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戦いのフラグ②


「魔法が使えない魔導士(ウィザード)ォ?」


「ああ、しかもそのことを指摘すると、そこのリーダーに辞めさせられるんだとよ! 相手が幼馴染みだからって理由で!」


「こないだ抜けたっていう剣士(セイバー)もぼやいてたぜ。魔法で攻撃なり支援してほしいのにそれすら見込めねぇんだ、置いててなんの意味がある、ってな」


「指摘したやつが悪者になっちゃうんじゃたまんねーなー」


 ルカは耳まで真っ赤になって、ぶるぶる震えている。大きな瞳には涙を溜めて。

 グロリアは 必死で涙をこらえているルカの肩を抱いた。彼女は木のスタッフにしがみついて、やっと立っているというような様子だったからだ。

 ニーナが歩き出した。

 黙って彼らのついているテーブルに近づくと、片腕を振り上げ――ゴンッ!!と拳を叩きつける。

 まっぷたつ割れるテーブル。ひっくり返る酒に食事と、男たち。


「ってええええ! 何しやがんだぁ!!」


「………仲間を貶めるやつは許さない! どんなやつだって、絶対に、だ!!」


「上等だコラァ!!」


 ひとりの男がニーナに掴みかかろうと腕を伸ばす。

 それが間違いだ。


「はぁっ!」


 ニーナは出された腕をとると、男の全身を宙に浮かし、思いきり叩きつける。騒音を立ててテーブルがまたひとつ割れた。


「どうした! 早くかかってこいッ!」


 拳闘士(ファイター)に素手で掴みかかるのは危険行為だ。

 そう知った男たちは次々と武器を抜く。

 物騒すぎる気配。

 グロリアはルカを守りながらも、腰の短剣へと手を伸ばしかけた。

 そのとき。


「店で何しやがんだァァァァァァァァ!! テメェらぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 店の奥から、すさまじい怒声が響く。

 向き合うニーナと男たちははっとなって振り返った。

 そこには店の親父が仁王立ちで立っている。こめかみには青筋が盛り立ち、血走った眼をギョロリとさせながら睨みつけてきた。

 ニーナたちはいっせいに青ざめた。


「ランチタイム中のクソ忙しいときに騒ぐんじゃねェェェェェェェェェ!! ブッ殺されてぇかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 店主は、この世のものとは思えない叫び声をあげて、ブンブンと包丁を振り回す。


「ひっ、ひぃぃ!」


「ごっ、ごめんなさーい!」


 店の親父のあまりの剣幕に、ニーナも男たちも床に膝をつき、必死で頭を下げ始める。


「テメエら冒険者がちいと気性荒いのは知ってるがなぁぁぁぁぁぁ!! ちと限度てモンがあるだろうがぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


「すみませんすみませんすみません!」


「宿の方もいつでもテメエらなんざ放り出せるんだからなぁぁぁぁぁぁぁ!! 覚えとけよぉぉぉぉぉぉ!!!」


 さんざん喉に悪そうながなり声をあげると、店の親父は厨房に戻る。

 シーン……とホール内は静まり返った。関係ない客まで、親父の剣幕に圧されていて、気の弱い客の中には泣いている者さえいた。

 さすがのグロリアもドン引きする怖さだった。

 魔王を倒した勇者をここまでビビらせられるものも珍しい。


 ヒートアップした空気が収まっても、ニーナたちと男たちは険悪なままだった。

 「ケッ!」と向こうの誰かが悪態をつく。


「今ので白けちまったが……やり場がねえぜ、このままじゃ」


 ニーナはフンと鼻を鳴らす。


「こっちの台詞だ! おたくらとはシロクロはっきりさせたいよね!」


「そしたら良い考えがあるぜ」


 一人の男、彼らの中で一番巨漢で、リーダー格の男がにやりと笑みを浮かべる。


「今度、王都じゃブロンズ・ランクの昇格をかけたトーナメント戦があるんだ。

俺たち鋼の栄光(メタル・グロウ)も当然エントリーするぜ。……決着はそこで、ってのはどうだい」

 グロリアが何かと考える前に、ニーナが返事した。


「ああ、いいさ! ボコボコに叩きのめしてやる!」


「ヒャーッハッハッハ! いい意気だなあ、ボコり甲斐がありそうだぜ!」


「トーナメントはお友達ごっこじゃ通用しないぜぇ~?」


「メイドさんもな!」


 また大爆笑。

 ニーナはキッと彼らを睨みつける。


「後悔するのはそっちだぞ! 勝つのはボクらだ!」

「なんだぁ、自信たっぷりだなぁオイ」

「そんなに勝つ気マンマンならペナルティつけようぜ」

「お前らが負けたらパーティーの名前を『ガチンコ最強メスゴリラ軍団』にするとかな」

「ああ、いいぞ! どっちにしたってボクらは負けないからな!!」

「え……」

「ニーナちゃん………」


 激昂するニーナには、仲間の声など耳に入らないらしい。

 勢いで勝負が成立してしまった。

 満足して帰っていく『鋼の栄光(メタル・グロウ)』の人々。


「……あれっ、あいつらのペナルティ決めてないよね!?」

「……問題はそこじゃないよ、ニーナちゃん……」


 ルカは泣いていた。

 さっきとは違う意味で。


「どうしよう……大変なことになっちゃった……」


 おろおろするルカ。

 その様子を見てグロリアは訊ねた。


「ランク昇格トーナメントなんてものがあるんですね」

「そう、一定の実績を積んだパーティーにはギルドが直接ランク昇格を認めることもあるんだけど、他の方法ではトーナメントで優勝するっていうのもあるんだ! 今度王都でブロンズ・ランクのトーナメントをやるって発表されたばかりでさ、やる気のあるやつらは皆奮い立ってるところ」


 ニーナはやる気十分といった様子で拳を鳴らす。


「でも、まだ私たちには早くないかな? それに、私……足手まといになっちゃう……」


 不安そうにスタッフを掴むルカ。

 魔法の使えない魔導士。グロリアはその言葉を思い出し、彼女に訊ねる。


「ルカさんの魔法のことなんですが……」

「それは……」

「あーっ、その話なら後、後! 早くギルドに書類出しておかなきゃ、ニコ坊もきっと待ってるよ!」


 言いかけたルカを制してニーナは書類を掲げる。

 そして、店を後にしようとしたところ……。


 バンッ。また店の奥の扉が開かれた。

 

「テーブル弁償していけやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! お前らぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「ひぃい! ごめんなさ~い! 払います払います~!!」

「ああ、ルカさんがあまりの恐怖で気絶を……」

「きゅぅう………」


 恐るべし。店の親父。



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グロリアの教授で強くなるとか、経験値分配があった場合はパワーレベリングで強くなるとかなら良いけど、グロリア一人の強さで優勝とかなら、グロリア以外の強さに合わないランクになりそう。 因縁着けてくる冒険者…
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