表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
皇族姫  作者: 春香秋灯
賢者の皇族姫-公爵夫人と悪女-
131/353

舞踏会

 とうとう、十年に一度行われる舞踏会である。城に、帝国中の貴族が集まるのだ。これは、絶対参加である。来る人は、多くても少なくてもいけない。招待状に偽造は出来ない。魔法使いにより、魔法がかけられているため、不正が不可能なのだ。

 この魔法は大きくわけて、三つの不正を出来なくする。

 まず一つは招待状の偽造である。これを複製したり、ということは出来ない。複雑な魔法が施されているため、妖精憑きでも不可能だという。

 二つ目は、持ち主の不正である。この招待状は、当主の手渡しでないといけないのだ。万が一、盗まれた場合の対策である。

 三つ目は、招待した人数である。これ、きちんと揃っていないといけないのだ。多くても、少なくてもいけない。しかも、別の人を連れてきて、人数合わせもしてはいけないのだ。

 ここまでされているのだ。もう、絶対に不正なんて出来ない。しかも、この舞踏会は絶対参加が義務だ。病気とか大怪我で参加出来ないことを除けば、招待された貴族は参加しなければ、処刑される。それほど、重大な舞踏会なのだ。

 私は、サツキが来るのを待った。もう、気になって仕方がなかった。母アーネットのせいで、縁は切れたようなものだ。だが、どうにか結びなおしたかった。まだ、私はサツキに未練を残していた。初恋は、なかなか諦めきれないものだ。

 そうして、こっそりと外の様子を伺っていると、大騒ぎが起きていた。聞いた話だと、絶対に誰かはやらかすのだ。一体、誰か、と見てみれば、サツキの家族だ!? しかも、サツキがいない。えー、人数足りない状態では会場に入れないって、貴族の学校で教えてもらっているだろう!?

 立派な、貴族の学校を卒業した大人が二人もいるというのに、くってかかっていた。それを物陰で見ていたのか、賢者テラス様が来て、逆鱗に触れた。あ、もう、あの家族に関わってはいけないような気がする。私の身が危ない。

 私はさっさとその場を退散した。大丈夫、サツキは挨拶に来ると言っていた。その時にうまく話せばいい。

 そうして、私は母の側についた。もう、母の周りはすっかり賑やかな令嬢でいっぱいだ。

「レイウス、彼女、男爵令嬢のマツキさんよ」

 珍しく、私に女性を紹介してくる母。しかし、男爵令嬢か。爵位的に、低いよね、その子。

 まだまだ、場馴れしていない男爵令嬢マツキは、かちこちになって、頭を下げてきた。

「あ、あの、伯爵家の分家に当たります。男爵家マツキと言います。その、クラリッサ嬢とは、同い年で、今度、同じ貴族の学校に通うこととなっています」

「もう、そういう時期なんだ」

 入学試験の時期だ。この時期は、生徒会も大変なんだ。入学試験の会場となるから、案内やら、何やら、やらされるの。生徒会って、雑用ばっかりだよ。

 ということは、サツキも入学か。

 だけど、男爵令嬢マツキは、なかなか言い回しが良くなかった。伯爵家の分家で、あのクラリッサと同い年、ということは、サツキの血縁なんだろう、ということは読めた。

「マツキさん、とても頭がいいのですってね」

「はい。一族の中でも、かなり出来ると言われています」

「きっと、伯爵家に万が一のことがあったら、マツキさんが跡継ぎのなるね」

 こわっ!! 母アーネットは、まだ、なにかやるつもりだ。

 お家乗っ取りを男爵令嬢マツキにやらせようとしている。血縁だから、確かに乗っ取り出来るだろう。爵位ではなく、血縁が重要なのだ。

「これから、生徒会も一緒になるでしょうね」

「よろしくお願いします!」

「そこは、試験の結果を見てからにしよう。私なんて、万年次席だよ」

「それでも、生徒会役員になれるではないですか!!」

「その時の状況によるんだ。私の時は、皇族がいるんだ。皇族は絶対に生徒会役員にならなければならない。そうなると、残るは首席だ。ただ、私の時は、公爵の生徒会長がちょうど引退になったことから、私も無理矢理入ることとなったんだ。私はね、成績ではなく、公爵だからいれられたようなものだよ」

