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10 バニラの罪

 動けなくなった4人の男たちを必死になって奮い立たせようとするバニラの姿は、女子生徒からは滑稽に見え男子生徒には哀れに見えた。


 そこに突然、新たな声がかけられた。


「バニラ嬢、君には聞きたいことがある」


 いつの間にか淑女たちの後ろに美丈夫が立っていて、その者の声であった。

 その美丈夫はキリナートと同じレッドブロンドの髪を少し伸ばし後ろにきっちりとなでつけられており、目はサイドリウスと同じ濃いめの紫眼で切れ長で少しだけ吊り目である。大変整った容姿は、キリナートに似ているがキツめの目尻が精悍で、大人の色香を撒き散らしている。その姿を見ただけで女子生徒たちは黄色の声を上げていた。


 その美丈夫の傍らには学園長がいる。


「捕まえろ」


 美丈夫の一言で舞台上に近衛兵がなだれ込みバニラを捕縛した。

 4人の男たちにも2人ずつ近衛兵がついた。こちらは捕縛ではなく、もしもの時の押さえ係のようで、彼らに触れはしなかった。


「兄上……」


 キリナートはその美丈夫に目線を落とすだけの会釈をした。


「あちらは片付いた。乱入してすまないな」


 その美丈夫ジュナールはキリナートの兄で現騎士団隊長である。ジュナールがキリナートへ向けた笑顔で、話までは聞けぬ女子生徒の数名が気を遠くした。


「いえ、俺が止められずにすみません」


 2人が小声で話しているところに割り込みが入った。


「ジュナール! 貴様にそんな権限があるわけがないっ! 俺は王太子だぞっ!」


 サイドリウスが怒鳴りだしたので、近衛兵はサイドリウスを掴んだ。サイドリウスは近衛兵の手を振り解こうとするが、近衛兵は離す素振りもない。


「サイドリウス殿下。これは国王陛下の命です。あなたにそれを覆す権限はない。

それに――」


 ジュナールが更に目を細めた。サイドリウスは一歩退いた。王子であろうと騎士団隊長の眼力には耐えられなかったようだ。


「あなたが王太子であるという事実はない。あなたは王位継承権第1位だったにすぎないのです」


 ジュナールはサイドリウスに丁寧に説明した。サイドリウスは一瞬呆けた。そして、内容を理解したのか、怒り心頭の様子の顔で暴れ出した。


 サイドリウスに合わせるかのように、他の者たちも暴れ始めた。バニラなどは醜く罵る言葉を喚いていて、さすが元平民だと納得されていたほどだった。


 すると、サイドリウスの後ろにいた魔道士が魔法でサイドリウスたちを束縛した。サイドリウスたちは耳は聞こえるが暴れることも話すこともできない状態になった。


「ふぅ、静かになったな」


 ジュナールはまるで虫けらでも見るような目で5人をチラリと見た。


「あなたたちの過ちはすでに報告を受けている。卒業パーティーの邪魔にならぬよう別室にて断罪を行う予定だったが、それより先にさらなる罪を重ねたようだな。

王城にて陛下がお待ちだ。

連れて行け」


 ジュナールの指示で5人は近衛兵に連行されていった。


 キリナートはジュナールからこの5人と婚約者の3人―キリナートの婚約者メルリナは含まれない―を別室へ連れてくるという指示を受けた。そのための部屋の準備をしたりしていて、パーティー入場に間に合わなかったのだ。


 しかしキリナートが促す間もなく、男たちからご令嬢方への冤罪による断罪が始まってしまった。なので、キリナートはこの場で行う決心をしたのだった。


「内密に済ませたかったよ」


 5人の後ろ姿に向かってのキリナートの呟きは、断罪された男たちに聞こえなかった。


 学園長が卒業パーティー再開に動き出した。卒業生にとっては災難だったが、いつかこれも思い出となると思いたい。


 キリナートはパーティーが再開されたことを見届けると、バルザリドとともに3人のご令嬢を連れて王城へ向かった。

 メルリナのことはバルザリドの恋人に任せることになった。



〰️ 



 王城の一室に通されたキリナートたちが丸テーブルにつくと、メイドがお茶を4つ用意してくれた。バルザリドはキリナートの後ろの少し離れたところに控えている。


「昨日、お話をいただけて助かりましたわ」


 マリンたちはキリナートに頭を下げた。


〰️ 


 卒業式の前日、マリンたち3人は家族とともに騎士団団長邸に呼ばれた。そこで、サイドリウスたちの最近の態度の事や、王家も含めてそれぞれの家がそれを把握していること、3人の気持ち、などが話し合われた。


『陛下から許可を得ている。明日の本人たちとの話し合いで、君たちの思うように判断して構わない』


 騎士団団長からの言葉を受け、それぞれの家で相手の出方やその時々の対応について話し合われた。

 そして今日3人は、彼らの態度を見て婚約破棄を決断した。ビリードについては、マリンがサイドリウスと婚約破棄しなくても前日の時点で養子縁組破棄が決定していた。マリンの父親である公爵閣下は大変憤っており、すでに養子縁組破棄の手続きは終了している。


〰️ 


 マリンたちの言葉にキリナートが頭を下げた。


「いえ、俺の力が足りず穏便に済ませることができなかったことは、申し訳ない」


 そんなキリナートをマリンが慌てて止めた。


「キリナート様、おやめください」


 マリンとエマとシルビアは、キリナートの行動にとても戸惑っていた。


「あなた様がお心をくだいてくださっていたのは充分承知しておりますわ。

キリナート様方のご配慮も慮らず愚行を行ったのは、彼ら自身ですわ」


「そうかもしれないが……」


 4人はなんとなく俯いてしまった。


『コンコンコン』


 バルザリドが扉を開けにいく。バルザリドが頭を下げて迎え入れたのはジュナールだった。4人は立ち上がり、女性たちはカーテシーでジュナールを迎えた。


 一言二言言葉を交わし、ジュナールを含めて5人がテーブルにつき、バルザリドを残して人払いがされた。


 ジュナールはなんとも言えぬ顔で話を始めた。


「簡潔に言うと、魅了魔法の類いの効果のある食べ物を摂取させられていたようだ」


 ジュナールの言葉に3人は瞠目した。キリナートは予想通りだと思っていた。キリナート自身は、バニラ手作りのクッキーやお弁当、バニラが淹れたお茶などは一切口にしていなかった。男4人も止めようとした。聞く耳を持たなかったのは彼らだ。


 最初は4人の男たちもバニラを訝しんでいた。それが徐々におかしくなっていったのだ。


「ただし、簡単に感知できないほど1つ1つは微量なのだ。さらに食べ物であったため、体の周りに張られた防御魔法も効かなかったようだ」


 キリナートは途中まではクッキーは捨てていた。しかし、どうも怪しいと思い、それをジュナールに預けた。しかし、最初に預けられた研究員は、クッキー1つだけを検査したため、感知に至らなかった。

 キリナートが溜めておいたクッキーを一度に検査して、やっと感知できたのは一週間前であった。その後、会議やら対策やらと時間が過ぎていった。

 バニラだけでできるような犯行ではないと判断され、おいそれと動くことも情報を流すこともできなかったのだ。


 マリンたちに、彼らの断罪を行う予定であるという話ができたのは、卒業式の前日になってしまった。

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