世界で一番幸せな人
ステージの上で、愛架は今日も歌って踊る。
いつからなのかは忘れたけれど、みんなの前で歌ったり踊ったりすることが好きだった。
愛架がそうするとみんなが笑顔になってくれたから。
ノリノリで手拍子もしてくれて、みんなが一つになっていく感覚が、愛架にとってたまらなく嬉しかった。
ウィンクすると、どよめきが起きる。声がどんどん大きくなっていって、愛架にも気合いが入る。
「みんなありがとう! これからも応援よろしくね~!」
次が最後の曲――。
***
「おーやってるやってる」
体育館に入ってきた男子が、ステージで踊る愛架を見て、声のボリュームを上げる。
昼休みの体育館には、たくさんの生徒たちがいた。
その中には、愛架目当てで来てる人もいる。愛架を嘲笑するのを娯楽として楽しむ人たちだ。
「毎日よくやるなぁ」
一人の女子が呆れたように呟く。その目は、ステージ上の愛架とそれを囃し立てる生徒たちに向いていた。
馬鹿にしたように手を叩いて煽る者。ゲラゲラ指差して笑う者。そんな反応を受けてなお、愛架ははつらつと歌い踊り続ける。
「みんなありがとう! これからも応援よろしくね~!」
愛架の発言で気付いた。
ああ、この子は違う世界にいるんだ。
それきり彼女は愛架への興味をなくして、体育館をあとにした。
ずっとああやって夢を見ていられたら、幸せだろうな。
彼女は、教室に戻ったらまた悪口言われるかもしれない、と怯え、中庭へと足を進めた。
彼女は愛架のようにはなれない。
それが彼女にとって、良いことなのか悪いことなのかはわからない。