表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
皇族姫  作者: 春香秋灯
契約紋の皇族姫-外伝 女運の悪い男-
108/353

皇位簒奪は仕方ない

 戦場に行く前日に、私は最後の別れかもしれないから、ラーシャと同じ部屋で過ごした。疚しいことなんてない。ナーシャを失ってから、ずっと、私とラーシャは互いを抱きしめあって、寂しさを耐えていたのだ。

 ラーシャは最後のぬくもりかもしれないから、私をぎゅっと抱きしめる。

「いや、距離はとろう」

 さすがに、ラーシャもお年頃だ。その、体もそれなりに育っているから、私のほうから距離をとった。

「もう、兄と妹だからいいではないですか」

「私は妻がいる」

「よくもまあ、子ども、作れましたね」

「作業だよ、作業」

 瞬間、私は無表情になる。あの凹凸のない相手に、性行為が出来たものだ。驚きだな、私も。

「同じ血筋とは思えないほど、最悪な外見ですよね。それをどうにかしよう、と努力すらせず、それを最高なんて思い込んでいる。目が歪んでいるとしか思えません」

「君の義姉だぞ」

「わたくしの姉はナーシャ一人です。あの女は永遠にランテラとしか呼びません」

「ランテラもそれでいいと言っているからな」

「もう、あの女の話はやめてください。気持ち悪い」

 ラーシャは、心底、ランテラのことを嫌っていた。努力一つしないランテラのことを、努力したラーシャは大嫌いなのは、仕方がない。

「聞きましたよ。ランテラ使って、他の皇族に嫌がらせですってね」

「ランテラは、勝手に色々とやらかしてくれるから、助かる。私は綺麗なままだ」

「どこまで計算づくだったんだか」

 さすがにラーシャも私の腹黒さに距離をとった。笑顔で内心は、とんでもないことを企んでいるのだから、仕方がない。

「ラーシャには頼みたいことがある」

「誰と結婚すればいいの?」

「私はそこまで酷い兄ではない」

 まさか、ラーシャの結婚相手を私の企みのために決めるはずがない。

 ラーシャは、私が決めた相手ならば、なんて受ける気満々だったのだ。そういう話をされると、思い込んでいた。

「ランテラが産む子どものことだ。どうせ、戦争中に生まれるだろう。未婚で悪いが、ラーシャが面倒をみてくれ」

「使用人とかにまかせないの!?」

「ある程度はまかせていい。だが、監視しろ。あと、ランテラと伯父夫婦には絶対に手を出させるな。私の子どもを失敗作にしたくない」

「………子どもにまで、そんなもの持ち込むなんて」

 ランテラが産む子どもまで道具扱いだ。ラーシャは言葉に詰まった。

「血筋的にはいいんだ。あとは、気性と教育だ。私はたまたま、運が良かったにすぎない。使用人がしっかりしていたし、あの両親は教育に口出しするどころか、皇族の仕事を私に押し付けてきた。お陰で、それなりの能力は手に入った。ランテラの子どもだから悪くなるわけではない。環境だ。ランテラは、環境によってああなったにすぎない。環境さえ整えれば、きちんとした皇族になる。別に道具にするわけではない。間違った道にいかないように、導いてやってほしい」

「仕方ないですね。いいですよ。わたくしがしっかり教育してあげます。ランテラにも、伯父夫婦にも、一切、手を出させませんから、ご心配なく。だから、生きて戻ってきてください」

 また、私に抱きついてくる。もうやめろ、と言いたいが、我慢した。ラーシャが泣きそうな顔をしていたからだ。

 ラーシャは私が戦場に行ったら、一人になってしまう。

「ある意味、この城も戦場だな」

「お兄様?」

「無理に戦わなくていい。上手に負けておきなさい。後で、私が大敗させてやる」

「ご心配なく。真っ二つにしてやります」

 嫣然と微笑むラーシャ。城の中でも、人は死ぬのだ。皇族同士で殺しあえばいい。

 だけど、ラーシャは容赦ない。常に帯剣しているのだ。その剣は、アイシャールお手製の妖精殺しの剣だ。どんなものも真っ二つの、とんでもない業物だ。力のない女でも、その切れ味だ。ラーシャは女でありながら、体術と剣術も身に着けている。よほどの油断でなければ、戦争に出ない腰抜け皇族には負けないのだ。

「お転婆め」

 私は苦笑した。






 戦場は一進一退である。ここに、戦争の小国の進軍があれば良かったが、戦争バカだから、交渉を失敗したのだ。本当に役に立たない使者だな。私だったら、口先三寸で、あの戦争バカの一族を連れ出したというのに。