「そんな、謙遜しなくても」

「そうよ。成績だってあったから、出来たことよ」

 マツキも母アーネットまで、私を持ち上げてくる。気持ち悪い。

 もう離れたいよ、と思うけど、我慢だ。絶対にサツキは来るんだ。この舞踏会には絶対参加する、と言っていた。

 それにしても、ご機嫌な顔をしている母アーネット。それをちょっと離れた場所で気味悪い、みたいに見ている父。酷いなー、そんな離れた所で一人、避難するなんて。私は男同士で内緒話したいので、女性陣から離れる。

「母上、なにやったんですか?」

「伯爵代理ブロンに、カサンドラの娘を置いていけばいい、なんて言ったそうだ」

「こわっ」

 だから、サツキがいなかったのか。女って、本当に怖いね。気を付けよう。

 母アーネットの企みは恐ろしい。ここで、サツキの家族ごと処刑させようとしているのだ。

「迎えを出したほうがいいですね」

「遅れてもいいんだ。本当に、何やらかしてくれるんだ、あの女は」

「父上が浮気なんかして、子ども作るから」

「あれは仕方がない。公爵の役割で、仕方なくだ」

「母上に話して聞かせてやってください」

「言ったら、もっとこじれるだろう!!」

 この男、中途半端だな。もっと考えてから行動してくれればいいのにな。

 私もそれなりに成長して、父とよく話すようになってから、男側の気持ちに偏っていた。だから、まあ、父の気持ちもわからないではない。父はなんだかんだいって、母アーネットのことは今も愛しているのだ。浮気したけどな。

 そうして、はらはらしていると、サツキはどうにか間に合ったようだ。

 見て、ぞっとした。父上を見れば、サツキの姿に息が詰まったような反応だ。何か、私と父上では反応が違うようだった。

 サツキは、さっさと家族から別れ、亡き母の友人知人たち、そして、血縁たちに挨拶していった。遠くから見ていてもわかる。もう、誰も相手にしていない。人によっては、サツキの肩を強く押したり、怒鳴ったりしていた。それでも、サツキは変わらず笑顔で会釈する。その作法は綺麗だ。

 そうして、最後に我が家にやってきた。

「ご無沙汰しております、アーネット様、お久しぶりですレイウス様、初めまして、公爵様」

 さらに磨きがかかった礼を見せるサツキ。だけど、その姿は憐れでならない。

 遠目で痩せたな、とは思った。それが近くで見ると、化粧やその空気で誤魔化してはいるが、やはり、ガリガリに痩せていた。ちょっと腕や足に目を向ければ、消えない傷が見えた。首にも、小さな傷が見られた。顔は化粧せ隠しているが、きっと、痣だってあるだろう。

「まあ、サツキさん、随分と古い服ですね」

 すっかり、公爵家の一員みたいな顔で、男爵令嬢マツキが割り込んできた。サツキはただ無言でマツキを見つめる。返事もしない。

「聞こえていないのかしら」

「随分と礼儀のなっていない娘だな。爵位はどこだ?」

「男爵令嬢です」

 父上が激怒しているので、私はすかさず父側に立つ。それを聞いた父上は、マツキを蔑むように見下ろす。

「男爵か。だから礼儀がなっていないんだな。爵位が上の者の許可なく発言をするなんて」

「わたくしが許可しています」

「聞いていない」

 父は容赦ない。母アーネットがマツキの味方をしても、それを許さない。

「部外者だ。離れてくれ」

「マツキさんは、サツキさんの血族ですよ」

「はっ!! 何が血族だ!!! 次期当主の装いを貶すような血族なんて、礼儀も何もなっていない小娘が、偉そうに、ここに立つな!! アーネットを味方につけて、公爵家の一員にでもなったつもりか? こういう女は好かん。アーネットも離れろ。こんな女を二度と、私に近づけるな」

