出来ることは言ってください。やります」

 わたくしもそれなりに知識を身に着けていた。社交はちょっと自信はないが、貴族の学校は、それが全てではない。きっと、わたくしは役に立つはずだ。

「いえ、出来ません。賢者テラス様が、サツキ様につきました。サツキ様は、私とあなたの存在を隠し通して、賢者テラス様を利用する気です」

「そんな、わたくしたちを隠すって、どうして!?」

 一緒にやればいい。賢者テラス様が協力してくれるなら、大きな力だ。わたくしはわからないけど、帝国で二番目の権力者だ。サツキ様の復讐は簡単だ。

「賢者テラス様は、サツキ様に一目惚れした。ああなると、妖精憑きは囲うんだ。逆に、私とササラは危ない。嫉妬で、何をされるかわからない」

「え、意味、わからない」

「力の強い妖精憑きは、執着も強い。独占欲はとんでもないんだ。一度、執着されると、囲うんだ。部屋に閉じ込め、大事にする。復讐どころではなくなる」

「それのほうが、サツキ様にはいいではないですか。復讐、やめたほうがいいです」

 サツキ様はこれで幸せになれるだろう、そう思った。

「道具作りの一族を甘く見てはいけない。いくら賢者でも、道具作りの一族を相手にするのは、それなりの知識と準備が必要だ。テラス様はサツキ様を早速、囲おうとして、失敗したんだ。サツキ様は筆頭魔法使いの屋敷から簡単に抜け出してしまった」

「それは、歩いて行けば」

「筆頭魔法使いの屋敷は、この邸宅と同じ魔法具だ!! 使用者は賢者となっている。閉じ込めようとすれば、賢者の意思一つで簡単に出来る。だけど、サツキ様は道具一つで屋敷から脱出してしまったんだ。こうなると、テラス様の執着は強くなる。もう、狩りだ。私が側にいると知られたら、私の命がない。間違いなく、私はテラス様に殺される」

 思ってもいない方向へと話は進んでしまっていた。

「賢者って、その、ものすごく、優しい感じでしたが」

「女に興味がないだけだ。帝国のため、皇帝のためならば、後ろ暗いことだって平気でする人だ。そんな人がサツキ様に執着したんだ。もう、私とササラはサツキ様に接してはいけない。いや、学校に行けば、ササラは接触できるだろう。君は連絡役となってくれ」

「わかりました」

 やっと、わたくしは役に立てる。それが嬉しくなった。

 この後は、わたくしは貴族の学校の試験を受けるだけだ。そのためには、あのどうしようもない男爵家族の説得である。

 ところが、その日、ハサンはわたくしと一緒に男爵家に行ったのだ。

「何しに来た。もう、兄弟でも何でもないと言ってただろう!!」

 魔法使いハサンの突然の訪問に、男爵は激怒した。最後はもう、ハサンは男爵を蔑んでいたのだ。男爵はハサンに怒りしかない。

 わたくしがハサンと一緒にいるのを目にして、男爵夫人は気持ちの悪い笑顔を浮かべる。

「親子そろって、男を誑かすのは上手ね」

 そういうふうに見られたのか。だけど、気にしない。それよりも、ハサンの意図がわからない。

 ハサンは、男爵と男爵夫人を前にして、わたくしの腕をつかんだまま立っていた。

「今から、ササラは私の養女になる」

「何を言ってるんだ!?」

「養女なんて、何を考えているのよ!!」

「黙れ。魔法使いが養女にする、と言ったら、拒否してはいけない。それは、絶対だ」

 何が起こっているのか、わからない。ハサンはわたくしを養女にするという。

「まだ、親の保護下にいる娘だぞ」

「舞踏会は通過した。彼女は皇族でないことが証明された。皇族でない人を気に入った魔法使いは、囲っていいんだ。ササラは、今から私が囲う。帝国に訴えてもらってもいい。帝国は魔法使いの味方だ」

 意味がわからない。だけど、さっき、賢者テラス様の話で、なんとなく、理解はした。

 賢者テラス様はとても力の強い妖精憑きだという。逆にいうと、執着が強いのだ。サツキ様を気に入ったテラス様は、どうにかして囲いたいと考える。

 帝国最強と言われる妖精憑きのテラス様が欲しがっているのだ。皇帝は、サツキ様を差し出すだろう。サツキ様の家族が何か言ったって、無視だ。だって、テラス様のほうが大事なのだ。テラス様によって、帝国は安寧を保っているようなものだ。

