仕掛け
ハーレムの解体宣言は今日されたばかりだ。だが、ハーレムの中ではいつもの光景である。誰も、皇帝ラインハルト様の手で処刑されるなど、思ってもいない。だからといって、外にも出られないのだ。そういう魔法を施されているし、そういう契約もされている。逃げられないのだ。
女たちは、私の剣幕に驚いているが、私は無視した。違和感の元を探した。
まずは、サツキの部屋だ。その部屋は普通だ。私が管理している。だから、何も間違いは起こらない。
サツキが普段いるのは、花壇の辺りだ。私は花壇に植えられた花を見た。私は、サツキが来てから、サツキの要望にあわせて植えていた。土まで、サツキは拘ったのだ。
特に違和感はないように思われた。ただ、葉がちぎられたり、花が一部なかったりしているが、それは、サツキが面白半分にしただけだ。
私は四六時中、サツキの側にいるわけではない。私がいない時に、何かをしたのだ。サツキは私を使って、植生を揃えた。そして、必要なものを揃えた。
このハーレムは家事をする必要はない。だけど、料理くらいはしたい、という人のために、常に道具も材料も揃えていた。使用は自由だ。順番もない。使われている形跡はわからない。常に魔法で綺麗にされているのだ。わかるはずがない。
そして、私は皇帝ラインハルトが閨事をする部屋に行った。
開けた途端、わずかながら、不快感のある匂いがした。それは、人では感じられない匂いだ。妖精憑きでないと、感じられない。
部屋を見回せば、香を焚いた跡がある。そこからは、確かに、わずかだが、妖精を不快にさせる何かを感じた。
私がハーレムに戻ってきていると報告を受けたのだろう。まだ、顔に傷がのこる皇帝ラインハルト様がやってきた。そして、私が香の辺りで呆然としているのを驚いて見ていた。
「何かあったのか?」
「この香は、何ですか?」
「女たちの間で流行っているという話だ。よく眠れるそうだ。確かに、これはよく眠れた。テラス、また、買っておいてくれ」
「香は絶対にここに取り入れません」
「何?」
ラインハルト様は知らないのだ。私は香を使って何かされるのを恐れ、香だけはここに入れなかったのだ。
なのに、香がある。どうしてか?
サツキだ。サツキは、そこにある道具と材料で、特殊な香を作り上げ、さりげなく広めたのだ。こういう閉鎖した場所だから、不眠になることがある。そういう効果を取り入れ、どんどんと女たちに使わせた。
効果を微弱にしたため、体強く接触しないと、それがわからないほどの香の効果にまで落としたのだ。そのため、妖精憑きであっても、距離をとっているため、それに気づかなかった。また、簡単に水などで落ちたのだろう。
それでも、いつか、誰かは、この香に引っかかる。サツキは誰をひっかけたかったのか?
皇帝ラインハルトから、ハガルの相談を受けた、という話を私はサツキから聞いた。サツキは特別な子どもと聞いただけだ。だが、それは妖精憑きとわかっただろう。ハガルはいつか、ラインハルト様の体臭に混ざる妖精を狂わせる香に反応するとサツキは予想していた。
私たちは知識がない。ハガルがどういう反応するのか、知っているのはサツキだけだ。サツキは、あえて、ハガルに頭痛を起こさせた。
サツキは皇帝の様子を盗み見て、気づいたのだ。ハガルは、千年に一度生まれるという、人を狂わせる妖精憑きだと。それほどの妖精憑きだ。皇帝は狂う。
ハガルが一言、「頭が痛い」と言えば、皇帝は頭痛の元であるハーレムを排除するように動き出す。その時には、皇帝はすっかりハガルの虜になっていた。
そして、皇帝はどうしても困ったことがあるとサツキに相談する。別に、答えがわからないわけではない。サツキを使って、確認作業をしているだけだ。サツキ自身もそれはわかっていた。
「とんでもないな、サツキ。なんて、酷い女だ」
「テラス?」
