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皇族姫  作者: 春香秋灯
契約紋の皇族姫-外伝 女運の悪い男-
106/353

ナーシャの消失

「お兄様はあれですね、女運が悪いですよね」

 妹ナーシャにぶしつけながら、そう言われた。

 場所は、禁書が溢れる書庫である。本来は、そこは皇帝の許可がないと入れない所だ。だけど、ナーシャは城のどこも自由自在だ。それどころか、妖精の力で動いている帝国中の道具の命運を握っている。ナーシャの気分次第で、帝国は零落する。

 それほどの力を持つナーシャだけど、まだ、幼い少女だ。親の保護がないと危ない、人の暴力の前には無力な、か弱い少女だ。抱きしめれば、折れそうなほど細くて、柔らかい。夜には、寂しいと双子の妹ラーシャと抱き合って眠っている。そんな、可愛い妹。

 だけど、口を開けば、毒を吐く。

「ナーシャ、その、言い方をもう少し、穏便にしたほうがいいよ」

「そこは仕方ありません。そういうものだと、受け止めてください」

「そうです!!」

 意味、これっぽっちもわかっていないラーシャはいつも、ナーシャの味方だ。

 ナーシャ、原因不明の発熱をする前は、本当に可愛い妹だった。ラーシャと同じ、私のことを「おにいさま」と舌っ足らずの声で呼んで、ラーシャと一緒にしがみついてきたものだ。

 なのに、原因不明の発熱が終わった後、ナーシャは一変した。大人顔負けな話し方と知識を披露し、皇帝をも貶め、帝国の命運を握っている力を発揮したのだ。ナーシャにはだけは逆らってはいけない、そう思い知らされる出来事を三歳で起こした。

 だけど、皇族の大人たしは、二つの反応した。

 一つは、ナーシャを神聖視する者。ナーシャは帝国の道具をも左右するほどの力を持っている。ナーシャの気分次第で、帝国は立ちいかなくなる。その力に恐怖し、神のように扱うことを選んだのだ。

 もう一つは、ナーシャを危険視する者。ナーシャはいつか、皇族全てを排除するだろう。そうなった時、ナーシャ一人のための独裁が始まる。ただの小娘に帝国を支配させるわけにはいかないのだ。

 この二つの勢力が出来ても、ナーシャは静観である。すり寄る勢力に従うわけでもなく、危険視する勢力を宥めるわけではない。両方の勢力から距離をおき、もっとも安全である皇帝が許可しないと入れない書庫にもぐりこんでいるのだ。

「見て見て、この皇帝、女装癖があるんだって!! あははははは」

「何を読んでるの!?」

「筆頭魔法使いの日記。皇帝が隠し通しているけど、筆頭魔法使いに書かれてるなんて、おっもしろーい!!」

「やめなさい!!」

 私はナーシャから本を取り上げる。

「だいたい、他人の日記を盗み見るなんて、良くない」

「仕方ないでしょう。こうして、帝国の成り立ちを学ぶのだから」

「だからって、皇帝の隠し事を赤裸々に暴露したものを読むなんて。そういうものは、見て見ぬふりをするものだ」

「何言ってるの。こういう楽しみがあるから、読み進められるんじゃない。ほら、皇帝なんか、筆頭魔法使いが実は小さい男の子が大好き、なんて書いているのよ!! こういうのを取り入れて、読み手を引き込む工夫をしているのよ」

「やめろぉおおおー----!!」

 とんでもないことを過去の筆頭魔法使いだけでなく、過去の皇帝もやってるな!?

 歴代の皇帝も、歴代の筆頭魔法使いも、本当に、何を考えて日記を残しているのやら。しかも、信頼しあわないといけない間柄の皇帝と筆頭魔法使いが、互いの恥部を暴露しあっている。どんだけ仲が悪いんだよ!?

