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5 冤罪劇

 そして今日、3年生は卒業式を迎えた。


 午前中に卒業式を無事に終え、午後からは卒業パーティーとなっている。

 サイドリウスはバニラをエスコートして入場してきた。会場からの奇異の目は、笑顔で見つめ合うサイドリウスとバニラには感じることはできないようだ。そして、バニラの笑顔に蕩けそうな顔をしているアリトンとユーティスとビリードにも周りの視線が意味するところは届かない。

 キリナートは所用により遅れていたので、エスコートの件を知らなかった。


 キリナートは入場には間に合わず、開会の言葉の最中に後からそっと入っていつもの定位置であるサイドリウスの少し後ろに控えた。そして、サイドリウスの隣がマリンではなかったことに落胆した。しかし、パーティーの席であるのでそれを顔には出さなかった。


 キリナートが来たことを受け、バニラがサイドリウスに小さく頷いた。そして、6人で舞台へと上がることになった。キリナートは戸惑ったが、ビリードに背中を押され訝しみながらも付き合った。


 そこからキリナートを唖然とさせる行為が始まった。


「マリン、メルリナ嬢、エマ嬢、シルビア嬢、前へ来てもらおうかっ!」


 サイドリウスが声高に4人の令嬢を呼びつけた。ご令嬢たちは前へと進んだ。4人のうち3人のご令嬢の目は若干厳しく見えるが、扇でうまく隠しているので舞台の上の者たちには見えていない。


「マリン・ナタローナ! 私は、王家の名の元に、お前との婚約は今ここで破棄とする。そしてこれから、お前たちの卑劣な行いを公開し、猛省と謝罪をさせる!」


 マリンは公爵令嬢として美しい所作で一歩前へ出た。


「婚約破棄は承りましたわ。

しかしながら卑劣な行いとは……。いくら殿下は王家であれ侮辱されることは矜持が許しませんわ」


 マリンの美しい声は怒鳴っていなくとも会場中に聞こえた。マリンは胸を張って堂々としており、マリンの1つ年上のサイドリウスより威厳を感じる。誰から見ても完璧であった。


「私の婚約者であることを笠に着て、バニーに散々悪口を言っていたなっ!」


 逆にサイドリウスはツバを撒き散らす勢いで怒鳴り、話の内容も幼稚だった。


 マリンは呆れ返ったが、表情には出さずに反論しようとした。


 しかし、それよりほんの少し早くビリードが言い募った。


「姉上。あなたが選民意識の固まりだということはイヤというほど知っていますよ。僕だけでは留まらずまさかバニーにまでそれを振りかざすなんて!

そんな女は、淑女とは言えない!」


 マリンは目を細めてビリードを故意的に睨んだ。ビリードは一瞬たじろいだ。が、バニラに袖を引かれ我に返るように姿勢を正した。


 マリンが息を吸い込み発言しようとすると、また遮られた。


 今度はアリトンが声を張り上げた。


「エマ! お前にも罪はあるぞ」


 アリトンは片方だけ口角を上げ、相手を貶し落とすことを楽しんでいるかのようだ。

 競うではなく完全なマウント状態だと信じているので『優越感』を感じているのだろう。


「まさかお前が他人の教科書を盗み破損させるような事をする女だと思わなかったよ」


 エマは眉を寄せた。アリトンのこんな下種な笑い方を見たことがなかった。


「ふんっ! 誤魔化せるとでも思っているかっ! 教科書を抱えて走り去るお前の姿は何人も見ている。その後すぐにバニーの教科書の紛失が発覚した。そして、焼却炉でこれが見つかったよ」


