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皇族姫  作者: 春香秋灯
賢者の皇族姫-公爵夫人と悪女-
129/353

社交

 ちょうど、一年経った頃、サツキは約束通り、茶会の案内を我が家にも届けてくれた。細やか、とは言ってはいたが、それは、盛大なものだった。行ってみれば、一年前のカサンドラの葬儀に参加した者たちがほとんど、呼ばれていた。

 茶会の主人であるサツキは、何故か、一年前、葬儀にやってきた魔法使いハサンを傍らに置いて、客を迎えていた。

「申し訳ございません。本来ならば、小さい茶会をご友人、知人、血縁と分けて行いたかったのですが、何度も母の話を聞くのは、わたくしも思い出して泣いてしまいます。もう、一年も経ちましたので、わたくしも母の死を悲しむのではなく、生前の母を目指すためにも、どうか、お力をお貸しください」

 一年経っても、サツキは完璧な口上と所作だった。

 しかし、その姿は貧相となっていった。

 来ている服はサイズがあっていなかった。きっと、母カサンドラが生前、サツキに作ったものだろう。一年も経てば、サイズは変わっている。それを無理に着ているはずのだが、それでもわかるほど、やせ細っていた。

 手や足に、わずかに見える傷や痣。髪だって、たぶん、自らが整えたのだろう。見るからに、いびつだった。

 それなのに、完璧な淑女を演じていた。家中での待遇などまるで気にしていない、堂々とした様だ。それを傍らに経つ魔法使いハサンは痛ましいとばかりに見ていた。

「なんだ、この菓子の少なさは!!」

 そこに、無遠慮な声をあげる子どもがいた。

 テーブルには、サツキの父ブロン、愛人だったカーサ、その子クラリッサ、そして、見知らぬ男の子がいた。苦情を言ったのは、その男の子だ。

「もう、サツキにまかせましたら、本当に貧相になりましたわね」

「無理に子どもが一人でやるからだ」

「足りない!!」

 これだけで、全て台無しにされる。

 決して、足りないわけではない。普通だ。私でも、ここまでしっかりとした茶会を子ども一人でこなしたのだと聞けば、誉めるしかない。

 それを貶す家族と見知らぬ男の子。

 それをサツキは静かに笑って受け止める。

「ご紹介が遅れました。わたくしの父と再婚し、わたくしの義母となりましたカーサです。そして、こちらは、カーサの娘クラリッサ。母違いの義妹ですわ。そして、そちらは、侯爵家次男エクルド、わたくしの婚約者です」