「あー、笑った! 何度読んでも、この二人は傑作ね。ぜひ、実物に会ってみたかったわ」

「他にも読むべきものがいっぱいあるだろう!!」

「面白いでしょ、ラーシャ」

「はい、ナーシャが楽しそうで、わたくしも楽しいです」

 ラーシャ、すっかりナーシャに魅了されている。ラーシャはもう、ナーシャの言いなりだ。いい所も悪い所も、ラーシャはナーシャに影響を受けている。話し方まで、似てきた。ラーシャはナーシャに憧れている。だから、真似するのだ。

 いつか、この二人は皇族をめちゃくちゃにするのだろうな、そう私は思っていた。ラーシャはナーシャから様々ことを学んでいるのだ。それを身に着けられたら、もう、誰も手がつけられないだろう。それほど、ラーシャはどんどんとナーシャのしぐさや話し方、考え方も真似するようになってきた。

 それでも、ラーシャはまだまだ幼い。それを受け取るための容量が小さい。だから、所詮四歳児である。話し方が似てきたな、程度だった。

 ナーシャは、この書庫に来ると、決まって、あの最低最悪な皇帝と筆頭魔法使いの日記を読み、それから、禁書をかたっぱしから読み始める。

 ナーシャの傍らでは、ラーシャは持ってきた絵本をいくつか開いて、文字の勉強だ。それ、本来は、皇族の儀式が終わった後なんだけど、ナーシャが教えたのだ。

「お兄様も、もっと皇族教育受けていれば良かったのに」

「居辛いんだよ!!」

 ナーシャがたった一日で皇族教育を終わらせてしまったので、私は教室に居辛くなってしまった。何せ、ナーシャはたった一日で、皇族の子どもたちを処刑させようとしたのだ。その事は、あっという間に広がってしまい、私には誰も話しかけてこなくなった。教師だって、私にはおいそれと触れられない。何が起こるかわからないからだ。結果、私はさっさと試験の合格をもぎ取って、卒業した。ゆっくりしたかったのに!!

「ナーシャ様、お菓子をお持ちしました」

 悪いことばかりなわけではない。筆頭魔法使いアイシャールが、何事かあると、書庫にやってくる。

 誰もが見惚れるアイシャール。私の初恋だ。物腰も素晴らしく、話し方も丁寧で、美しい相貌にあう全てに、男だったら、誰だって見惚れる。そんなアイシャールをただナーシャの側にいるだけで、私は盗み見れるのだ。

 私はアイシャールが来ると、意識がアイシャールに向いてしまう。だけど、かっこつけで、本を読んでいるふりをする。

「イーシャ様、一緒に食べましょう」

 そうすると、アイシャールが話しかけてくれる。すぐ側まできて、囁くように言ってくるのだ。その瞬間、ものすごく幸せだ。

「う、うん」

「お兄様!!」

「おにいさま!!」

 不思議なもので、私が行くと、ナーシャもラーシャも大喜びだ。私なんて、本当はいらないのではないか、なんて思うけど、こんなふうに喜んで、抱きついてくると、嬉しい。ナーシャにも、ラーシャにも、まだ、私は必要なんだ。

