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ーー次の日。
今日もまた部活の時間が来た。
日課のように俺は両腕いっぱいに封筒を持ち落とさないように外廊下を歩く。
今日は依頼が入ってなくてたぶん部活は暇になるだろうな。
なんて事を思いながら嫌でも耳に入る蝉の合唱を聞いて隣の棟に入った。
1番手前の部室に半開きになった扉を足でこじ開け、机の上に手紙を乗せる。
「陽向さん、今日も今日とてすごい人気ですね」
俺の声を聞いた陽向さんはパイプ椅子から立ち上がり机の上を見た。
「でしょ〜! にひひっ」
白い歯を見せ照れたように後頭部をさすった。
俺は肩を竦め机の下に落ちた封筒を拾い上げる。
「あ……」
「ん? どうした?」
拾い上げた封筒の1つに見覚えのある名前が綴られていて、声を上げると陽向さんも俺の手元を覗いてきた。
「これ安藤くんじゃん!」
テンションが上がった陽向さんは俺から手紙を奪うように取ると、さっそく開き始めた。
俺自身手紙をちょくで貰ってるわけじゃなく、教室の後ろに作られた『東雲陽向宛ボックス』という名のダンボールの中に入れられてるのを持ってきてるためわからなかった。
「どれどれ……」
手紙を開き陽向さんが音読し始めた。
「『探偵部のおふたりへ
昨日は依頼を受けてくださりありがとうございます。凛とはあれから相談し、親と学校の先生に言うことにしました。これでいじめが無くなるかなんてわかりませんが、行動あるのみだと思ってます。
本当に感謝申し上げます。
安藤 光より』」
読み終わると少しだけ開いた窓から涼しい風がヒューッと入ってきて机の上の封筒がバサバサと落ちた。
人に感謝されるってこんな嬉しい気持ちになるんだなぁ。
朗らかな気持ちで俺は手紙を拾い上げると、陽向さんは窓を全開に開き、また封筒が落ちた。
「だあ!! 折角拾ったのに何してくれるんですか!」
「いや、暑くて」
真顔で言われ、俺は大きくため息を吐いた。
俺の朗らかモードを返せ。
封筒を拾うのを諦め、机に収まってる椅子を引き出し陽向さんの前に座る。
「で、今日は何をしますか?」
「んー、それじゃあ、今日は答え合わせとしよう」
「答え合わせ?」
オウム返しで聞き返すと陽向さんは大きく首を縦に振った。
「昨日の事件。玲音は凛ちゃんと出会う前に安藤くんの彼女が凛ちゃんと気づいてたようだけど、その確信をもった部分を知りたくて」
そう言えば、俺の言葉に地味に反応してたっけ。この人。
「わかりました。説明しますね」
俺はコホンっと1度偉そうに咳払いをして、口を開いた。
「あれはですね。自販機に一度行った時に会ったからわかった事です。彼女はショート髪で自殺未遂をした中学生。
ショート髪は見たままで、中学生というのもセーターとリボンの色でわかりました」
「それじゃあ、自殺未遂の部分は?」
緊張感をもった面持ちでいつもより声を潜めて聞いてくる。
「ヒントはセーターです。初め会った時はただの寒がりかと思いましたがぶつかった時あの子の汗が俺のワイシャツについてしまいました。そんなに汗をかいてるなら寒いわけが無い。それなら脱げばいい。
でも、脱げない理由がある。
それはーー」
俺は少し間をあけて核心部分をゆっくり告げた。
「ーーリストカットです。恐らく自殺未遂とはリスカで大量出血をはかろうとしたのでしょう。半袖だと跡が見えるのでセーターを着て隠してたんだと思います」
陽向さんは余程驚いたのか口をポカンと開けて目を見開いている。
「ま、あくまで考察ですけどね」
そこまで言い、背もたれにだらしなく寄りかかり両手足を「んー」と伸ばして脱力すると陽向さんはスタンディングオベーションをしだした。
な、なに? 大袈裟すぎじゃない?
「素晴らしい! さすがは我が助手! 人間国宝級!」
「えっ!? それはないですよ!?」
そんなに褒められると照れくさい。でも、悪い気もしないため複雑な心境で苦笑を浮かべ頬をかいた。
「ただ、あの子がなんで高校の方に来てたかはわかりませんが……」
調子に乗ったのか余計な事まで口走ってしまうと、陽向さんはゴッホンと俺がやったみたいな咳払いをした。
「ーーその考察は僕が答えよう!」
「え、わかったんですか?」
バカにするように聞くと、陽向さんはわかりやすくムッとした。
「わかったし! 名探偵の僕からしたらこれくらいお茶漬けさいさいだ!」
おちゃのこさいさいですけど……なんて言うとまた話が長くなりそうだからやめとこう。
「凛ちゃんがここにいたのはもちろん、安藤くんに会いに来たんだよ。いい争いの中で『いつか相談しようと思ってた』って言っててそのいつかは昨日だったんだよ。そうじゃなきゃ、中学生がわざわざここまで来ないでしょ」
「な、なるほど……」
意外と的確でまともな推理に驚きを隠せなかった。
陽向さんは胸を張りふふーんと満足そうな笑みを浮かべてる。
「いやぁ、陽向さんって意外と考えるんですね」
「意外って何!? 意外って!」
陽向さんは両手を握りしめ俺に抗議の声をあげる。
この人ってなんだかんだ人をしっかり見てるんだよね。
俺は「ははっ」と笑みを零すと陽向さんは口を尖らせて「むーっ」と唸った。
「それじゃ、喧嘩を止めなかった理由もついでに教えて貰えますか?」
俺が聞くと、陽向さんは顎に手を当てて考える仕草をとった。
深く頭を下げ、たっぷり考えるとボソッと呟いた。
「な、なんとなく……」
「なんとなくなの!?」
思わずタメ口で聞き返してしまうと焦った様子で言葉を付け足した。
「あ、いや! その、僕が言うのもなんだけど、あの程度の喧嘩で破局するなら所詮その程度の関係だった。みたいな一種の賭けというかなんというか」
「それで、2人を信じてみた……と?」
陽向さんはコクッと頷いて苦笑を浮かべる。
でも、一理ある。あの程度とか言うと失礼だけど、もしこの先も長く付き合ってくなら喧嘩はつきものだ。
そうなれば、自分達の事は自分達で解決しなくてはならない。
陽向さんはあの短時間でそこまで考えて止めなかったのか……
止めようとしてた俺はまだまだ詰めが甘かったな。
今だけ心の中で陽向さんを過大評価すると、陽向さんはいつもの様に封筒を鞄の中に詰め込んでいて、俺もそれを手伝った。
そんなこんなで今日の部活動はこれにて終了し、陽向さんのリクエストで2人で駅地下のパンケーキを食べに行った。
……いや、そろそろ甘いの飽きた。