 同じようなことをハサンはしているのだ。たぶん、帝国では、魔法使いが強く執着した場合、それを認めているのだ。

 ハサンは決して、わたくしに強い執着を持っていない。ただ、この方法を悪用したのだ。

 だけど、男爵はハサンのことを嫌っている。

「ただで連れていくのか? これまでの養育費を払ってもらおう」

 残飯や、着古したボロボロの服を与えただけのくせに!! わたくしは怒りに震える。

 この騒ぎで、どんどんと家族が増えていく。わたくしのことを下僕扱いしていたマツキなんて、汚らわしい、みたいに見てくる。

「金をとるのか? 妖精金貨になって、妖精の復讐を受けたいのなら、払ってやる。いくらだ?」

「なんだ、それ!? そんなの、盗られ損じゃないか!!」

「そうだ。だけど、妖精憑きに逆らってはいけない。欲しいと言われたら、渡すしかないんだ。そう、帝国では決まっている。金銭の要求は許されない。だいたい、子を育てるのは当然だろう。それは親としての義務だ。それなのに、金を要求するとは、それこそ恥ずかしい話だな」

「子どもを持ったことがないお前に、子育ての何がわかるんだ!?」

「お前、赤ん坊の妖精憑きが勝手に育つと思っているのか? 帝国に差し出された妖精憑きの赤ん坊を育てるのは妖精憑きだ。私だって養育している。赤ん坊だってあやしたし、食事だってあたえた。しつけもそうだ。お互い、やるんだ。お前はどうなんだ? 女と使用人に全部、まかせていたんだろう。子育てなんてこれっぽっちもしたことがないだろう」

「っ!?」

 図星だ。男爵は、ただ、口うるさく言っているだけで、何もしていない。家では偉そうにふんぞり返っているだけだ。

「行くぞ」

「待ちなさいよ!! その子は、わたくしの使用人なんだから」

 空気をこれっぽっちも読めないマツキがわたくしの腕をつかんだ。おもいっきりつかむので、痛い目にあう。

「ほら、こっちに来なさい。あんたはずっと、わたくしの使用人よ!!」

「離して!!」

「わたくしには、公爵夫人アーネット様がついているのよ」

「そうだ、公爵夫人が、我々の味方だ!!」

 舞踏会で気に入られたような話があった。マツキは公爵夫人アーネットに声をかけられ、色々と言われていた。聞いていて、笑うしかない。公爵夫人アーネットは、マツキを使って、伯爵家を揺さぶるつもりだ。

 公爵夫人の企み、わたくしでもわかるというのに、才女と持てはやされたマツキは気づかない。それどころか、男爵家は誰もわかっていない。

 どうやっても離れないマツキの手。だけど、ハサンがちょっと目を向けるだけで、マツキの手は離れた。それだけでなく、マツキは吹っ飛んだ。

「魔法使いを相手に、ただの人が勝てるわけがないだろう。公爵夫人がどうした。私は賢者テラス様の側近だぞ。公爵夫人程度がテラス様に勝てるわけがないだろう。私がテラス様に一言、お願いすれば簡単だ。今のあの方なら、喜んで、私の味方をしてくれる」