「自殺ですよ。サツキは、あなたを利用して、自殺したんです!!」
「しかし、私が殺した」
「ええ、殺すように仕向けたんですよ。常に、その機会をサツキは狙っていたんです」
だから、ハーレムから出なかった。そして、皇帝をも操り、サツキは自殺したのだ。
「私の負けです。サツキが側にいるから、と私は油断した。その油断しているところで、香を広めたんです。私はサツキに夢中で、禁止している香が広がっているなんて気づかなかった。他の女には私は見向きもしない。近づきもしないから」
「香水だって」
「それも私が気づかなかった要因の一つですね。あの女、本当に、とんでもない悪女だ!!」
私は燃え残った香を乱暴に払い落した。
一人で死ぬと目立つ。だから、ハーレムにいる女を道連れにしての自殺だ。本当に、とんでもない壮大な自殺だ。
「ラインハルト様、女を殺すの、お手伝いしますよ」
「あ、ああ」
私はすぐに、このハーレムを解体したかった。だから、その日のうちに、ハーレムにいる全ての女を皇帝に殺させた。
悲劇の令嬢の戯曲と舞台は、もう恒例化した。必ず行われるのだ。そして、帝国中は、サツキのことを思い出すように仕向けた。
戯曲や舞台をやると、よく、泣き出したり、謝罪を叫ぶ人が続出した。聞けば、過去、サツキに無体なことをしてしまった関係者だ。過去のことを思い出し、泣いて詫びるのだ。
それを聞くと、皆、サツキのことを気の毒になり、しんみりとする。
そして、泣いていた人は、いつの間にかいなくなっていた。
泣いていた不審人物を回収して、さっさと地下牢にいれた。
「上手に、出来ました。どうか、どうか、呪いを解いてください!!」
泣いて縋る囚人。見た目は綺麗だ。だが、服に隠れたところが、妖精に呪われて、異形化していた。これは、ただの異形化ではない。かなりの苦痛を伴うのだ。
何もされてないけど、この囚人は苦痛を受けていた。それは、その異形化したところを中心にだ。
地下牢に閉じ込められて、随分と経っていた。サツキに無体なことをした者たちを私は秘密裡に集めて、地下牢に閉じこめ、どんどんと呪いをかけた。あまり悪事を働くと、私の妖精憑きとしての格は下がるはずなのだが、何故か、下がらなかった。サツキ関連だからだろう。
サツキは神が与えた私だけの皇族だ。サツキのためにすることは、絶対だ。それは、復讐であっても、神は良いこと、と判定するのだろう。
だから、苦しんでいる者たちを見ると、嬉しくなる。サツキはきっと喜んでくれている。死んだ後だけど、これが、サツキの望みだ。サツキは言っていた。生かさず殺さず、復讐したい、と。
だから、たかが芝居で媚びをうってくる奴らには腹が立ち、牢屋の中でありながら、壁に吹き飛ばした。
「お前がサツキにやったこと、忘れたことはない。気に入らないから、とサツキの腕に本をぶつけてくれたな。時には、武器で切りかかったとか。それで、騎士になりたかっただと?」
「すみませんすみませんすみませんすみません!!」
必死に謝る元婚約者エクルド。
「コクーンが言っていたな。謝り方もひどいと。最後まで、サツキを満足させられるような謝り方が出来ていなかったな」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
必死で謝るが、全然だ。ひれ伏したって、お前は一生、変わらない。
「無様だな、エクルド」
すっかり暗い顔が標準となってしまった伯爵当主となったマクルスが、エクルドの両親を引き連れてやってきた。エクルドの両親はもう、生きる屍だ。今にも倒れそうだが、倒れると、暴力を受けるので、必死でこらえている。あと少しで牢屋だ。そこに入れば、とりあえず、もう歩くことはないのだ。
私は、エクルドがいる牢屋に両親を入れてやる。
「お前のせいで!!」
「あんたたちに言われた通りにやったのに!!」
「こんなことになるなんて!?」
