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籠から出た小鳥

本編で影が薄かったシーウェル王グレンが今回主役です!しかも本編より長い話となりました。だいたい腹黒設定で大国の王様というのは私の大好物なのに本編では愛情注げずデールにかまっていましたが、今回はいつもの王道パターン満載で超好みに仕上がりました(笑)書き上げて見ればなんと本編より気に入っています。読んでいただければ分かると思いますが、同じく気に入って頂けると嬉しいです。

「それはあの返事か?」

 ここはシーウェル王国宮殿の王が座する王の間。今では海辺だけでは無く宮殿の中でも縦横無尽に闊歩している気ままな魔神ジャラが愉快そうに聞いた。そして白銀の長い髪と瞳の・・・ぞっとしてしまう程に麗しい貌が書簡を覗き込んでいる。

 シーウェル王国の若き国王カーティス・グレン・エイドリアンは、読んでいた書簡を膝に下ろした。

「エリカは怒っているだろう・・・目に浮かぶようだ・・・」

 グレンの憂鬱そうな顔を見たジャラは愉快そうに笑った。

「そなたのそのような顔、滅多に見られぬから我は愉快、愉快」

「貴方は楽しいでしょうが、私は最悪です。自分の口を縫い合せたい気分です」

「縫い合せたい?我がしてやろうか?」

 グレンは、ぎらりとジャラを睨んだ。

「気分と申したでしょう?して欲しいとは言っておりません」

 ジャラはその答えが気に入ったようでまた笑っていた。

 グレンは大きく溜息をついて、遠くのオルセンの地を想ったのだった。



 グレンの予想通り、エリカは怒っていた。

「アルフ兄様!それはどう言う事!」

 ベイリアル帝国の侵攻を阻止して、オルセン王国へ戻ったエリカは魔神サイラスとの契約解除に成功した。それによって魔神の主が王となる王家の規範は無効となり、エリカはまた王女に戻っていた。ただ昔と違うのは気楽な王女様では無く、王家の責任を持つ王女になろうと努力中だ。いわゆる父王と兄達を手伝っているのだ。

 事の発端は外国を飛び回って外交を主にしている第二王子のアルフが、先日の同盟会議の決定事項を持ち帰って来たことから始まった。

「どうもこうも無いよ。流石はシーウェル王と言うしか無いね。あの口の上手さは賞賛に値するよ。大多数が魔法にでもかかったように賛同していたからね。僕はもちろん怪しいと思って賛同しなかったけれど・・・・失敗した。今回は騙されそうな国王やぼやっとした王子ばかりだったからね。外交官か宰相ぐらいが来ていたらまだマシだっただろうけど・・・う~ん・・そうでもないか・・・やっぱりやられたかな」

「まさか、もう決定とか言うの?」

「決定だよ。そういう会議だったからね。だけどシーウェル王が言ったのさ〝これはもちろん強制ではありませんから皆様の意思におまかせします〟とまで言ったんだ」

「それならいいじゃない」

 横でもう一人の兄クライドが溜息をついた。

「エリカ、そう簡単な事じゃない。お前のそういう素直な心は美徳だが、政治は綺麗ごとでは済まされない。良いと言っても、駄目だと言う意味の場合もあるんだ」

「だってグレンは良い人よ」

 今度はアルフが大げさに肩をすくめて溜息をついた。

「エリカ、それこそ僕は君から聞いたシーウェル王の方が驚きだったよ。彼はそんなに甘く無いし、僕から言わせればベイリアルの帝王ゲルトと変わらない要注意人物と言って過言は無い。とにかく彼は油断ならない男さ」

 それぞれの意見を聞いていた王も決断をしなければならないだろう思った。従うか?従わないか?