 私が交渉したい、と名乗り上げた。それを邪魔したのは、他の皇族だ。若造だと失礼になる、と言って、交渉に行って、見事、失敗したのだ。失敗したくせに「あんな失礼な国なんていなくても、我が国だけで戦争は勝利に導ける!!」なんて言いやがった。そのくせ、戦争には不参加だ。功績をそれなりに持って戻った時、そいつを殴ってやる。

 少し、気になったのは、筆頭魔法使いアイシャールだ。どんどんと、鬼気迫る空気を感じる。ナーシャのために、随分と我慢していた。戦争に出ても、まさか、あの皇帝、アイシャールに無体なことをしているのではないな?

 アイシャールにとって、ナーシャは救いの神だ。ナーシャを皇帝にして、救われたかったのだ。だから、ナーシャに今も縋っている。

 どうにか、アイシャールはナーシャに瓜二つのラーシャを側に置くことで、心の平穏を保っていた。ラーシャも色々と感じて、ことあるごとに、アイシャールの側について、皇帝の無体を邪魔していた。

 それも、戦場ではない。アイシャールもさすがに危険な戦場にラーシャを同伴させるにはいかなかったのだ。

 私も、まさか、戦場でアホなことしないよな? なんて思い込んでいた。だから、遅い時間といえども、私は現状の報告に、皇帝がいる天幕に行くのだ。

 皇帝の天幕には見張りがいない。筆頭魔法使い妖精がついているので、迂闊に置けないのだ。万が一の誤作動で、見張りを殺すことがある。だから、天幕に近づけられるのは、私のような皇族である。

 将軍との報告をまとめて、私は天幕に行った。これまでは、まずい状態を見ることはなかった。今回もそういうことはないだろう、なんて思っていた。ただ、いつもより遅いから、寝ているかな? 程度に考えていた。

 確かに、皇帝は寝ていた。

 皇帝の傍らで、素っ裸のアイシャールが、短剣を持って震えていたのだ。狂気に満ちた目で、眠る皇帝を見下ろしていた。私が入ってきたことすら、気づいていない。

 だから、私はさっさとアイシャールから短剣を奪った。

「あっ」

 ついでに、私は皇帝の首をその短剣で斬り落としてやった。やはり、妖精殺しの短剣か。軽いから、そうだと思った。切れ味抜群だ。

 あまりに一瞬でされて、アイシャールは呆然となる。私は適当な布をアイシャールの全身を隠すように頭から被せる。

「皇位簒奪だ。これから私が皇帝だ。アイシャールは指定された天幕で待機しなさい」

「え、は、はい」

「不謹慎な爺め。死んで当然だ」

 私は面倒臭いことになったが、もう、どうだっていい。今は戦争中だ。私だって戦場のど真ん中に出て、命張って戦っているってのに、クソジジイめ!!

 ふつふつと怒りしか沸かない。アイシャールに狂ったのだろう。だが、時と場合を考えろ。それが皇帝なんだ!!

 アイシャールは私が命じても、呆然としている。仕方なく、私はアイシャールのあの裸体が隠れるように、布を巻いて、外に押し出した。

「後始末がある。邪魔だ」

「でしたら、わたくしが」

「皇帝を殺そうとしていた奴を信用するわけがないだろう!? 頭を冷やしてこい!!」

「は、はい!!」

 アイシャールは私に叱られ、逃げるように指定された天幕へと走って行った。よく見れば、裸足だ。

 アイシャールがいなくなって、私は再び、皇帝の天幕に戻る。今更ながら、アイシャールが脳裏に焼きついて、体全体が熱くなる。そりゃそうだ。私の初恋だ。今だって、その初恋は継続中だ。あのランテラを抱く時も、頭の中はアイシャールを思い浮かべて耐えたほどだ。