親子で、殴ったり、首をしめたり、と喧嘩だ。これで死なないのだから、すごいな。
「他にも、部下が連れてきています。今年も、盛況ですね」
「毎年、助かっている。収益はどうかな?」
「寄付もまあまあです。別に損でもいい。ぜひ、やらせてください」
「助かる」
私はマクルスに全て話した。サツキと私の関係を知った時、とても驚いていた。そして、マクルス自ら、協力を名乗り上げてきた。それからずっと、この関係だ。
私はあえて、マクルスに、サツキの過去を聞かない。マクルスは私の知らない、サツキとアルロの過去を知っていた。それを話そうとしたのだ。だが、私は断った。聞きたくなかった。
毎年、私が集めたサツキに無体なことをした囚人どもに、たった一日だけ、自由を与えてやっている。目印がついているので、逃亡は不可能だ。そして、悲劇の令嬢の戯曲や舞台の近くで、懺悔させるのだ。そうして、サツキの悲劇を再認識させた。
そういうバカバカしいことを帝国各地でやらせている。完全な自己満足だ。こんなことをしていても、皇帝は何も言わない。言わせない。あの男のことは、最後まで、私は許さない。
そうして、囚人が戻ってくるのを眺めていると、マクルスは妖精憑きであれば嫌うタバコを吸う。
「あ、すみません」
「私にも一本、くれ」
「きついですよ。これ、毒ですから」
「吸いたい」
「どうぞ」
貴重な物だろうに、マクルスは一本、分けてくれた。
吸ってみてわかる。確かに、これはきついものだ。これをマクルスは体を壊すとわかっていながら吸い続けているのだ。そうして、妖精憑きですら殺せる体を作った。
今、隣りにる男は、帝国の魔法使いを殺せる。魔法が効かない、妖精は避ける、そして、その腕前は騎士団並だという。だが、私には意味がない。私ほどの妖精憑きでは、マクルスはどうにか出来るのだ。
「これで、恒例行事も終了だ。君はこれからどうするんだ?」
タバコを吸い終わる頃に、囚人たちは全て収容された。
「この後、妖精憑きの処分ですよ」
「私の前でいうことか!?」
「今更、隠すことではないでしょう。手がつけられないので、私自身が行くのですよ。魔法使いになるほどの力がないくせに、我が強すぎて、随分とけが人を出してくれました。人数も多くなったので、見せしめのために処分です」
「君も怖いことをいうな」
「テラス様はいつも、優しい顔をしていますね。私はそういう顔は出来ませんでしたよ。すっかり、怖い主人です。羨ましい」
「魔法使いの前では、恐れられているよ。今は外用だ」
「羨ましい。私は外用もこれだ」
「私は長く生きたからね。それに、この顔をサツキは好いてくれていた」
「………」
「では、また来年」
サツキの話題はしんみりするので、私は切り上げた。マクルスは、部下を連れて、魔法使いの案内で、外に出ていった。
地下牢では阿鼻叫喚が続いている。もう聞きなれたな。そんなものを聞き流しながら、私は地下から上に上がっていった。
「ハガル、どうした?」
何故か筆頭魔法使いの屋敷にハガルがいた。
「報告がありましたが、誰もいなくて」
「ああ、すまない。今日は、その必要がない、と伝えるのを忘れていた」
「そうなのですか」
すっかり成長したハガルは、秘密の部屋が気になるようで、じっと見ていた。
「私が死ぬか、ハガルが必要となった時には、地下牢ごと、ハガルのものだ」
「誰がいるのですか?」
使用中なのがわかるので、気になったのだ。子どもだから、どうしても、中が気になるのだろう。
仕方なく、私は秘密の部屋にハガルを入れてやった。
筆頭魔法使いの屋敷の管理者の許可がないと、絶対に入れない部屋だ。筆頭魔法使いが執着を強く持つ人をここに閉じ込めるために作られた。ここに入ったら、出る意思まで塗り替えられ、筆頭魔法使いの思うままの人となってしまう。