 暗い笑みを浮かべるハサン。ちょっと、演技が真に迫り過ぎですよ。怖い。

 目の前で見えない力を発揮されて、男爵家は尻込みする。魔法使いって、そんなに身近な存在でない。だから、どこまで出来るかわからないのだ。

 ハサンの力の片鱗を見たのは、葬儀の時だ。亡き伯爵カサンドラ様の亡骸をハサンは一瞬で消し炭にしたのだ。たったそれだけだが、十分に恐怖を抱かせた。

 ハサンが本気になれば、男爵家なんて簡単に消し炭だ。これまで、そうしなかったのは、必要がなかったのだ。

 吹き飛ばされたマツキは端で震えている。怖いけど、でも、わたくしに対しては怒りしかない。わたくしのせいで、痛い目に、怖い目にあった、と睨んでいる。

「どこにでもいいから、訴えろ。さあ、行くぞ」

「う、うん」

 わたくしは引っ張られるままに、男爵家を離れた。

 こんなに突然、男爵家を離れることになるとは、思ってもいなかった。荷物とか、どうしよう、なんて考えたけど、大したものがないことに気づいた。

 今、着ている服だって、ボロボロだ。わたくしも、サツキ様のことは言えない。あまりいい身なりでないのだ。

 そのまま、ハサンはあの隠された邸宅に引っ張って行く。そこには、誰も来ない。ここで暮らすのかな? なんて考えて入っていく。

 ハサンは、適当な部屋に入り、適当な椅子に座って、重いため息をついた。

「やってしまった」

「やはり、困りますよね。いいですよ、ここで暮らせばいいですから。サツキ様みたいに、自給自足します」

 わたくしもサツキ様を見習おう、そう考えた。

「いや、きちんと養女として引き取ろう。ただ、暮らす家の準備とか、何もしていない。ああ言ったが、必要なものが何かわからないんだ。ほら、魔法使いは子育ては流れ作業だ。決まっている。だけど、君は一応、貴族令嬢だ」

「貴族のままなの!?」

「当然だ。魔法使いが囲うといったって、相手の身分はそのままだ。そうしないと、生活水準が狂うじゃないか。君は貴族令嬢だ。いずれ、それなりの家に嫁ぐこととなるだろう。私の養女だ。欲しがる貴族はたくさんいる」

「あの、どうして、こんなことになったんですか?」

「君を養女にすることは、計画通りだ。このままでいくと、君が貴族の学校に通えない。だから、君は私の養女にして、学校に通わせることは、サツキ様と話し合って決めていた」

「聞いてない!!」

「サツキ様から言ってもらうつもりだったんだ。もしかしたら、君は拒否するかもしれないから、説得してもらう話になっていた」

「どうして、今なんですか」

「舞踏会で、皇族でないとわかったからだ。私が養女にするには、まず、皇族でないと証明されないといけない。君は、皇族でなかった。だから、今、養女に出来る」

 そんなこと、言っていた。

 ハサンとサツキ様は、ずっと、わたくしをハサンの養女にする計画をたてていた。だけど、皇族である可能性があるため、ハサンは養女に迎え入れない。それほど、皇族とは扱いが難しい存在なのだ。だけど、十年に一度の舞踏会で、わたくしは皇族ではないと証明された。そうなったら、ハサンはわたくしを養女に迎えられるのだ。

「色々と準備してからの予定だったが、サツキ様に接触できなくなった。そして、私は今、一番、危ない立場だ。だから、君を養女にして、予防線をひかないといけないんだ」

「??」

「万が一、テラス様に私とサツキ様の関係を知られた時、私の命はない。そうならないために、別に執着があると示しておけば、テラス様も安心する」

「これって、そういうふり?」

「そうだ!! 心配ない。私は君のことは可愛い姪だと思っている。これで十分だ。君は大人しく、私の元で囲われて、学校に通って、適当な貴族と結婚すればいい」

 わたくしのためじゃない。ハサンが死にたくないからだ!!

 だけど、ハサンの恐怖をわたくしは理解出来ない。そんな、殺される、なんて大袈裟な、とか言いたい。だけど、ハサン、想像したのか、もう顔真っ青なの。そんなにすごいの!?

「とりあえず、家はここでいいのではないですか?」

「そういうわけにはいかない。君が貴族の学校に通うんだ。それなりの家を準備しよう。あと、馬車も必要だ」

「徒歩でいいですよ。近い所で家を借りればいいんです」

「危ないだろう!!」

 ふり、ですよね? 妙に心配するハサン。

 ハサン、頭を冷やそうと、魔法で水を出して、本当に頭にかけるの。

「何やってるんですか!?」

「君に随分と接しすぎた。妖精憑きの悪い所が出てきた。たぶん、私は君のことを姪や娘のように可愛く思っている。これでは、テラス様のことが言えない」

「わたくしだって、ハサンのこと、兄や父、伯父と見ていますよ」

 数年、わたくしはハサンと一緒にいた。恋人にするには、血の繋がりがあるので、そういう気持ちを持つことはなかった。だけど、ハサンのことは、兄、父、伯父と見ていた。甘えていい家族だと思っていたのだ。

 だから、わたくしは濡れるのもかまわず、ハサンに正面から抱きついた。

「わたくしの義父になってくれて、嬉しいです」

「………ああ、私も嬉しい」

 ハサンは少しためらったけど、わたくしを抱きしめ返してくれた。





 ハサンはすぐに邸宅を購入し、貴族として最低限必要なものを揃えつつ、わたくしを連れて、何故か城に行くのだ。

 一応、ハサンはわたくしの服も新調してくれた。なんと、ハサンの手作りです。驚きです。ハサン、服まで作れてしまうのですね。あ、でも、サツキ様に裁縫教える云々、話していたことありましたね。