 声高々に紹介するサツキ。嫣然と微笑み、家族と婚約者を紹介する。

 雲泥の差だ。サツキは完璧な淑女である。それに対して、あの家族のマナーは酷い。婚約者だというエクルドは、義妹クラリッサにべったりくっついて笑いあっている。

 とんだ茶番を見せられていた。完全に、家の恥を晒しているのだ。

 サツキの家族は完璧な装いだ。しかも、クラリッサとエクルドは対となる服を着ている。むしろ、この二人が婚約者だろう、と誰もが見たほどだ。

 それに対して、貧相としか言いようがないサツキ。その傍らで、この差を見せつけられた魔法使いハサンは、怒りに震えている。

「まあ、おめでとうございます、サツキさん。家族が増えて、寂しくありませんわね」

 その場で、母アーネストはお祝いの声をあげ、拍手する。

 見方によっては、そうだ。公爵夫人であるアーネストがお祝いの声をあげるのだ、招待客は皆、その茶番に手を叩いて、お祝いの声をかける。

 アーネストは私を引っ張って、サツキの家族のテーブルに行く。

「あら、可愛らしいお嬢さんですね。どうぞ、わたくしの息子とも仲良くしてくださいね」

「これは、公爵夫人!! その節は、本当にありがとうございました!! お陰で、家族三人、無事、ここで暮らしています」

「そうですね」

 恐ろしい話が進んでいる。サツキの父ブロンは家族三人、と言った。

 振り返れば、茶会の主人であるサツキは一人でただ、家族のテーブルに群がる客人たちを嘲笑うように見ている。

 私はサツキの元に行きたかった。しかし、母の手はがっしりと私をつかんで離さない。見上げれば、口角を歪んだ笑みを浮かべる母アーネスト。

 アーネストは、私の密かな想いに気づいていた。だから、私の腕をつかんで離さなかった。

 無邪気に笑うサツキの義妹クラリッサ。亡きカサンドラの友人知人、血族たちは、クラリッサを可愛らしい、と褒め称えていた。誰も、サツキの元に行かない。

 これは、茶会の乗っ取りだ。サツキの茶会をサツキの家族が乗っ取ったようなものだ。それを主導したのは、母アーネストだ。

 もう、めちゃくちゃだ。完璧だと見える茶会を蔑まされるのだ。

「この茶葉は、随分と安いものを使いますのね」

 母がここぞとばかりにこけ落とす。聞いていて恥ずかしくなった。

「これだから、子どもがやることは」

「お客様に失礼ですよ」

 失敗は全てサツキだ。皆、サツキを嘲笑う。

 ところが、茶のこけ落としになって、サツキは逆に笑顔である。

「母はいつも、領民のことを考えねば、とその時その時で、平民の間で流行している茶を飲むようにしていました。子どもであるわたくしではわかりませんので、魔法使いハサン様にお願いして、用意してもらいました」

「魔法で鮮度も全て整え、庶民が飲むよりは上質な状態で整えましたが、お口にあいませんでしたか」

「そうだ、あわない!!」

 空気の読めないサツキの婚約者エクルドが叫んだ。

 途端、ざわめきが起きる。相手は魔法使いだ。魔法使いは妖精憑きである。貴族とはまず、立ち位置が違う。

「子どもでは、あわないでしょうね。賢者テラス様も愛飲しているのですが、公爵夫人も気に入らないとは」

「っ!?」

 嵌められた!?

 賢者テラス様は、最強の魔法使いだ。その地位は、皇帝の下であるが、皇族より上である。つまり、帝国で二番目に偉大な人だ。

 賢者テラス様が愛飲している茶を母アーネストは安いと貶したのだ。それは、賢者テラス様の嗜好を貶したようなものだ。

「テラス様が飲むようになってから、皇帝陛下も愛飲するようになりました。最近の茶会では、この茶がはやり始めていますが、ご存知なかったとは」

「仕方ありません。元は庶民のやっすい茶ですもの。公爵夫人がご存知なかったのですよ。母も、この茶が貴族の間で流行るなんて、思ってもいませんでしょうね」

「こちら、元はサツキ嬢が庶民に流行らせたのではないですか。驚きましたよ」

「そうでしたか? 当主の仕事は、あまりにも多いので、どれを許可したのか、もう、覚えていません。でも、やっすいお茶を流行らせる方法は、母直伝です。こんなに簡単に流行るなんて、思ってもいませんでした。お母様、本当に素晴らしい方でしたのね」

 そして、茶会はサツキの元に取り戻される。

 間違った判断をしたのだ。サツキに取り入らなければいけないのに、血族でさえ、サツキを貶してしまった。

 母アーネストは笑顔のまま、屈辱に震えた。



 サツキが流行らせたという茶は、本当に貴族間でも流行ったのだ。それはそうだ。皇帝ラインハルト様が愛飲しているのだ。味が玄人向けなのだが、それがまた、癖になったという。

 しかし、母アーネストは、この茶を決して茶会に出すことはなかった。必死になって、母は別の茶に塗り替えようとした。

 確かに、貴族間では茶は塗り替わった。しかし、この茶、魔法使いの間では愛飲され、皇帝ラインハルト様はこの茶を所望し続けた。そして、サツキは庶民感覚の値段で、その茶をずっと販売し続けたのだ。




 茶会が終われば、サツキは主人として、また、客を見送る。笑顔で、何か会話をする。茶会を乗っ取られたりしたが、サツキは完璧だった。茶会も完璧にこなされた。

 そして、葬儀の再来である。私と母アーネストは一番最後に見送られることとなった。

「一年ぶりです。わざわざ、ご足労いただき、ありがとうございます」

「庶民の茶を飲まされるとは、思ってもいませんでした」

「あら、アーネスト様は、こういうお茶をよく出した、と母の日記に書かれていましたよ」

「っ!?」

 また、カサンドラの日記だ。カサンドラ、どこまで日記をつけているのやら。恐ろしい。

「カサンドラったら、恥ずかしいところまで、日記につけているのね。一度、見てみたいわ」

「我が家の当主は、日記をつけることが義務となっています。別に、毎日でなくてもいいのですよ。くだらない話でも、ここぞという話を日記に残して、次代に読ませるのです」

「まあ、それでは、恥を残すと」

「知っていますか。皇帝も同じようなことをしているのですよ。皇帝となりましたら、日記をつけます。最初は、恥ずかしいので、ありきたりな、当たり障りのない内容です。それも、どんどんと皇帝の心得のような、ここぞという話を書いていきます。そこには恥なんてありません。そうして、ずっと、皇帝の日記は残されていて、次の皇帝は読んで、皇帝の心得を日記を通して身に着けるそうです」