 本気で怒った。社交での喧嘩だ。アーネットは周りが注目し出したので、慌てて、マツキを連れて離れた。

 目の前で、家族で喧嘩しているのをサツキは驚いたように見ていた。サツキが驚く姿は、年相応だ。

 父はサツキを改めて見て、軽く頭を下げた。

「初めまして、私は、カサンドラのまあ、友人だ」

「そ、そうなのですか!? 母の日記には、そのアーネット様のことはよく書かれていましたが、男性は特には」

「そうだろう。私なんて、そこら辺の知り合い程度だろう。カサンドラとは、そういう人だ。だが、私はカサンドラのことをよく覚えている。その服は、学校の卒業パーティに着ていたものだね」

「どうしてそれを」

 私も驚きだ。やはりあれか、一目惚れした相手だからか。それじゃあ、母アーネットもカサンドラのことを憎むな。

「アーネットの服と対になるように作られていた。色違いで、デザインは同じだ。アーネットが着ていた服は、私が保管している」

「そうなのですか。それは、知りませんでした」

「妻が随分なことをしていると聞いている。本当にすまない。女の嫉妬だから、と謝って済むことではないだろう」

 近くで見ればわかる。サツキは身内から、随分な扱いを受けている。本来は、味方となるべき使用人すら、サツキを蔑ろにしている。

「そう言っていただけるだけで、わたくしは救われたような気がします。たった一人でも、わたくしが着ている服に気づいて、わたくしに優しい声をかけてくださってくれるだけで、ここに来て良かったと思います。ですから、もう、わたくしには関わらないでください。手出し無用です」

「アーネットにはやめさせる。権限も奪おう。家のことも私が手を出そう。これは、立派な犯罪だ。帝国でも、いや、どこの国でも、これは絶対に許されないことだ」

「ありがとうございます。ですが、もう遅いのです。わたくしは、三回、機会を与えました。その三回を無駄にしたのは、皆さんです」

「気づかなくてすまない」

「あなたは、たった一度で気づいてくださいました。レイウス様も、アーネット様から離れたのですね。それでいいのです。わたくしは、あなたがた二人を許します」

 彼女は、私よりも年下で、まだ、学校にも通っていない。だが、誰よりも貴族だ。高位貴族よりも綺麗な身のこなしをし、綺麗な笑顔を見せ、綺麗な言葉を紡ぐ。

 孤立無援に見える。だから、私は前に出た。

「私が力になろう。もう、母の好き勝手にはさせない」

「女の戦いに男が割り込むと、大変なことになります。もう、すでに、そうなっています」

 サツキはちらりと離れたところにいる母アーネットに目を向ける。アーネット、こんな、家族に虐待の限りをつくされ、孤立無援となっているサツキに、嫉妬の目を向けていた。

 それを見て、父は心底呆れていた。

「あそこまで嫉妬に狂わなくてもいいだろう。アーネットは勝ち組だろう」

「そうですよね。本当に、何故、あそこまで母を嫌うのか、わたくしもわかりません」

 サツキも、アーネットの憎悪の理由がわからない。アーネットは、サツキに何もしなければ、社交界の支配者であり続けられたのだ。それをダメにしたのは、また、アーネット自身だ。皇帝ラインハルト様と賢者テラス様の逆鱗に触れた。カサンドラの娘であるサツキを見捨てるだけでなく、裏から妙な手を出したりしたばかりに、天罰を食らったにすぎない。

「女心というものは、男性にもわかりませんよ。同性であるわたくしや、母でさえ、アーネット様の本心がわかりませんから。母は、日記の中では、アーネット様のことを羨んでいました。好きなことをして羨ましい、と」

「あんな、どうしようもない男と結婚させられたのだからな。可哀想に」

「母は、宮仕えの文官になりたがっていました」

「そうなのか!?」

 父が知らない話だ。きっと、母アーネットも知らないかもしれない。

「日記でもそうですが、わたくしにも話していました。しかし、跡継ぎは母しかいませんでした。あの家は、ただ、伯爵の子だから、というだけで、跡継ぎになれるわけではありません。試験があります。わたくしも、その試験に通ったから、跡継ぎなだけです。ここに参加する血族たちは、誰も試験を通りませんでした。それが結果です」