 しばらく、私は頭を抱えていたが、どうにか落ち着いた。何度か深呼吸して、私は天幕を出て、将軍たちの元へ戻った。

「どうでしたか、皇帝陛下は」

「もうそろそろ、魔法使いの進撃の許可は出そうですか?」

「報告がある」

 将軍たち、戦争に出た皇族たちは、魔法使いの投入を期待していた。私が上手に皇帝を説得した、と思い込んでいた。

「私はついさっき、皇位簒奪した」

『………』

 長い沈黙が続いた。そして、とんでもない叫びが外にまでとどろく。

「何をやってるんだ、あんた!?」

「戦争中に、何を皇位簒奪なんてして、卑怯きわまりないだろう!!」

「城に戻ってからやればいいだろう!!」

「むしろ、戦争前にしろ!!」

 あの皇帝はそれなりに見限られていた。政治家としてはまあまあなのだが、戦争の指揮としては最悪なのだ。

 そりゃそうだ。あの男、そういうゲームはからっきし弱いのだ。向いていないのだ。いつも私に負かされていた。ついでに、四歳のナーシャにも大敗させられていたな。

 将軍たちにとっては、どうしても、皇帝の首をすげ替えてほしかった。だから、祈ったくらいだ。誰か皇位簒奪して、まともな指揮をしてほしい、と。

 それなのに、戦時中に皇位簒奪である。そりゃ怒るよ。

「不可抗力だ。怒りが頂点に上って、やってしまった」

「あれか、許可が下りなかったんだな」

「黙秘する」

「仕方ない。このまま、消耗戦では、戦力で負けるからな」

「………」

 墓場まで持っていこう。心の底から、私は決心した。私の皇位簒奪の理由なんて、周りが勝手に決め込んでくれる。

 そして、私が皇帝となったのだが、魔法使い投入は保留とした。

「なんで!?」

「皇帝!!」

「そんな!?」

「いいか、私はまだ、筆頭魔法使いとの信頼関係がない。だから、まずはそこからだ」

 皇帝となったからといって、そう簡単に事は進まないのだ。

 皇帝は筆頭魔法使いが選ぶのだ。それでも皇帝になりたい場合は、筆頭魔法使いが選んだ皇帝を殺すのだ。それは、筆頭魔法使いの意思に反することとなる。場合によっては、筆頭魔法使いは、契約紋に逆らって、命令に従わないことがあるのだ。

 私とアイシャールは、親子みたいなものだ。アイシャールは私のことは子どものように見ているだろう。だから、一晩経てば、アイシャールも落ち着いて、私の命令に従ってくれるだろう、そう考えていた。





 戦争の再開はまだなさそう、という魔法使いたちの報告を聞いてから、私は筆頭魔法使いアイシャールの元に足を運んだ。

 アイシャールの天幕は、皇帝の天幕のすぐ隣りである。そういえば、皇位簒奪された皇帝の遺体、魔法使いに消し炭にしなきゃいけないんだよな。ほら、帝国では敗者は罪だから。

 戦時中だけど、色々とやることがある。私は憂鬱になりながら、天幕に入った。

 アイシャールは、昨夜の恰好のままである。

「アイシャール、服を着てほしいんだが」

「このまま、皇帝の儀式を行うのですから、必要ありません」

 また、狂気に満ちた目をして、私を見てくる。それを見て、私は天幕の入口から先に進まない。

「私には、妻がいる。そんなことはしない」

「政略的に迎えた妻でしょう」

「悪いが、私は誠意だけは妻に向けることにしている。二心は持たない」

 ランテラ抱いた時は、アイシャールを思ったけど。

 驚いたようにアイシャールは私を見返す。

「何も、しない?」

「さっさと服を着なさい。私の目的は、ナーシャを見つけ出すことだ。死んでいても、生きていても、必ず、ナーシャを見つけ出す。アイシャール、協力しなさい」

「で、ですが、皇帝の、儀式を」

「戦時中に、そんな不謹慎なことしない!! あのクソジジイ、ここまで戦争長引かせておいて、天幕ではとんでもないことしてくれたな!? お陰で、私は子どもの出産にすら立ち会っていない。元気な男の子が誕生しました、と魔法使い使って報告されたよ!!! 嫌味か!!!!」

 ラーシャめ、ここぞとばかりに、どうでもいい手紙を寄越しやがる。こっちは、生きるか死ぬかって時だってのにな。

 私は地団太を踏んで、怒りを地面にぶつける。

「さっさと準備をしなさい。魔法使いを投入する。これ以上、無駄に帝国民の命を散らさない」

「は、はいっ」

 アイシャールは体を覆っていた布を放り捨てて、服を探し出した。私はもう、目の毒だから、さっさと天幕から走り出した。どうせ、アイシャールにとって、私は子どもだ!! ちくしょー--!!!



 戦争は魔法使い、というより、筆頭魔法使いの化け物じみた一撃で終了した。見渡す限りを蹂躙するような炎により、戦場はとんでもないこととなっていた。

「イーシャ様、御覧ください!! 敵を全て、骨まで焼き尽くしました!!!」

 あまりの威力に、将軍たち、騎士たち、兵士たちは呆然となる。無邪気に笑っているアイシャール、君は今、恐怖の対象として見られていることに気づいているか?

