メトレス・アン・ティトゥル 〜初の公式寵姫〜
「なぜ公式の場で、一緒にいられないのか、ですか?」
「うむ。何故、公式の場では、必ず王妃を伴わねばならぬのだ?わたくしの愛は、王妃になどない。それに、そなたと常に一緒にいたいのだ」
わたくしの愛人は、この国の国王陛下。ご生母さまに、前国王陛下とのお子ではない、愛人との子供よと宣言され……。深く傷付いた国王陛下は、しばらく無気力でいらした時期があられたらしいわ。
だけど、救国の乙女なる者の登場で、国王陛下は戴冠を果たされ、その手腕を発揮なさるようにまでなられたそうなの。
今はわたくしに甘い、ただの殿方でしかあられませんけれどね。
ダイヤモンドは、古来、男性しか身に付ける事が許されない宝石だったの。そんなダイヤモンドを賜り、わたくしは女性で初めてダイヤモンドを身に付けたのよ。
わたくしの美しい形の胸の膨らみを隠すなんて、何てもったいないのでしょう。そう思い、片方の胸が露出するドレスを考案し、それを纏えば喜んで下さったわ。
わたくしの美しい膨らみを隠すのが、どれ程惜しいかご理解下さって。露出を下げるよう進言もあったそうだけれど、その進言が聞き届けられる事はなかったのだもの。
それから、皆はわたくしのドレスに倣い、片胸出すドレスが流行っているのよ。
そう。わたくしは国王陛下のお気に入りの愛妾であり、宮廷のファッションリーダーなんだもの。
自分を美しく見せる事に制限なんてしないわ。陛下も、それで良いとおっしゃっておられるのだもの。
そんなわたくしにベタ惚れの陛下と、今夜も陛下に賜った城で楽しい時を過ごしていたのだけれど……
「そうだ! 国が認めた愛妾などどうだろう? それなら公式の場でも、そなたを伴えるようになるのではないだろうか?」
そんな前例のない事など……
「ふふ……っ。そうなれれば宜しいですわね」
その時は、何気なくそうお応えしたの。だけど、まさかねえ……?
◇
「はあ……。やっと、そなたを公式愛妾に出来た。これで公式の場でも、そなたを堂々と伴える」
「まあ?! 本当に?」
まさか、本当にそんな制度が認められるなんて……! 夢のようだわ!
それ以来、わたくしは宮廷舞踏会、各国の大使の歓待などといった公式の場でも、陛下のお側に侍る事が出来るようになれたの。
軍事会議にまでお供するのよ。ふふ……っ。
周りの目? そんなもの気にしていては、大きな魚を釣り逃しちゃうじゃないの!
だから、周りの目など気にせず、陛下のご寵愛を得る事に努めたわ。
それと、子供が産まれる度に、城や領地も賜ったのよ。産まれたのは、三人とも女の子だったわ。それでも陛下のご寵愛は変わらず、相変わらず仲睦まじい生活を送っているのだけど……
「陛下。ご政務をなさいませんと。ね? 今はまだ、百年続く戦の途中なのですもの。まだ気は抜けませんわ」
「む……。そうなのだが……。政務より、そなたとこの城におる方が心地良いのだ」
「まあ、それはわたくしも同じですわ。でも、また戦争にでもなれば、こうしてご一緒におれませんわよ?」
「それもそうだな……。仕方ないな……」
時々、ご政務を疎かになさる陛下をお叱りし、ご政務を熟して頂くように促すのもわたくしの役割なの。
ご一緒にいる分、そうした事も受け持つのは仕方ないわね。もっと気楽な立場なら宜しかったのにね。
敵も沢山いるわ。
中でも、陛下の王太子は怖いわ。
王太子はわたくしが……。いえ、母である王妃さま以外の女が嫌いなのだけれど、わたくしが特に嫌いなの。
だから殴られたり、抜き身の剣を持って追いかけ回された事もあるのよ……
ああ、恐い……!
◇
そんな事もありつつ、相変わらず陛下のご寵愛はわたくしのもの。
四人目を妊娠中、そんな体を押して、陛下の遠征に同行していた時の事よ。
がたーっん!!
「お…お腹……っ、イタ……っ」
「アニー?!」
わたくしは倒れたそのまま、出血が止まらず、苦しんで生を終えたの……
それでも、飽きられて捨てられるよりマシかしらね?
わたくしは、この国で初のメトレス・アン・ティトゥル。公式愛妾。
そんな制度を作る程のご寵愛を賜り、その深いご寵愛を賜ったまま旅立てたのですもの……
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モデルは、フランス王シャルル七世の公式寵姫アニェス・ソレルです。
シャルル七世は、ジャンヌ・ダルクが仕えた王さまです。