入っても、誰もいないことにハガルは気づいた。そう、ここには、生きた人はいない。
窓辺に、骨壺が一つ置かれていた。他にもベッド、浴室と、部屋のあちこちに、骨壺が置かれていた。
「どうして、骨壺を置いたのですか? 生きている人を入れればいいのに」
「死んでから囲ったんだ。生きているうちには、囲えなかった」
「そんな、生きているうちに囲えばいいのに」
「簡単にはいかない女だったんだ。ともかく、頭がいい。そして、人を弄ぶ。最後は自らの死をも操った」
「綺麗でしたか?」
「綺麗だったよ。私が精魂こめて育てている最中、逃げられたんだ。そして、見つかった時には、もう他人の物になっていた」
「テラスのものではない? そういうことがあるのですか!?」
まだまだ子どもだ。欲しいものは絶対に手に入るとハガルは思い込んでいる。
「ハガル、覚えておきなさい。簡単に手に入らないから、ここに閉じ込めるんだ」
「私だったら、手に入れられます」
「その時になればわかる。さあ、出ていってくれ。ここは、私の大事な場所だ」
「はーい」
大したものがないとわかって、ハガルはつまらなそうな顔をする。
出る時、ふと、机に鍵が無造作に置かれているのが、ハガルの興味をひいた。
「テラス、これはどこの鍵ですか?」
「それは、邸宅型魔法具の鍵だ。ハガルが筆頭魔法使いとなったら、その場所を教えてやろう」
「ラインハルト様はご存知ですか?」
勘がいい子だ。この鍵自体、何かあるとハガルは気づいた。
「報告していない」
「いいのですか!? ラインハルト様に報告しなかったら、テラス、怒るじゃないですか」
「私はいいんだよ。あの男は、たった一度、私への確認を怠った。だから、私は報告しない」
皇帝は、サツキに操られるままに、サツキを殺したのだ。ハーレム解体の話を持ち帰り、私に相談していれば、サツキはこの部屋に閉じ込めていただろう。あれは、たった一度の皇帝の失敗だ。
「テラスが怒るなんて、相当なことなんですね。私も気を付けよう」
私よりも強い妖精憑きだってのに、ハガルは情というもので、すっかり私には勝てない妖精憑きとなってしまっている。筆頭魔法使いとなる前からだと、皇帝にも逆らえないほどの情に縛られている。
部屋を出ると、誰かを待っていたのか、皇帝ラインハルト様が通路でうろうろとしていた。
「あ、ラインハルト様」
ハガルは嬉しそうな顔を一瞬だけするも、すぐに不貞腐れた顔になる。随分とこじらせているな。反抗期だ。
「ハガル!!」
対する皇帝は、私もいるというのに、ハガルしか見えていない。すっかり、ハガルに夢中だ。
仕方がない。普段外では偽装しているが、それを外せば、誰もが魅了する美貌である。しかも、ハガルは幼い頃は皇帝に全幅の信頼を寄せていた。皇帝は絶対だったのだ。
今は反抗期だが、それでも、皇帝に呼ばれると、ふらふらと行ってしまう。
「て、テラス、いたんだ」
ハガルを抱きしめてから、やっと、私の存在に気づいた。いいですけどね。皇帝の仕事をしっかりしていれば、文句いいません。
今日は、年に一度、帝国中で悲劇の令嬢の戯曲や舞台が行われる日だ。たった一度である。この日のために、帝国は予算を組むのだ。
お家乗っ取りをされた悲劇の令嬢は、戯曲や舞台では、最後、騎士と幸せにはなった。しかし、実際は、家を追い出され、死体となって見つかったのだ。その死も殺人とされているが、犯人は未だに捕まっていない。
悲劇の令嬢によって、帝国全土は大変なこととなった。色々と表沙汰になり、隣人が信じられなくなるようなことを知ることとなったのだ。随分とたくさんの貴族が落ちぶれたものだ。そして、悲劇の令嬢が受け継ぐべき領地は、真の支配者がいないまま、血族による分割統治が続いているが、もう、不毛地帯となっているという。
悲劇の令嬢のことは教訓だ。同じようなことを起こさないように、と帝国全土に知らしめたのだ。
