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皇族姫  作者: 春香秋灯
賢者の皇族姫-賢者と悪女-
126/353

ハーレム解体

 皇族ルイ様も、皇帝ラインハルト様も、サツキを説得した。ハーレムから出るように。ここは、きちんと出る意思を持たないと、出られないようにされているのだ。

 だが、サツキは隠された皇族だ。魔法なんて通じない。だから、説得しなくても、出られるのだ。なのに、サツキは拒否した。その上、ラインハルト様と閨事もしようとした。

「あの女は無理だ!!」

 興味本位で手を出したラインハルト様は、心を折られて戻ってきた。

「どこまでしましたか?」

「ごめんなさい!! ちょっと触って終わりです!!! もう二度と、テラスの女には手を出しません!!!!」

 一体、どんなやり取りをしたのやら。

「サツキは、私の女ではありませんよ。そう、もう永遠に」

 すでに、誰かの物となっていた。その相手は、元騎士アルロだ。

 アルロが現在、どうしているのか、私は知らなかった。どういう経緯でサツキを手放したのか、そこのところは、ハーレムをサツキ目的で日参していれば、話してもらえる。

「あの貴族、アルロのことを騙して、契約させたのよ。もう、本当に許せない!! 絶対に復讐してやるんだから」

 私の前では、少女のようになる。心を開いて、作った顔もなくして、私に寄りかかって、本音をぶちまけた。

「あの男とは、どういう生活をしてたんだ?」

「軟禁されてました」

 笑顔で言われた。アルロ、お前もあれだ、私と同じで、妖精に毒されていたんだな。

「子どもが五人もいるとは、驚いた。私の元から消えた時は、まだまだ、体も弱かったというのに」

「アルロが色々と薬を持ってきては、無理矢理、飲まされたのですよ。妖精関係のものを使って、無理矢理です。ほら、傷も綺麗に治りました」

「私がやってやりたかった」

「こういうのは、早い者勝ちなんですよ」

「サツキには勝てないな、私は」

「かくれんぼうは、わたくしの勝ちですね」

 私は、時間のある限り、サツキの側にいた。サツキはもう二度と、皇帝の寝所に呼ばれることはなかった。だが、私のお気に入りだから、ハーレムの女たちは、迂闊にサツキに手を出すことはなかった。

 サツキも、勢力には興味がない。ただ、嬉しそうに私の横に座っては、色々と話して、幸福を感じていた。

 だが、サツキは、どこでどういう立場で生きていたのか、話してくれなかった。サツキは、私が調べているものと、思っていたのだろう。

 調べるはずがない。アルロとの過去だ。むしろ、知りたくない。私はアルロに負けたのだ。

「サツキが望めば、ここから出してやれる。どうか、望んでほしい」

「お断りします。アルロに捨てられたのです」

「私はどうなる? 私はサツキのことをずっと思っていた」

「ごめんなさい。ですが、テラスは一緒に行けないでしょう?」

 私を置いて行った理由は、私が帝国から離れられないからだ。だから、私はサツキに置いていかれた。

 今は、背中の契約紋が憎くてたまらない。これさえなければ、サツキに着いて行けた。サツキだって、私を置いては行かなかった。

「嘘ですよ。嘘! そんな理由で連れて行きたくなかったわけではありません。テラスと一緒にいると、復讐がどうでもよくなってしまいます。だから、逃げたのです」

「そうなるように、甘やかしたんだ。全てを与え、私なしで生きていけないしようとした」

 私が落ち込むから、サツキは慌てて、言い直した。だが、どちらにしても、私は捨てられたんだ。

「私は、サツキの気持ちをしっかり考えていなかったな」

「そんなことありませんよ。アルロに軟禁されている時、テラスを思わなかった、と言ったら嘘になります。アルロなんて、可哀想ですよ。わたくし、見つけられた時、テラスかと思っていたんですから。そこは、上手に誤魔化しました。悪い女でしょう」

