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俺の挙手に陽向さんは首を縦に振り、安藤さんも藁にすがるような目で何度も首を縦に振った。
「俺の推理はあくまで安藤さんにとってはまだいいように捉えることは出来ると思いますが、そしたら彼女さんはかなり辛い思いをされてるでしょう」
「ど、どういうことですか……?」
一抹の不安からか、安藤さんの呼吸が微かに荒くなる。
「俺は、こう推理しました。1つ目の証言からは陽向さんと同じで会えない理由があるから。
違うのは2つ目からで、髪を切ったのは切らざるを得ない髪型にされた、もしくは追い詰められた。
そして、3つ目のストラップの件は取られた。捨てられた。もしくは、取られないように自ら外した。
つまりーー」
俺は小さく空気を吸った。
「彼女は“いじめられてる”」
一言一言をしっかり聞き取れるような声で結論を告げた。
「ひゅっ」という息を吸う音が聞こえ、安藤さんは顎をガクガクさせ目を見開いている。額からは汗が滲み首筋に伝った。
「う、嘘だ……」
「あくまで俺の推理です。気を悪くさせてしまったのなら申し訳ありません」
膝に手を付き深々と頭を下げる。
すると、今まで黙って聞いていた陽向さんが口を開いた。
「安藤くんの彼女ってここの中学生だっけ?」
「はい。そうですけど……」
「んじゃ、確かめるっきゃないっしょ」
ポッケの中からスマホを取り出しポチポチと何かを打ち、耳に当てた。
しばらくその状態でキープしている。
「あ、もしもし? さくちん? 僕だよ僕」
言い方がオレオレ詐欺っぽいが、非通知じゃない以上本人ってわかってもらえるだろう。
「だから僕! しーのーのーめー、ひーなーたっ!」
わかって貰えなかったようだ。
「今、依頼受けててさくちんからも聞きたいことあるからスピーカーにするね」
耳からスマホを離し一度ボタンを押すと机の上に置いた。
「もしもし、さくちん」
『ん〜? 聞きたいことってなぁに〜?』
電話の向こうからは優しげな少女の声がこちらに聞こえてくる。
さくちんこと東雲咲音ちゃんは陽向さんの妹でこの学校にいる中学2年生の子だ。俺も何回かあった事がある。
「あのね、中学生の間でいじめとか聞いたことない? 特に中3の中で」
『いじめかぁ……どうだろ……女の子のいじめは陰湿なものが多いからさ〜』
サラッと怖い事を言われ俺達全員表情を強ばらせた。
ないなら、ないで言い切ってしまえばいいのだが断言できないくらいの可能性は微かにあるのだろうか。
『あ、でもね〜、1個だけ聞いたことがあるんだけど〜、1週間くらい前から中3の中でかなり酷いいじめがあるらしくて〜、そのいじめられてる人が自殺未遂したらしいよ〜』
「「「え……」」」
時が止まったかのように俺達は固まった。
スマホから咲音ちゃんが『おーいー。大丈夫〜?』と言ってるのが聞こえるが喉がカラカラで声が出ない。
ショート髪に……自殺未遂……中学生……まさか……
「あの子か……」
「あの子……?」
俺の呟きに陽向さんが反応したのとほぼ同時に安藤さんは真っ青な顔で立ち上がり、教室から飛び出した。
その行動を見て俺と陽向さんも急いで立ち上がった。
「さくちんありがと!」
『う、うん〜。よく分からないけど頑張ってね〜』
陽向さんはスマホの通話を切りポケットにしまいながら教室から出て俺もその後を追う。
17時を知らせる町のチャイムが鳴り響き、それに負けないくらいの蝉が鳴いてる中、外廊下を走った。
しばらく走っていると、俺が初めの時お茶を買ってた自販機のところに安藤さんが立っていて、その前に俺とぶつかったセーターの女の子が立っている。
あ、やっぱり……
「光くん……」
「凛……どうして何も言わなかった」
震える声で安藤さんが言い、凛さんと呼ばれる少女は口をキュッと閉じて目線を落とした。
手が微かに震えている。
「聞いたんだ。お前がいじめられてるってこと。なんで早く言ってくれなかったんだよ!」
興奮からか口調が荒くなり責め立ててしまっている。
「心配かけたくなくて……でも、いつか言おうと思ってたの!」
「心配かけたくないって……俺はお前より年上だ! もっと頼れよ!」
お互いがお互いを思うばかりに言い争いがヒートアップしていてこのままでは本格的な喧嘩になってしまう。
「あ、あの……」
「しっ」
俺が仲裁に入ろうとすると陽向さんが右手の人差し指を立て制止させさせられた。
俺は素直に半歩下がり言葉をぐっと飲み込んだ。
「大丈夫。2人は大丈夫だから」
2人の様子を見る限り大丈夫だと確信は持てないが、陽向さんの優しい微笑みを見ると大丈夫なんじゃないかと思えてくる。
そんな陽向さんの2人を信じる思いが通じたのか、段々と2人の空気が柔らかくなり、最後にはお互い謝って終止符を打つ事が出来たっぽい。
「陽向先輩、玲音さん。ありがとうございました。お世話になりました」
「ありがとうございます」
2人は落ち着くと俺達に向き直り深々と頭を下げた。
心做しか言いたいことをめいいっぱい言えてスッキリした表情をしている。
「いいってことよ! この名探偵陽向様にかかればこんなところよ!」
鼻をさすり、ドヤ顔で胸を張っている。
子供っぽいその仕草に俺と安藤さんと凛さんで笑い合い、陽向さんは不思議そうに俺達を見た。
「それじゃ、失礼します」
「さようなら!」
軽く手を振り安藤さんと凛さんは仲良く帰っていき、俺達はその後ろ姿を見えなくなるまで見守った。
「さぁてと! 僕達も帰ろっか」
陽向さんは後頭部に両手を添えながらニッと笑みを浮かべた。
真夏の太陽に負けないくらいの明るく暖かい笑みに思わず俺も釣られて笑みを浮かべていた。
「そうですね。帰りましょうか」
俺達は荷物を取りに部室の方へと一旦歩みを進めた。
「玲音くんに飲み物奢ってあげたから、駅前のパフェ奢ってよ!」
「なにJKみたいなこと言ってるんですか」
「だって、パフェ食べたいんだもーん!」
「仕方ないですね」
こうして、浮気かもしれない事件は無事解決したのであった。