「従うしかなかろう」

 王の言葉にエリカは息を呑んだが、兄達は頷いていた。

「お父様!でも!」

 エリカが意見を言おうとしたが王が手をあげて制した。

「魔神を擁するシーウェルと我が国は最も強固に結び付いておかねばなるまい?それがこの同盟の要であり、互いが反目すれば各国のこの微妙な関係は瓦解する。シーウェル王もそれが分かっているからこのような手段を講じたのであろう」


 この問題はシーウェル王の提案では無い。あくまでも各国が提案してシーウェル王に頼んだと言う形になってしまった。もちろんそういう風に話しの流れを持っていったのはシーウェル王本人だ。

 その内容とは同盟国の王子又は王女をシーウェルに遊学させると言う内容だった。遊学とは外聞で要するに人質のようなものだ。各国が同盟を強固にする為、もしくは裏切りを出さないようシーウェル王国に人質を出して牽制しあうと言う訳だ。反目するつもりは無いが、これにオルセンが同調しないとなると各国はそう思わないから問題は大きくなるだろう。仕方が無いことだった。

 それでもエリカは納得出来なかったが、話しは同意するという方向で進めると決定した。今からその件を大臣達と話し合うらしい。父王は兄達と相談してから王としての方針を決め会議にかけるのだ。エリカはまだこの親族会議までの参加だったが何も知らなかった時代より嫌な事もあるがやりがいもあった。


(ローザの時なんか本当に何にも知らないお姫様だったものね)


 エリカはそれを思い出すと反省するばかりだ。何も知らなかったから父親と恋人の諍いにも気が付かず手遅れになってしまったのだ。生まれ変わった今はそんな失敗はしたくなかった。

 そう思いながらエリカは会議室から出た。扉の外には中に居る王族の護衛官達が待機している。その中の一人がすっと動き、出て来たエリカの後ろに付き従った。彼は短髪の黒髪で瞳は空色―――魔神サイラスだ。

 エリカは魔神が加担したベイリアルの脅威が無くなるまでこの地に留まる事を決めた。封印の解けたエリカは記憶だけではなく全てが異界の者として変化し始めているのを感じていた。体に流れる時間が違うのだ。そうなれば何れは元の世界に戻らなければならないだろう。自分を含め異界の力はこの世界に必要無いと思っている。だから今は界の境目の結界を修復する術も探している最中だ。

「サイラス、その格好も板に付いてきたわね?大臣にでもなれば良かったのに」

 エリカは彼の前を歩きながら言った。

「会議室にいつも座っているようでは汝の傍におれぬ」

「ぷぷっ、デールなんかプンプン怒っているけどね。我が君にこんな真似させて――っ!とね?」

 サイラスはエリカの護衛官に身をやつし彼が魔神と言うのを知っているのは限られた人物だけしか知らない。一応変身してはいるが瞳の色はエリカの希望でそのままだ。

「そう言えばデールは?」

「ニーナの所に行っている」

 ニーナはエリカの妹だ。病弱で一度死に掛かったが魔神の力で再生していた。命の心配は無くなったものの病弱なのは変わらない。

「最近、ニーナがお気に入りみたいね。私も久し振りに行こうかな」

 デールがニーナを気に入っている理由。エリカには意味が分からないがデールに言わせればニーナと一緒にいると気持ちが良いそうだ。お気に入りの玩具でも見つけたかのように日参している。


