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皇族姫  作者: 春香秋灯
契約紋の皇族姫-外伝 真の皇族-
105/353

滅びてしまえばいい!!

 神の準備に時間がかかっのでしょうね!! 本当に、どこまで、神はわたくしに試練を与えるのよ!?

 わたくしとカンダラは穏やかな日常を送るかに見えた。カンダラは、なんと、妖精憑きの小国を見限ったのです。

「この国を滅ぼすためには、まずは、外から埋めていかないといけないね」

「そんなことしなくても、この国は勝手に滅びますよ」

「その速度を早めてもいいだろう」

「やめましょう」

 カンダラ、もう、吹っ切れると大変な人です。やだ、怖いわ。普段、穏やかな人を怒らせると怖いといいますが、本当ですね。気を付けましょう。

 カンダラのことは、もう、小国では役立たずな上、わたくしに狂った人、ということで、遠巻きです。もう、誰も子作りしましょう、なんて言いませんよ。

「ここにいる限りは、この国を滅亡させる手段なんて、一つしかない」

「怖いですけど、何ですか?」

「妖精を全て盗って、虐殺だ」

「どうせ、滅ぶ時は滅ぶのだから、カンダラが手を汚す必要なんてありません」

 本当に、怒らせちゃいけない人ですね。心底、気を付けないといけない。

 物騒な話はおいといて、わたくしは地図を開きます。

「時間はかかりますが、外から関係を切っていく方法があります。まあ、このままいけば、勝手に外からの関係は最悪になるでしょうね」

 妖精憑きの小国は、内側から見ていてもわかる通り、自尊心の塊です。それは、外側でもそうなのでしょう。閉鎖的ではありますが、どうしても外側との交流は必要です。なにせ、食料を得るには、この小国、妖精に支配される森があるせいで、国民全てを賄えないくらい、土地が少ないのです。

 本当に酷い国なのですよ。妖精憑きの一族だから、まるで神に選ばれた一族みたいに、近隣の小国から供物として徴収するのです。ですが、近隣の諸国は、妖精憑きの一族なので、象徴的に扱って、素直に無償で分け与えてくれます。ですから、妖精憑きの小国は普通に過ごしていけるわけです。

 ですが、それが出来なくなった時、妖精憑きの小国はどうするか? よくわからない教えがあり、妖精憑きの力で攻撃は出来ません。でも、きっと、悪用するでしょう。その時、近隣の小国だけでなく、全ての小国が、妖精憑きの小国を敵認定します。

「それで、滅ぶわけか」

「いえ、一族はある程度、残るでしょうね。ただ、屈辱的な残り方をします」

「どういうことだ?」

「妖精憑きの一族は、血筋だけで妖精憑きが生まれます。カンダラは知りませんが、外では妖精憑きって、本当に生まれるのが珍しいのですよ。神から与えられる奇跡なので。それが、血筋だけで増やせるのです。悪い人であれば、奴隷化して、増やすでしょうね」

「奴隷化って」

「実際、帝国では、契約紋で帝国最強の妖精憑きを皇族の血筋に縛っています。あの契約紋を上手に使えば、妖精憑きの一族を奴隷化するのは簡単です。帝国で使っている契約紋はなかなか複雑になっているのですよ。それを簡略化すればいいのです。そすると、生まれたばかりの赤ん坊にも施せるほど小型化出来ます。それをやらないのは、人道的な観点と、神が生み出す、という宗教的な理由からです。それも、妖精憑きの小国が力を悪用することで逆転してしまいます。力というものは、使う人の心がけ次第です。あまりにも妖精憑きが生まれにくいことと、帝国が妖精憑きをきちんと支配しているから、心根がいい、と皆さん、勘違いしているのですよ」

「………」

 あ、軽蔑されちゃったかもしれませんね。カンダラ、黙り込んでしまいます。ちょっと、調子に乗りすぎて、言い過ぎました。

「奴隷化のほうが、より、効果的だな」

 違った!? 余計な知恵をつけちゃった!! カンダラ、わたくしよりも優しい考え方していたのね。もう、発言には気を付けないといけませんね。

 そうして、わたくしは外に行く準備をしていました。別に、外に行くのは難しくありませんから。

 妖精憑きの小国がどうしても難攻不落なのは、それなりの資格がないと入れないようになっているからです。近隣諸国には、木札という形で出入国出来るようになっています。それがないと、妖精憑きといえども、出入国が出来ないのです。