「それで、子ども五人か」

「責任をとったのです。だって、アルロの人生を潰したんです。アルロ、わたくしと出会わなければ、今も騎士をやっていたでしょう。それなのに、わたくしの復讐に巻き込まれて、騎士をやめたというではないですか。説得したんですよ。騎士に戻りましょう、と。だけど、アルロ、貧民になっちゃうんだもん。そうなったら、わたくしとしては、責任をとるしかありません。後悔はしていませんよ。アルロは、わたくしを女扱いしてくれました。お姫様のように扱ってくれました。家事一つ出来ない私のために、全て、アルロがしてくれたのですよ。わたくしがしたことなんて、子育てだけです」

 聞けば聞くほど、私の知らないアルロだ。

 アルロには個がない。人に命じられ、偽装するのだ。全て演技だ。人格はいくつかのものを組み合わせて作っていたりする。

 サツキは騎士に戻れ、と言ったのだ。ある意味、命令だ。それをアルロは拒絶した。アルロは、とうとう、個を手に入れたのだ。

「サツキ、あの隠された屋敷、入れなくなっていましたよ。酷いですね」

「鍵で入れるように変えたんです。ほら、所有者であるわたくしは逃亡生活ですよ。そのままにしておくわけにはいきません。その時は、わたくし、子どもを産むなんて思ってもいませんでしたし」

「あの家の後継者はいるのか?」

「絶対に生まれるわけではありません。血族ですから。もしかしたら、領地にいる血族の中にぽんと生まれるかもしれませんね。ですが、わたくしが伝承しなければ、そこで終了です。本当に、血族も、愚か者ばかりです。誰に味方をしなければならないか、最後までわかっていませんでしたね」

 サツキは、最後まで、機会を与えたのだ。

 一度目は、サツキの母が亡くなった時。

 二度目は、簡単な茶会を開いて、呼び寄せた。

 三度目は、十年に一度の城での舞踏会。

 この三回の機会を与えて、無駄にしたのは血族たちだ。

 それは、血族たちだけではない。亡くなった母の友人知人も、試され、最後、サツキの手によって陥れられたのだ。サツキは、お得意の新聞を使って、母の友人知人を信用をなくし、没落させたのだ。

 この、母の友人知人で、最も悲惨だったのは、公爵家の妻となった友人である。学生時代、サツキの母は生徒会長、この友人は副会長という関係で、良い友達だったと言われていた。サツキは生家の跡取りとして伯爵となり、友人は学校での繋がりから公爵家の妻となった。それでも、友好な関係を築いていたのだ。

 しかし、サツキの母が亡くなった途端、この友人はサツキを見捨てた。友人の子どもであるサツキは細やかな茶会で呼び寄せ、サツキの酷い現状が見えたにも関わらず、「お力になれなくて、ごめんなさい」と笑顔で見捨てたという。そして、舞踏会では、母の形見のドレスを着て、助力を願ったが、「帝国は弱肉強食よ。自力でどうにかしなさい」と冷たく言い放った事実が証言として残っていた。それらを新聞で暴露されたのだ。

 表向きでは、サツキの身の上を可哀想、と同情していたのに、実はそうではなかった事実に、すっかり信用を失い、とうとう、この友人は公爵から離縁された。それでも、公爵家はサツキの復讐のため、大変なこととなったのだ。

 サツキは、そういうことをどんどんと起こしていった。そのため、今もサツキの告白文が出てくるのを貴族たちは恐れているのだ。死んだといえども、それを持っている誰かがいるのだ、と疑心暗鬼となっていた。

 そんな中、サツキにとって、道具作りの一族をなくすことも復讐なのだ。

「帝国としては、必要なんだが、そこは、あるがままだな」

「あら、わたくしとの間に子を作って、道具作りの一族として育てるなんて、言わないのですね」

「そういうことを言うんじゃない!! 私だって、サツキと、そういうことをしたいんだ。子どもなんてどうだっていい。全身を私で満たしたい」

「子どもは、いらない?」

「私は、サツキさえいればいい。他は、ついでだ」

 軽く口づけをすると、サツキは何か物足りない顔をする。拒否感はないんだな。

「あの、すごい口づけは、もうしてくれないのですか?」

 しかも、私に迫ってきた。本当に、変わらないな。

「ここを出るというのなら、してやろう。したくなった言いなさい。ここから出して、もっとすごいことをしてあげよう」

「アルロに勝てるかしら」

「そういうのは、勝ち負けではない。本当は、そんなことしなくていいんだ。ただ、こうして、側にいるだけでいい」

 したいが、それが全てではない。

 不可抗力であるが、サツキがこんな近くにやってきた。もう、周りの目を気にしないで、好きなだけ会い、好きなだけ話し、夜は一緒に眠っている。それだけで幸福だった。あとは、このハーレムから出したかった。





