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3 アリトンの籠絡

 ユーティスは生徒会役員であった。生徒会は3年生3人と2年生1人―秋に世代交代するので、交代時は2年生と1年生である―で構成されている。

 その頃、生徒会役員はサイドリウス、アリトン、キリナート、ユーティスだった。


 ユーティスはバニラに強請られて、生徒会室へバニラを連れて行くことになった。


「転入してきたばかりなので、学園に慣れるためにも生徒会のみなさんのお手伝いをしたいのですっ!」


 バニラがそう言うので、サイドリウスも断る必要もないと考え了承した。


 2週間ほどするとバニラがクッキーを焼いてきた。


「疲れには甘いものがいいんですよぉ。寮のキッチンで私が作ったんです。食べてくださぁい」


 生徒会役員たちと仲良くなったバニラは、生徒会役員たちと生徒会室でランチをとるようになった。


〰️ 


 ある日の夕方いつものように、アリトン・ガルバーブが図書室へ行くと、バニラが本を取ろうと背伸びをしていた。


 その様子を見たアリトンは『クスリ』と笑い頬にかかる自分の灰色の髪を耳にかけた。そして、そっとバニラに近づくと、バニラの後ろから手を伸ばし本を取ってあげた。


 バニラはびっくりした様子で後ろを向いた。そして、上目遣いでアリトンをジッと見た。バニラの大きなヘーゼルの瞳とアリトンのキリリとした薄い藍色の瞳は、お互いを離さなかった。そして、アリトンはとても近くで見たその可愛らしい仕草にドキッとした。


「ア、アリトン様。ありがとうございます」


 バニラがアリトンの制服の裾をキュッと握る。瞳はアリトンに向けたまま、頬がピンク色を濃くした。

 それから恥ずかしがるように下を向いた。その時、裾を掴んでいた手も少し下げられた。


「おっと」


 引っ張られるような形になったアリトンが数センチ前に行き、さらに二人は近くなった。


「あ、ごめんなさい」


 再びバニラは上を向き、アリトンと見つめ合う。バニラは裾を掴んでいた手をアリトンの胸に当てた。でも、押すわけではなく今度はバニラが数センチ近くに寄った。まるでキスをするような距離だった。

 アリトンが慌てて離れた。距離に動じたのではなく、自分の鼓動の激しさをバニラに知られることが恥ずかしくて距離を置いたのだ。


 誤魔化すように灰色の長めの髪を自分の耳にかけ直した。


「はい、これでいいのかな?」


 アリトンはバニラが取ろうとしていたであろう本をバニラに渡した。


「はいっ! ありがとうございます!」


 本を見て一瞬びっくりしたバニラは、綻ぶような笑顔をアリトンに向けた。アリトンは先程までの妖艶な瞳と天真爛漫な笑顔とのギャップに、胸の鼓動を抑えることができず視線を彷徨わせた。


「わぁ! アリトン様は難しそうなご本をお読みなんですねぇ」


 バニラがアリトンが手に持っていた本を見て感心したように言った。

 そしてバニラは、アリトンの隣に立ちアリトンに自分が持っていた本を持たせて、アリトンが読もうとしていた本をバニラがめくるような体勢になった。バニラの頭がアリトンの鼻の近くになる。名前の通り、バニラのようなチョコレートのような甘い香りが、アリトンの鼻孔を擽る。アリトンは知らず知らずに、バニラのチョコレートの髪に鼻を近寄らせていった。

 ほんの数秒だろう。しかし、アリトンを朦朧とさせるには十分な時間だった。


「すごーい! 私ではちっともわからないわぁ。アリトン様はステキですねっ!」


 バニラはその頭の位置のまま、上目遣いでアリトンを見た。アリトンの目はすでに垂れ下がっている。

 

「これくらいは、当然だよ」


 アリトンはそう言いながらも、嬉しそうに口角を上げていた。


「当然じゃないですよっ! アリトン様はとってもとってもとっても頑張っていて、すごいですよ!」


 バニラの勢いのすごい褒め言葉に、アリトンは目を見開いた。


 アリトン・ガルバーブは侯爵家の次男で父親は宰相であり、兄はすでに宰相補佐官をしている。婚約者のエマ・セイミシェルは侯爵家の一人娘で、エマの父親は最高裁判官だ。

 アリトンは婿養子になる予定であった。


 アリトンはかなり優秀で入学してからずっと首席か次点かという成績であった。そして、エマも優秀で、いつもアリトンと首席を争っていた。そのことを、エマは切磋琢磨していると思っていて、アリトンは圧力をかけられていると思っていた。

 エマは、エマ自身も頑張っているのでアリトンに労いの言葉をかけることはなかった。アリトンもまた、エマに労いの言葉をかけることはない。


 バニラはアリトンとの時間のために何度も図書室へ赴いた。

 そして二人になると、アリトンの肩に頭をコテンと乗せて呟いた。


「アリトン様は充分に頑張っているわ」

「頑張りすぎないで、アリトン様の体が心配だわ」


 アリトンはエマも頑張っているということをすっかり忘れ去り、自分はもっとゆっくりすべきなのだと考えるようになった。

 それとともに、バニラとの距離も近くなった。いや、距離が無くなった。


 夏休み前のテストでアリトンは10位以下だった。


 エマがアリトンの元へと行く。


 エマは黄緑色の髪はいつもキレイにアップされていて乱れはない。大きなダークブラウンの瞳は少しだけ吊り目で、キツ目の印象は否めない。真面目な彼女は、女が成績上位であることへの誹謗中傷と嫉妬に対していつも心の中で戦っていた。彼女にとって、将来、アリトンを支えるために必要な知識だったので、まわりに何を言われても頑張ることは止めなかった。


 そして、アリトンが落とした成績の中ではエマはダントツの首席であった。


「アリトン様。どこか、お具合でも悪かったのですか? 最近お帰りも遅いと伺っておりますが……」


「首席だからって、大きな態度をするな。勉強だけがすべてではないだろう? 私は生徒会も忙しいのだ!」


 アリトンはクラス中に聞こえるような声で怒鳴った。そこまで感情を見せる姿も珍しい。


「そうですのね。しかし、これからのことを考えますと知識は必要なものですわ。夏休み明けには生徒会も終わります。

復調なさることをご期待しておりますわ」


 エマにしては精一杯の励ましであった。

 しかし、アリトンは上から言われたようで気に入らなかった。実際にエマが上であったことは、すでに頭から消えていた。


〰️ 


 夏休み、ユーティスは家には学園へ魔法の訓練に行くと言ってバニラの寮の部屋へ行っていた。夏休みなので寮監はおらず、バニラの同室者は帰省していた。


 アリトンは家には図書館へ行くと言ってバニラを市井へと誘った。二人きりになる店へと足繁く通っていた。

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