 ですが、わたくしにはそれは効果ありません。わたくしは神の加護がありますし、それなりの力を与えられています。だから、わたくしは秘密裡に、妖精憑きの小国からただの人を逃がせるのです。

 人目とかどうするか? そこも解決済みなのです。カンダラ、すっかりわたくしに囲うのに夢中で、外との交流を完全に断絶してしまいました。食料? ほら、わたくしが森に行けば、取り放題ですよ。

 あと、残るは移動手段です。いくら小国があちこちあるといっても、馬とかないと不便です。わたくしだって、子どもの足で、大変な目にあったのですから。

「子ども、なかなか出来ないな」

 カンダラ、どうしてもわたくしを完璧に手に入れたいので、子作りを頑張っています。でも、なかなか出来ないので、焦っているのですよね。

「もう、いいではないですか。子どもがいなければ、ずっと二人っきりですよ!! この国を滅亡させたら、帝国にいる兄にご挨拶しに行きましょう。きっと、ずっと、心配しています」

「それから、ずっと帝国にいるのか?」

「まさか、いるわけないでしょう、あんな危険な国。さっさと逃げます。わたくしが生きていると都合の悪い人がいっぱいですよ。ご挨拶が終わったら、さっさと逃げて、あちこち旅をしましょう。二人なら、楽しいですよ」

「そうだな」

 やっと、カンダラは外に出てくれる。これで、もう、この小国に縛られることはない。さっさと滅ぼしてやる。

 そう考え、外に行く手段をどうにかしようと、こっそり行商人に交渉してみれば、なんと、転移の道具を融通してくれた。

「あなたには、随分と助けられました」

 この行商人、実は、元は妖精憑きの小国の人です。わたくしが幼い頃に逃がした人ですよ。

 妖精憑きの小国の皆さん、本当に薄情で、誰もこの人のことを覚えていませんでした。普通に受け入れちゃうのだから、本当に傲慢の塊ですよ!! わたくしなんて、初めて会ってすぐ気づいたってのに、笑っちゃいます。

 そうして、移動手段を手に入れました。あとは、カンダラと一緒に外へ出て、こっそりと日帰り旅行です。


 と喜んでいるところで、神の奴、準備が整ったのか、わたくしの妊娠が発覚しました。


 わたくしの妊娠をカンダラは喜んでいましたが、わたくしは全然です。だって、これ神が寄越した試金石です。

 神の中では、一人目の試金石であるわたくしは、仕方がないね、という扱いです。神は一度は許すのですよ。ですが、二人目の試金石で同じ過ちを犯した時は、許しません。そのためにわたくしの子どもは使われるのです。

 可愛い女の子をわたくしはラーシャに似た名前リーシャにしました。ただの人だけど、真の皇族です。神は、わたくしで契約紋を作らせるつもりはありませんでした。それはそうです。わたくしは、皇族の血が濃すぎる。わたくしで契約紋なんか作ったら、今いる皇族は全て皇族でなくなります。だから、ある程度、薄めないといけません。そのために誕生したのがリーシャです。本当に、酷いですね、神。

 わたくしはもう、カンダラには隠し事をしていません。リーシャの身の上も全て話しました。そして、リーシャの守護を完璧に、わたくしとカンダラは秘密裡に外と交流しました。

 妖精殺しの小国は楽しかったです。あの坊やがわたくしに結婚してください、なんて言われた時は、胸が高鳴りましたけどね。残念、先にカンダラに出会ってしまいました。だから、永遠にお断りです。

 その間、リーシャは試金石の役割を知らずにこなしています。外に自由に行かせては、リーシャは泣いて帰ってきます。時には傷をつけられています。クソガキめ。

 もちろん、まずはカンダラが注意しに行きます。皆さん、右から左です。そして、次に出るのは、わたくしです。

「わたくしの可愛いリーシャに随分なことしてくれましたわね」

「そ、それは」

「あまり酷いことをするようでしたら、森に投げ捨ててあげましょうか。わかっていますよね。わたくしに妖精の力は効かない。子ども程度、簡単に首根っこつかんで、森に置き去りにしてやりますよ。まともな状態で出られるといいですね」

「………」

「しばらく、外に出さないように。見かけたら、わたくしが捨ててあげます」

「わかり、ました」

 腕っぷしでも勝てない妖精憑きなんて、敵ではありません。妖精さえいなければ、こいつら、本当に無力ですよ。

 わたくしが出れば、その子どもは本当にしばらく、外に出されない。それどころか、両親に厳しく注意される。当然です、可愛いリーシャに傷つけるなんて、同じ傷をつけてやりたいのを我慢しているのですから。