 次代の筆頭魔法使いハガルは、なかなか難しい存在だ。五歳にして、私の上の力があった。私は、ただ、経験と、ハガルの無意識の自制心で勝っているだけだった。ハガルは、私に勝とうとはしない。ただ、私を師として懐いた。

 見目麗しいが、いい子だ。血の繋がりはないが、家族で暮らしているからか、愛情深い子ではあった。

 皇帝ラインハルト様は、ハガルに夢中になった。それは、ハガルものだ。皇帝ラインハルト様に対して、随分な好意を持っていた。最初は父親的だろう。だから、ラインハルト様に好かれようと、必死だった。言葉使いから、行儀から、ラインハルト様のためにどんどんと身に着けていった。そうして、全身で好意をハガルは向けるから、ラインハルト様すっかり絆されてしまったのだ。

「ハーレムを解体する」

「また、突然、どうしてですか?」

「ハガルがな、私についた香水の残り香で頭が痛いというんだ。これからは、ハガルに集中したい。女は邪魔だ」

 もう、ハーレムからも足が遠のいていた。

 まさか、その時がくるとは。ハガルがいても、このハーレムはそのまま残ると私は思っていた。過去の女遊びを知っているのだから、そんなことが起こるなんて、私は思ってもいなかったのだ。

「もう少し、待っていただけますか?」

「いや、待たない。解体だ。女は全て処分する」

「ラインハルト様?」

 様子がおかしい。私に目を合わせてくれない。この決定に、何か違和感がある。

「サツキはどうしましたか?」

 私はサツキの処分に関しては、絶対に反対する。させるわけがないのだ。

「すでに処分した」

 私は、今も腕っぷしを鍛えている。実は、魔法よりも先に手が出るのだ。

 相手が皇帝なんて関係ない。ラインハルト様の抵抗をする隙など与えず、私は殴り倒した。

「私がどれだけ、サツキを大切にしていたか、知っているでしょう!!」

 彼女は特別だ。そこらの皇族とは違うのだ。彼女は、私の皇族なのだ。

「ただの、元貴族の女だろう。もう、忘れろ」

 殴った私を責めない皇帝。皇帝として正しいことをしたのだ。そう、正しいのだ。

 これまで、皇帝と関係を持った者は、皇族ではれば沈黙を、貴族平民であれば秘密裡に処刑して金で解決したのだ。私はその尻ぬぐいをしていた。

「彼女は、特別です」

「十分、遊んだだろう。あの女は、お前のものにはならない。最後まで、拒絶していたではないか!!」

「力づくでは許されないから、時間をかけたんです!!」

「殺してくれと言ってきた。だから、殺した」

「だったら、私に相談してくれればいいではないですか!?」

「あの女は切れ過ぎる。外で自由にするには、危険な女だ」

「私のたった一人の皇族を、よくも」

「っ!?」

 サツキの死によって、サツキの命令がなくなった。私はサツキの秘密を口に出来るようになったのだ。

「なんだ、それ。どうして言わない!?」

「サツキの命令です。彼女は、あなたよりも血が強かった。絶対に逆らえない。皇族になるよりも、復讐を果たしたいと言いました。だから、私は全てをかけて、彼女の願いを叶えたのです!!」

「………」

 すべて、後手となった。

 この男は、致命的な判断ミスをした。皇帝としての判断をしたのだ。しかし、そこには情報が足りなかったのだ。そのため、失敗した。

 万が一、サツキが皇族とわかっていたら、ラインハルト様はサツキを殺さなかっただろう。だが、予想は出来たはずだ。私があまりにもサツキに傾倒しすぎていた。ハーレムでは、夜も一緒に過ごすほど、私はサツキに夢中なのだ。こんなこと、城の奥深くにいる皇族相手でも起こさなかったのだ。