 ハサンは、妖精憑きらしく、わたくしの身に着けるもの全てをハサンが手作りした。だからだろう、何か妙な気分になる。

 ハサンに連れて行かれるままに行った先には、舞踏会で見た賢者テラス様がいた。そこは、賢者テラス様の執務室でした。

「しばらく、休みをいただき、ありがとうございました」

 ハサンは跪き、深く頭を下げた。わたくしもそうしようとしたら、賢者テラス様が手でそれを制した。

「あなたはやらなくていい。あなたは、ハサンの大事な人です。こういうことは、妖精憑きなりの礼儀です」

 どうも、わたくしは魔法使いに頭を下げるようなことをしてはいけないらしい。

 そのまま、テラス様はわたくしとハサンを椅子に座るように指示する。だけど、ハサンは座らなかった。わたくしの後ろに立った。それを見て、テラス様は嬉しそうに笑った。

「そこまで大事でしたら、仕方がありませんね。何かありましたら、力になりましょう」

「ありがとうございます」

「確か、姪だと聞きましたが、何故、わざわざ養女にしたのですか?」

「私の血筋だけの弟家族が、彼女に随分と無体なことをしていました。本当は、すぐに引き取りたかったのですが、貴族の血筋の上、皇族かどうかわかりませんでしたので、舞踏会まで待った次第です」

「私の元に連れて来てくれれば、見てあげましたよ」

「時間をかけることを楽しみました」

「そうですか」

 テラス様は、ハサンと話しつつも、わたくしを観察していた。わたくしは、緊張で喉がからからになった。会話を聞いているけど、世間話にしては、変な会話だ。妖精憑きだから、人とは話す言葉もおかしい。

「早速ですが、訴えがきましたよ。可愛い娘を魔法使いハサンが誘拐した、と」

「返しませんよ」

「そこまで囲っておいて、返せなんて、魔法使いであれば、誰も言いませんよ。確認が取れましたので、訴えを却下します」

「ありがとうございます」

「それにしても、偶然ですか?」

「何がですか?」

「私のサツキの血族ですよね、その子」

 訴えが来たのだ、賢者テラス様は調べる。そして、訴えた男爵がサツキ様の血族であることはわかるだろう。

 テラス様がサツキ様に一目惚れしてすぐ、ハサンがわたくしを養女にしたのだ。何かある、と普通は勘ぐる。

「本当に偶然です。ササラの扱いがあまりにも目に余るため、一度は注意しましたが、酷くなるだけでした。仕方がありませんので、長年、隠れて彼女を守っていました」

「そうなのですか。そこまでは調べきれていませんでしたね。わかりました。帰っていいですよ」

「失礼します」

 やっと、わたくしとハサンはテラス様から解放された。そのままハサンはわたくしを連れて邸宅に戻ると、一気に脱力した。

「死ぬかと思った」

「大丈夫ですか? いっそのこと、全て話して、協力したほうがいいと思いますが」

 テラス様を味方につけたのだから、むしろ、協力者がいることを教えたほうがいいような気がした。

「妖精憑きを人の物差しで見てはいけない。どういう行動に出るか読めない。あの皇帝ラインハルト様でさえ、今のテラス様を扱いかねています」

「それは、誰だってそうでしょう」

「皇帝は筆頭魔法使いのご機嫌とりが上手でないといけません。皇帝ラインハルト様は、かなりの女問題を起こしながらも、テラス様に見捨てられないのは、ご機嫌取りが上手だからですよ。その皇帝ですら、今、テラス様のご機嫌とりを失敗しています」

「見たのですか?」

「側近だから、見ることもありますよ」

 見たんだ!! それは、ハサンも焦るわけです。内心は、物凄く生きた心地しなかったのでしょうね。

 ですが、テラス様がわたくしを見る目は優しかったですけどね。

 わたくしはハサンのお陰で、とても良い待遇で過ごしています。だけど、サツキ様はテラス様の想い人だというのに、今だにあの酷い家族の元にいます。

 わたくしだけ、幸福なのが許せない。これは、サツキ様のお陰で得られたものだ。だから、わたくしはサツキ様に出来ることを考えた。

 今、わたくしが出来ること、それは、あの才女と威張り散らしている男爵令嬢マツキよりも優秀であることを見せつけることです。そのためには、もっと、勉強しなければなりませんね。

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