 そうして、リーシャの周りをどうにか大人しくさせたかったのだけど、王族の子どもたちは、大人しくなりませんでした。

 とうとう、リーシャが大怪我をしました。王族の子どもたちは、わざとやったのです。

「来たな、ババア!!」

「俺たち王族は、そこら辺の妖精憑きとは違うんだぞ!!」

「そうよ、選ばれた血筋なんだから」

 言いたい放題です。クソガキが、わたくしの可愛いリーシャに随分なことをしてくれました。

 たぶん、知らないというよりも、教えていないのでしょう。わたくしは、何もしなければ、無害です。だから、無知なクソガキは、リーシャを妖精憑きの力を使っていじめました。

「妖精憑きの力を使って、人を傷つけてはいけない、と教義にありますよね」

「お前たちただの人には、そんなの関係ないね」

「そうですか。それなら、森だって、問題ありませんよね。だって、あなたがたはすごい妖精憑きなんですものね」

「そ、それは」

 さすがに森は怖いらしい。大人たちに散々、言われているのでしょうね。

「あら、わたくしだって大丈夫なのに。リーシャだって、平気ですよ」

「なんだと!? あの女も平気なとこ、俺たちだって、大したことない場所だよな」

「でも、国王が」

「俺は将来、国王になるんだぞ。平気平気」

 バカな子ども。次の国王とおだてられている王族キオンは、簡単にひっかかります。

 何せ、森は恐ろしい場所、と言ったって、経験がありませんもの。子どもは簡単に誑かされてくれます。

「あら、もう少しで夜ですね。さすがに夜は危ないですから、また明日」

「夜だって平気だ。行くぞ!!」

 王族の子どもたちは、一番危険な夜に森へと入っていきました。

 その日の夜、王族どもが我が家にやってきます。

「貴様、子どもたちを森に連れて行ったのか!?」

「勝手に行っただけですよ。ちょっと言ってやりましたけど」

「この、子どもたちが死ぬかもしれないんだぞ!!」

「わたくしの可愛いリーシャは骨まで折られたのですよ!! 魔法で治るといったって、痛いという経験は残ります。そんなことしておいて、何が死ですか。死ねばいいんですよ、そんなろくでもない子どもは!!」

「同じ子どもを持つ親のいうことか!?」

「同じ子どもを持つ親のくせに、リーシャに対して、随分と冷たいですね」

 人道的なことを言えば、人道的なことを返してやります。バカですか。全て、あなたがたがやったことですよ。やり返されて、それでも反省しない、どうしようもない一族。さっさと滅びてしまえ。

 そうして、一晩経った頃、王族の子どもたちは戻ってきました。

 なんと、リーシャが助けたのです。ひどい目にあったのに、わたくしと王族たちのやり取りを聞いたリーシャは、こっそり家を抜け出し、森に行って、泣いている王族の子どもたちを見つけ出し、連れ帰ったのです。

 でも、リーシャったら、表向きは、無理矢理連れて行かれた、なんて嘘をつきました。王族の子どもたちは、リーシャに助けられたなんて言われたくないため、口裏なんかあわせてます。本当に、ろくでもない子どもたちですね。

 そんなリーシャの嘘はわたくしには通じません。だって、きちんとおやすみなさいまでしたのですから。これには、わたくしは泣きたくなりました。リーシャを危険にあわせるなんて。

「リーシャ、なんてことを!?」

「だって、同じことされたら、イヤだもの。母さん、いつも言ってるじゃない。自分がやられて辛いことを人にやってはダメだって」

「ああ、リーシャ、リーシャ」

 わたくしは力いっぱい、抱きしめます。リーシャだけは、絶対に守らなければいけません。この子は、わたくしよりも価値のある子です。命をかけてでも、死んだ後も、必ず、この子だけは守ってみせます。





 こんなことを繰り返しながら、わたくしは二人目の子の出産です。

 妖精憑きの小国は殺気だっています。わたくしにはわかります。そう、彼らはとうとう、わたくしを排除する方法を見つけたのですね。

「次はどんな子?」

 カンダラはもう悟りに入っています。二人目の子にも、何か役割があるとわかっています。

「この子は、とても危ない存在です。以前、カンダラから聞いた伝説の再来です」

 皇族と妖精憑きの一族が交わると、妖精を殺せる強力な妖精憑きが生まれるという。そんな子どもが生まれるのです。

「伝説は本当だったのか」

「違います。たまたまです。そんな、すごいのがポンポンと生まれるのなら、利用できると妖精憑きの一族を皇族の側に起きます。それがあえて離されたというのは、たぶん、真実味を持たせるためでしょうね。よくある話です。帝国が試していますよ」