 アイシャール、何故か私の腕を組んで、これでもかと体をつけてくる。なので、私は反射的に距離をとろうと、その手を解く。

「アイシャール、近い。君は女性なんだから、男性とはきちんと距離をとるべきだ」

「皇帝と筆頭魔法使いが仲良くすることは、とても大事なことですよ」

「距離は大事だ」

「そんなこと言わないでください。あなたの側は心地よいのです。もっと側にいたい」

 そういう、男だったら勘違いしちゃうようなこと言うから、先帝のクソジジイもダメ皇帝になったんだよ!?

 私は笑顔で距離をとりながら、心の中で叫んだ。

 ここに、とんでもない悪女がいる。いや、悪いことはしないんだ。だけど、清廉潔白な男をダメにする悪女だ。しかも、アイシャール、これっぽっちも自覚ないよね?

 羨ましそうに見てくる皇族、将軍、騎士、兵士ども。お前らね、この女は男を破滅させるんだよ!? 見てないで、助けろ。

「ほら、皇位簒奪された先帝も骨すら残りませんでしたよ!!」

 ついでに、この火の海に、アイシャールは恨みを晴らすためか、先帝の遺体を魔法で放り投げた。一瞬で、じゅっという音をたてて消えてなくなる先帝の遺体。もう、骨もないよ。

 帝国と敵国の国境線って、不毛地帯だな、なんて見ていたが、その理由がよくわかった。筆頭魔法使いが焼野原にするからだ。そりゃ、不毛地帯になっちゃうよ。解決した!!

 焼野原の向こうでは、敵兵は影も形もいない。最初は、水とか一生懸命投入してたんだ。だけど、火に油みたいに火力増大していった。燃え盛る炎は、あれだ、獲物を呼ぶのだろう。ちょっと近づいただけでも、敵兵は火の中に突っ込んでいき、一瞬で燃えて、影も形もなくなるのだ。こんなトコ、一分一秒でもいたくないだろう。さっさと逃げていった。

「あの、皇帝陛下、これ、いつまで燃やすんですか?」

「一晩くらいは燃やしましょう。そこまですれば、よい肥料になります」

 私が答える前に、アイシャールが笑顔で言った。こわっ!!

 アイシャール、先帝が死んだことで、色々と吹っ切れたみたいだ。また、私に近寄って、腕まで組んできた。まるで、恋人を相手にするみたいに、甘えてもくるのだ。

 もう、誰も羨ましい、なんて見てこない。むしろ、アイシャールがちょっと目を向けると、皆さん、人払いされるみたいに、消えてなくなる。おい、置いていくな!!

「イーシャ様、綺麗ですね」

 綺麗って、人燃やしてるんだけどね。

「知っていますか? わたくしの残りの寿命とイーシャ様の寿命、意外と近いのですよ」

「そうなんだ。よくわかるね」

「力ある妖精憑きは、人の寿命がわかります」

「それじゃあ、私が生きている内に、新しい筆頭魔法使いを見つけないといけないのか。もう、育成はしている?」

「百年に一人生まれるか生まれないかの妖精憑きです。なかなか、見つかりませんよ。だから、わたくしは、その、に、に、二百、年、生きているのですから!!」

「? うん、そうだね」

 年齢のところで、アイシャール、とっても言い辛そうだ。そりゃそうだ、アイシャールも女だ。いつまでたっても、年齢は気になるだろう。無理しなくていいのに。

「これから、戦後処理か。敵国も敗戦をしっかり自覚してほしいな」

「お任せください!! しっかり敗戦を認めさせてみせます」

「そこは大丈夫。私がやるよ。アイシャールは表に出てはいけない。敵国が妙な考えを出すといけないからね。代理の魔法使いをたてよう」

「イーシャ様、そこまでわたくしのこと」

「女だから、と舐められるからな。それに、アイシャールは綺麗だ。妙な欲を敵国が出してもらっては困る。再戦しよう、なんてアホが出てくるからな。後方で大人しくしていなさい」

「は、はい」

 物凄く落ち込んでいるが、仕方がない。アイシャールを表に出すと、違う戦争が始まる。

「帰って、息子の顔が見たい」

「………」

 何故か、胸まで押し付けてくるアイシャール。もう、やめてほしい、そういうの。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