「………」

「ふふふ、真似事ですよ。我が家はともかく古いのです。日記を随分と読みましたが、なんと、帝国が統合する前から存在しているのですよ。その時代では、小国ではありましたが、王族だったそうですよ。そんな古いものまで残っているのです。面白いでしょう? そういえば、公爵家の歴史は、そこまで古いわけではないのですよね。日記もきっと、読破するのも簡単でしょう」

「そ、そうね」

「さすが公爵家。皇族から貴族になった一族ですもの。皇帝のように日記を書いて、次代に公爵の心構えを伝えるのですよね。読んでみたいものですが、こういうものは、門外不出ですものね」

「そうなのよ」

「他に、お話はありませんか?」

 サツキは笑顔で母アーネストを見上げる。そこに、何か問いかけている。

 サツキを間近に見てわかる。サツキは虐待を受けている。大人の力が必要だ。帝国では、成人前の子どもは守らなければならない。成人前の子どもに何かすることは恥なのだ。

 サツキを守るように働きかける力を公爵夫人であるアーネストは持っている。行使するならば、今なのだ。

 目の前には、魔法使いハサンがいる。ハサンは明らかにサツキの味方だ。

「頑張って、お母様のような立派な当主になってね。お力になれなくて、ごねんなさい」

「そうですよね。公爵が、どこかの家門に力を傾けることなど、許されませんものね」

「そうなのよ」

「なのに、あのエクルドの婚約には、随分と力を入れてくれましたね」

「それは、家族が離れ離れは気の毒だと思ったからよ。それに、大した事ではないわ。お互い、ちょうどいい機会だったのよ」

「ふーん、そうですか」

 サツキは残念なものでも見るようにアーネストを見上げる。とても、子どもがするような表情ではない。それに、アーネストはかっと怒りで顔を赤くする。

「公爵家も、ここまで落ちたか」

 そこに、魔法使いハサンが口を挟んだ。

 これまで、ハサンはサツキだけと話していた。茶葉を貶された時は、準備したのがハサンだから口を出したが、それだけだ。茶会のことも、客人との会話も、どれも、ハサンは口をだしていない様子だった。

 それも、最後の最後になって、ハサンは公爵夫人であるアーネストを蔑むように見た。

「友人だと聞いたが、これが友人か」

「母は友人だと口でも、日記でも、語っていました。友人なのですよ。一方通行でも、友人は友人です。友人というものは、そう思った時になるものですよ」

「夢見勝ちなことを」

「そう言ってあげないと、母が可哀想ではないですか。亡くなった人は、それを知らずに死んだのです。娘である私は、この人を母の友人と言ってあげないと、母が可哀想です」

「優しいですね」

 優しい目で見つめる魔法使いハサン。ここまで引き付けるなにかをサツキは持っていた。それが、今、はっきりとした。

「次にお会いするのは、城で行われる十年に一度の舞踏会です。その時にも、ご挨拶に伺います。それまで、どうか、お元気で」

 サツキはここにやってきた客人全てに、同じことを言ったのだろう。とても言いなれていた。



 こうして、私は永遠に、サツキと決別することとなった。




 それからずっと、サツキは表に出ることはなかった。この後、伯爵家で表に出るのは、サツキの父ブロン、義母カーサ、その娘クラリッサだ。

 茶会の席に行くと、ブロンもカーサも、次期当主であるサツキのことを散々、悪く言った。

「あの子は本当に我儘で。気に入らないことがあると、熱いお茶をかけてくることがあるのよ」

「カサンドラも、随分と甘やかしたものだ」

「散財も酷い。お陰で、生活の質を落とさなければならない」

「わたくしの娘も蔑んで。いくら、わたくしが男爵出からと、可哀想に」

 お涙頂戴の安い劇だ。見る者が見れば、バカバカしい。

 何せ、当の本人であるサツキが不在だ。サツキの悪評を身内が言ったとしても、その身内が良くない。

 父親は浮気をしていた。その浮気相手とは子どもまでいるのだ。しかも、妻を亡くなって一年で、その浮気相手と再婚だ。父ブロンは、明らかに娘であるサツキには愛情なんて欠片ほども持っていない。しかも、義母カーサにとっては、憎き女の娘だ。