 そんな幸福な日々も、皇族の儀式が終わった途端、崩れてしまった。





 私の両親は、最低だ。いや、私は、最初、そうは思っていなかった。そういうものだと思っていたのだ。皇族の仕事を押し付けられても、これも勉強、と思っていた。

 間違えたら、鞭で打たれた。

 正解したら、別に何もなかった。

 間違えると罰があるので、私は、間違えないと、喜んだ。鞭で打たれなくてすむ、と。

「もう、お父様とお母様の言いなりですね。これ、大人の皇族のお仕事ですよ」

 人が変わってから、ナーシャに注意されて、初めて、私は知った。私のために渡されたものは、全て、両親の仕事だ。

「こんなの、さっさと終わらせちゃいましょう」

 そして、ナーシャは秒で終わらせる。

 私があんなに苦労して、夜に終わらせるものをナーシャは秒だ。それを私に手渡す。

「こつがあります。一つずつ覚えておいてください」

 皇族教育でも受けることがないことが解説された用紙まで渡される。

 内容は、帝国全土を知らないとわからないものだ。それを事細かに解説されたものを見て、表面では笑っているが、内心では絶望に打ちひしがれていた。

 だけど、ナーシャは私に懐いて、私を頼っていた。どこにいくにしても、ナーシャは私にべったりだ。

「お兄様、大好き!!」

 ナーシャの好物をあげると、子どもらしく満面な笑顔を見せて抱きついてきた。

「わたくしもー」

「では、わたくしのをあげましょう」

 そして、ラーシャには、ナーシャの分をあげる。よい姉であった。

 そんないい子だったのだ。ちょっと接して、恐ろしい目にあって、大人たちはナーシャに恐怖を抱いた。だけど、ナーシャは本当に子どもなんだ。とてもいいこなのだ。

 なのに、次の日、ナーシャはいなくなった。

 ラーシャが大泣きしているから、私は部屋に行った。まだ、外は暗かった。暗くて泣いているものと思っていたのだ。両親も、使用人も、誰もラーシャの元に行かない。どうせ、ナーシャがどうにかする、なんて思っているのだろう。

 だけど、僕は泣き声がすると、すぐに行くようにしていた。もしかしたら、ナーシャだって泣くかもしれないじゃないか。

 だけど、部屋には、ラーシャしかいなかった。

「おねえさま、いないー------!!!!」

 大変なことになった。私はすぐに、使用人と両親を起こし、外に行って、ナーシャがいないことを大声で叫んだ。ともかく、広く、知らしめなければならない。

 ナーシャがいなくなったことを妖精から報告を受けたのだろう。筆頭魔法使いアイシャールが真っ青になってやってきた。

「ナーシャ様が、いなくなったって」

「そうなんです、いなくて、ラーシャが泣いていて。昨日の夜はいたんです!!」

 アイシャールは騒ぎで起こされて不機嫌な顔を見せる皇族たちを睨む。

「子ども一人がいなくなったというのに、随分な顔ですね」

「皇族失格の子どもですよ」

「昨日、皇帝陛下は一年後にやり直す、と。そうですか、そう出るのですね。わかりました。昨日、皇族失格となった子どもたちを筆頭魔法使いの名において、排除します。今でしたら、わたくしでも殺せます」

 アイシャールの妖精たちが、部屋から皇族失格となった子どもたちを引きずりだした。

 昨日、助かったと喜んでいた子どもたち。それが、アイシャールの気分一つで、命の危機にまで晒されるのだ。

「おやめください!! 話します!!!」

「何をっ!?」

「お慈悲を!!」

 皇族失格となった子どもたちの親たちは簡単に裏切った。全てを暴露したのだ。

 そんな光景を見ながら、私は絶望する。皇族失格となった子どもたちのために、実の親はこんなに必死になっている。仲間を売り払い、皇族じゃないかもしれない子どもたちを助けようとしているのだ。

 なのに、ナーシャが連れ去らわれたのは、私の両親主導で行われた。

 皇族失格となった子どもたち。何が違うというんだ!? 私の両親は、ただただ、「騙された!!」だの「他にも!!」とか言い訳ばかり。ナーシャのことなど、かけらほども心配することを言わない。

 私は呆然としていると、部屋で一人にされたラーシャが泣きながら私に抱きついてくる。

「ナーシャがぁ、ナーシャがいないぃー」

 ラーシャが泣いて叫んでいる。私はラーシャまで失わないために、抱きしめる。

 アイシャールは私の側に立ち、全ての証言を聞き届けた。

「愚かな者たちですね。ナーシャ様は、全てお見通しです。まさか、本当に、こんなことになるとは、わたくしは思ってもいませんでした。実の親が、我が子を捨てるなどと。ナーシャ様の訴えを聞き入れていれば、こんなことにならなかったでしょう」

 ナーシャは全て、知っていた。なのに、私には黙っていた。教えてくれればいいのに!!