「サツキの遺体はどこですか?」

「もう、外に出している」

「サツキは死んだ後も私のものです。それは、サツキにも話しています。今すぐ、渡してください」

「家族の元には?」

「捨てられたと笑って言っていました。返す必要なんてありません。私のものです。もし、返すのなら、偽装した骨を準備してあげます」

 アルロでも騙してみせる。手元にサツキの遺体があるのだ。簡単だ。

 倒れたままの皇帝を私は見下ろす。

「立ってください」

「すまない」

「私は、残りの人生、あなたを許さない。憎んでやる。いいですか、あなたの償いは、残りの一生を皇帝として生きることだ。ハガルに溺れることを私は許さない」

 すでに、この男はハガルに支配されていた。それほど、ハガルはラインハルト様に懐いていたのだ。あれほどのことをされて、あの見た目だ。ラインハルト様はもう、ハガルの支配から逃れられない。

 だったら、最後まで、きちんと皇帝として生きてもらう。私が生きている間は、ここぞという時は皇帝になれ、と囁いてやろう。

 皇帝ラインハルト様にとって、これは、たった一度の大きな失態だった。ラインハルト様は、私の言葉を深く受け止め、この時から、皇帝としての考えに縛られるようになった。





 私に内緒でやろうとしたのだろう。サツキの遺体を魔法使いに燃やさせようとしていた。そこを私は間一髪で止めさせた。

 上手に殺してくれたのだろう。苦しんでいない。眠るように死んでいた。私は彼女を一瞬で骨だけを残して燃やし尽くした。

 骨を丁寧に集め、壺におさめていると、何故か燃え残った鍵が出てきた。

「まさか」

 脳裏に、あの隠された屋敷のことを思い出す。サツキをハーレムに迎えてから、すっかり、あの屋敷に行っていなかった。

 サツキの骨をおさめた壺は筆頭魔法使いの屋敷に置いてから、私はあの屋敷に魔法で飛んだ。

 サツキの体内から出てきた鍵を使ってみれば、開いた。支配をといて、鍵での開閉に変えたのだ。

 サツキはここでは、あまり過ごしていなかった。ただ、大事な物の保管場所みたいな扱いだった。

 一応、私室らしきものはあった。鍵らしものはない。普通に入れた。

 古い作りの私室だ。家具も古いが、上質だ。棚を見れば、学校で使っていた教科書やノートが並べられていた。

 そして、盗まれたはずの学校道具が三つ、机の上に積み重なっていた。

 引き出しをあければ、私が何気なく書いたメモが大事に重ね置かれていた。

 そして、いつ書いたのか、手紙があった。



 テラスへ

 これを読んでいるということは、わたくしは死んだということですね。

 テラスは、自信過剰ですよね。絶対にわたくしには勝てる、と思っています。だから、わたくしはまんまとあなたから逃げられました。

 テラスは、魔法に頼り過ぎです。わたくしの身の回りをいつも妖精にまかせています。仕方のないことではありますが、それがきっと、わたくしに逃げられる敗因です。

 これを読んでいるということは、そういうことですよ。あなたは賢者なのですから、もっと権力を使うべきなのです。そうすれば、この手紙はわたくしの手で処分されていたでしょう。

 テラスはわたくしのことを甘く見過ぎです。でも、それもまた、わたくしへの愛情なのでしょう。出来れば、わたくしは復讐が終わった後は、テラス一筋で生きたかったです。でも、出来なかったのですね。残念です。

 わたくしがどうして死んだのか? その要因を調べてみてください。わたくしのことですから、何かやっていますよ。

 さようなら。



 まだ、終わっていない。

 いや、この手紙は、ただ、私への嫌がらせかもしれない。彼女は、悪戯っ子な所がある。これを書いた時、まだまだ成人前の、学校に通い始めたばかりの子どもだ。

 だけど、とても引っかかった。何か見逃しているような気がする。


 何故、サツキは死んだのか?

 死んだ要因は、ハーレムの解体だ。


 何故、ハーレムを解体することとなったのか?

 それは、ラインハルト様がハガルに傾倒したせいだ。


「ハガルは、頭が痛い、と」

 妖精憑きが頭痛? 香水の残り香で頭痛なんて起きるはずがない。妖精憑きは妖精の力でそういうものを無害化するのだ。

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