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クレバイト〜8つが支配する世界〜  作者: キィ
stage1ー始まりの大地
2/3

2話ー初仕事

 帰り道、不運にも小鬼の群れに遭遇した。

 小鬼は集団でいることでその恐怖を何倍にも膨れ上がらせるのは言うまでもないが、走りぬけることでそれを回避することは可能だ。

 問題は俺が今追われている状況で、その群れのど真ん中に出てしまったこと。

 森を抜け出すまでは、棍棒の猛威が背後から迫った。


 町に着く頃には見る影も無いが、俺の背に生まれた服の破けた後と、紫色に血が澱むアザが実際に起こった悲劇だと知らせる。

 俺はまた、奥歯をかまされる。

 そうして、憎みを外に曝け出す。


小鬼(ゴブリン)め、覚えてろ」


 その時、自分の感情のせいで瞳には見えないフィルターがかかっていた。

 故に気づけない。

 小鬼にすら怯えてしまう自身の手に。

 握りしめていたはずの短刀はスルリと地面に落ちそうになるが、その原因に気づけないでいると、不思議に思う。


「結局、稼ぎはゼロか」


 悲壮の現実は思い描いていた以上に過酷だ。

 今日は大人しく町に帰ろう。


 ****

 寂しい後ろ姿に森と町の出入り口を見張る門兵は声をかけられなかった。

 町で通りすがる人々は雨にただ濡れるその少年に一つ声をかけようか一瞬悩むが、即座にそれを取りやめた。

 見かける様子は明らかに絶望している。

 しかし、それを奮起させる言葉が誰の頭にも思い付かなかったのだ。


 そうして行き着くのは路地裏。

 人気が全く感じられないそこは建物同士が互いに生み出す虚構空間といっても良いぐらいにはひっそりと存在していた。

 そこでは壁伝いに歩くだけで濡れる心配がないため、取り敢えずで歩いていた。


 階段が現れる。

 濡れない階段だ。

 路地裏には珍しい広間を通るとそこに着いた。

 疲れた体を休めるのには丁度いいだろうか?

 腰を下ろしてみると、意外にも気が休まった。

 ソワソワするよりも、じってしている方が焦りは募るが今日は朝からたくさん動いた。

 今はこうしていよう。


 やる事もない俺は袋から持ち物を全て取り出した。

 段上に並ぶのは魔物と戦う際の武器である短刀。

 かつて自分を拾ってくれた今は亡き母親からの光るお守り石。

 そして、銅貨3枚……


「これだけかよ」


 我ながら呆気に取られた。

 まさか、2週間食っては寝てを繰り返すだけであれ程のお金が一瞬で消し飛ぶとは。

 人間はやはり動き続け無ければならないのか?

 仕事を辞めると言うことは、それ相応の覚悟が必要だったか……


 そんな時、ふと横を見た。

 本当に偶然の行動だったが、そこにはペタペタと怪しげな広告紙が3枚貼られていた。

 1枚目は人探しの紙。

 そんなの他所でやってくれと1人愚痴をこぼす。

 2枚目はこれまた迷惑、ペットの魔物探し。

 本当に、依頼はギルドに持って行けよと思わずにはいられない。

 そして最後、3枚目。

 あったのは、怪しげな求人チラシ。


『人員募集!』

 ・誰でもできる簡単お仕事!年齢は問わず!

 ・回数性!一回につき金貨10枚!

 ・場所はこの裏入り口にあるバー!

 ・詳細はマスターに一言声をかけるだけ!