 いや、ナーシャは教えられなかったんだ。私はやはり、両親のことを心のどこかで信じていた。ナーシャの話はなど、信じなかっただろう。だから、聞き流していた。同じようなことをアイシャールもしたのだ。アイシャールでさえ、実の親が子どもを捨てるなんて、思ってもいなかったのだ。

「それで、ナーシャ様をどうしたのですか?」

「帝国の外で、こ、殺す、ように」

「なんてことを!?」

 それを聞いたアイシャールの怒りは凄まじいものだった。その場で、まだ、皇族に発現出来ていない子どもたちを全て、引っ張りだしたのだ。

「まだ、皇族の儀式が」

「赤ん坊です」

「それがどうかしましたか? 皇族ではありません。皇族でなければ、殺していいとお考えでしょう。だったら、これから生まれる子ども全て、わたくしは殺してあげます。だって、皇族ではありませんもの」

 赤ん坊で皇族に発現することなど、かなり稀だろう。赤ん坊の内に筆頭魔法使いの手にかかれば、皇族は実質、滅ぶ。

 今、皇族として発現した者たちには、アイシャールは手が出せない。だけど、いつか、寿命で死ぬのだ。だったら、これから生まれる子どもたちをどんどんと殺していけばいい。契約紋の契約に触れない、まだ、皇族の血が発現していない子どものうちに、どんどんと殺していけば、本当に絶滅するのだ。

「言い出したのは、こいつだ!!」

「お前のいう通りにしたばかりに、子どもが」

「来年、皇族の儀式を通れば、立派な皇族になるのに!?」

「慈悲によって、やっと、生かされたというのに」

 そうして、真の黒幕が炙り出される。

 皇族であっても、そうでなくっても、愛する子どもを守ろうとする親たちが集団で裏切った。

 あまりの光景を皇帝陛下は寝起きで見させられた。アイシャールは歪んだ笑みを皇帝陛下に向ける。

「皇帝陛下、あなたは、この企みには関わっていませんよね?」

「生かすと決めた。あれらが勝手にしたことだ。お前たち、本当に愚かなことをしたな。皇帝の役目は、筆頭魔法使いのご機嫌とりだ。剣を持ってこい。これから私自らが処刑する。今回、首謀者となった者たちを前に出せ。あと、ナーシャの両親も処刑する」

「そんなっ!?」

「言われただけなのに!?」

「お前たちは、真の皇族の親として、失格だ。これは、通例だ」

 過去、同じようなことがあったのだろう。私の両親は、悪あがきをするが、血筋のしっかりした皇族たちの手によって拘束される。

「い、イーシャ!!」

「た、助けて、くれ」

 ここにきて、私に命乞いする両親。醜い姿に、私は迷った。なんだかんだ言って、両親だ。

 そんな私の迷いを惑わすように、アイシャールが私を後ろから抱きしめる。

「見てはいけません。さあ、あちらに行きましょう」

 アイシャールに手を引かれ、私とラーシャはその場から離された。





 次の日、私はラーシャと部屋で閉じこもっていた。ラーシャを守るために、昼夜、ずっと抱きしめていた。油断したら、ラーシャまで奪われてしまう、そう思ったのだ。

「イーシャ様、よろしいでしょうか」

 それでも、初恋の人の声には、つい、反応してしまう。

 筆頭魔法使いは、基本、どこにでも入れる。万が一のことがあった場合に備えてだ。皇帝の部屋だって、筆頭魔法使いは自由自在だ。

 私は眠っているラーシャを抱きあげて、寝室を出た。

 アイシャールがいるだけで、部屋の雰囲気は違う。空気まで綺麗になった感じがする。こんな時でも、私は愚かだ。

 適当なソファに座ると、アイシャールがお茶を出して、眠っているラーシャの頭を軽く撫でてくれる。

「先ほど、ナーシャ様を誘拐したという者たちが名乗り出てきました」

「ナーシャはっ!!」

「いません。ナーシャ様は戻ることを拒否しました。今の城は、ナーシャ様にとって危険な場所だと判断されました。そのため、遠い辺境に連れて行くように、と宝石を使って交渉したそうです」