「無事、終わったんだな」
「お陰様で、今年も無事、終わりましたよ。皇帝陛下は、ハガルでも連れて行くのですか?」
「行きません!!」
ハガルは無駄に皇帝の腕の中で抵抗している。力では絶対に勝てないってのに、無駄なことを。それをわかっているのに、ハガルは皇帝に呼ばれると、反射で近づいてしまうのだ。もう、諦めて、認めてしまえばいいのにな。
顔を真っ赤にして膨れるハガルを皇帝は愛おしいとばかり見ている。抱きしめる時も、ハガルが痛かったり苦しかったりしないように優しくだ。
それも、私と目があうと、皇帝は気まずいみたいに顔から表情を消す。
「ハガル、たまには素直になりなさい。私からの忠告です。それでは皇帝陛下、私は休ませていただきます」
「い、いいのか?」
今日、皇帝はハガルと何かやりたいのだ。皇帝の儀式ではない何かだろう。もしくは、普通に皇帝の私室で閨事かもしれない。
私は皇帝を一瞥する。
「構いませんよ。皇帝としてのお仕事はしっかりされています。それさえしていれば、私には文句なんてありません」
「しかし」
「ほら、ハガル、さっさと皇帝を連れて行きなさい。邪魔です」
「は、はい」
私が命じてやれば、ハガルは抵抗せず、皇帝の腕をとって、筆頭魔法使いの屋敷を出ていった。
やっと静かになった。私は赤ワインを持って、あの秘密の部屋に行く。今日は特別な日だ。
今日は、サツキが皇帝に殺された日だ。そんなこと誰も知らない。サツキが表向きに亡くなったのは別の日だ。毎年、同じ日にやっても疑問に思われないように、貴族の監視機関を設立してやった。これで文句をいう奴はいまい。
秘密の部屋に行き、私は骨壺を引き寄せる。
「最後までやっておけばよかったな」
サツキは待っていてくれた。同じベッドで毎日のように眠っていたというのに、私は下らない自尊心で、手を出さなかった。私は、サツキよりもうんと年上だというのに、本当に情けない男だった。
サツキを失ってから、私は皇帝の名を呼ぶのをやめた。あんな男、皇帝で十分だ。肝心なところで、筆頭魔法使いのご機嫌取り失敗しやがって。
サツキのことは、執念深く恨んでいる。皇帝が全て悪いわけではない。私だって悪いのだ。一度でも、サツキと閨事していれば、違っていたかもしれない。そう思うと、私も悪いところがある。
酔えない酒を飲んで、ふと、ハガルが気にした鍵を見た。ハガルが気にするのだから、何かあるのだろう。確かに、鍵が光っているように見える。
私は鍵を持って、隠された屋敷に飛んだ。
サツキが暮らしていた屋敷は、今も閉鎖されたままだ。何せ、未だに当主が決まっていない。だから、侵入者が出ないように、魔法使いによって、封印処理をされた。
私は、そこからさらに奥へと歩いていく。もっと近くに直接飛べば良かったのだが、気になっただけだ。無駄に歩いて、私は、隠された屋敷の領域に入った。
屋敷の鍵がキラキラと輝いていた。何かあるのだろう。私は普通に鍵を差し込んで回した。
途端、屋敷全体が輝きだした。突然のことに驚いて、屋敷から距離をとってしまった。
ふと見ると、屋敷全体に仕掛けがされているのだろう。動き出し、音楽が流れた。
屋敷の中から、よくわからない人形が出てきた。それらが動き出し、音楽に合わせて動いていた。
単純な仕掛けのある玩具は見たことがある。だが、ここまで大がかりな仕掛けの、しかも、魔法で動く玩具は、初めて見た。
「これを見せたかったのか」
サツキが使用者登録を外して、鍵制御にしたのは、このためだ。この仕掛けは、たぶん、それなりの時間をかけて力を集めなければ動かないのだろう。そして、動かせるだけの準備が出来た時、鍵がそれを知らせるのだ。そして、鍵を使って作動させるのだ。
最後の最後で、サツキの悪戯だった。
私はすぐ、筆頭魔法使いの屋敷の使用者をハガルに譲り、秘密の部屋を空にした。