「なんだよこれぇ…… 胡散クセェ……」


 でも、やっぱり考えてしまう。

 今は金がなくて切迫詰まった崖っぷちの状況。

 明日を無事に迎え入れることすら叶わないかもしれないから、どんな仕事でも受け入れることが大事なのかもしれない。

 う〜ん。

 でも、やはり怪しいことには変わりない。

 お金を取るか、己の安全をとるか悩ましい。


「……はぁ。行くか」


 結局、俺は行く決断をした。

 その後、壁の裏に回ると目立たない入り口があった。

 その扉に指をかける。


「おじゃましやーす」

「………」


 中は無言だ。

 1人、店員らしい奴が居るけど、それ以外は誰も。

 そうか、まだ店を開けるには時間が早いから俺が一番乗りなのか。

 返事のない室内に入ると慣れた店の常連を装い、カウンター席に座る。

 この行動に特に意味はない。

 強いて言うならバーと言うお店に対する童心の憧れだろうが、その時椅子が高いのと、身長の小ささが重なってしまい、上に上手く飛び乗れなかったのは隠しておこう。


 苦労して席に座ると、白い布でグラスを磨くマスターの顔が再び顔を覗かせた。


「なぁ、アンタが裏の壁に貼ってある仕事の仲介人か?」

「………」


 男は俺をチラリと見た。


「………動機は?」


 なんだ?

 いきなり面接か?

 嘘をつけば断られたり、仕事をするに足るか品定め的な?

 一瞬の間に考えることは多い。

 まず、前提条件として情報が少なすぎるんだ。

 無口は困るとぶつぶつ念じながらも、取り敢えずは正直に話す。


「明日を生きるのに金が足りねぇんだ」

「……」

「マジなんだ、頼むよ……」


 無言の会話に弱気になると、下から見上げた。

 これは、ダメかな?

 表情だけじゃ伝わらない。

 俺が瞬きをした瞬間、男の口は動いた。

 その初動には集中していても気づけず、なぜ喋り出したか不思議な程。


「……今日の夜11時。もう一度ここに来い」


 遅い。

 子ども1人で出歩くには危険な時間帯だ。

 しかし、断ると言う線もない。

 取りあえす受理された要求内容は確かめなければ。


「なぁ、俺は何をさせられるんだ?」

「………詳細は全てこの紙に記してあります。今ここで読んだら私に返してください」

「ほぉーい」


 俺はその紙を受け取った。

 この場での返却を要求すると言う事は、何か危険性を孕む内容なのだろうか?

 読めば分かるか。

 しかし、読み進めていくと不安は余計煽られた。


「げ、奴隷運びかよ。これ、本当に大丈夫なのかぁ?」

「………止めるますか?」


子どもに対する大人の反応とは思えない敬語は優しくそれを聞く。

別に強制されているわけではないが。


「や、やめねぇけど……」


 仕方ない。

 明日を生きるために受け入れよう。

 覚悟を決めると内容を頭に入れ込む作業に入った。

 すると、目の前からスッとオレンジ色の液体が入ったグラスが出された。

 果物の香りが仄かに漂う甘い匂いだ。

 空腹だった俺はつい反応した。

 普段だったらここでお金を出して飲みたいところだが、今日は生憎お金とは疎遠。

 苦渋の選択を強いられた。

 スッと前に押し返すしかないのだ。

 しかし、マスターは首を横に振って差し出し返した。


「俺、金ねぇぞ?」

「サービスです」


そうか、サービスならいいのではないか?と一瞬安心した。

だが、危ないところだ。

ここは雰囲気的に大人の来るお店。

扱う飲み物はお酒のみだと相場が決まっている。

また断ろう。


「俺、酒飲めねぇぞ?」

「果物ジュースです」


そうか。

合法的か。


「ふーん。じゃ、もらう〜♪」


 俺はそれから暫く、そのジュースを飲みながらそこに居た。


「なぁ、そういや俺、もうどこにも行くあてがねぇんだ。夜までここで寝てていいか?」

「………お好きに」


マスターは相変わらず変わらぬ表情だ。

グラスを丁寧に磨き上げ、空気に溶ける様な返答を示した。

俺は読み終えた紙を折りたたむとそれを返す。


「ほーい。じゃ、この紙返すから寝るわ」


 仕事の内容が記載された紙をカウンター越しに手渡しすると、俺は横長の椅子に横たわって寝た。

 椅子は硬く寝心地はいいとは言えない。

 見上げた天井にはクルクルと回るプロペラがある。

 幸いいいと言えたのは、心地良い香りが部屋じゅうに漂っている事だ。


 ****

 目が覚めると、見覚えのない光景だった。

 周囲から少し食べ物の匂いがする不思議な天井。

 そうだ、俺はバーで寝てたんだ。

 それに気づくと身体を起こす。

 周りを見渡せば、周囲には何の変化もなかった。

 そこで見る光景は、変わらず白い布でグラスを拭くスーツ姿の男。

 俺が起きたのには気付いていないのか?