 目の前に、交渉に使われただろう宝石を置かれた。いくつか、見覚えのあるものだ。

「母の持ち物です」

「そうですか。ナーシャ様はそれから、どこかに歩いて行ってしまったという話でした」

「どこかの小国に届けたということですか?」

「それが、辺境の、何もない場所でナーシャ様を放置した、と言っていました。聞いた時は、耳を疑いました。小国なんて、いくらだってあります。そのどこかに置いて行けばいいというのに、そんな危険なことをするなんて」

「ナーシャは、か弱い子どもだってのに、酷い奴らだ」

 ナーシャの話し方が良くない。だけど、ナーシャは小さい子どもだ。ただ、黙って座っていれば、誰だってそれがわかる。

「あまりに酷いことをするので、聞きました。彼らは、中央の小国に連れて行こう、と提案したました。ですが、そこは帝国から近すぎるから、と拒否されたそうです。辺境の地は帝国から遠いので、その場所であれば、帝国の手も伸びない、とナーシャ様は考えたのでしょう」

 ナーシャはもう、帝国全てを敵と見ていた。遠いどこかに逃げることが、唯一の生きる方法だなんて、思い込んでいたのだ。

 だからといって、誘拐した奴らは、ナーシャを何もない地に放置するのは、おかしい。

「どこに放置したのか、聞き出して、今すぐ、行きましょう。子どもの足です。すぐに見つかります」

「それが、出来ないのです」

「どうしてですか? まさか、大事な証人を死なせてしまったのですか!?」

「そうなのです」

「………は?」

 信じられないことをアイシャールは言った。ナーシャを助けるためには、その誘拐した者たちの証言が重要だ。そんな者たちを死なせるなんて。

「いえ、わたくしの手落ちでも何でもありません。その質問をすると、急に苦しみだして、死んだのです。誘拐した者たち全てです。今、魔法使いたちに調べさせていますが、わたくしの目の前で起こったことですから、妖精が関わっていることはありえません。これは、人の手に余る何かが動いたとしか思えません」

 アイシャールは、心底、戸惑っていた。

 ここで、ナーシャの消息が完璧に途絶えた。その事実に、アイシャールは呆然としている。その先の手がかりがないのだ。

「誘拐に関わった皇族たちは」

「彼らは、ただ、ナーシャ様の殺害を依頼しただけでした。皆、同じことを言いました。間違いありません。ですから、逆に、ナーシャ様を追放する場合を誰も考えていなかったのです」

「そんな」

「ここに、もう一つ、残念な報告があります。まだ、先のことですが、戦争が始まります。そうなると、兵力をナーシャ様の捜索に割くことが出来ません」

「どうして!? まだ、先の話ですよね?」

「そう、先の話です。だから、今から準備をしなければなりません。本来であれば、近隣の小国に助力を乞うものなのですが、戦争は他人事なのです。仕方がありませんから、帝国だけで戦争を行うしかありません」

「小国ども、こんな時に平和ボケして」

 帝国が陥落した時、小国は蹂躙される。何せ、帝国の聖域が支配されたら、もう、後がないのだ。帝国は実は、小国たちを守る砦の役割を担っている。敵国は巨大な一国として戦争を仕掛けてくる。だけど、帝国は小国の協力を得られないため、ただの国として壁役をしているのだ。数や武器

で負けるところを魔法使いの協力を得て、どうにか勝利を治めているのだ。

 その事実を小国どもはすっかり忘れてしまっていた。長い分割統治のせいで、小国は帝国の戦争を他人事に見ていた。

 アイシャールも悔しいのだ。本当は、ナーシャを探したい。だけど、そのための人を割けない。

「今は、ナーシャ様が生きていることを神に祈るしかありません」

「私も一緒に眠っていれば、防げたのに」

「普段は使えない皇族のくせに、こんな時ばかりは、仕事がはやいのですよ。もうそろそろ、誰が上か、きちんと認識させないといけませんね」

 美しい顔で恐ろしいことをいうアイシャール。そんな姿も美しい、と私はつい見惚れてしまった。

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