 アリトンが誇らしげに半分焦げた教科書らしきものを掲げた。エマはわざと扇を外してため息をついた。


「なっ! お前っ!」


 エマのその態度にアリトンが苛立った。そして、エマが言葉を発しようとした。それはユーティスに遮られた。


「シルビア。君も大概だねぇ。風魔法でバニーを階段から落とすなんて卑怯なことするなんてさぁ。

僕の魔法は君なんかよりずっと強力だから、助けることは簡単だったけどね。学園では魔法使用は記録されるんだ。そんなことも知らないの? まぬけだとは思っていたけどさぁ」


 ユーティスはニヤニヤとしながら嫌味のように言葉を紡いだ。

 シルビアはユーティスの下卑た笑いに嫌悪感を抱いた。

 それでもシルビアが焦ることもなく口を開く。しかし、それはサイドリウスに遮られた。


「キリ! お前も言ってやれっ!」


 こうして冒頭へと戻る。


 キリナートは舞台を駆け下り、呼び出された淑女たちの隣に立ち、舞台上のサイドリウスたちと対決姿勢を見せたのだった。


〰️ 


 興奮気味にそれぞれ勝手なことを言った男たちに向き合ったキリナートは、まずその中でも高位であるサイドリウスに声をかけたのだ。


「殿下。いや今は友人として、サイラスと呼ばせてもらうよ。

サイラス。君は本当にこの状況を理解しているのかい?俺から見たら、ちがうな――、お前達以外の者から見たら、お前達は異様だぞ」


 サイドリウスはキリナートの言葉が信じられず、目を見開いてキリナートを見た。サイドリウスだけではない。バニラもアリトンもユーティスもビリードも驚きを隠せていない。


 しかし、キリナートからすればそんなに驚かれることはしていないと思っている。驚いているのはキリナートの方だ。


「お前達の婚約者の方々への暴言は勝手だが、俺に『お前も言ってやれ』とはどういう意味だ?なぜそんな誤解をされているのか――全くわからない」


 キリナートは両腕を胸の前で組んで、眉を寄せ訝しんだ顔をした。舞台の5人は顔を見合わせて何が起きているのかを確認しようとしていたが、誰もわかっていない。


「サイラス。ここでのその行い。普通じゃないと思わないのか?」


 サイドリウスは口をポカンと開けた。しばらくして口をパクパクさせたが、混乱しているのか声にはなっていなかった。


「サイラスにはまた後で聞くからいいや」


 キリナートはどうやら答えられない様子のサイドリウスを後回しにすることにした。

 サイドリウスは馬鹿にされたように感じて、少し苛立ちを見せたが、キリナートの行動に発言を戸惑っていて、どうするのが正解なのか考え倦ねているようだ。王族らしく少しは危機回避能力はあるのかもしれない。


「アリ、ティス、ビリー。君たちに聞きたいんだけど」


 3人は顔を合わせる。アリトンが代表して答えた。


「なんだ?」


「バニラ嬢の肩を抱いているのは――サイラスだよね」


 3人の視線が一度サイドリウスの手に移る。サイドリウスはバニラを離さないとでも言うかのように強く抱いていた。

 3人はキリナートに頷いてみせた。


「つまり、現在はバニラ嬢の恋人? になるのかな? 『仮恋人』はサイラスだよね?

としたら、君たちはバニラ嬢の何なの?」


 バニラに対する3人の立場を問うたキリナートの言葉に、一瞬ポカンとする3人。質問の意味を理解すると、みるみる顔を赤くして怒りを顕にした。


「キリ! 私達を侮辱するのかっ!」


「キリさん! 貴方だって同じ立場だろうっ! 何言ってるの!」


「キリナートさん。バニーの幸せを望んでいないのですか?」


 3人はキリナートへの不信感を次々に口にした。


「いや、侮辱はしてない。本当に疑問なだけだ。

同じ立場とはどういう意味だい? さっきも言ったけど、どうしてそう誤解されているのか理解できない。

バニラ嬢が不幸になることは望んでいないが、幸せを望むほどの関係ではないよ」


 キリナートはキョトンとしながらも、3人の質問に的確に答えていった。

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