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メイド、働きます②

 どうやら登録を拒否されているらしい。グロリアは困ったことになった、と思った。

 戦う力は十二分にあると自負しているが、剣士や魔導士といったそれらしい肩書きがないと冒険者にはなれないらしい。

 メイドさんが書類でつまずいてるぞ、と周囲から好奇の視線も集まってくる。


「いったい何を手こずってんだい?」


 そのとき、カウンターの内側から別の誰かの声がした。

「チーフ!」と受付の男は後ろを振り返る。そこには浅黒い肌をした黒髪美女が立っており、彼女は場の様子を見るなり、プッと噴き出した。


「ぷっはは、なんだ、メイドさんかい! いいねえ! 最近の冒険者ってのは、これぐらいバラエティに優れてた方が飽きないよ!」

「ちょ、ちょっと、チーフ……声でかいですよ……!」


 女はギルドのスタッフというより、酒場の豪快な女主人といった方がよさそうな雰囲気だ。

 どうやらギルドスタッフの中では偉い方らしい。

 彼女は男とグロリアの間に割って入ってきた。


「書類の職業欄でつまずいてんだろ? だったらこっちが融通きかせりゃいい、ほら、これで」

「ああっ、そんな、勝手に!」


 女は用紙と羽ペンを奪うと、職業欄のタイトルのところを『特殊職業(エクストラジョブ)』にしてしまう。

 男はあんぐりと大口を開けてその蛮行を見つめる。

 女は用紙を持って、やはり勝手にこの場を後にしていった。


「それじゃあ、書類はこれで受理しておくよ。よい冒険を――メイドさん!」


 と、豪快な笑い声をあげながら。


「えー……今ので書類は受理されてしまいました。これで登録申請は終了です。ブロンズ・ランクの冒険者として今後はご活躍ください」


 取り残された男はため息がち、グロリアにそう言う。

 グロリアはやや呆然としながら、「ありがとうございます」と無難に返事をする。

 登録料も支払い、これで無事に(?)冒険者としての一歩を踏み出せた。

 グロリアは席を立ち、さっそく皆が集まっている依頼受注書が張られたボードを見に行こうとした。が、そこをまた男に止められる。


「っ言い忘れてましたが、ギルドは単独(ソロ)行動禁止、必ず最低4人以上のパーティーに参加されてからクエストに挑んで下さいね!」


 釘を刺されるように言われた内容にグロリアはまた不意を突かれた。


 最低4人以上のパーティー!?


 その人数は、自分が勇者時代、一緒に旅をしていたメンバーの数だ。

 ロバート、大分根に持っているな……、という感想と、突きつけられた条件に、むむ……、と小さく唸る。

 男は面倒を見る気はないようで、順番待ちの相手に対応を始めてしまった。

 グロリアは周囲を振り返る。

 そこに、ぴゅるり、と口笛が響く。

 チンピラっぽい冒険者たちが、ロビーのラウンジからグロリアを囃したのだ。


「よ〜う、俺たちのパーティーにこねえかメイドさん」

「俺たちのお食事とアフタヌーンティーをご用意して頂く仕事があるぜぇ、ヒャハハ」


 などと妄言をのたまう。さらにロビーへ視線を回す。

 まともそうな冒険者パーティーの人々は、目が合うなり視線を逸らされた。

 どうやら、見てわかる外れクジとしてみなされているようだ。グロリアは誇りを持ってメイドの仕事に勤しんでおり、他の職業に鞍替えするつもりはない。だが、冒険者というのは見た目である程度の実力を測られてしまうらしく、グロリアには他になすすべがなかった。


 ここにきて、仲間とは。皮肉なものだ。

 当時のグロリアは、仲間というものを大事にできなかったせいで地位を追われた。

 そんな自分に、仲間などできるものだろうか……。


「おーい! そこのメイドさーん!」


 考えていたグロリアは、突然かかった明るい声に少し驚いた。

 声をかけてきたのは、よく日焼けした肌の、白い鉢巻きをした女性。

 ホットパンツで露出した格好は健康的で、軽い身のこなしが特徴の戦闘職だろうか。

 まだ少女とも呼べそうなあどけない顔でにこにこ笑うと、彼女はグロリアに向かって、


「ボクはニーナ! お姉さん、見たところ未だにソロでしょ? ウチのパーティー、今欠員でて3人なんだ。あなたが入ってくれたらすごく助かるんだけど……」


 心を読まれたかのような申し出だ。

 いきなりのことに内心少し戸惑いはあったが、早く冒険者として働きに出たい一心でグロリアは了承した。「ええ、お世話になります」「え、マジ!? やったぁ~!」と彼女は飛び上がらん勢いで喜ぶ。

 彼女はグロリアよりも背が高いが、まるで振る舞いは子どもみたいだ。

 ニーナはグロリアの手を握ると、どこかへ走り出す。


「実はもうクエストに出発する直前だったんだっ。自己紹介は道すがらってことで!」


 ニーナはギルドの外へ飛び出し、一台の荷馬車の近くまで走った。

 そこには二人の男女が立っている。

 一人はおとなしそうな少女。肩までのふんわりした髪型をしていて、抱えている大きな木製のスタッフが目立つ。

 もう一人はムスッとした顔の青年。こちらは茶髪のポニーテールで、狩猟に使われる弓を装備しており、機敏な雰囲気を纏っている。

 彼らは御者と何か揉めているようだった。


「もっ、もうすぐ来ると思うんですけど……!」

「スミマセン、もう少し待ってもらってもいいスか」


 その目の前で、ニーナはグロリアと一緒に馬車に飛び移るように乗車する。

 「は!?」「え!?」と二人の驚く声が重なる。


「ごめん、御者のおじさん! もう出発してくれていいよ! それからルカ、ニコラ、朗報だ! 新しいメンバー、メイドさんゲットだぜ!」


 ニーナは明るくそう言って、グロリアを紹介する。

 「よろしくお願いします」とグロリアは頭を下げて、まずは彼らを伺う。

 彼らはメイドの姿に戸惑っている。


「やべぇ、言いたいこと百通りぐらいあるけど時間がもったいねぇ……」

「ぐ、具体的な挨拶とかは、馬車の中でしよっか、ね、ニーナちゃん?」

「そうだそうだー! だから早く乗った乗ったー二人とも!」

「うるせぇ! 元はといえば遅れたのはお前の責任だろうが!」


 御者が大きく咳払いをする。

 御者の機嫌を察して、青年と少女もまた馬車に乗り込んだ。


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馬車を使えるって事は冒険者は仕事によっては稼げるのですね。 この世界の馬車は揺れて痛くなるタイプだろうか?
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