 挨拶に回って会った血族たちのことを思い返し、サツキは心底呆れたように溜息をつく。

「愚かです。わたくしを排除した時こそ、本当の破滅です。血族も、領民も、領地すら、全てです。神と妖精、聖域の罰を彼らは受けるのです。跡継ぎでない者をおいても、あの領地は成り立たないのですよ」

 何か、神がかりな力が働いているのだろう。サツキは詳細を語ることはなかった。

 それから、サツキは私のエスコートで、母アーネットの元に行くこととなった。まだ、きちんとした挨拶を終わらせていない、とサツキがいうからだ。

「アーネット様、改めまして、お久しぶりです」

 サツキは綺麗な礼をとる。

 ところが、母アーネットは、父の真似事のように黙り込み、蔑むように見下ろした。

 サツキはそれを笑顔で受け止める。無言が続いた。サツキはアーネットからの返しを待っているのだ。

「まあ、礼儀はなっているようですね」

「母上、ほどほどにしてください。見ていて、見苦しい」

 これはもう、完全な虐めだ。私は口を出してしまう。

「レイウスは、マツキさんのお相手をしなさい」

「しません。もう、母上のいう通りには動かない。私は公爵家跡取りとして、父に教えを受けています。母上は私に対して、口を慎みなさい」

 産みの母といえども、跡継ぎである私よりは下だ。すでに、私は跡取りとしての仕事を父にまかせられている。

「ここまで、わたくしが手をかけて」

「公爵家です。最高の教育を受けるのは当然です。さて、あなたは帝国の淑女として、私に見本を見せていただきたい」

「ふん、帝国は弱肉強食よ。自力でどうにかしなさい、サツキさん」

 アーネットはサツキに宣言してしまう。それを受けたサツキは、少し悲し気に笑った。

「そう言われてしまうと、仕方がありませんね。では、さようなら。レイウス様、ありがとうございました」

 母アーネットには決別を、私には心の底からの礼を尽くして。サツキは去って行った。

「ふん、親子そろって、色目を使って」

「母上!?」

「あの人も、いつまでもカサンドラのことを思っていて。知っていましたか? わたくしは、カサンドラに近づくための道具だったのですよ。カサンドラが手に入らないとわかったら、わたくしと結婚して、カサンドラと縁を結んだだけです」

 父上、もう、これはダメだ。

 母アーネットは、誰かから、こういう話を囁かれたんだ。それは誰なのかわからない。ただ、その悪意ある話に、アーネットは捕らわれていた。

「レイウス様、学校の話を聞かせてください」

 空気の読めない男爵令嬢マツキが、私の腕をとってくる。私は乱暴にそれを払った。

「淑女とはあるまじき行いだな。許可なく触れるな」

「いいではないですか。これから、あなたの後輩となるのですよ。生徒会の役員になるでしょうし」

「試験も受ける前から、そんな話をするな。万が一、役員になれなかったら、彼女の恥になる」

 母はマツキの味方をするが、そこには、とんでもない裏がある。マツキはなにもわかっていない。母アーネットはマツキすらも道具として使うつもりだ。

 そうして、ちょっと諍いをしている所に、近くで、とんでもない口論が起こっていた。見れば、サツキと、彼女の婚約者エクルドと、義妹クラリッサだ。見ていて、本当に見苦しい。エクルドとクラリッサの服が対となっている。婚約者はサツキだというのに、なんて最悪なことをしてるんだ。