「よぉ、起きたぞ」


 すると、マスターは手元の動きを止めた。

 そして、壁に架けられた時計を見る。

 その針は、残り半分で時間が来る事を知らせてくれた。


「……ご案内します」


 男はカウンターから出て来ると俺を連れて店の奥に向かった。

 向かった先は、季節絡みで今は使わない暖炉。

 横から押すと、大きな地下通路が出来た。


「下はこの町に張り巡らせれている地下通路に繋がります」

「へぇ」


 この闇の先に俺の金が待ってるのか。

 それにしても行動を共にする相棒がいるって書いてあったが、奴隷を運ぶ人って言うのはどう言う奴なんだろうな?

 急に不安感を覚える。

 でも、行くしかない。

 まずは深呼吸、そして、ゆっくり足を動かした。


 俺が中に入ると、後ろからは入り口が閉まる音がした。

 そして、周囲にはロウソクが灯す灯りだけが残る。

 俺は覚悟を決めてその階段を下った。


****

 次第に明かりが強くなってきた。

 そして、着いたのは広い空間。

 まるで洞窟みたいだった。

 地下通路と言うだけあってか広間から繋がる無数の通路は底知れない奥行きを見せた。

 所々どころ扉大の大きさの穴があるが、その奥は一室分くらいの空洞が奥に続くだけ。

 まるで、昔誰かが住んでいたみたいだ。


 広間に入って気づいた事。

 入ってすぐに分かる先には二頭の馬が壁際に設置された小屋に閉じ込められていた。

 見た目は馬小屋そのもの。

 横では、1人の男が馬の世話をしていた。

 俺が来たことに馬達が気づくと、男も気付いて近寄ってきた。

 見た目は若そうだ。

 奴隷を運ぶ仲間という前情報を照らし合わせると最初は怯えてしまうが、どうやらイカツイ野蛮人では無さそうだ。


「お前が聞いてた新入りか。確かに若すぎる気もするが…… まぁ、手伝ってくれるならそれでいい。時間まで少しぶらついててくれ」

「おぉ……」


 どうやら今日の旅にお供、即ち相棒と以下称すが、彼で間違い無いらしい。

 心の中では安心できそうな相棒を前に少し安堵した。

 それにしてもぶらつく様な場所ではないんだがな。

 見渡すと刺々しい天井が囲んでいる地下の空間。

 見栄えするものはあまり無かった。


 ****

 時間を無駄に過ごしているうちに、頭は無駄なことを多く考え始めた。

 自分は果たしてここにいて良いものなのか。

 現状、閉じ込められたと言っても良いこの環境で衛兵が突入を図れば逃げ惑う暇もなく即座に捕まってしまうのではと。

 不安は次第に募り、ため意地が溢れる。


「はぁ……」

「おい、どうした新入。これから初仕事が控えてるんだ。しっかりしてもらわねぇと、俺も危ないんだからな。ヘマするんじゃねぇぞ?」

「分かってるっつーの」


それを今一番危惧していた。

言われずとも恐ろしい事だ。

相棒は呆れ顔で言った。


「全く、これだから若い奴は。足だけは引っ張ってくれるなよ?」

「おう」


 俺のお供は見た目の割に老人くさい事を俺に言うと、これからの仕事の最終確認をしにさっきやってきた少し先にいる人攫いのリーダーのところに向かった。

 だから、残された俺はこっちで馬車の最終確認。


 えっと、仕事内容は今夜この国を出ることと、明日の夜までに隣町まで行くこと。

 だから、この金具をスピード寄りにして、耐久を少し落とすっと。


「こんなもんか?」


 その時、人攫いと一緒に奥からやってきたデブジジイが俺の耳元で大声を上げた。

 因みに、身長も俺と大差ない位には小さい。


「バカもん!これじゃ、後ろの奴隷達が乗る鉄車との連結が道中に外れて大損だ!」


 このお腹を丸々と肥やした豚みたいな奴は、俺でも知ってる大貴族。

 その名は、アブタル。

 へっ、名前までブタが入ってるじゃねぇか。

 どうやらまだぐちぐちと言ってる。


