プロローグ
『貧富、貴賎、男女。その差すずるに、命ある者には定めて訪るるものあり。そは、死。その死人克服し、永遠を手にいれしほど、神に最も近き存在なりし〈人〉は真に神となる。』
昔。豊かなエデンの園から追放された祖先の罪を嘆き、どうすれば楽園に帰ることができるか神に問うた祈り人がいた。その人の問いに神はこう答えた。
「永遠を手に入れ、我の眷属神となる資格を手に入れよ。その時、人は楽園に戻ることができよう。」
「神よ、その資格はどのようにして手に入れれば良いのでしょうか。永遠を手に入れろ、と仰いましても、私どもでは不可能な話であり…。」
その時の祈り人の困惑は最もであった。しかし、気まぐれであった神は祈り人に対して、それ以上口を開くことは無かった。
何から手をつければ良いのか分からなかった祈り人は、まず手始めに教会を築いた。そして、神の素晴らしさ、尊さを近隣の民に広め、神に祈り、感謝することを浸透させた。
このことから、祈り人はのちに僧侶と呼ばれた。また、祈り人の行いから、絶えず善行を尽くし、神の言葉を広める者をまとめて僧侶と呼ぶようになった。
そして、上記にある祈り人がまとめた神の言葉を書いた石板は、人々の記憶の彼方に忘れ去られていた。
それから、何百年経っただろうか。地の奥深くに眠っていた石板は、それが神の言葉であるという、確かな証拠とともにふたたび日の光を見ることとなった。
その後、長年の夢であった楽園に行くことが可能になると知った人類は、そこに至る道を探して、宇宙の隅々まで探索した。その過程で資源豊富な星を見つけた国は、その星の所有権を主張し、自分の国に併合した。
当然、この行動を目の前のして黙っている国は無かった。どこにも所属せず、自由の象徴であった大宇宙空間はきめ細かく線が引かれ、かつての地球ー植民地が数多く存在していた頃ーを彷彿とさせた。
資源を求めて、人は争った。石炭、石油、天然ガス。そういった地球の化石燃料たちは、とうに底をついていた。それらを補うため、人類は様々な再生可能エネルギーを見出した。しかし、一度手にした豊かさをそう忘れ去ることは出来なかった。
併合し、併合され。星を爆破して貴金属を得て。人類は狂っていた。豊かさを求めるあまり、目を混沌に隠されていた。
その争いは、かつてないほどの被害を及ぼした。科学兵器が格段に進歩したということも理由の一つではあったが、その悲惨さは歴史上の世界大戦の記録から想像するにもあまりにも酷く、不可能だった。
過去最大級の戦争ー第一次大宇宙大戦ーは、各国の力が尽きるとともに終止符が打たれた。これ以上の争いを起こすことは、宇宙空間そのものの崩壊に繋がるかもしれないという予測が立ち、各国の首脳陣は荒れに荒れた。
結果、地球人を全員地球連邦政府の所属民とし、政府は今までの国々の最高権力者同士の話し合いで運営する事が決定した。
これは、歴史にある国際連合や国際連盟を想像すると分かりやすいと思う。
世の中が荒れ果てている時分に、ある権力者は戦争から手を引いた。代わりに、石板に記されている〈永遠〉を求め、楽園に入るための研究を始めた。これが、のちに言う「エテルニーナ計画」である。
彼の権力者は、争いを疎んだ優秀な科学者たちを集め、一つの島に住まわせた。そこで、己が永遠を手に入れるための研究をさせた。彼らが必要とする道具は世界中からかき集めた。また、被験者として最適である年齢の者ーまだ成人していない戦争孤児ーもかき集め、衣食住に不自由させない代わりに、研究に手を貸させていた。
果たして、彼の権力者は、永遠を手にすることができたのだろうか。
人類は、楽園に帰ることができたのだろうか。
荒れ果てた世界は、元に戻るのだろうか。
これは、エテルニーナ計画のために集められた戦争孤児の内、一人の少年が紡ぐ物語である。