「あら?ニーナは?」

 ニーナの部屋に行ったが見あたらなかったので侍女に聞いた。

「ただ今、散歩に出かけておいでですがもう直ぐ戻られるかと思います」

「そう・・・デールも一緒でしょうね。じゃあ庭で待ってようかな」

 今日は穏やかで暖かい日だった。外でお茶をするのは楽しいはずなのに、出されたお茶を一口飲んだエリカは大きな溜息をついた。

「何か問題か?」

 サイラスは先ほどからのエリカの様子が気になっていた。彼女を包む気が棘棘しいのだ。

「ん・・・そうね。問題と言えば問題だけど・・・私、またシーウェルに行くかもしれない。今度は長期かなぁ~と思って」

 その時、ニーナ達が丁度帰って来てその言葉を耳にした。

「姉さま、また何処かに行くの?」

「ニーナ!どう体の具合は?」

「姉さま・・・長期って、何故?」

 エリカはしまったと思った。ニーナに聞かせるような話では無いからだ。

「えっと・・・」

「誤魔化さないで。前も知らなかったし、私ばかり何時も除け者・・・」

「そういう訳じゃないのよ。ニーナに心配かけさせたく無いからで・・・」

 エリカは言いかかった言葉を呑み込んだ。ニーナはもう小さな子供では無いし、昔の自分と同じで何も知らないのも可哀想だと思った。

「同盟国がそれぞれ王子か王女をシーウェル王国へ遊学に出すように決まったの」

「遊学?」

「外聞はね・・・いわゆる人質」

「あいつ!やりたがったな!汚ねぇ――っ!結婚同盟を諦めたかと思ったら人質かよ!」

 デールが喚いた。彼もすっかり此処の住人のようだ。


「成程・・・」


 サイラスは全て理解したかのように呟いた。

「サイラス?あなたは賛成なの?」

 エリカが驚いたようにサイラスを見上げた。彼がまるで賛同しているかのように聞こえたからだ。

「―――はっきり言ってジャラのいるシーウェルと私のいるオルセンが飛びぬけて他国を凌駕していると諸国は思っている。となればその者達にとって同盟とは名ばかりで何時自分達が捨てられるか、吸収されるかと戦々恐々となっているだろう。だからシーウェルは逆に彼らを安心させる為に、目に見える同盟の保障のような人質をとってやる。そうすれば人々は安堵するだろう。それらを差し出している間はシーウェルが何もしないと。シーウェルからそう思わせられているとも知らずに―――」

 エリカは意味が分からなくなっていた。

「そういうものなの?」

「人という生き物は昔から心の奥底では強い力に隷属したがっている。無理やり従わされたと表では反発していても本心は安堵しているものだ」

 昔から醜い人々の抗争を見続けたサイラスの言葉は現実的だった。

「じゃあ、グレンは自分で憎まれ役を買っているという訳?」

「あの男の人心を操る匙加減は実に見事だ。考えはそれだけでは無いだろうが・・・」

「我が君のおっしゃる通り、あいつは腹の中で何考えているか読めないんだからな!きっと色々画策しているに違い無いさ!」

「デール!言い過ぎ!グレンは誠実でそんな人じゃ無いもの」

「あ~我が君、良いんですか?エリカのやつ、他の男を褒めて庇っていますよ」

「デール!」

 エリカはデールを叩こうと追い回そうとしたが、ニーナが彼女の腕を引いた。

「そ、それで姉さまが行くの?」

「ん・・・たぶん、私かなぁ~と思うのよね。兄様達のどちらかが行ったら大変でしょう?私は兄様達の代わりは出来ないもの。だったら私が一番いいもの」


「―――私が行く」


 ニーナがぽつりと言った。

「えっ?ニーナ?何言っているの?」

「わ、私がシーウェルに行くって言ったの」

「ば、馬鹿なこと言わないの!駄目に決まっているじゃない!」

「どうして?どうして駄目なの?私の体が弱いから?」

「そうよ。命の危険が無くなったって言っても無理をしたら・・・またどうなるか」

 ニーナは可憐な顔を歪めた。

「いつもそう!あれをしたら駄目、これをしたら駄目!何もかも駄目!駄目、駄目!最近になって庭を歩く事を許されただけのカゴの鳥だわ!ううん、鳥よりも悪い!許可無しに何も出来ないんだから!」

「ニ、ニーナ・・・お、落ち着いて・・」

 エリカはこんなに大声を張り上げて激しい口調で喋る妹を初めて見た。興奮させると体に悪いと言われていたからエリカはうろたえてしまった。母は特に過保護なぐらいニーナに構っていて、お転婆だったエリカは中々近づけて貰えなかった程だ。だからこんな妹にどう接して良いのか分からなかった。ニーナの言う通り彼女はエリカが飼っていた小鳥のようだった。触ったら駄目、カゴを叩いても駄目といわれていたそれは綺麗な羽と美しい鳴き声をじっと観賞するだけのもの。ちょっと触ろうとすると怒られた。ニーナもそれと同じだった。エリカは小さくて可愛らしい妹が大好きだったが、神経質な母のせいでいつも遠くから眺めるしかなかった。

