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第二話 記憶


 ああ、声が、聞こえる。〈私〉はこの声を知っているのだ。



 私の意思とは関係なく、〈私〉の体が動く。


 そうだ、思い出した。〈私〉は以前ここにいたのだ。愛情に溢れた両親を持ち、小さな開拓地の村に。そして、あの日。


 突如、村の端が燃え上がった。それは村の隅に置かれていた木材などの資材を燃やし、それを糧に村を取り囲んだ。幸い、村は耐熱性の宇宙船から成っていたことから、村の中までは火が及ばなかった。


 本当は火を消しに行かねばならなかったのだろう。しかし、あの時の火は地獄の門と見間違えるほどだった。炎の壁が村中を覆い、さらに熱くなった火が家代わりの宇宙船を舐める。一歩でも外に出ていたら、たちまち焼け死んでいただろう。


 火がようやく治まったと思いきや、今度は何か大きな黒い塊が空から降ってきた。確か、「爆弾」とやらだったか。



 テオ!逃げるぞ!急いで本船まで戻れ!


 やだよ、父さんと一緒じゃないとイヤ!


 わがままを言うな、テオ。父さんはここを守らなきゃいけないんだ。テオ達が本船に入り終わったら、父さんは他のみんなと一緒に本船まで行くから。


 本当?絶対、後で来てくれるよね?


 ああ。だからな、テオ、母さんの言うことをよく聞いて良い子にしてるんだぞ。


 うん!僕、良い子にして母さんと一緒に父さんを待ってるよ!


 ああ。サラ、テオを頼む。


 ええ。ジューク、これを持ってて。


 これは?


 お守り。あなたに神の御加護がありますように、ってね。


 出来る限り生き延びる努力をするよ。サラのためにも、俺たちの息子のためにも、な。



 さあテオ、本船まで急ぐわよ。



 〈私〉が〈私〉の父を見たのは、その後ろ姿が最期だった。その時、母の目は妙に赤く充血していた。


 〈私〉と〈私〉の母、そして開拓村で警備係を担当していない者は皆本船に乗り込んだ。その時。例の「爆弾」が村を跡形もなく消し去った。辺りには爆風が吹き荒れ、そこから逃げ出すように本船はハッチを閉めて宇宙空間へと飛び立った。



 父さーーーーーん!



 〈私〉の悲痛な声が本船の部屋の一角に木霊した。




 突如、景色が切り替わる。






 テオドール!おい、もっと早く走れ!早く宇宙船に乗らないと追いつかれるぞ!


 テオ、母さんは大丈夫だから、先に逃げて。後からテオのところまで行くから。ね?


 分かったよ、母さん。約束だよ。後からちゃんと来てね。


 おい、急げ!ティアーノールが来るぞ!テオ、生きて母さんとまた会いたければ、こっちに来い!死ぬぞ!


 母さん、また後で会おうね、絶対だよ!


 ジェイドさん、テオを頼みます。


 分かった。頼まれよう。




 これは。これは一体、何なのだ。


 瓦礫と土埃で辺りが埋め尽くされている。


 目の前にいる女は足が瓦礫の下敷きになっていて、絶えずそこから血が流れている。


 テオの腕を掴んでいる男は、テオを怒鳴りつけながら丘の上に見える細長い乗り物らしきものに連れて行こうとしている。




 テオ!急いで!




 女の悲痛な叫び声が耳をこだまする。この女が恐らくテオの母なのであろう。その声には、我が子にもう二度と会えないという悲しみ、息子の命は救われるという喜び、これからその場に訪れる、ティアーノールなるものに対する恐怖が滲み出ている。


 私の母の姿とは、天と地ほどの差があるのだな。世の中の、子を愛する母というのはこんなにも美しいのか。



 ああ。〈私〉はこの光景を見た事がある。〈私〉は、この時母親の言葉に従い、この男について行ったのだ。




 そして、〈私〉は、もう、二度と。この両親に会うことは無かったのだーーー。









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