「全く、だからワシは反対なのだ。臨時の手伝いのこんなガキに、こんな事を任せるだなんて!」


 コイツはこの町でも有数の極悪人だろう。

 貴族の権威を振りかざし、奴隷を地方に売り払う。

 任意の奴隷所持はこの国では犯罪と識別されている。

 しかし、権力はこの国でも王族の次に来る立場故、例え気づいたとしてもみんな見過ごしている。

 その脅威的な資金調達に俺たちは利用される。


 俺は本来加担するべきでは無い。

 危ない橋を渡ればそれだけリスクが付き纏うと言うことをこのわずかな人生ながら少し学んでいた。

 だが、明日を手に入れる算段がない以上、ここに頼るのに尽きる。

 もしかしたら給料に目が引かれたということもあるが。

 まぁ、そういう訳で未だ自分が行う犯罪に便宜上決心はつけても、認めてはいなかった。

 出来ることならこの悪人を腰の裏側に巻き付けた短刀で1掻きしたかった。

 誰にでもある正義感って奴だろう。


「………」


 後ろに手を伸ばしていつでも攻めることができるよう構えはしたが、まぁ流石にやらない。

 お金がもらえなくなるしな。

 俺はその時、ただじっとアブタルを見つめた。

 アブタルは俺のそも態度が気に食わなかったのか、睨み返して来る。


「なんだガキ?何故ワシを睨む?お前、ワシが気に食わんのか?」

「いや、別に……」


 どうせ何か言っても上から嫌なことガミガミ言われるだけだ。

 減給されても困る。

 ならばと今はそっと構えを解いた。


「そうであろうな。ワシはこの国の貴族。言うなれば、お前達搾取される豚の前では王に等しい。今に見ていろ?これで大儲けを続け、いずれあの早死に王族の覇権を奪ってやる!フフフ、ハハハ!」


 何かを勘違いしたか、アブタルは途端に得意げな態度を見せた。

 そうやって夢を語ってゲラゲラと笑ってるが、お前の太った身体の方がよっぽと搾取されれてる側だぜ。

 でも笑う理由は夢、か。

 それは、俺が持っていない大事な物。

 そうか、お前は俺らよりよっぽど豚で、俺よりよっぽど人間なんだな。


「へぇ、それがあんたの夢か。頑張れよ」

「生意気なガキめ。当たり前だ。これはワシの、女神から提示された人生の予定の様なもの。もはや、絶対事項なのだ!」


 せっかく応援したのに、またバカにされた。

 予定は未定。

 絶対事項なんてないと思うが、まぁいいか。

 でもそうか。

 アブタルにとって、今語ったのは夢にはならないのか。

 夢ってなんだろう。

 そもそも


「俺の夢って……」


 そう思ってると、奥から今夜の俺の相棒がやってきた。


「よぉ。待たせたな」

「遅いぞマルクス!お前が遅いせいで、此奴の手際の悪さを見て気分を害していた!」


相棒はそれには申し訳なさそうに頭を摩った。

アブタルは続ける。


「だが、謝ることはない。お前はいつもこの仕事を最後までやり切り、帰ってくる。今回も期待しとるからな!」

「ああ。旦那が金さえ払ってくれれば、俺はいつ何時でも、仕事を受ける」


 どうやら相棒はアブタルとかなり長い関係を築いている様だ。

 急に相棒が頼もしく見えてきた。


「ね、あんたこれ何年やってるの?」

「ん?そう言われると、考えるな」


 困らせてしまった。

 しばらく黙って俯いている。


「3年だろ?」


 アブタルは呆気なくその答えを言った。

 相棒もサラッとしてた。


「そんなもんだっけ?」

「そうだ。ワシは、ワシとの関係ある人の行動を忘れん。3年と言ったら、それが事実だ」

「だそうだ」

「へぇ……」


 驚愕の事実。

 こんな陰湿な、ろうそくしか立ってない様な暗い空間に通い続けて3年?

 俺は今回きりにしようと思ってたけど、案外いけるもんなのか?

 そういえば、この仕事は月に一回程度って聞いたな。

 それで、見返りは貴族の払う大金?