 サツキは母カサンドラの形見である服を汚されたことに激怒していた。それをエクルドとクラリッサは謝罪すらしない。それどころか、貶し、悪くいい、とひどいものだ。


「それ以上、口を開くな!!」


 そこに、賢者テラス様が入った。テラス様はサツキの味方だった。サツキの前に立ち、エクルドの胸倉をつかんで、軽々と持ち上げる。

 クラリッサはテラス様に歯向かう。批難までした。これはもう、処刑だな。

 皆、黙って事の成り行きを見守っていた。そこに、とうとう、皇帝ラインハルト様がやってきた。これで、クラリッサとエクルドは処刑だな。

 そう思って見守っていたら、サツキは見事な口上で、婚約者と義妹を助けた。あまりの口上と作法に、賢者テラス様の溜飲が下がったことで、ラインハルト様は許したのだ。

 皇帝ラインハルト様は何事かあると、賢者テラス様を上におく。今回も、テラス様が激怒したので、ラインハルト様が出てきたのだ。そして、テラス様が許したので、ラインハルト様も許したにすぎない。

 だけど、そこから、私は目を疑った。テラス様は宝物でも扱うようにサツキの手をとった。その目には、慈愛すらある。

 賢者テラス様は、力ある妖精憑きだ。その見た目はいい。貴族の女性は、テラス様に一目惚れする。それほどの美男子だ。妖精憑きだから、皇帝よりも年上だというが、それを思わせないほど、若作りだ。それも、妖精憑きゆえだ。

 だから、サツキに女の嫉妬が集中する。対するサツキは、偽装を解いて、戸惑っていた。少女のような顔を見せる。それは、憐れな姿が表に出てしまう。

 これまで、その空気と表情、化粧で、サツキは虐待の痕を隠し通していた。それが、テラス様に手をとられ、会場を歩くことで、全て剥がされてしまったのだ。

 酷い事をする。本当のサツキを見て、私は心底、憎悪を持った。それは、実の母アーネットに対してもだ。

 だけど、女たちは、賢者を誑かす悪女、というように、サツキを見送る。その中には、母アーネットだけでなく、男爵令嬢マツキもあった。この女、アーネットを味方につけた程度で、随分と大きくなったな。たかが男爵令嬢の分際で。

 そして、母アーネットはすぐに動き出した。サツキの父ブロンと義母カーサの元に行く。

「こんにちは」

「アーネット様、ご無沙汰しています。いつも我が家を気にかけていただきありがとうございます。家族三人、仲良く過ごしています

 ブロンは本当に最悪だ。家族は四人だろう!? サツキはもう家族ではなくなっていた。

「マツキさんから聞きましたが、今年は貴族の学校の入試なんですね」

「お久しぶりです、当主様」

 男爵令嬢マツキは、ブロンに深く頭を下げる。わざわざ当主と呼ぶところが、厭らしい。

「久しぶり、だな」

 ブロン、マツキのことを知らないんだ。そんな反応でも、マツキは笑顔である。

「クラリッサ様とは、同い年ということもあって、仲良くさせてもらっています」

「そうなのか」

「クラリッサさんも入試ですよね。あと、そう、サツキさんも」

「あの子はどうせ、落ちる。本当に頭が悪いからな」

 サツキの話題になると、すぐに悪口だ。

 マツキは、ブロンの言葉をそのまま受け止める。きっと、サツキは頭が悪い女なんだろう、と思ったのだろう。そういうところは、試験を受けないとわからないものだ。

「そうなのですか。サツキさん、貴族の学校を卒業できなければ、貴族になれませんから、跡継ぎにもなれませんのに」

 それを聞いたブロンとカーサは、何事か考えこんだ。

 貴族の学校を卒業することで、初めて貴族として一人前となる。逆に言えば、学校を卒業できなければ、貴族になれないのだ。

 こういうことをわざわざ口添えする母。当然のことだが、きっと、ブロンとカーサは失念していただろう。だから、普通にサツキに試験を受けさせただろう。

 だけど、試験すら受けさせなければ、サツキは貴族になれない。そうなったら、自動的に跡継ぎは別になるのだ。

 その事実に気づかされたブロンとカーサは気持ち悪い笑顔を見せる。

「そうですね。あの娘も、夜遊びなんぞしないで、もっと勉強させないと」

「本当に。我が家の恥になります」

 そうして、母はせっせとサツキを陥れるための種まきをしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