「そういうものか?」

「帝国は最強でないといけません。でないと、敵国に負けてしまいます。妖精憑きを封じる手段を別の形で得られるのならば、抑止力となります。妖精憑きの力は弱くても、妖精を殺せるのですよ。契約紋の儀式を執り行う時に、良い武器となります。ですが、実際は出来なかったのでしょうね。仕方がないので、皇族と妖精憑きの一族を離したんです。そうすることで、妖精憑きの一族に、何か思い込ませようとしたのかもしれませんね」

 それも、妖精憑きの一族が自尊心を高める要因の一つとなったのでしょう。帝国、えげつない。

 真実を知ったカンダラは呆然となる。帝国にいいように妖精憑きの小国は操作されているのだ。それが、今の妖精憑きの小国を作り出されたなんて、誰も思わないだろう。

「別に、帝国だって、最初は、そうなるといいな、程度ですよ」

「何故? わざわざ妖精憑きの一族に、そんな思い込みを与えるなんて」

「ここからは予想です。妖精憑きの一族は、ちょっと厄介なのですよ。ほら、国ごと閉鎖出来る力がありますし、妖精憑きが生まれるので、どんどんと力が助長されていきます。今でもただの人が多いといえども、妖精憑きが増えすぎてしまうと、ただの人は簡単に制圧されてしまいます。それでは、妖精憑きの世界になってしまいます」

「それは、悪いこと?」

「よく考えてください。妖精憑きは神が授ける奇跡です。ありがたみがなくなりますよ。神にとっても、妖精憑きが増えすぎるのは困るのです。だから、ある程度の数になると、ただの人が誕生するようになっているのでしょう」

「え?」

「ちょっと統計をとってみればわかります。ただの人が生まれたのは、妖精憑きが増えすぎたからです。妖精憑きが何故、増えすぎたか? それは、一族が傲慢な考えをしたからです。たぶん、いつからか、世界の覇者になろう、なんて考えたのでしょう」

「………」

「妖精憑きの血筋からただの人が生まれたのは、妖精憑きの傲慢の犠牲です。もう、この小国は、神の罰を受けるしかありません」

 だから、わたくしは妖精を殺せる子どもをこの世に生み出す。本当に、何でもかんでも、わたくしに尻ぬぐいさせるなんて、酷い神ですね。

 わたくしは大きくなったお腹を撫でる。もうすぐ生まれる。無事に元気な男の子が生まれるけど、その後はどうなるのか、わたくしは賭けるしかなかった。






 酷い目にあった。相手は死んだと思っている。そりゃ、ちょっと息が止まった、胸の鼓動だって止まった。本当に酷いこと。

 妖精憑きの小国は、もう、救いようがない。ただの人を使って、守りのなくなったわたくしを殺させたのだ。

 わたくしには、妖精は通じない。だけど、人のただの暴力は普通に受けられるのだ。わたくし自身は、かなり鍛えているので、普通の状態であれば、負けることはありません。

 だけど、さすがに出産後は、わたくしは無力です。

 わたくしの出産を手伝ってくれた妖精憑きも敵です。わたくしの子どもを持って、脅してきました。この女、ろくな死に方をしないでしょうね。

 そして、出産直後で弱っているわたくしをめった刺しですよ。どこまでやるの、こいつら。せっかく助けてあげようとしたのに、もう知らない。妖精憑きの血筋ごと、みんな死ねばいい。

 わたくしがいなくなったら、今後、ただの人は、あの森で死ぬしかない。そういうものなのだ。何も知らないただの人は、森で死んでいく。妖精の悪戯で迷わされ、そして、死ぬのだ。

 ただの人も妖精憑きも逃げていくのと入れ替わりに、王族の子どもキオンがやってきた。わたくしの惨状を見て、震える。

「そんな、こんなことに、なる、なんて」

 震えるキオンは、わたくしの側にやってきます。えい、捕まえた。

 恐怖に震えるキオン。ただ、お願いしたいだけ。リーシャだけは守って、それだけよ。

 お願い、リーシャはただの人なの。優しくて、騙されやすい、でも、人を見捨てられない子なの。あんな子は、不幸になってはいけない。幸せになって、リーシャ。

 神のバカやろう。わたくしだけにしてくれればいいのに。リーシャと、名前も決まってない子どもまで試金石だなんて、酷い。最後まで、最悪だ。

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