 相棒が三年続けれて嫌そうな顔一つしてないってことは、アブタルも意外と気前のいい奴なのかもな。


「俺も頑張る」

「当たり前だ!ワシは戻ってきた奴には金をきっちり払うから、しっかり仕事をしてこいよ?」


 当然、金がもらえなきゃ困る。

 でも逆に言えば、今は金さえもらえればなんでもいい。

 まぁ、殺し以外でだけどな。


「おう」


 それから少しして、遠くから車輪がゴロゴロと回り動く音が闇の向こうからしてきた。

 やがて、鉄の塊は姿を現す。


「お、来たな」


 相棒が向こうを見たから、俺も釣られて見てみた。

 すると、でっかい鉄の箱がやってきた。

 それには中を覗く窓が外から見当たらず、普通の人から見ると中身はわからないようにできていた。

 だが、闇に生きる奴らには特別らしい。

 俺も実際に聞いて、今見るまでは、それがなんなのか分からなかった。


「これが今回の商品か?」

「そうだ。それに、今回は上玉が多い。特に、桃色の髪を持つ2人の姉妹のうち姉の方。そいつは今までで一番魔力量が多い!しかも、“光”持ちだ!」

「おぉ。そりゃ、向こうのお客さんも嬉しがるだろうさ。何せ、光は傷を癒す」

「その通り。全く、今回もいい儲けだ!フフフ、ハハハ!」


 また笑ってやがる。


「旦那、それで妹は?」

「フン!」

「?」

「能無しだ。だから、もしもの時の最優先は姉の方。このガキの様に小さくて見分けがつけにくいなら、リボンを付けている方を守れ。忘れるなよ?」

「旦那の頼みだ。引き受けた」


 そう言うと、相棒は鉄車に近寄る。

 そして、凹みに手をかけると上に押上げ、中を覗ける窓を作った。


「へぇ。これが今回の商品。確かに女も多い。お、あれが今回の特別だな?よし、覚えた」


 すると、こっちをみてきた。

 ん?なんだろう?


「おい、新入。お前もこいつらしっかりみとけ。仕事だからな」

「へい」

「返事はハイだ!」

「はい……」


 少し怖くなった相棒の方に近寄った俺は、同じ様にして窓を作り中をのぞいた。

 中では30人ほどの人間が目に闇を宿していた。

 まるで、光を忘れているかの様に目が死んでいるのだ。

 両手両足には枷がつけられ、鉄の壁面に繋げられている。

 あそこに座ってる大男なんかは頭も縛られてる。

 そうだ!ピンクの髪の子が上玉って言ってたな。

 暗くてよく見えないが、目をよく凝らした。


「あ……」


 こちらを見つめるただ1人、その桃色の髪を持つ少女と目があってしまった。

 なんて紅い目なんだろう。

 まるで闇で燃える業火のようだ。

 隣にいる子が妹かな?

 少し大きい気がするが、リボンをしてないし。

 どうやらその兄弟は俺とかなり近い年頃に見える。

 あんなに髪も綺麗なのに、売られちゃうのか。

 かわいそうだな。

 でも、奴隷って言うのはこう言うものか。

 人の大切なところに価値を作り、誰かに売る。

 今回は俺の金のためでもある。

 助けてやれなくてごめんよ。

 その目を振り切って蓋をする様に窓を閉じた。


「どうだ?これが奴隷だ。販売場に出る前の奴隷を見たのは初めてか?」

「あぁ」

「そうか。じゃ、こいつを馬車に繋いで行くぞ」

「ああ……」


 遂にか。

 さっきの馬が引く馬車の後ろに鉄車を繋ぐと、俺たちは馬車の前の方に座る。

 相棒が操縦、俺が警戒役だ。

 アブタルは最後、俺たちを見送る。


「それじゃ、気をつけてな」

「ああ。旦那、行ってくる」


 ふぅーん、こうやって挨拶をし合うのか。

 俺も真似しよう。


「行ってくる」

「ガキはワシを敬え!」

「行ってきます……」


 クソ、怒鳴られた。

 どうして俺だけダメなんだよ……


 俺達はロウソクが灯す暗いトンネル道を行く。

 時間的には夜が丁度盛る頃合いだろう。

 先はまだまだ長い。

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