「そうなんですの。カサンドラも、意外と甘いところがありましたのね」

 そこに、噂の信憑性をあげる役割を果たしたのは、公爵夫人アーネストだ。わざと、ブロンとカーサがいる茶会に参加しては、彼らの嘘としか思えないサツキの悪口を真実みたいに、いい感じに言葉を付け加えたのだ。

 アーネストは亡き女伯爵の友人だ。それは、貴族間では有名だった。何せ、二人は同じ貴族の学校に通い、生徒会で会長副会長である。卒業後でも仲良くしていたのは、有名である。アーネストが公爵夫人となって、カサンドラは伯爵とは思えないほどのお祝いの席を提供したという。お金ではない、それは、真心のこもったパーティで、語り草となっていた。

 だから、アーネストが口添えすると、サツキの悪口にも、真実味が帯びてきたのだ。

「天才と呼ばれたカサンドラ様も、子育ては失敗しましたのね」

「随分と早くに亡くなられたから、子どもも助長したままなのね」

「大変ですわね、伯爵も」

 社交を始めると、サツキの父ブロンは、伯爵を名乗っていた。正確には伯爵代理だ。伯爵と呼ばれるべきはサツキである。しかし、皆、その場の空気を読んで、ブロンのことを伯爵を呼ぶようになった。

 可哀想なサツキは、屋敷から一歩も出されることなく、悪評だけは一人歩きをしていた。母カサンドラが有名なのが、仇となった。カサンドラの娘ということで、サツキの悪評は、どうしても広がっていくのだ。

 それは、皇帝ラインハルト様の耳にも届いた。

 女好きで有名な皇帝は、夜会に出ては、女を見繕っていた。それは、貴族の中では、取り立ててもらう手段の一つとしていた。見目麗しい平民や、時には金で売られた貧民を連れてきて、わざとラインハルト様に差し出すのだ。何せ、ラインハルト様に手をつけられた者は、皆、生きて戻ってこない。

 そこでも、サツキの父ブロンと義母カーサは随分とサツキを悪くいうのだ。

「カサンドラとは、随分と懐かしい名前が出てきたな」

 皇帝がこの噂に興味を示したのは、サツキの母カサンドラが原因だ。カサンドラは、貴族の学校での生徒会長時代、皇帝の女癖の悪さを毅然と注意したただ一人の女性だ。しかも、カサンドラは皇帝の誘いを断ったのだ。

「カサンドラの娘というと、やはり美人なんだろう」

「そんな、とんでもない!! クラリッサのほうがこの母に似て可愛いですよ」

 ここぞとブロンはカーサの娘を前に出す。

 皇帝ラインハルトは、ブロンとカーサをじっと見る。愛想笑いをするブロンとカーサ。

「本当に惜しい女だった。お前みたいなのと結婚なんて、本当に気の毒だったな」

「そ、そんなっ」

「そうだろう。お前は成績なんて下位の下位。それに比べて、カサンドラはあの美貌と品位に頭まであった。入学から卒業まで首位だ。彼女が生徒会役員をしている間、皇族も生徒会役員に所属していたんだが、随分と仕事が出来る貴族だと誉めていた。出来る女だから、ぜひ、宮仕えを、と誘ったんだが、伯爵家当主とならねばらなない、と固辞されてしまったよ。本当に残念だったよ」

「素晴らしい女性でしたね。見ていて、とても気持ち良い女性でした」

 珍しく、賢者テラス様まで同意する。

 これはまずいことになった、と周囲は気づく。カサンドラの娘を悪く言い過ぎたのだ。

「ですが、娘のサツキは本当に不出来で」

 空気を読めないブロンは、カサンドラの娘のほうを悪くいうのだ。

「おかしいな。お前は二人の娘の内、片方は素晴らしく、片方は不出来だという。同じ教育をしているのか? 同じ教育をしてるという前提で物事は話すものだ。しかも、お前はどう見ても、カサンドラよりも、その女のことを愛しているようだな。そうなると、子どもに平等な愛情を持てないだろう。それで、カサンドラの娘を不出来というのは、どうなんだ? きちんと、平等に、教育を施し、愛情を与え、それなりのものを与えているのか?」

