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第五話 光、それはパンケーキとともに

 大変遅くなりました。一週間に一回の更新どころか、既に前回から二ヶ月と三週間経ってしまったこと、謝罪いたします。


 引き続き、「届かぬ月、手に入れられぬ陽」をご愛読ください。



「とりあえず、このことはルトラント先生に報告しておくよ。それにしても、ここで記憶喪失なんて初めてだなぁ。そんなことは、脳に何からの衝撃が与えられないと起こらないって聞いたんだけど、何か心当たりはある?」


「特には、無いよ。ごめん、だからその、君の名前も忘れちゃったんだ。もう一回教えてもらえるかな。」


「僕はフィン。改めてよろしく、テオ。」


 フィン、と自己紹介をした人は、テオに向かって人懐っこい笑みを見せた。すると、どこからか、フィンの肩を引き寄せた男の子がいた。


「おいフィン、また忘れたのか?ここの新入りは、大体入寮一日後に記憶喪失になっているだろ。」


「そうだったっけ?ごめん、全く覚えてないや。ほらアイン、テオが放っておかれてるよ。せめて挨拶くらいしたら?」


 フィンにしつこく小突かれて、アインと呼ばれた赤髪の男の子はテオに向き直った。


「俺はアイン、コイツと同じ寮の寮生だ。これからは同じ寮になる。まあ、今後はよろしく。」


 歓迎…してくれるんだよね。嬉しい。何か返事をしないと。なんて呼べばいいのかな?


「うん、こちらこそよろしく、アイン…くん?」


 テオは迷いの末に、そう口にした。


「あはははは、アインくんって……笑える。全然似合ってない。」


「おい、フィン。その笑い方はないだろ。えー、あーテオ、俺のことは呼び捨てで構わない。むしろ、呼び捨てにしてくれ。この馬鹿がうるさい。」


「うん、わかった。なんか、その、ごめん。」


 何かまずいことを言ったのだろうか、そう思い、テオは少し下を向いて俯いた。


「いや、謝らせたいわけじゃないんだ。言い方が悪かったな。アインって呼んでくれ。この馬鹿がどうとか、テオの発言がまずいとかじゃなくて、俺がそうして欲しいんだけど…。」


「うん。」



 

 

「はいはい、いい感じにまとまったところで、食堂に行こう?人気のメニューがなくなっちゃうよ。テオの案内もしなきゃいけないしね。」


 にっこりと、ほんのりアインに対して圧を滲ませた笑顔で、フィンは明るく身長のあるアインを見上げた。


「そうだ、まずい!今日はパンケーキの日じゃないか!フィン、テオ、急ぐぞ!とりあえずついてこい!」


 ひとしきり言うと、アインは突風にも劣らない速さで廊下の奥に消えていった。


「僕たちも行こうか。アインは…まあ、いいだろ。」


 フィンとテオは渡り廊下を抜け、別棟の階段を降りた。すると、ガラス張りの、少し開けた場所があった。例えるなら、大きな温室のような。


「ここが食堂。今日は一週間に一回の、数量限定パンケーキが食べられる日なんだ。アインの大好物なんだよね、それ。だからあんだけ急いで走ってったんだけど…。」


 テオは実際にコクコクという音が聞こえるように頷いた。そして、少し怯えるようにして言った。


「人、多いんだね。」


 フィンは、少し珍しいものでも見るような目をした。


「多いよ。食堂だからね。学園の生徒の半分ほどが集まる場所なんだ。僕たちも空いてる席を探して、食べ物取りに行かないと。」


「そっか。」


 フィンは空いている席を探し、テオはそれに着いていった。けれども、朝日が登りきってから時間が経っていたからか、空席はどこにも無かった。


「困ったな、食堂は立ち食い禁止だし…もう一つの食堂の方に行くしかないか。」


 フィンが少し考え込んだとき、アインの大声が食堂の端から響いた。


「おーい、お前らの席は取ってあるぞー。」


「わかった、今から行く。テオ、行くよ。」


 フィンは人混みを縫って進み、テオは必死に後に続いた。食堂の中央が人で溢れかえっていたかわり、食堂の隅はまだ寛げるだけの余裕があった。


「ほら、ここだよ。フィン、ちゃんとテオを連れてきたよな?」


「アインにとやかく言われたくない。僕たちを置いて、廊下を猛スピードで走っていったのはどこの誰?」


 フィンが少し責めるような声色を含ませると、アインは気まずいのか、少し視線をずらし、テオの方に話しかけた。


「今日の限定メニューのパンケーキ、人数分取ってきたぞ。この食堂のパンケーキは絶品なんだ。トッピングも、全種類少しずつ取ってきたから、好きなのを食べてみろよ。」


「さすが、パンケーキの狂信者。布教活動も上手だね。」


 フィンが嫌味たっぷりに茶々を入れた。


「いいじゃないか。フィンもこのパンケーキが好きなのは知ってるぞ。俺ほどじゃないにしても。美味しいは正義なんだ!あと早く食べろ、パンケーキが冷める。」


 フィンとテオは席に着いて、大皿に山盛りになったパンケーキを取り分けた。テオは少しだけバターを、フィンはいつもの干し肉とマヨネーズを、アインはクリームとフルーツを多めでトッピング各種を、それぞれパンケーキに乗せ、口いっぱいに頬張った。


「「「おいしい〜」」」


 三人とも、心の声が漏れていた。

 アインは、ほらみろ、と自慢げな顔で二人の方を向いた。クリームとイチゴとクランベリーをパンケーキにたっぷり乗せながら。


「テオもバター以外のトッピングを乗っけてみろ。シンプルにバターも美味しいけど、やっぱりクリームとフルーツ、特にベリーとの相性は最高だぞ。」


「う、うん。」


 アインの気迫に押されて、テオは言われるがままにクリームとブルーベリーを取った。


「フィンも、毎回同じ組み合わせじゃなくても、たまには甘いものも食べろよ。な、ほら、乗せてやる。」


「結構だよ、この甘党。僕は僕の好きなものを食べるんだ。君のパンケーキに付き合ってるんだから、これ以上邪魔しないでくれ。」


「そんなこと言うなって。フィンの好物は把握済みだからな。」


 そう言って、アインは隠し持っていたトッピングのカップを一つ、フィンに押し付けた。


「ツナと玉ねぎにマヨネーズを加えたやつ。俺のお手製。フィンは絶対好きだろ。」


「はぁ、分かった。食べればいいんだろ、食べれば。」


 フィンは渋々アインからカップを受け取った。


「「おいしい」」


「ほらそうだろ、もっと食え。特にテオ、お前痩せすぎだ。」


 そう言いつつ、アイン自身も、パンケーキにかぶりついた。


「パンケーキ馬鹿が三人…。」


 誰かが漏らした呟きは、まさにその通りだった。




 

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