第四話 まあるいえん
遅くなりました、やっとの更新です。
テオとルトラントは、大きな白い建物〈子供たちの棟〉へと足を運んだ。白い建物というように、白い石でできている。整った外観をしているが、テオには、どこかで見た円が重なって見えた。
「ほら、ここが〈子供たちの棟〉さ。テオ、君はこれからここで過ごすんだ。ここで過ごして、力をつけるよう努力しなさい。そうすれば、きっと上手くいくから。」
ルトラントはテオの頭を優しく叩くと、手を引いて〈子供たちの棟〉に入った。テオはふとルトラントの表情の変化に気付き、ルトラントの目が示す方に顔を向けた。
「ルトラント先生、そちらが今日入寮する新入生ですか?」
亜麻色のふわふわした癖っ毛の男の子が、エントランスホールに一人立っていた。
「そうだよ、フィン。こっちはテオ。確か空き部屋が四階にあったはずだから、案内してくれるかい?」
「ああ、十三号室のことですか。分かりました。じゃあテオ、こっちだよ。」
そう言って、フィンは奥にある階段を示した。
「四階の、階段から十三番目の扉。ここが、今日から君が住むところだ。エントランスホールにはもう一つ階段があるけど、そっちは絶対に行かないように。あっちは女子寮だからね。僕の友達がうっかり入りかけて叩き出された実績があるから。」
フィンは十三号室のドアを開けて、中に入るようテオを促した。
「ベッドと机と椅子、筆記用具はあるけど、必要なものは揃ってないと思う。明日先生に必要なものを紙にまとめて提出すれば、だいたいのものは貰えるよ。ただ、そこで記入ミスがあった場合、毎週のお小遣いを使って、自分で購買で買わなきゃいけなくなるから気を付けて。夕食は……食堂はもう閉まってるから、とりあえずこれ食べて。」
フィンは一旦姿を消した後、パンの入った袋を持ってテオにそれを押し付けた。
「あ、明日また朝色々案内するよ。僕は隣の十二号室だから、何かあったら呼んでね。」
そう言って、フィンは十三号室から出て行った。
備え付けの家具以外の物が無い、がらんとした部屋にテオは一人取り残された。家具はそこそこ使い込まれているのが見受けられ、内装も所々汚れや傷があった。とはいえ、設備は良く、防寒にも優れている。扉は内側から鍵がかけられ、窓は外開きだ。
「ここは、大丈夫、なのだろうか。」
虚空を見つめ惚けたテオは一人呟いた。ここは、と言った時、テオ自身さえ何と比べたのか分からなかった。
しばらくそのままでいた後、テオは衝動的にベッドに倒れ込んだ。
「少し、今日のことの整理を………。」
そうしているうちに、いつのまにかテオの瞼は重くなってしまった。
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まるい、まるい、まあるい円。
まあるい円が回ってる。
廻ってる。まわってる。
いきなりひかって、まわってる。
まあるいえんが、まわってる。
あかるいひかりはくろのなか。
まあるいえんは、すいこまれる。
ひかりはくろのうえにいる。
くろはひかりのかげになった。
ひかりはくろをとじこめた。
わるいものはけしちゃおう。
けせないならば、とじこめよう。
ずっと、ずっと。
ぜったいに、にげださないように。
まあるいえんは、まわってた。
ひかりといっしょにまわってた。
いまはみんなでねむってる。
くろのうえでねむってる。
ここはだれもとおれない。
ここのいばらはやけないよ。
みんなはおこしちゃいけないよ。
おこせばくろが、にげちゃうよ。
おこせばひかりがにくしみを、なげつけてやつあたり。
ひかりはくろがだいきらい。
ひかりはくろをみたくない。
くろはけせないから、とじこめる。
ここのひかりはこわせない。
こわせるのは、やみとくろとこんとんだけ。
やみはとおくはなれてる。
こんとんはねむっている。
くろはちからをおきわすれた。
ひかりは、だれにもとめられない。
まあるいえんは、ひかっていく。
ずっと、ずっと。
やみがひかりをむかえにくるまで。
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翌朝。テオが目を覚ました時、日は既に昇りきっていた。まだカーテンが取り付けられていない窓からは、輝かんばかりの光が差し込んでくる。テオは瞼を通す光から目を逸らそうとして、右に転がり、鏡のある壁の方を向いた。
「これが、僕?」
鏡に映った姿を見て、テオは自分の事が分からず、狼狽えた。
「僕は誰なんだろう。」
記憶喪失。自分のことは何も思い出せないというのに、その言葉だけは思い出す事ができた。どうしたものかと呆けているうちに、三回ノックの音が響いた。
「テオ、そろそろ起きたか?」
誰のことだか分からず、テオはその場で辺りを見回した。
「テオ、入るよ。」
扉を開けて、フィンが部屋の中に入ってきた。手には、食堂からもらってきたらしいサンドウィッチが二つ、ビニール袋に入っていた。
「あんまりにも起きてこないから、入らせてもらったよ。はいこれ、今日の朝食。時間的に朝って感じじゃないけどね。って、どうしたの、その目!」
「え?」
本来両方とも空色だったはずのテオの瞳は、片方が金色に変化していた。
「何があったの?一晩で目の色が変わるなんて、そんな話聞いたことないよ!?」
「僕の方こそ聞きたいよ。何があったのか、なんて。今までの、知識以外の記憶が全部消えてたんだから。昨日までの僕の目は空色だっただなんて、今初めて知ったよ。」
テオの金色に変わった右目は、窓から入る光を反射して、より一層輝いて見えた。その向こうには、まあるい太陽が、いつも通りに鎮座していた。