「も、もちろん」

「神と妖精、聖域に誓ってか?」

「もちろん!!」

「それでは聞くが、後妻」

 飛び火は、サツキの義母カーサにいく。

「お前は後妻という立場でも、先妻の娘にもきちんと愛情持って接しているか?」

「あ、その、あの」

 即答出来ない。これは、我が子とサツキを差別している、と言ったようなものだ。

 だらだらと汗を流すカーサ。

「まだ、伯爵夫人としてのお仕事が不慣れですから、なかなか、難しいのですのよね」

 そこに割ってはいる母アーネスト。カーサは助かった、と顔を綻ばせる。

「誰もお前に聞いていない。口を開く許可を出していない」

 ところが、それもまた悪手だった。公爵夫人アーネストといえど、皇帝ラインハルト様は容赦がない。

「あの女は誰だ?」

「公爵夫人アーネストですよ。ほら、カサンドラのお友達です」

「友達!?」

 賢者テラス様がアーネストの情報を話すと、ラインハルト様は心底驚いた声をあげた。

「カサンドラの友達が、カサンドラの夫の浮気相手を助けるのか!? これが友達か!!」

 とんでもないことになっていく。とうとう、公爵家にまで飛び火したのだ。

 この場には、帝国にいる公爵家が揃っていた。公爵家は三つある。その内の一つとは仲が良くない。アーネストが声高に皇帝に貶されるのは見ていて面白いものだろう。派閥で、アーネストを嘲笑っていた。

「人の本性というものは、ここぞと出るのだな。女は怖いな、テラス」

「そう思うならば、少しは女遊びを控えてください」

「………」

 黙り込む皇帝。こうして、皇帝は賢者テラス様によって沈黙させられた。

 とんだ恥をかかされた母アーネストに誰も近づかない。サツキの父と義母にもだ。今、近づけば、皇帝と賢者から、色々と言われてしまう。

 しかし、賢者テラスは沈黙しない。

「魔法使いから聞きました。私が愛飲している茶を安い茶だと茶会で言ったとか」

「く、口があまりにも、あわなくて」

「らしいですね。あなたが開く茶会では、あの茶が出ないとか。私の愛飲する茶が出ると、あなたはすぐに不機嫌になって帰るそうですね。そこまで、私が嫌われるとは思ってもいませんでした。公爵家ですから、いい関係でいたかったのですが、残念です」

「あのお茶が苦手なだけです!? 決して、賢者テラス様のことを嫌ってというわけでは」

「上に立つ者には、義務があります。好き嫌いを言ってはいけないのです。それを言った時、それを作る者が貶されます。あながやったことは、貴族の最高峰貴婦人として、最低なことです。それもわからないとは、やはり、元は伯爵令嬢と言わざるを得ませんね」

「………」

「何故、このような場で私がいうかわかりますか? 私の弟子の魔法使いが訴えてきたからです。憐れな貴族の娘がいる、と。それなのに、大人たちは見捨て、公爵夫人まで、貴族の娘を貶す始末だと。まさか、と思って、この場に来てみれば、確かに酷いこととなっていました。あなたは公爵夫人です。本来であれば、貴族夫人の模範となり、私を捨て公を持って、世の中を見なければなりません。まあ、公爵家は、もっと違う役割がありますから、ここまでにしましょう。ラインハルト様、場を設けていただき、ありがとうございました」

「どうした、処刑しないのか?」

 とんでもないことを言い出す皇帝。それには、その場にいる全ての貴族は震えあがる。

「その娘が言っていたそうです。まだ、機会を見ている、と。魔法使いからの助けも断っているというのです。それならば、帝国が動くわけにはいきません。どちらにしても、成人前の跡取りが大怪我をしたり、亡くなった時は、帝国は動きます。その時には、全てはっきりすることです」

 これは、サツキの父と義母へと脅しだ。迂闊なことをするな、と。万が一のことがあった場合は帝国は動くぞ、と。



 しかし、サツキの父と義母は、よくわかっていなかった。その後も、サツキの悪評を事あるごとに広めていったのだ。

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