「お医者様も徐々に体力を作りしていけば良いって言っていたのよ!わ、私、私だって何かの役に立ちたい!」

「おっ!良く言ったぜ、ニーナ。えらい、えらい」

 デールが手を叩いた。

「デール!煽らないでよ!」

「どうしてさ?本人がこんなにヤル気があるんだからいいじゃないか。だいたい過保護過ぎるんだよ。瀕死の重体患者じゃあるまいし」

「でも!まだ完全に健康体とかじゃ無いのよ!ニーナが死に掛かった時なんか・・・」


 エリカは涙が込み上げてきて言葉に詰まった。ニーナの命が消えようとしたのを思い出したのだ。そしてつらい出来事も・・・

「も、もう嫌っ!このまま・・このままだったら私!生きている意味も価値も無いもの!」

 エリカは叩き付けられた言葉に胸を突かれたようだった。真っ青になった彼女の肩をサイラスが、そっと抱き寄せた。

「ニーナ。それを言ってはいけない。汝の命がどうやって助かったのか知っているのか?」

「駄目!サイラス!」

 エリカが止めるように叫んだ。

「どういうこと?魔神が・・・貴方が助けてくれたのでしょう?」

 言うなというエリカを抑えてサイラスは答えた。

「確かに私が汝の命を救った。エリカが命じたから・・・私の力でも天命はどうすることも出来ない。出来るとすれば他の者の命との交換・・・私に自分の命を捧げる者は多くいる。その者の命を汝に使った。だがその方法を後で知ったエリカは自分を責めた。それなら自分の命を使うんだったと言った。自分が代わりになるから死んだ者を蘇らせてとまでも―――」

 ニーナは知らなかった事実に驚き瞳を見開いた。自分は魔神の力で助かったとは知っていた。しかし違う命の代価でそれは成されたとまでは知らなかったのだ。それなら心優しい姉がどれだけ心を痛めたのか・・・


「ご・・ごめんなさい・・姉さま・・・私、知らなくて・・・それに私の代わりに他の人が・・・」


「サイラス!どうして言ったの!こんな事ニーナは知らなくて良い事よ!」

 真っ青になった妹を抱いたエリカがサイラスに食って掛かった。

「けっ!また知らなくていい?それが嫌って言っているんだろう?ニーナはさっ!」

 馬鹿にしたように言うデールをエリカは睨んだ。

「デール!ニーナは体が弱いのよ!こんなこと聞いたら精神的にまいってしまうわ!」

「姉さま・・・いいの・・教えて貰って良かった・・・そうじゃないと私・・・また自分を嫌いになっていた。簡単に生きている意味も価値も無いとか言って・・・恥ずかしい―――私は今まで何も知らなくて、ううん、知ろうとする事も止められて・・・ただ毎日息をするだけの毎日だったのが悔しくて、悔しくて・・・だけど悔しくてもみんなの言う通り、体が言うこと利かなかったからどうすることもできなくて・・・で、でも今は違うから少しでも前進してみたいの。自分は生きているんだって感じたいの・・・私に命をくれた人がいるのならもっと頑張って生きたい」

 エリカはニーナも自分と同じ気持ちなのだと分かった。知らないのが幸せでは無いし、知らなくて後悔するより知っていてそれに立ち向かってから後悔する方がずっといい。

「ニーナあなたの気持ち良く分かったわ。お父様達に一緒に言いに行きましょう。一番の難関はお母様だろうけどね」

「ちゃんと自分の気持ちを伝えることから始めるつもり」

 ニーナは自分でカゴの外へ飛び出す決意をしたのだ。大きな不安と大きな希望を抱いて―――


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